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世界最強の研究大学 ジョンズ・ホプキンス

黒瀬悦成/著

1,650円(税込)

発売日:2022/05/18

書誌情報

読み仮名 セカイサイキョウノケンキュウダイガクジョンズホプキンス
装幀 ジョンズ・ホプキンス大学/写真提供、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 188ページ
ISBN 978-4-10-354631-3
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,650円
電子書籍 価格 1,650円
電子書籍 配信開始日 2022/05/18

感染症の脅威と戦う「頭脳」にして「心臓部」。その内幕が、いま初めて明かされる。

追随を許さぬ新型コロナ追跡システムで各国政府や国際機関の対策を支えるだけではない。コロナ禍を予言、ウイルスの配列をいちはやく解析、重篤な状態に陥った米大統領の命を救い、フェイク情報と戦う先頭に立つ――専門家を育てながら、専門分野の横断を奨励する研究環境は、人類を疫病から守る砦だ。読み応え満点のパワーレポート。

目次
はじめに 人類を疫病から守り続ける砦
第一章 世界を救った新型コロナ追跡サイト
雑談から生まれた発明/立役者となった留学生/殺到するアクセス/WHOやCDCも活用/シビック・テックの成功例に/正しい情報が隠蔽されたら/ユニセフや世界銀行とも共同で/格差や不公平の是正も/専門分野を横断する/「透明性」求める風潮に合致/「王冠の宝石」
第二章 総力戦でウイルスに挑む
「世界最強」の自覚/瀕死のトランプ大統領を/「破滅的な事態」のメカニズム/治療薬開発の重要度は低下か/若者に深刻なコロナ後遺症/問題は死だけではない
第三章 大学が「予言」していた新型コロナ禍
2018年の警告/RNAウイルスが「地球規模で壊滅的な損害を」/新たなる警鐘/パンデミック対応の核心/次なるパンデミックに備えて
第四章 誤情報・偽情報を撃退せよ
元五輪メダリストの挑戦/相次ぐ図上演習/エコーチェンバーに正しい情報を届ける/エボラ出血熱「虚偽の噂」を検証/ウイルスが引き裂いた社会/専門家としての決意/偽情報で広がる被害/中国・ロシアによる偽情報工作も/大学も偽情報の対象に/誤情報の4類型/米国を非難する「架空の生物学者」の正体/「俗説」打破の取り組み/チャットボット起動/莫大な被害と損失
第五章 ワクチンをめぐり割れる議論
接種推進でまとまる世界/ワクチンは「重症化」と「死亡」を防ぐ/「文化戦争」を発動させないために/「適切なワクチン接種」とは?
第六章 そして若者は「ジョンズ・ホプキンス」を目指す
激増した入学者/進行する危機からリアルタイムで学び取る/感染追跡の無料オンライン講座も/存在感光る「隠れたアイビー」/ブルームバーグ 大学を支える最強のOB
おわりに 公衆衛生の未来
主な参考文献・資料

書評

人類を感染症から守る「頭脳」にして「心臓部」

川田晴一

 闇に沈んだ世界地図。その上に大小さまざまな真紅のドット(光点)が散っている。筆から絵の具を飛ばした抽象画のようにも見えるが、これはアメリカのジョンズ・ホプキンス大学が新型コロナウイルスの感染者を地図上に表示した追跡サイト「COVID-19ダッシュボード」だ。それぞれの光点の向こうに感染者の人生がある。
 追跡サイトは新型コロナの感染者、死者、回復した人の数を国・地域ごとに表示する。著者によると、地図は終日、半自動的に、ほぼリアルタイムで更新されるという。加えて、世界各地でどのような種類のワクチンを何人が何回接種しているかもデータとして日々蓄積され、数字がリアルタイムで公開されている。
 こうして複合的に集積されたデータは他の追随を許さないが、誰でもアクセス可能だ。それゆえアメリカでは、政府機関が感染被害の深刻度に合わせて地域にどれだけの医療物資や機器、医師などを送り込むかという計画を策定するために頼ったり、今後のウイルス感染についての予測モデルを作成する基礎資料として使用。また、世界各国の保健当局が外国からの入国規制を実施するにあたり、追跡サイトの数字を元に諸外国の大まかな感染状況を把握し、規制実施の是非をめぐる判断材料として利用していると著者は報告する。
 システムの裏側には人間がいる。著者はファクトとともにストーリーを興味深く紹介してくれている。
 日本で初めてコロナ感染が確認された2020年1月、アメリカ東部の都市ボルティモアにあるジョンズ・ホプキンス大学の片隅で、「COVID-19ダッシュボード」は生まれた。きっかけは、システム科学工学センターの准教授と留学生がカフェテリアで交わした雑談。ふたりはすぐに、追跡サイトの原型を作り上げる。すると、立ち上げから数日で一日当たりのアクセス数は2億回を突破。翌月、イタリアを中心とする欧州諸国で感染者数が増加し、何が起きているのか知ろうとした人が殺到してサイトがクラッシュすると、大学はすぐさま違う学部(応用物理学部)が所管する基幹システムを使う許可を出し、感染が広がる中でサイトの自動化を進め、精度を高めていった。WHOが新型コロナを「パンデミック」であると公式に認定した2020年3月頃には、少なくとも米国に関してはデータ収集とサイトへの入力の完全自動化を果たしたというから、そのスピードに驚く。そのまま読み進めていくと、追跡システムを立ち上げたシステム科学工学センターの准教授は、ふだん公衆衛生大学院(世界ランキングのトップ)で活動しているが、専門は土木工学で、正式には土木工学部に所属していると知り、二度驚く。
「そこがホプキンスのホプキンスたるゆえんなのです。どの学部や部門に所属しているかよりも、個人としてどのような研究活動に従事しているかが最も重要視されるのです」と説明する副学長自身が、化学工学の研究を専門とし化学工学部に所属しながらも、実際に日々取り組んでいるのはがん研究だというのが面白い。専門家を育成しながら、専門分野の横断を奨励する。追跡サイトは偶然ではなく、土壌による必然の産物だったというわけだ。
 こうして追跡サイトの裏側にいる人たちにスポットライトを当てながら名門大学の背骨を探り当ててみせた著者は、そこにとどまらない。コロナ感染で瀕死の状態に陥ったトランプ大統領の命をつなぎとめた同大医師と大学病院の存在に光を当てる一方で、トランプ大統領が助長させたともいえる「コロナ・フェイク」と闘う女性研究者(元五輪メダリスト!)を通じて中国やロシアによる偽情報工作にまで筆を伸ばす(「米国を非難する『架空の生物学者』の正体」はぜひお読みください)。
 射程の長い書きっぷりで見事な組織解剖をしてみせながら、やはり著者の興味は人にあるのだろう。それは大学病院の紹介の仕方にも感じられる。
《「良い病院」を判断する基準の一つは、地元の評判とも言われる。その点、ボルティモアの市民は病院に対して「町の誇り」と絶大な信頼を寄せている。筆者が病院を訪れた後にたまたま乗車したタクシーの男性運転手は、事故で頭の骨を折り重体に陥ったが病院で足や腰の骨の一部を頭に移植するなどの外科手術を複数回にわたって受け、立派に社会復帰したと明かし、「あの病院に入ったら何も心配はいらないよ」と笑った》
 最後に、余談めくが、一篇の雑誌記事を紹介しておきたい。東南アジア一帯に汎イスラム国家の建設を目指すイスラム系テロ組織ジェマア・イスラミア元最高幹部が組織のすべてを著者に明かした「ある大物テロリストの告白」(「フォーサイト」2005年4月号)。著者の力量を思い知るだろう。

(かわだ・せいいち ジャーナリスト)
波 2022年6月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

黒瀬悦成

クロセ・ヨシナリ

産経新聞東京本社編集局副編集長兼外信部編集委員。1966年2月生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、1988年に読売新聞東京本社に入社。ニューデリー支局長、経済部、ジャカルタ支局長、ワシントン特派員などを経て、2013年産経新聞社に入社。ワシントン支局長(2017〜2021年)を経て現職。主な著書に『ジャンボ鶴田 第二のゴング』(朝日ソノラマ)、『膨張中国』(共著、中公新書)などがある。

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