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鳥類学者の半分は、鳥類学ではできてない

川上和人/著

1,870円(税込)

発売日:2025/05/14

  • 書籍
  • 電子書籍あり

主戦場は、岩壁登攀、洞窟探検、学会運営、ラジオ出演──あれ? 爆笑の第3弾!

降り注ぐ火山灰の下で愛を交わすカツオドリの数をかぞえ、学問のためならネコの糞の採集にも精を出す。「子ども科学電話相談」で華麗なる回答を決めたかと思えば、鳥類からカッパに進化するプロセスに思いをはせる。ああ、鳥類学を普及する天竺までの道は曲がりくねって──楽しい! 累計20万部超の大人気「理系蛮族」エッセイ。

目次

はじめに こんにゃくドリフト

第一章 鳥類学者は窮地に笑う
1 西之島ダイアリー《起:エレキング症候群》
嵐の前の洗濯/サイコパスの祈り/エレキングの誘惑/きれいにしたい
2 西之島ダイアリー《承:甘美で致死的な罠》
観察の時間/考察の時間/尊い犠牲を乗り越えて
3 宇宙人のセオリー
宇宙人のロンリー/宇宙人のクレバー/宇宙人のデスティニー

第二章 鳥類学者は偶然を愛し偶然に愛される
1 南島の洞窟には骨が落ちている side-A
割れろ、ハンプティ/さがせ、ダンプティ/割れた卵の正体/骨からあふれた物語
2 南島の洞窟には骨が落ちている side-B
牡丹餅の段/果報の段/方便の段
3 そこに、愛は、あるのか!
やさしさに包まれたなら/光あるところ、影がある/遺伝子の奴隷/パワー・オブ・ラブ
4 実録ルポ(1):調査はこうして頓挫した
プランA:通常プロトコル→破棄/プランB:タクシー大作戦/プランC:スカイミッション/プランD:カイロノヒヨリ
5 実録ルポ(2):調査はこうして成就した
マイナススタート/罪には罰がよく似合う/転じろ、災い

第三章 鳥類学者、エデンを夢見る
1 雨が降ったので今日は休憩
エイリアンとばかうけとくちばし/雨とナメクジ、わらび餅/ギズモとカッパとドーナッツ
2 西之島ダイアリー《転:金子さんの言うとおり》
オオアジサシの場合/クロアジサシの場合/セグロアジサシの場合/カツオドリの場合
3 アナドリには牡丹の花がよく似合う
ポルトガルからアナドリ/小笠原から羽毛/ハワイからカムヤマトイワレヒコ
4 新島礼賛
出発/到着/旋回/離脱
5 四日、長いか、短いか
初日/続・初日/2日目/3日目/最終日

第四章 鳥類学者、カッパと戯れる
1 本当は、考古学者になりたかった
インディをさがして/絶滅危惧種をさがして/100年の記録をさがして
2 カッパ、カパパパ、カッパッパー
爬虫類の場合/哺乳類・鳥類の場合/相撲は大人になってから
3 西之島ダイアリー《結:ウロボロスの蛇》
天才マックスの世界/沈黙の鎮魂歌/大事なことはみんな映画が教えてくれる
4 宮崎は遠く日が暮れて
私を奄美に連れてって/トラはトリよりもだいじ/奄美からのおくりもの

第五章 鳥類学者は屋内でも羽ばたく
1 アシンメトリ・ロマンティック・ストーリー
ヒラメ左目、右カレイ/左突撃、右防御/トグロ右巻き左巻き/最後は鳥のおかげ
2 ラジオに出ようよ
逡巡/僥倖/作麼生
3 今日もまた同じ一日
6月28日 晴れ/6月29日 晴れ/6月30日 晴れ/7月1日 晴れ/7月2日 晴れ/7月3日 晴れ/7月4日 晴れ/7月5日 晴れ/7月6日 晴れ/7月7日 晴れ/7月8日 晴れ/7月9日 晴れ/7月10日 晴れ/7月11日 晴れ/7月12日 晴れ/7月13日 晴れ/7月14日 晴れ/7月15日 晴れ
4 ウィルソン漂流記
初日:その場しのぎ/三日目:長期戦の構え/三年後:夢のまた夢
5 うつくしい絶滅
ロトの妻/島と種の一生/美しくない絶滅/終焉の日に花束を

おわりに 鳥類弱者の心得

書誌情報

読み仮名 チョウルイガクシャノハンブンハチョウルイガクデハデキテナイ
装幀 北澤平祐/装画、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-350913-4
C-CODE 0095
ジャンル 文学・評論、科学、生物・バイオテクノロジー
定価 1,870円
電子書籍 価格 1,870円
電子書籍 配信開始日 2025/05/14

書評

何度でも言う 川上和人に外れなし

東えりか

 2013年に上梓された『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』(技術評論社 現・新潮文庫)は衝撃的な本だった。かねてより“鳥類のノンフィクションに外れなし”と確信していたが、まさに傑作である。生物学者が一般向けに書いた作品は概ね面白いのだが、とりわけ鳥の学者は変人、もとい研究熱心である。とくに川上博士の文章はポップでファンキー。さらに強引な論理展開が魅力だ。「恐竜は鳥である」という大前提に惹かれてしまう。
 夏休みには必ずどこかで開催される「恐竜展」。最近では羽毛を生やした恐竜の展示は珍しくないが、12年前だと「そんなバカな!」と感じる人が多かったと思う。
 だが20世紀末から古代生物学者の研究が進むにつれ、鳥類と恐竜の類縁関係が従来考えられていたものより密接であることがわかってきた。鳥は恐竜から進化してきたものだったのだ。
 未知な巨大生物である恐竜に大きな憧れを持っていた著者にとって、恐竜研究が自分のテリトリーとなったことで嬉々としてこの本を執筆したのだろう。「なんと面白い、読んで読んで!」とあちこちで紹介し意外と評判になったことは、書評家の私のささやかな自慢である。
 このことがきっかけだったかは定かでないが、川上和人という鳥類学者はおもしろい、とさかんにマスコミに登場するようになっていく。
 夏休みの人気番組、NHKラジオ「子ども科学電話相談」の回答者にも抜擢された。質問は子どもだからと言ってバカにできない。小学二年生の男子児童が「オガサワラカワラヒワ絶めつの可能性」を問うと、小学生にもわかりやすく、かつ専門的で軽妙洒脱に答えていくのはさすがだ。将来鳥類学者を目指す少年少女が増えていくのではないだろうか(『NHK子ども科学電話相談 鳥スペシャル!』〈NHK「子ども科学電話相談」制作班編、NHK出版〉参照)。
 2017年春には『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社 現・新潮文庫)という開き直ったような挑戦的なタイトルの書籍が上梓された。
“鳥類学者はなぜ鳥類学者になることを選んだか”というストレートで深遠な問題を突き詰めて考えたこの本は、著者の半生記ともいえる。鳥とは無縁の子供時代を過ごし、東京大学農学部に入学したあと、小学生時代に「風の谷のナウシカ」に感動したことから野生生物を探求するサークルに入り、その後、研究目標として鳥に白羽の矢を立てたと告白している。
 文章の軽さに反して根っから真面目な性格なのだろう。恩師から与えられたテーマである「小笠原諸島の鳥」を研究した成果も明かす。
 さらに小笠原諸島(とは言っても父島から130キロ離れているが)の無人島「西之島」の調査も行ってきた。この島は2013年の噴火によってそれまであった生態系がほぼ壊滅した。著者は調査隊の一員となり、生態系の自然回復過程(特に海鳥)の観察を行うことになったのだ。
 さて「鳥類学者シリーズ」第三弾ともいえる本書『鳥類学者の半分は、鳥類学ではできてない』というタイトルをみて、ん? と疑問がわきあがる。
 鳥類学でできてないのは、学者諸氏のこと? 著者個人の身体? まあ、細かいことを気にしても仕方がない。
 本書は前作以降に行われた2019年から2024年までの小笠原諸島および西之島における調査の進捗状況をメインに、生物系研究者として自らの存在価値を問う深い考察を行い、未来の地球への展望を綴っていく。
 特に興味深いのは火山噴火により天地創造直後と同じ「まっさら」になってしまった西之島の様子だ。噴火が断続的に続き、ヒトが上陸できないところは惑星探査などに使われる遠隔操作用ローバーが投入されるが、「地球も、惑星ですからね」というJAXAの研究者の視点にワクワクしてしまう。自然科学に興味のある人なら誰もが知りたいと思うことだろう。
 噴火が収まったあと、いち早く西之島に戻った海鳥はこの調査では見つからない。新しい環境での繁殖は難しいのか。その理由は恐竜が絶滅した原因に結び付くのか。空を飛べない地上生活の生物が発見された時の興奮も伝わってくる。生態系はどう変化していくのだろう。
 まさに大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を研究されているのだ。どうかその成果を一般市民に啓蒙し普及させていただきたい。きっと新発見もあるだろう。楽しみである。

(あづま・えりか 書評家)

波 2025年6月号より
単行本刊行時掲載

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著者プロフィール

川上和人

カワカミ・カズト

1973(昭和48)年生まれ。東京大学農学部林学科卒、同大学院農学生命科学研究科中退。農学博士。森林総合研究所 北海道支所 地域研究監。『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』『鳥類学は、あなたのお役に立てますか?』『あたらし島のオードリー』(絵・箕輪義隆)など著書多数。図鑑の監修も多い。

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