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役者ほど素敵な商売はない

市村正親/著

1,650円(税込)

発売日:2020/01/27

  • 書籍
  • 電子書籍あり

今だから話せる、あの時の真実。演劇界のレジェンドが語る激しい舞台人生!

観客の胸を打つ、市村正親の舞台はどのように作られてきたのか。「オペラ座の怪人」ファントム誕生秘話から、劇団四季退団の真相、蜷川幸雄が繰り出す「ダメ出し」の真意、白血病で早世した本田美奈子との絆、突然のがん闘病、そして自身の「役作り」まで。舞台の魅力と長い役者人生でたどり着いた芝居の極意を語り尽くす一冊。

目次
まえがき
第1章 演技とは、役を生きること
泣けるファントム、泣けないファントム
自分が役に近づいていっているという感覚は常にある
干されると役者と魚と大根はうまくなるっていうじゃない
僕にもファンがいたんだ
「私の目だけ見ていてね」
打倒! 歌舞伎役者
「飽きる」なんて言葉は、僕の辞書にはない
ミュージカルとさよなら!?
第2章 僕の舞台遍歴、教えます
大人になったら山車の上で“白狐”を踊るんだ
僕がやるべき道はこれだ
「しばらく付き人をやらないか」
そろそろ自分を第一に
第1志望は「群衆」、第2志望は「使徒」
「俺は、そんな演出をした覚えはない!」
役者人生を潰さない神様の選択
「ブラボー! 君でいく」
千秋楽の日にロッカーを空っぽにして
エンジニアがやってきた!
「こんないいものを見たあとは、皆、家に帰ろう」
元の作品を知っている人はみんなズッコケる
第3章 素敵な演劇人と出会えて
チャーミングな師匠 ――西村晃
無限のアンテナ ――浅利慶太
ミュージカル作りの職人 ――ハロルド・プリンス
シャイな音楽家 ――アンドリュー・ロイド・ウェバー
ダメ出しするの、大好き ――蜷川幸雄
最後には、みんな幸せな気持ちになれる ――三谷幸喜
繊細なセリフの演出家 ――栗山民也
ついにダブルキャスト ――鹿賀丈史
砂場の舞台美術家 ――金森馨
教わったのはバレエだけじゃない ――小川亜矢子
芸の父と芸の母 ――島田正吾、山田五十鈴
もっとこっちの世界にいてほしかった ――十八代目中村勘三郎
感動的だった「命をあげよう」 ――本田美奈子.
すっかり“帝劇の怪人” ――山口祐一郎
まるで弟のような ――武田真治
狂気をはらんだいい役者 ――藤原竜也
自分の歌に酔わない ――堂本光一
もう他に怖いものなんか何もない ――大竹しのぶ
女優としての力量を見せたい ――篠原涼子
第4章 役者・市村正親はこう作られる
台本にのめり込み、1枚のレコードから想像する
ついつい動きが女性っぽい仕草になって
千本ノックをやってくれる演出家のほうがありがたい
車椅子を分解して、毛糸を口に含んで
きっと演劇の神様の仕業
役者なんて、思い込めればいいんです
仮面に隠れた部分だって、適当なメイクじゃダメ
1日の始まりに汗をまず出したい
いいなと思ったら、すぐ真似る
世界で一人だけのファントム
ライブで、目の前で起こっている
第5章 僕はこんな舞台に立ってきた
レジェンドの『オペラ座の怪人』、パパになった『ラブ・ネバー・ダイ』
ヘリコプターの音が聞こえる『ミス・サイゴン』
感情のエキスが出る『ウエストサイド物語』
母ちゃんに感謝した『ラ・カージュ・オ・フォール』
やれること自体が幸せだった『NINAGAWA・マクベス』
神様がいる『屋根の上のヴァイオリン弾き』
子役たちも見逃せない『スクルージ〜クリスマス・キャロル〜』
草笛さんあっての『ドライビング・ミス・デイジー』
(ちょっと長めの)あとがき
市村正親 舞台出演リスト

書誌情報

読み仮名 ヤクシャホドステキナショウバイハナイ
装幀 筒口直弘(新潮社写真部)/カバー写真、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 208ページ
ISBN 978-4-10-353121-0
C-CODE 0095
ジャンル 文学・評論
定価 1,650円
電子書籍 価格 1,650円
電子書籍 配信開始日 2020/06/05

書評

役者としての人生を無駄なく生きている

草笛光子

 1993年のミュージカル「ラ・カージュ・オ・フォール」で共演以来、“イチ”こと市村さんとは、知り合いの焼き肉屋さんで時々ニアミスするぐらいで、20年以上、同じ舞台に立つどころか、遊んだことすらなかったの。なのに、ある時、突然連絡をくれて、「こういう舞台の話があるんだけど、どう?」って、私を新しいお仕事へ誘ってくれたんです。それが昨年の「ドライビング・ミス・デイジー」でした。
 すぐに市村さんから「この台本、とっても面白いよ。今から一緒にやるのが楽しみです」というメールが送られてくるし、演出の森新太郎さんは「(デイジー役は)草笛さんにピッタリです」と言うものだから、「私、やりたい!」って、ついつい引き受けてしまったんです。
 でも、いざ稽古に入ると、毎日毎日、森さんからのダメ出しばかり。厳しい演出家とは聞いていましたが、私が演技をする度に「違う! 違う!」と、もの凄い勢いでダメ出しが飛んでくるんです。「そこは右!」「動きが速すぎる!」「手はもっと下!」と、何から何まで。それも稽古中だけじゃなく、幕が開いて本番が始まってもダメ出しは続き、この私が滅入っちゃうぐらいでした(森さん曰く、草笛さんがおっちょこちょいで引き受けてくれてよかった、と)。
 それに比べると、初老の黒人ホーク役の市村さんやデイジーの息子ブーリー役の堀部圭亮さんへのダメ出しは圧倒的に少なかった。私は二人を羨ましいと思っていたんですが、どうも市村さんの方は「どうして僕にはダメ出しが少ないんだ」と逆に悔しがっていたようで。演出家のダメ出しを欲しがるなんて、彼って本当に変わってるでしょ。
 今回、市村さんのエッセイ集『役者ほど素敵な商売はない』を読んでいたら、その時の私のエピソードがこう紹介されていたんです。「この作品の前に、森さんは『奇跡の人』を演出されていたんだけど、(中略)それを彷彿とさせるように、『ドライビング・ミス・デイジー』では、まるで森さんがサリバン先生で、草笛光子さんがヘレン・ケラーのようで」と。ああ、そうだったんだと合点がいったのと同時に、そんな風に私たちを観察していた市村さんに驚きました。稽古自体を舞台にたとえて見ているなんて、どれだけ彼は舞台が好きなんだろうって。
 このエッセイ集には、彼の幼少期の出来事から、演劇に心惹かれた理由、華々しい舞台遍歴、そして独特な役作りまで、市村正親という役者の人生そのものが詰まっています。ページを繰りながら、市村さんの70年をたどって気づいたのは、彼と私は正反対の人生を歩んできたということでした。
 子ども時代ひとつとってもそう。たくさんの友だちに囲まれて、クラスで一際目立っていた正親少年と、小さな頃から極度の人見知りで、「光子ちゃん」と誰かに名前を呼ばれるだけで石のように固まっていた私――。今は同じ役者という仕事をしていますが、演じる役に対する姿勢や役作りそのものも、市村さんと私ではまるで違っていました。
 市村さんは、稽古が始まる前に役作りをほとんど終えているんです。台本が頭に入っているのは当たり前で、演出までイメージできている(自分以外のセリフまで覚えているという噂も)。私の方は、「演出家の余地を残している」と言えば聞こえは良いけれど、要するに台本はあまり読まないまま、ほぼまっさらの状態で稽古の初日を迎えてしまう。言い訳のようですが、私はまず頭や身体に演じる役が馴染まないと、セリフが頭に入ってこないんです。
「ドライビング・ミス・デイジー」の時も、稽古が始まるのはまだ先だというのに、気の早い市村さんが「草笛さん、早く本読みを始めようよ」と、台本を持って私の自宅まで訪ねてきたことがありました。まあ、まっさらの状態の私じゃ、彼の本読みの相手はできなかったのですが。
 年齢の違いもあるのでしょうが、私には、彼のような時間の使い方はできません。午前中にジムやヨガで汗を流して、午後はドラマのロケ、夕方から舞台の本番なんてことがしょっちゅうですから。まさに“イチ”は役者としての人生を無駄なく生きているんです。決して真似はできませんが、そんな彼を私は尊敬しています。
 今年の2月、新しくなったパルコ劇場のこけら落とし公演「ラヴ・レターズ」で、市村さんと二人で朗読劇をやるんです。それもたった1公演だけ。彼のことだから、またしっかり役作りをしてくるんでしょうけど、「イチ、たまには私に合わせて、まっさらな状態で稽古に入ってみたら」って、言ってみようかしら。

(くさぶえ・みつこ 女優)
波 2020年2月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

市村正親

イチムラ・マサチカ

1949年1月28日生まれ、埼玉県出身。A型。西村晃の付き人を経て、1973年に劇団四季のオーディションに合格。圧倒的な演技力で、同劇団の看板ミュージカルスターとして活躍する。退団後はミュージカルのほか、ストレートプレイ、映画やドラマで幅広く活躍。2019年、春の旭日小綬章を受章。2020年には『ミス・サイゴン』『生きる』が上演予定。

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