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カラスは飼えるか

松原始/著

1,540円(税込)

発売日:2020/03/23

  • 書籍

え、飼えるの? 意外とヘタレって本当? そもそも鳥としてどうなのよ。

鷹の速さやフクロウの平たい顔の秘密、恐竜との関係や天候不順にどう対応しているかなど、身近な鳥の秘密に迫りつつ、案外とヘタレで弱気なのに悪賢いと思われがちなカラスのことを、あますところなく「カラス先生」が伝えます。カラスって、やっぱりおもしろい! カラス好き、鳥好きに贈る、愉快な一冊。〈巻末にカラス情報付き〉。

目次
脳内がカラスなもので
1章 フィールド武者修行
夢見るサルレーダー
サルは友達なのか?
2章 カラスは食えるか
品種改良の歴史
宗教的禁忌
闘う鶏
なんでも食ってやろう
毒を食らわばカラスまで
3章 人気の鳥の取扱説明書
鷹は戦闘機に勝てるか
殿様と鷹
人気者たちの悩み
鳥を導くもの
フクロウ、平たい顔の秘密
4章 そこにいる鳥、いない鳥
街の人気者、カササギ
恐竜に出会う方法
不思議の国のドードー
台風と鳥
5章 やっぱりカラスでしょ!
カラスに蹴られたい
カラスじゃダメなんですか?
ホーム・スイートホーム
悪だくみ、してません
カラスは鏡を認めない
ミステリーの中のカラス
深淵にして親愛なる黒
カラスは飼えるか
そして、カラスの悪だくみ
Back in Time
付録――カラス情報

書誌情報

読み仮名 カラスハカエルカ
装幀 祖敷大輔/画、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 考える人から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-353251-4
C-CODE 0045
ジャンル ノンフィクション
定価 1,540円

書評

脳内カラス化、おそるべし

仲野徹

 本を買う時、何を重視するか。もちろん内容がいちばんだが、そんなもの読んでみないことにはわからない。となると、まずは著者かタイトルということになる。この本について、少し考察を加えてみよう。
 まずは著者の松原さん、申し訳ないが、そう知名度が高いとは思えない。あの偉大な数学者・岡潔の孫であることを知るのは、親戚以外では多くあるまい。しかし、誰がなんと言おうとカラスファンには有名である。というか、有名なはずだ。なので、カラスファンなら無条件に買いそうだ。しかし、それってどれくらいの人数いてるんやろ。
 次、タイトルから内容を考えてみる。カラスに対する世間のイメージはよろしくない。というより、悪い。そこへこのタイトルだ。飼ってみたらむっちゃかわいいですよ、とかいう内容になってるに違いないという気がする。しかし、冒頭で、その想像は無残にも打ち砕かれる。
「もしカラスの飼い方を知りたかったのであれば、ここで本を閉じて本棚に戻して頂いて構わない。というか、そうすべきである」と潔い。さらに、第5章「やっぱりカラスでしょ!」にある「カラスは飼えるか」という問いに対する答も明快だ。 「基本、飼えない。以上」。それなら、こんなタイトルにせんといてほしいわ。
 まぁ、考えてみたら、カラスを飼いたいなどという酔狂な考えを持っている人は日本に100人くらいしかおらんだろうから、このタイトルでも羊頭狗肉(というのか……)にはあたるまい。じゃあ、なんの本なのかというと、カラスをメインにしたいろいろな鳥類や動物をめぐる気軽で楽しいエッセイ集なのである。
 好きなところを読んで「へー、鳥ちょっと面白いじゃん」と思ってもらえたら十分と前書きに書いてある。その前書きのタイトルは「脳内がカラスなもので」。何なんですか、それは。だが、読み終わった感想をはっきり言っておこう。「おー、松原さんちょっと面白すぎるやん」。
 全体の8割くらいが鳥についてで、うち半分がカラス、残りの2割がその他の動物、といったところだろうか。カラスは、世界中で40種くらいとか、縄張りを持つとか、フクロウが大嫌いとか、別に知らなくても困りはしないことばかりだけど、実に勉強になる。それ以外の鳥類については、ニワトリ、闘鶏、鷹狩り、絶滅したドードー鳥、毒を持つ鳥、渡りのメカニズムなどなど、これも、ほぉ~っと思うような内容が盛りだくさんである。
「カラスは食えるか」という、タイトルと1字違いの問いもカラス界では極めて重要な問題らしく、第2章のタイトルになっているほどだ。これも、食べられなくはないけれど、手間をかけねばならず、そんなことしてまで食べるほどでもないと、すこぶる明快。飼えるか問題も食えるか問題も、答えが極めてシンプルなのが心地よい。
 内容に劣らず、ところどころに出てくる捨て台詞も素晴らしい。某グルメ漫画の雪山の別荘に閉じ込められた状況には「山をナメきっているとしか言いようがない」と一刀両断。『The Raven』(邦題は『鴉』または『大鴉』)には「カラスディスってんのかコラ」と作者のエドガー・アラン・ポーに喧嘩を売る。なんか爽やかすぎるやないですか。
 ウェブ「考える人」に連載されていた時のタイトルは「カラスの悪だくみ」だった。しかし「カラスは悪だくみなどしない」という。そのかわり、松原さん自身が「飛ばないカラス」であると。う~ん、そしたら、松原さんが悪だくみで書いてたっちゅうことですか。
「絶妙なおマヌケさが、カラスの魅力の一つ」だという松原さんは「脳内がカラス」なだけではなくて、「カラスに蹴られて喜ぶ変態」でもあるらしい。その上、なんでも「カラスと私の呪い」なるものを持っておられるとか。ここまで読んでこの本を買わなかったりしたら、その呪いが降りかかるやもしれませぬ。たぶんそれは、カラスに糞をかけられるという世にも恐ろしい呪いでありましょう。

(なかの・とおる 大阪大学大学院医学系研究科教授)
波 2020年4月号より
単行本刊行時掲載

カラス先生のアルバム

身の回りにこんなにいるカラスたち。きっとあなたのそばにも!

1 おねむの時間です
2016年7月4日、東京都内の公園にて。巣立ち数週間のハシブトガラスの雛が地面でぼーっとしている。
2 スマホに変えようかな
2018年2月24日、東京、浅草にて。異様なほど人馴れした若いハシボソガラスがいると聞いて見に行った。
野生個体だと思うが、人間に餌をねだって生きていたらしい。
3 黒い恋人たち
2011年12月、東京、池袋にて。相互羽づくろいを繰り返した後「ぴとっ」と並ぶハシブトガラスのペア。
今もこの場所に、多分同じペアが住んでいる。
4 鏡よ鏡
2006年6月、兵庫県西宮市にて。このハシボソガラスは水を飲もうとしたのか、カエルを狙っていたのか、それとも?
5 実用的
2008年4月、奈良市にて。抱卵中のハシボソガラス。何を隠そう、実家の庭の木である。
私が実家にいる間は営巣してくれなかったのに。
6 頭かいて
2019年3月6日、東京、代々木公園にて。ハシブトガラス。
ペアの相手に頭を差し出し、羽づくろいを要求することがよくあるが、この時はなかなかやってくれなかった。
7 やっと1本
2012年3月28日、東京都文京区。営巣しようとしていたハシブトガラスが、数分かけて並木の枝を取るのに成功した。
これをくわえ直して、巣に持ち込んで組み込む。
8 そんな顔してりゃ
2019年3月6日、東京、代々木公園にて。
撮影されているのに気づいて、小首を傾げながらこちらを凝視するハシブトガラス。かわいいじゃないか。
9 無題
2012年1月9日、東京都内。ハシブトガラス。
この構図はカラスが黒ベタになりがちで撮影者泣かせだが、カラスらしくはある。
頭と喉の羽毛のポサポサ加減がよく見える。
10 無題
2009年1月、沖縄県小浜島にて。夕暮れ、マングローブ林で出会ったオサハシブトガラスの集団。
ねぐら入り前の集合だろう。共同研究者が鳴き真似したら一斉に飛び立った。

著者プロフィール

松原始

マツバラ・ハジメ

1969(昭和44)年、奈良県生れ。東京大学総合研究博物館・特任准教授。京都大学理学部卒。同大学院理学研究科博士課程修了。専門は動物行動学。研究テーマはカラスの生態、行動と進化。著書に、『カラスの教科書』『鳥類学者の目のツケドコロ』『カラスは飼えるか』『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』などがある。

判型違い(文庫)

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