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鳥類学は、あなたのお役に立てますか?

川上和人/著

1,595円(税込)

発売日:2021/03/17

書誌情報

読み仮名 チョウルイガクハアナタノオヤクニタテマスカ
装幀 北澤平祐/装画、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 239ページ
ISBN 978-4-10-350912-7
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,595円
電子書籍 価格 1,595円
電子書籍 配信開始日 2021/03/17

絶海の孤島! 迫る巨大台風! そしてサメ! 研究はやっぱり命がけ? 爆笑最新刊。

「センセイ、どうして鳥の研究をするんですか?」「楽しいから。他に理由が必要かい?」NHK子ども科学電話相談でお馴染みの「バード川上」センセイは、今日も崖をよじ登り、荒波を乗り越え、溶岩に行く手を阻まれる――。ベストセラー『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』から続く冒険、もとい抱腹絶倒の日々を描く待望の第二弾。

目次
はじめに 鳥類学者の罪と罰
第一章 鳥類学者、絶海の孤島リターンズ
1 南硫黄島・逆襲再訪編
ザ・フライ/ピクセル/バーティカル・リミット/ヒッチコックの憂鬱/トランスポーター
2 南硫黄島・土壇場未練編
ヘップバーンと朝食を/船の上のオニソロジスト/ゴッドファーザー/ドローンの凱旋
第二章 鳥類学者には、秘密がある
1 ファルコン・リビングデッド
もう元には戻れない/絶滅請負人/僕のメガネ、知りませんか?/ゴーストバード・バスターズ
2 ツヌガアラシト
裾の長さに気をつけて/武器よさらば/シルエット・ロマンス/オニに金棒
3 日没する島の夜明け
三つの手がかり/海からの贈り物/ピーナッツ・パーティ/この世に明けぬ夜はなし
4 べっぴんさん、こんにちは
カエル男の上陸/ネズミ軍団の侵攻/海鳥たちの沈黙/寂しがり屋のべっぴんさん
第三章 鳥類学者は、妄想する
1 僕の名前はバンナーマン
もちろん間違ってはいませんよ/鳥の名は/運命の1973/歴史の翻弄/逆転の2018
2 梅雨空のオセアノサウルス
恐竜金槌奇譚/ポセイドン・アドベンチャー/豊玉姫の誘惑/最後の障壁
3 ミゾゴイの耳はパンの耳
ミはミミのミ/ゾはゾウカシテナイのゾ/ゴはゴウリテキのゴ/イはイチマンノイメージのイ
4 ダンスはうまく踊れない
もちろんこれも仕事です/言葉はいらない/川上英語化計画/会議は踊る
5 プラネット・トリノ
白い家/鳥の惑星/黒き支配者/今ハ昔ノ物語
第四章 火山島の、鳥類学者
1 火山・颱風・鮫・熱射 西之島軽挙妄動編
調査隊ビギンズ/第二次隊リターンズ/旗を掲げよ/想定の範囲内
2 火山・颱風・鮫・熱射 西之島前言撤回編
大海原の片隅で/天使と悪魔/考える人
第五章 鳥類学者は、名探偵
1 オガサワラカワラヒワ・オガサワラカワラヒワ・オガサワラカワラヒワ
絶滅ごっこ/小鳥たちの食卓/サタンの正体
2 休むに似たり
果実があれば大丈夫/いくつもの冬を越えて/タンニンがとけるほど恋したい/柿の下で逢いましょう
3 ジャイアント・ウォーキング
鳥類学者の当然/カレル・チャベックの啓示/鳥はロボット/こうべたれのすけ/初心者におすすめの一台
第六章 鳥類学者は、振り向かない
1 目録編集物語
あなたの鳥を数えましょう/7度目の夜明け/ぶつかる壁は厚い/夜明けの前が一番暗い
2 太平洋ひとりぼっち
6つの手がかり/イカは飛ぶ/追うか、追わないか/ヒメはご機嫌麗しゅう
3 真夏の夜の夢
18時間/海鳥楽園後始末/夜はこれから/午前9時のシンデレラ
4 異邦人の境界
越えてはいけない/自然の本質/似て非なる/第二の疑問/最後の疑問
5 そこにしかいない
ケントの正体/ダブルスタンダード/固有種の本質
6 インフィニティ・ハピネス・エクストリーム
あのころ/いま
おわりに 鳥類学者の役と得
おわりにのおわりに ティンカー・ベルのお願い

書評

役に立たない、わけではない。

養老孟司

 そうか、この手があったか。このタイトルを見たときに、そう感じた。当たり前だが、時代は変わった。私は森喜朗元首相、前五輪組織委員会会長と同年生まれだから、もちろん完全に時代に遅れている。学者というのは、謹厳実直、融通が利かず、堅い人というイメージが世間に強かった時代の生き残りである。著者がその逆だとは言わない。お堅いはずの学者が、ソフト路線を採るようになった。それがいろんな意味で効いている。
 私の時代は「鳥類学の有用性」などと称して、この問題を正面から論じたはずである。いまはそういうヤボなことはしない。「あなたのお役に立てますか」と下手に出る。これなら自分も相手も腹を立てない。私自身は解剖学という役に立たない学問を専攻し、趣味と言われる昆虫採集に励んでいたから、どこかで他人の役に立つかどうかを気にしていた。そこで「なんの役に立つか」と訊かれると、猛然と腹が立った。事実私が若かった頃の科学研究費の申請書類には「この研究の有用性」という欄があって、役所に提出する書類に空欄があってはいけないから、なにか書くわけだが、書くことがない。と言って「ない」と書くのも憚られたから、かわりにただ怒った。怒っても印刷された欄があるのは仕方がないので、どうせいい加減なことを書いたに決まっている。以来科研費を申請すると「ウソをつく癖がつく」と称して、申請しなくなった。
 著者はこのタイトルの疑問に真っ向から答えようとはしない。その代わりに小笠原諸島でいろいろなことを調べているので、その内容を報告する。単行本は科研費の申請書類とは違って、長く書けるから、南硫黄島にどうやって上陸するかなどという具体的な苦労を書いているうちに「あなたのお役に立てますか」という疑問はどこかに消えてしまっても不思議ではない。読者は「ははあ、著者はそういう苦労をしているのか」となんとなく同情しているうちに、有用性なんかどうでもよくなる。ここはやはり芸で、そのためには文章表現が上手でないといけない。無人島に上陸してなにが起こるか、それをくだくだ書いても、現代の読者はついてこられないであろう。常日頃、人間の顔色をうかがって、忖度ばかりしているからである。
 読み進むうちに、著者の専門は島嶼の鳥類学だとわかってくる。島には奇妙な魅力があるらしい。私の知人にも、島好きがいて、島にばかり行っている。昨年は屋久島から新種のゾウムシを記載した。この論文の著者として、私の名前を最後に付けてくれた。実際には屋久島に別なゾウムシを一緒に採りにいったのだが、そっちはなぜか採りそびれた。それを気の毒に思って、私の名前を付記してくれたらしい。連絡をしようとすると、西表にいますとか、大東島です、とか、ヘンな地名が記された返事が返ってくる。
 本書には、小笠原の西之島の話題が出てくるが、ここは噴火でできたての島である。近くに島も陸もないから、いかにしてここに生態系が成立するか、それを著者は調べようとする。つまり生態系というわけのわからないものの「そもそもの始まり」を知ることができるだろうというわけである。思えば旧約聖書だって、この世界の始まりから書いてある。そもそもの始まりがいかに大切か、それでわかろうというものである。我が国でいえば『古事記』の執筆に匹敵する重要な作業ではないか。鳥類学者があなたにとって役に立たないわけではあるまい、となんとなく納得させられてしまう。
 私の時代には、文部省のお役人の殺し文句は学者は税金を遣って個人の好きなことをしているんだから、遠慮せい、ということだった。その前提は政府というPPO(ピュア・ポリティカル・オーガニゼイション)が国民という会員から税金という会費を集めて、それを学者が遣うということだった。でも現代ではMMT理論のようなものができて、それはほぼウソだとわかってしまった。もっと早くにそれがわかっていれば、私も遠慮なく税金を遣えたのに、と思う。
 著者は私よりずっと若い世代なので、表現に通じる部分と、通じない部分があった。比喩にカタカナの怪獣名が出てきたりすると、著者は私の子どもの世代だなと感じる。私や上の世代だと論語や老荘になる。鳥類学者にとって鵬とはいかなる存在であろうか。

(ようろう・たけし 解剖学者)
波 2021年4月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

川上和人

カワカミ・カズト

1973年大阪府生まれ。東京大学農学部林学科卒、同大学院農学生命科学研究科中退。農学博士。国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 森林研究部門野生動物研究領域チーム長(島嶼性鳥類担当)戦略研究部門生物多様性・気候変動研究拠点生物多様性研究室併任。『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』『鳥肉以上、鳥学未満。』など著書多数。図鑑の監修も多い。

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