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娘を奪われたあの日から―名古屋闇サイト殺人事件・遺族の12年―

NHK「事件の涙」取材班/著

1,595円(税込)

発売日:2020/02/27

書誌情報

読み仮名 ムスメヲウバワレタアノヒカラナゴヤヤミサイトサツジンジケンイゾクノジュウニネン
装幀 SIME/カバー表写真、アフロ/カバー表写真、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 204ページ
ISBN 978-4-10-353141-8
C-CODE 0095
ジャンル 事件・犯罪
定価 1,595円
電子書籍 価格 1,595円
電子書籍 配信開始日 2020/03/13

天国にいる娘のために、涙を封じて戦い続けた母の強さと無償の愛――。

2007年夏、「闇サイト」に金目的で集まった3人の男達に惨殺された、大切な一人娘――。残された母は、交際を始めたばかりの恋人や、大切な友人を残して逝った娘の無念を晴らすため、2019年7月の死刑確定まで戦い続けた。初めて明かされる獄中から届いた犯人の驚愕の手紙とは? 12年間の深い悲しみと、戦いの記録。

目次
はじめに
事件の経緯
第1章 娘の命が奪われた夏 2007年
普段と変わらない日/無計画な殺人/恋人との約束/囲碁で生まれた恋/無残な最期/懲りない犯罪者たち/“鬼畜”が集まった「闇の職業安定所」/事件発覚/混乱する警察署で/最後の写真/行けなかった同窓会/冷たくなった娘との対面/混乱の中で迎えた葬儀/「怒り」を「生きるエネルギー」に変えた日々/「娘の死を無駄にしたくない」/広がった支援の輪/法廷に立った母/娘へ/法廷に立った恋人/司法の場で訴え続けた母の思い/確定した無期懲役/受け取らなかった手紙
第2章 大切な人を奪われた母と恋人の10年
娘なき後の母の人生/娘は分身/娘の誕生〜母子の歩みの始まり〜/「生んでくれてありがとう」「生まれてくれてありがとう」/拉致された現場で/天国にいる娘のために/「ごめんね、泣かせてね」/葬儀で出会った娘の恋人/母親思いの彼女/大学院を修了して博士号を取る/利恵さんが遺した「2960」の意味/遺された肉声「おやすみ!」/「親子」として過ごした2人の時間/事件からの再出発/「妹を守りたい」姉の10年間/「五十路会」は利恵ちゃんからの贈り物/娘との最後の「約束」/残された娘の言葉/娘の死を乗り越えるために/虹になった利恵ちゃん/ゴルフ場の奇跡
第3章 加害者たちの12年
犯人を許さない/発覚した余罪/獄中からの手紙/犯人との面会/繰り返される闇サイト殺人事件/共犯者が語る堀という人物
おわりに

インタビュー/対談/エッセイ

誰もが犯罪被害者になり得る時代に

磯谷富美子

 人は二度死ぬといいます。一度目は、誰でもが避けて通れない肉体的な死。そして、二度目は、その人の存在を完全に忘れ去られることによる死。私は、娘の死を無駄にしないために、娘を永遠に生きながらえさせるために、事件から12年余り経った今も語り続けています。この社会の中で娘が生活していたことを忘れないで欲しい。恐怖のさなかでも、屈することなく闘った娘を忘れないで欲しい。そして、優しく思いやりに富んだ親孝行な娘がいたことを忘れないで欲しい。そのような私の思いを叶えるかのように、NHKのディレクターさんが番組取材のために訪ねて来られたのが3年前。そしてこの度、これまでの取材をまとめた詳細な取材記が出版されることになりました。これもひとえに、事件を風化させずに伝えたいと、発信し続けてくださったスタッフ皆様のおかげだと感謝しています。
 事件を知っている人も、若い世代の知らない人も本書を読んでいただき、より事件について知ってもらい、考えるきっかけにしてもらえればと思っています。誰が犯罪被害者となってもおかしくない社会なのです。
 私の最愛の娘である利恵は、31歳という若さで無差別強盗殺人事件の被害者となり、突然にこの世を去りました。私の夫は白血病を患い、娘と同じ31歳で亡くなっています。それ故、娘が同じ年頃になると、病を発症するのではないかと心配することはありましたが、犯罪によって命を喪うとは想像すらしていませんでした。平穏だった生活は、見知らぬ三人の男たちによって一瞬にして奪われ一変してしまいました。彼等を絶対に許さない――私は決意しました。
「一人の被害者では、日本の司法では何故か死刑にはならないだろう」
 これは、事件後早々に送られてきた、見知らぬ人からの手紙の一節です。当然死刑だと思っていた私は姉と二人で、「三人の極刑を求める」ための署名活動をスタートさせ、33万2806名の署名を集めました。活動当初は、寝る間を惜しみ、悲しむいとまもないほどの忙しさでしたが、この活動が、胸をかきむしられるような辛い状況から、一歩踏み出す勇気と元気を与えてくれました。人によって地獄の苦しみを味わいましたが、逆に、多くの人によって私は支えられ、助けてもらいました。
 署名活動も大変でしたが、精神的にとても辛かったのは、事件が起きてから裁判が結審するまでの5年弱の期間です。特に1審の裁判中は、耳を塞ぎたくなるような内容も聞かねばならず、1審、2審の判決が下される度に、上訴してもらうように検察庁宛てに意見書を作成しなければなりませんでした。加害者にはある上訴の権利が被害者には無いからです。何度も公判記録を読み返し作成に当たりましたが、忘れたいはずの娘の殺害状況を、繰り返し頭の中にすり込む大変辛い作業でした。辛くても苦しくても大変でも、娘の命を奪った三人を死刑にする為には手を緩めることはできません。署名活動を続けたのも同じ気持ちからです。そのような私共遺族の気持ちとは裏腹に、神田が死刑、堀と川岸は無期懲役で結審し願いは叶いませんでした。
 しかし、結審からわずか20日余り後に犯人の一人である堀が余罪で逮捕されたのです。この余罪で堀は死刑判決が確定し、全ての裁判が終わりました。気がつけば、娘の事件から既に12年が経っていました。「もう裁判と関わらなくてもいい」そう思うと、大きな安堵感に包まれ、また一歩前に踏み出すことができました。
 今は、「娘が安心して見守れるような毎日を過ごそう!」と心に決めて日々を送っています。趣味のゴルフを仲間や姉と楽しんだり、13年も続いている「五十路会」と銘打った元の職場の友人達と食事会を開いたり、旅行に行ったりと、残りの人生を楽しんでいます。
 そして、欠かすことができないのは、犯罪被害者ご遺族との出会いです。ご遺族との出会いは、「辛いのは私だけではない」と、自分自身を奮い立たせる原動力になっています。
「人間って、一人じゃ生きられません。自分が意識しないところでも、きっといっぱい色んな人のお世話になっているのでしょうね」という娘の言葉通り、多くの温かい人達に囲まれて生かされています。遺言として受け取った、「悲しむより楽しかった思い出を大事にして、何時までも忘れないでいよう」という言葉を胸に、虹となった娘を探しながら、空を見上げて歩いています。
 利恵ちゃん! 私の娘でいてくれて有難う!

(いそがい・ふみこ)
波 2020年3月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

NHK「事件の涙」取材班

エヌエチケージケンノナミダシュザイハン

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