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障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。―ソーシャルファームという希望―

姫路まさのり/著

1,500円(税込)

発売日:2020/03/17

  • 書籍
  • 電子書籍あり

低賃金が当たり前って、おかしくない? 誰にとっても大事な、自立のための「お金」の話。

働いて、自立したい! そんな「当たり前」を実現させた、障害のある人たちが働く「成功企業」があった! 行列の絶えないフレンチレストラン、年商2億円に届いたクッキー工場、重度障がい者を主力とするコンピューターハウス、人気のワイナリー等々。5万円で生活が、8万円で未来が、10万円で働き方が変わる!

目次
はじめに
CASE1 10万円で働き方が変わる――予約の取れないフレンチレストラン
京都府舞鶴市にあるフランス料理店「ほのぼの屋」。駅から車で10分、町と海を一望にできる高台にあり、最も高いディナーは1万円を超えるが、オープンから連日予約がビッシリの人気店だ。ここでは知的、精神、身体障害のある20〜70代、約20人が働いている。この店が誕生したきっかけは「もうちょっと、給料、もらわれへんかな?」という障がい者の一言だった――。
【コラム1 障がい者の就労の仕組み】
CASE2 生きがいの分配――年商2億円に届いた奇跡のクッキー
滋賀県大津市の「がんばカンパニー」は、オーガニッククッキー製造販売の草分け的な作業所だ。年商2億円に達したこともあり、障がい者65人と雇用契約を結んだ上、働き方に応じて6〜24万円の給与を支払っている。資格も取り、現場責任者を任されもする彼らの姿を見て、世界中から押し寄せる見学者たちは「どこに障がい者がいるのですか」と言うが――。
【コラム2 ソーシャルファームとは?】
CASE3 福祉×芸術=アール・ブリュット――試みの先にあるもの
滋賀県近江八幡市にある「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」は町屋を改装して作られた美術館だ。正規の美術教育を受けることなく表現活動を行う障がい者らの作品を発掘し、展示している。その動きは国内にとどまらず、スイスのローザンヌから、パリ、そして世界中に広がっていて――。
【コラム3 1964年 東京パラリンピックとは?】
CASE4 ワインとAI――本当の自立とは何か
岐阜県多治見市には障害を持つ人たちがブドウを育てて、ワインを醸造し、販売するワイナリーがある。運営する大本は社会福祉法人の「AJU自立の家」。自立を目指して下宿屋や、重度の四肢マヒをもつ障がい者を主力とする「わだちコンピュータハウス」なども開設している。中心となったのは自身が障害を持つ二人の、一人の仲間のために、という思いだった――。
おわりに
主要参考文献

書誌情報

読み仮名 ショウガイシャダカラッテカセギガナイトオモウナヨソーシャルファームトイウキボウ
装幀 小幡彩貴/装画、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-353261-3
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,500円
電子書籍 価格 1,500円
電子書籍 配信開始日 2020/03/27

書評

この子らで変わる世の中のために

奥山佳恵

『ダウン症って不幸ですか?』という本を、ダウン症となんら関わりのない生活を送っている姫路まさのりさんが出版してくださった時、こんな方もいらっしゃるのだなと本当に嬉しく思った。ダウン症のある次男と暮らしている私以上に、ダウン症のある人のことを多面的な角度から見つめ、よりそってくれている本だったから。
 その一冊の存在でじゅうぶん感動していたところに、さらに上回る本がこの『障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。―ソーシャルファームという希望―』でした。障がいのある人が働いて、自立できるだけの給料を払えている企業、ソーシャルファームを丁寧に紹介しているこの本は、本当は誰にとっても大事な「お金」の話を、真正面から考えさせてくれるのです。姫路さんの愛情ってどこまで深いのでしょうか。
「障がい」という言葉を聞くと、ほとんどの人は身構えてしまうと思う。なんだか怖いし、できたら関わりたくない。大変そうだね、と他人事。ダウン症のある次男を授かる前の私自身がそうでした。よくわからないから不安で、距離を置いていた気がする。
 でも、障がいのある子が我が子となり、距離をおくどころか濃厚に接する毎日を送ることが現実となって初めて私が感じたのは「あれ? これ、おんなじ子育て」だということ。知ってみると大したことない。もっというと、大差がない。事実、我が家においては健常者と言われている長男の子育ての方が、今でも苦労をしています(笑)。障がいを恐れることなかれ。同じ、個性がある人間にすぎません。今では心からそう言えます。そして、それは決して特別なことでもない。健常者であっても、ゆっくりと時間をかけて老いを重ね、できないことが増えていく、というほとんどの人が逃れられない現実もあります。
 その意味で、姫路さんがこの本の中でも触れていた「精神を病むのは他人事ではなく、誰にでも起こりうること」であり「精神障がい者と健常者は『紙一重』ではなく『表裏一体』だ」というお言葉にも深くうなずきました。
 次男はまだ8歳。この春で小学三年生。まだ字を書くことができないなど、できないことの方が多い生徒ではありますが、同じ地域に住む子どもたちの中で、当たり前に存在していてほしいという思いから通常級へと通っています。私たち親が懸念していた以上にクラスのお友達は、次男をあるがままに受け入れてくれました。子どもたちは幼ければ幼いほど「障がい」という概念がありません。次男が通っている学校に行くたび、理想の社会の縮図がここにあるなといつも思います。「できてもいい、できなくてもいい」と思いあえることは、誰もがゆっくりといろんなことができなくなる現実を思えば、みなが生きやすくなる。息をしやすくなる世の中になる。
 そんな思いが根底に深くあるぶん、この本の中の「できることをわかろう」とする企業の姿勢が嬉しかった。私たちはロボットではなく生身の、それぞれ違った形をした、生きている人間です。できることは人それぞれ。形が違うならその違いを生かせばいい。テストの点数だけで人をジャッジして仕分けることは合理的かもしれませんが、「あなたはどんな形をしていて、どんなことが得意ですか」と「人をわかろう」とする、この企業のような姿勢をみんなが持てたら、世の中は変わりますね。得意なことを分担して、誰かに喜ばれ、役に立てたことに喜び、賃金をいただく。それが「働く」ということの定義なんですよね。「人が動く」と書いて「働く」。幸せになるために生まれてきたのだから、動くということは喜びに満ちたものであってほしい。
 長男にも次男にも、それぞれにあった「働く場所」を見つけて人生を歩んでいってもらいたい。そう思いながら子育てをしていますが、障がいのある次男にはどこか、まだ幼い、という点もあり、あえて考えないようにしていたところがあったかもしれない。それを姫路さんがまた揺さぶってくれました。
 次男が変わる、のではなく次男で変わる世の中になるために、「こんな個性を持った子がいます」ということを私はこれからも自信を持って多くの方に伝えていこう。次男を丸ごと受け止めてくれたクラスメイトが存在しているように、世の中みんなに受け入れてもらうために。
 この本で紹介されていた言葉、「この子らを世の光に」の通りに。
 こんなステキな個性を持った子が、ここにいますよ!

(おくやま・よしえ タレント)
波 2020年4月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

姫路まさのり

ヒメジ・マサノリ

1980年三重県尾鷲市生まれ。放送芸術学院専門学校を経て放送作家。「ちちんぷいぷい」「AbemaPrime」などを担当。ライターとして朝日新聞夕刊「味な人」などの連載を担当。HIV/AIDS、引きこもりなどの啓発キャンペーンに携わる。著書に『ダウン症って不幸ですか?」(宝島社)。

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