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あの時のわたし―自分らしい人生に、ほんとうに大切なこと―

岡野民/著

2,200円(税込)

発売日:2024/11/14

  • 書籍
  • 電子書籍あり

各分野の第一線で活躍する27人の女性に聞く、時代に左右されない生き方。

転機、苦難、出会いと別れ。そのすべてが、必ず糧になる――。女優、登山家、宇宙飛行士、料理家など、自らを信じ歩んできた人生の先輩たちが振り返る「いまの私を支えてくれる『あの時』の出来事」。経験から紡ぎ出される言葉は、正解のない現代を生きるわたしたちへの優しいエールです。「暮しの手帖」人気連載を書籍化。

目次

向井千秋 医師・医学博士、宇宙飛行士
イッツノットマイフライト/生きているものは何でも美しい

田部井淳子 登山家
歩くことが生きること/山も楽しく、生活も楽しく

辰巳芳子 料理家、随筆家
命の持ち運び方/人生は簡潔に

黒柳徹子 女優、ユニセフ親善大使
象を知らない/道草

若尾文子 女優
一途な思い/決めたこと、過ぎたこと

中山千夏 作家
人生に軸ができたとき/海と古代に潜る

湯川れい子 音楽評論家、作詞家
兄からの遺言/パーソナル・ソング

笹本恒子 報道写真家
勇気を振り絞るとき/71歳からの再スタート

神沢利子 児童文学作家
北の原野と山霊の伝説/たんぽぽさん

鈴木登紀子 料理研究家
おせち料理と母の味/人生のご褒美

中村メイコ 女優
人生これ喜劇/ひとり三役

森下洋子 バレリーナ
親指1本でも/何のために踊るのか

伊藤比呂美 詩人
道行き/私は私

黒澤和子 衣装デザイナー
乞われる人生/生まれっぱなし

大貫妙子 シンガー・ソング・ライター
太陽の匂い/凪に漕ぐ

海原純子 医師、随筆家、歌手
プロセスとオリジナル/アイ・ビリーブ・ユー

中満 泉 国際連合職員
一生の宝物/リーダーの勇気

西巻茅子 絵本作家
子どもの絵描きさん/父のパレット

平野レミ 料理愛好家
大きな手/風強ければ

石内 都 写真家
敵討ち/写真の向こう側

吉田 都 バレリーナ
やらなくてはいけないこと/心の軸

ウー・ウェン 料理研究家
これも人生の出来事/よき隣人

渡辺えり 劇作家、演出家、俳優
考える癖/生きる糧

角野栄子 児童文学作家
心の腐葉土/南十字星

田嶋陽子 英文学者、女性学研究者
2000万人/あと少し

倍賞千恵子 女優、歌手
負けじ魂/喜んで、忘れる

村木厚子 元厚生労働事務次官
第3のタイプ/負けない方法

あとがき

書誌情報

読み仮名 アノトキノワタシジブンラシイジンセイニホントウニタイセツナコト
装幀 芝晶子(文京図案室)/デザイン
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 336ページ
ISBN 978-4-10-355931-3
C-CODE 0095
ジャンル 評論・文学研究、ノンフィクション
定価 2,200円
電子書籍 価格 2,200円
電子書籍 配信開始日 2024/11/14

インタビュー/対談/エッセイ

人生を大きく変える「覚悟」と「即答」

松浦弥太郎

 2006年の10月に「暮しの手帖」の編集長に就任した。その年の暮れだったと思う。よく晴れた日の午後、横山社長とともに、秋山ちえ子さんの自宅に挨拶のためにお伺いした。
 ジャーナリストであった秋山さんは、長年「暮しの手帖」のよき理解者の一人で、近年の売上部数の落ち込みを心から心配していた。
 秋山さんは、自分が取り組んできたラジオ番組や朗読、執筆活動について静かに話してくれた。そして、若い頃にアメリカを訪れた時、仕事をする女性が颯爽と道を歩く姿を見て、自分も強く生きようと思ったと語ってくれた。
「これからの社会は女性のちからがもっと必要になってきますから、女性が元気になるような雑誌を作ってください。長い人生では幾度となく覚悟をする時がある。いつだって女性は覚悟よ。私にも覚悟の時がありました。大橋さんが作った「暮しの手帖」も同じよね」と、秋山さんはぼくの目をじっと見て言った。
 2007年1月25日、ぼくの手掛けた新しい「暮しの手帖」が発売された日の朝、秋山さんから電話があり、「とてもいいと思います。自分を信じて続けてください。ずっと見ていますからね」と励ましてくれた。その時くらい嬉しいことはなかった。新しい号が出るたびに秋山さんは電話をくれた。
 そうしておよそ九年間「暮しの手帖」の編集長を務めたが、あの日に聞いた秋山さんの「覚悟」という言葉は、いつだって、苦しい時つらい時の底力になった。ぼくにとって秋山さんは恩人になった。
 恩人と呼べる人がもう一人いる。小林恵さんだ。若くして帽子デザイナーとして成功し、1964年、世界一周の旅に出発したが、渡航先のニューヨークで「ここでやってみよう!」と思いつき、旅行を中断。いくつもの出会いが重なりアメリカで一番大きな帽子メーカーに就職し、デザイナーとして頭角を現し、成功を手にする。後に、独立し、ニューヨークに暮らしながら、キルトを中心にアンティーク人形といったフォークアートと、アメリカの暮らしの文化を日本に紹介する活動を始め、晩年に帰国した。
 そんな恵さんとの出会いは、ぼくが「暮しの手帖」の編集長に就任してすぐに届いた一通の手紙がきっかけだった。恵さんが企画した「アメリカ人形展」を銀座で開催するのでぜひ見に来てほしいという誘いだった。当時の恵さんは七十歳くらいだったと思う。お会いした恵さんは、とてもエネルギッシュで、互いにニューヨークで暮らしていたアパートが近かったこともあり途端に意気投合し、あっという間に親友のような仲になった。
 恵さんから学んだことは数えきれない。恵さん自身が最も大切にしている言葉がある。それは「成功の反対は失敗ではない。何もしなかったということ」。この言葉くらい当時のぼくを支えてくれたものはなかった。そしてもうひとつ、「即答」だ。何事も即刻判断。「チャンスというものは、考えたり悩んだりしているうちに去ってしまうのよ。もしくは誰かに取られてしまう。だからいつでも即答。誰よりも早く即答。即答とは勇気。勇気こそ成功の秘訣」と恵さんはぼくに言った。恵さん自身、それまでの人生を、幾度も「即答」で切り拓いてきた。
 恵さんと、月に一度、食事をするのがとても楽しみだった。大抵は西日暮里の自宅で、恵さんの手料理をごちそうになり、互いの夢やこれまでの人生の歩みを夜遅くまで語り合った。
 恵さんは、おしゃべりしていると、「あなたが即答した時の話を聞かせて。その時どうだったの?」とよく聞いてきた。そして「人生とはやりたいことをやること。やりたいことをやるためにはやっぱり即答。その時を逃さないために」と恵さんは言った。
「即答」の大切さをぼくは恵さんから学び、「暮しの手帖」の仕事だけでなく、恵さんに倣って、それからの人生を「即答」で切り拓いてきて今がある。
『あの時のわたし―自分らしい人生に、ほんとうに大切なこと―』は、秋山ちえ子さんと小林恵さんという偉大な二人からぼくが学んだ、どんな人にも「あの時」という覚悟や即答があり、その覚悟と即答こそが、人生を大きく動かすことを、「暮しの手帖」の読者と分かち合いたくて始めた連載だった。
 そして「とにかく、おもしろくて楽しくて、役に立つ雑誌を作りなさい」と言う秋山さんへの返事であり、「やりたいことをやることを励ます雑誌であるように」と言う恵さんへの返事でもあった。
『あの時のわたし』はその願いを叶えていると信じている。第一線で活躍してきた二十七人の女性の覚悟と即答が描かれている。

(まつうら・やたろう エッセイスト)

波 2024年12月号より
単行本刊行時掲載

担当編集者のひとこと

 本書は、雑誌「暮しの手帖」で2015年に連載がスタートした「あの時のわたし」をまとめたものです。宇宙飛行士、女優、料理研究家など、各界の第一線で活躍する女性たちに聞いた、「いまの私を支えてくれる『あの時』の出来事」。27名の言葉は、どれも経験に裏打ちされたものばかりです。
 担当編集の私がこの連載に出会ったのは、社会人2年目、まだまだ仕事に緊張してばかりのころ。ふと手に取った「暮しの手帖」で、料理研究家・随筆家の辰巳芳子さんの「私は『自分なりの心の込め方』を育ててきました」という言葉にハッとした読者のひとりでした。目の前の仕事に追い立てられ、本当に大切にすべきことをないがしろにしてきたのではないか――。それ以降、連載を読むと毎回、新たな気付きを与えてくれました。
「自ら道を選ぶことができる人って、『選べる』だけで幸せ」(向井千秋さん)、「人生って、降りかかったことを、いっぺん面白がってみるといいんじゃないか」(中村メイコさん)……。ページをめくる度に「グッとくる言葉」が見つかる本書。ぜひ、お手元に置いてみてください。(ノンフィクション編集部・MS)

2025/01/28

著者プロフィール

岡野民

オカノ・タミ

1973年北海道生まれ。編集者、ライター。2000年よりフリーランス。「Casa BRUTUS」をはじめ、主に雑誌媒体で建築やデザイン、生活文化をテーマにした誌面作りと記事の執筆を行う。継続して取り組んでいる仕事に、2008年から続く「BRUTUS」の特集・居住空間学、「暮しの手帖」での連載「あの時のわたし」など。インタビュー多数。写真家・永禮賢との共著に『The Tokyo Toilet』(2023年、TOTO出版)。

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