
犬は歌わないけれど
1,485円(税込)
発売日:2021/11/30
- 書籍
- 電子書籍あり
大人気バンド「いきものがかり」リーダーが鮮やかに綴るコロナ禍の日々。
「未来はどこにあるの?」幼い息子の本質を突く問いに考え込む。バンドデビューした高校時代、背中を押してくれた友人の言葉。事務所から独立して初めて知る社会の一般常識。いとおしい愛犬の存在。そして親友のグループ脱退……。地下スタジオにこもって音楽と向き合う中で心に浮かんだ大切な記憶と想いを紡ぐエッセイ集。
再会
高校生デビュー
好きを仕事に
かつての受験生から君へ
母と英語と水泳と
未来を食って生きていく
社会人一年生
いつかまた、会いにいく
たった一人の深い悲しみに
親友
桜のような歌を書きたい
祖母の手帳
父が撮りたかったもの
印税の明細から“愛”を知る
今日もコーヒーを飲んでいる
ほんとうに短い、時の手紙
犬に撫でられる
誰かが謝る姿
「それでは歌のご準備を」
客席側の物語
下戸の戦い方
勝つことだけに夢中の正義
つながることができないものを
リアリティーはあなたの中に
そして歌を書きながら
初出一覧
書誌情報
読み仮名 | イヌハウタワナイケレド |
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装幀 | COFFEE BOY/装画、新潮社装幀室/装幀 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 160ページ |
ISBN | 978-4-10-354341-1 |
C-CODE | 0095 |
ジャンル | ノンフィクション |
定価 | 1,485円 |
電子書籍 価格 | 1,485円 |
電子書籍 配信開始日 | 2021/11/30 |
書評
「限り」を越えようと、もがく姿
「地味なソングライターの地味な日常から、誰かに手紙を送るみたいに書いたエッセイです」
人気音楽ユニット「いきものがかり」のリーダーが毎月1回、2年間にわたって書き綴ったエッセイ集を刊行しました。
水野くんとの出会いは、もう15年くらい前になります。いきものがかりとはレーベルメイトなんですけど、ある時、「新しくデビューしたユニットが、西川さんにあいさつしたいとのことで……」って言われて会ったのが初対面。
その時の水野くんの印象は、とにかく引っ込み思案(笑)。ニコニコしている吉岡、人当たりのいい山下、そして、僕と目を合わせられなくて、壁を見つめている水野って感じでした。
その後も、インタビュー記事なんか読むと「どういう表情で話したのかなぁ」なんて気にかけていました。彼の手がけた曲が世の中で広く支持されて、今も音楽を作り続けているっていうのは、先輩ではなく、アーティスト仲間として嬉しいと思っていますし、それだけ彼がアップデートし続けているということですよね。
『犬は歌わないけれど』を読んでも、やっぱり彼が自分の限界値を上げたいって色々なことに挑戦しているんだなと感じました。
例えば、所属事務所から独立して社長になった苦労について彼は綴っていますけど、それも挑戦の一つに思えて……。
水野くんはクリエイティブなことだけに集中したいタイプだと思っていたんです。でも、社長になると、収支だったり色々なことについても考えないといけなくなる。それまでは「アーティストのわがまま」と許されていた自分の発言が、「社長の指示」と受け取られたりすることも。僕も長年やっているから分かりますが、非常にカロリーを使う作業なんですよね。でも、そういう仕事を彼にも早く「楽しい」って思えるようになってほしい。これは、先輩社長としてのエールですね(笑)。
息子さんとのエピソードも本には出てきますけど、これもそう。あんなに人見知りだった水野くんが親になって、家族やスタッフの人生を背負おうとしている……彼なりのやり方でアップデートしているんだなぁ、この葛藤から何かを生み出そうとしているんだなぁなんてことを、読みながら思いました。
水野くんに負けず劣らず愛犬家の僕にとっては、「犬に撫でられる」という一篇も見過ごせない(笑)。
このコロナ禍で、僕自身「アーティストの存在意義って何なんだろう」と考えさせられました。「希望や勇気を届けたい」と思って活動してきましたし、ありがたいことに「歌に感動しました」「励まされました」と言ってもらえることも沢山ありました。それが健康と安全が脅かされて「エンターテインメントは必要ない」っていう、それまでとは正反対のような事態になってしまったわけです。コロナが少し落ち着いた今、また「歌を聴いて元気が出ました」と言ってもらえるようになってきましたが、「本当に今、自分は求められているのかな?」と不安になってしまう部分も、どこかにあるんですね。
でも、犬はどんな時でも、無償の愛を与えてくれる。まっすぐに「大好き!」って全身で表現してくれるんですよ。水野くんも、「理屈を外して受け入れてくれる存在はやはり尊い」と犬について表現していますけど、本当にそう。だけど、こんな風に思う僕も水野くんも、心の一番深い所に、闇を抱えているのかもしれない……(笑)。
「そして歌を書きながら」という一篇の中で、彼は「限り」という言葉を何度も使っています。「『限り』を越えられないだろうか」「誰もが、誰かの『死』のあとを生きている。みんな、誰かの『限り』の先を生きている」って。別の一篇では、ストレートに「自分はいったいいつまで音楽を続けられるのだろうか」と自問自答もしている。僕も50歳を迎えて、人生の終わりや、いつまでステージに立てるのかという「限り」について、よく思いを巡らせるようになったんです。水野くんは年齢が一回り下ですけど、同じ問いに向き合っているな、と感じました。この本は、一人のアーティスト、一人の人間が葛藤に向き合った記録だと思います。
……と、こんな風に、僕は彼に共感もするし、もっとお近づきになりたい、と願っています。それなのに、水野くんは僕が主催する「イナズマロック フェス」に一回も出てくれてないんだよね。毎年のようにしつこく誘っているのに。書評も書いたことだし、今度こそ出演してくださーい!
(にしかわ・たかのり ミュージシャン)
波 2022年1月号より
単行本刊行時掲載
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著者プロフィール
水野良樹
ミズノ・ヨシキ
1982年生れ。神奈川県出身。1999年にいきものがかりを結成、2006年に「SAKURA」でメジャーデビュー。作詞作曲を担当した代表曲に「ありがとう」「YELL」「じょいふる」「風が吹いている」など。グループの活動に並行して、ソングライターとして国内外を問わず様々なアーティストに楽曲提供を行うほか、雑誌・新聞・ウェブメディアでの連載執筆など、幅広く活動している。2019年には実験的プロジェクト「HIROBA」を立ち上げ、様々な作品を発表している。