一九六一 東京ハウス
1,815円(税込)
発売日:2021/12/22
- 書籍
六十年前の団地体験で賞金五百万円――って、これ現実(マジ)!? 昭和と令和が交錯するイヤミス新次元!
賞金につられてリアリティショーに集まった二つの家族。古き佳き時代であるはずの昭和の生活は、楽じゃないどころか、令和の今より地獄の格差社会。お気楽バラエティのはずが、外野も巻き込みどんどん不穏になっていく現場は疑心暗鬼で大荒れの末、まさかまさかの超展開。次々と起こる惨劇は虚構か、現実か!?
書誌情報
読み仮名 | イチキュウロクイチトウキョウハウス |
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装幀 | 時事通信社/カバー写真、Piyomo/PIXTA/カバー写真、DuKai photographer/Moment/getty images/カバー写真、岩本モータース/カバー写真、新潮社装幀室/装幀 |
雑誌から生まれた本 | 週刊新潮から生まれた本 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 320ページ |
ISBN | 978-4-10-352582-0 |
C-CODE | 0093 |
ジャンル | 文学・評論 |
定価 | 1,815円 |
インタビュー/対談/エッセイ
団地は事件が起きがち? という15年来の拘り―「リアリティショー」と「団地」 身近だったテーマ―
この作品を書いたきっかけについて、教えてください。
「リアリティショー」をテーマにした小説のプロットを仕上げたのは、デビューしてすぐのこと、十五年前のことです。昭和三十年代の団地の生活を平成の家族が再現し、その様子をテレビで放送する……という内容です。再現に挑戦するのは一般人の家族。常時カメラで観察され、そして演技までつけられて、家族の絆も心も壊れていく。……でも、そのプロットはなかなかOKがもらえませんでした。取材も重ね、資料も集めたのに。往生際の悪い私は、このプロットの断片を他の作品のあちこちにちりばめました。それほど拘りが強かったんです。
そして、令和二年。リアリティショーのあり方が問われはじめました。今だ! と思いましたね。タイミングよく「週刊新潮」の連載の依頼がきましたので、私は早速、例のプロットを引っ張り出してみました。そして、とうとうOKが(笑)。
週刊連載ならではの苦労はありましたか?
やはり、枚数ですね。毎回、(原稿用紙)十六枚に収めなければならない。しかも、読者の興味を翌週に繋げなくてはならない。最初の十回ぐらいは、本当に大変でした。何度も何度も削ったり、足したり、時にはエピソードを前後させたり。毎回、五十枚ぐらい執筆しているかのような疲労感がありました(笑)。
舞台は令和の今となりましたが、新型コロナの状況に関しては、どのくらい意識されましたか?
連載がはじまったのは2020年の秋。まさか翌年までコロナが長引くなんて思ってもいませんでしたから、作品の舞台は2021年にし、コロナ禍は終息した……という設定で連載を続けました。ところが、ご存知のように、2021年現在までコロナ禍は続いています。
コロナ禍をまったく無視したパラレルワールドにするか、それとも、コロナ禍を取り入れるか。悩みましたが、ここはリアルにいこうと。そこで、改稿するときにマスクやPCR検査や緊急事態宣言やら盛り込んだのですが……なかなか大変な作業でしたね。「このシーンで、マスクしているとなんか雰囲気ぶち壊しなんだけど」と頭を抱えながらも、登場人物には感染対策を徹底してもらいました(笑)。でも、これは私だけでなく、多くの作家さんが、まさに直面している悩みではないでしょうか。どこまでコロナ禍を盛り込むべきなのか。他の作家さんの苦労話も聞いてみたいところです。
団地、というモチーフには、いつから興味があったのでしょうか? 書くときに参考にされたもの、インスパイアされた作品等はありますか?
私が小学生の頃(昭和四十年代)は、公団やら社宅やら公営やら、団地っぽいものが至る所にありました。クラスにも、多くの団地族がいましたね。
私、当時は、川崎のドヤ街の貧乏長屋に暮らしていましたので、団地に住んでいるクラスメートが羨ましくて。憧れました。なんか「ちゃんとしている」イメージがあったんです。
ただ、昭和も四十年代後半になってくると、「団地」というイメージに事件の香りもつきまとってくるんです。日活ロマンポルノの「団地妻」が流行ったのもこの頃ですし、トイレットペーパーの争奪戦がニュースになったのも大阪の団地でした。……「積木くずし」という子供が非行に走るドラマの舞台もまた団地でした。ああ、そういえば、破傷風の恐怖を描いた「震える舌」という映画の主人公たちも団地に住んでいましたっけ。
団地って、もしかして事件が起きがち? いつしかそんなふうに考えるようになり、そして興味を持つようになったのかもしれません。
リアリティショーはよくご覧になっていたのでしょうか? 好きだった、あるいは、忘れがたいテレビ番組等はありますか?
リアリティショーのひとつ「どっきりカメラ」的なものは、子供の頃から大好きでした。番組表をチェックして、放送があれば必ず見ていました。
忘れがたいリアリティショー番組は、“DQN”の語源にもなった「目撃!ドキュン」、整形で生まれ変わる人を追った「ビューティー・コロシアム」、スタジオでマジ夫婦喧嘩をさせる「愛する二人別れる二人」。どれも、今では絶対、放送できない番組ばかりです(笑)。最近では、超一流のエンジニアたちがおもちゃや家電を真剣に改造して競い合う「魔改造の夜」がとてもお気に入りです。
本作は昭和と令和の生活が交差するところが特徴的で、二つの家族の関係がこじれていくところに端を発し、後半に思いもよらない展開が待っていますが、構想としては最初から結末をイメージされていたのでしょうか?
撮影現場と現実の境界線が曖昧になり、世界が融合しカオス化する……という点は、最初から変わらないテーマです。融合とカオスの仕掛けとして、“殺人”を投入しました。
ただ、結末は未定のまま、詳細は決めずに突っ走りました。なので、黒幕も真犯人も、連載中は、私自身にも分からなかったんです。
もし、ちゃんと着地できなかったらどうしよう? という不安もありましたが、まあ、それはもう、小説の神様を信じるしかありませんでした(笑)。
ちゃんと着地できて、本当によかったです。
他にこだわった点はありますか?
文字の書体にも気をとめて、読んでいただけたら幸いです。
書体にも、仕掛けがあります!
(まり・ゆきこ 作家)
波 2022年1月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
真梨幸子
マリ・ユキコ
1964(昭和39)年、宮崎県生れ。多摩芸術学園映画科卒。2005(平成17)年、『孤虫症』でメフィスト賞を受賞しデビュー。2011年に文庫化された『殺人鬼フジコの衝動』がベストセラーに。ほかの著書に『女ともだち』『私が失敗した理由は』『初恋さがし』『極限団地』『教祖の作りかた』などがある。