
週刊新潮が撮った 昭和の女優たち
1,980円(税込)
発売日:2025/05/14
- 書籍
- 電子書籍あり
いま蘇る銀幕の女神たち! 半世紀を超えて、なお輝く在りし日の美貌と艶麗!!
映画撮影の合間に、あるいは旅先で、まさかの自宅で──昭和31年創刊「週刊新潮」のグラビアを飾ったスタアたち。化粧を直す原節子、海辺の南田洋子、楽屋で談笑する越路吹雪、リビングでくつろぐ淡島千景……35人のスタア、在りし日の美貌を一挙掲載。アザーカットに残る意外な素顔、一瞬のしぐさも魅力の永久保存版。
きれいだった昭和の女優たち 川本三郎
原節子
津島恵子
南田洋子
山田五十鈴
月丘夢路
八千草薫
杉村春子
高峰秀子
乙羽信子
野添ひとみ
根岸明美
越路吹雪
池内淳子
新珠三千代
久我美子
左幸子
淡島千景
扇千景
団令子
中原早苗
丘さとみ
淡路恵子
田中絹代
白川由美
京マチ子
環三千世
安西郷子
山口淑子
弓恵子
三ツ矢歌子
朝丘雪路
瑳峨三智子
星由里子
初代・水谷八重子
小林千登勢
書誌情報
読み仮名 | ショウワノジョユウタチ |
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装幀 | 新潮社装幀室/装幀 |
雑誌から生まれた本 | 週刊新潮から生まれた本 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | B5判 |
頁数 | 128ページ |
ISBN | 978-4-10-356311-2 |
C-CODE | 0095 |
ジャンル | 文学・評論、写真、作品集、カメラ・ビデオ |
定価 | 1,980円 |
電子書籍 価格 | 1,980円 |
電子書籍 配信開始日 | 2025/05/14 |
書評
女優の素顔が映画以上に魅力的であるうれしさ
昭和31年に創刊した「週刊新潮」は「人の見たいものを見せる、知りたいことを書く」を編集基幹とし、グラビア写真で「スター女優の私生活」を始め、撮影は新潮社写真部数名が交替で行った。本書はそれを女優別に編集。単なる写真集にせず、記事誌面を小さく載せ、本文も一部紹介して掲載時のリアリティを残す。
女優の写真はもちろん映画スチールがあり、秋山庄太郎や早田雄二など婦人科カメラマンによるスタジオ撮影もみな女優の顔としての写真だ。しかし出版社の「社カメ」は出かけてありのままの本人を撮るしかなく、それが狙いでもある。ここに「週刊新潮が撮った」価値が生まれた。
創刊第二号の映画現場探訪「主役の表情」は原節子。掲載誌面は手鏡を見る本番前だが、次は出演衣装でラーメンをすする。あの日本一の深窓令夫人原節子様がラーメンですぞ。もちろん映画の場面ではなく丼を手のお針子さんも写り込む現実の楽屋飯だ。ベルこと山田五十鈴は超派手な衣装メイクで番茶を手に本番待ちする姿と、自宅玄関を出る普段着姿を対比。白割烹着で猫を肩にお茶を淹れ、庭で愛犬を相手にする。「火の鳥」で大きな飛躍を求められた、お月様こと月丘夢路は衣装着物で夜の銀座に立ち、取材カメラなど全く無視した本番待ちの緊迫感が写る。月丘は後にこの作の井上梅次監督と結婚する。
プライベートショット連載「お出かけ」の八千草薫は自宅玄関でレインコートにスカーフ巻き、雨傘、雨靴。犬小屋の犬もカメラを見ている。外の坂道を下りて来る一枚は、濁世にかくも清らかなものがあろうかと手を止めさせる。わがデコ様/高峰秀子が自宅の籘椅子でのんびりする表情は、映画よりも素顔が一番と叫びたい。グランプリ女優京マチ子が野良着風衣装でおにぎりを口にするショットの、こんなところ見られちゃってという照れた表情の人間味。淡島千景がソファに寝ころぶ俯瞰ショットは、独身暮らし自宅の広大な居間を見せるのが狙いのようだ。
銀座マダムが当たり役の淡路恵子の楽屋裏ショットは、タオルが干され、灰皿にタバコのちらかる楽屋に、なんと着替え中の上半身シュミーズ姿で電話に出ている。昨今の「こんな写真はイメージダウンになる」という小心とはちがう、どう撮られようと平気という堂々たる自信がすばらしい。名前どおりぱっちりした瞳が魅力的な野添ひとみが、娘着物衣装でスタジオの大きな鉄扉の前に立ち、ちょっと横目を使うショットは、映画関係カメラマンとはあきらかに違い、役柄ではない本人の素の顔を狙っている。
新珠三千代は三回登場。「主役の表情」で三島由紀夫の『金閣寺』を映画化した「炎上」についての新珠の言葉に、編集部は〈美の象徴のような佳人に扮する。清楚な和服姿のよく似合う彼女は 有名な芸熱心でもある〉と賛辞を呈し、「新珠三千代とアベック旅行」では図々しくもご一緒の旅。ホテルロビーでくつろぎ、龍安寺の石庭を座して眺め、寺の回廊を歩く姿はさすが女優、まったく絵になる。
そしてそして久我ちゃま/久我美子が自宅で紫煙を手に足を組んで座る自然さ。白ワンピースで玄関に立つ、何げないのにすばらしいショット。編集者は久我ちゃまファンなのかページが多い。
映画史を生きた大女優・田中絹代の言葉も載る。
〈女優生活には 何度か危機がありました。……それを乗りこえようと映画ひとすじに生きました。そこへあの大戦争だったのです。……いちばん演技の充実する30代と 貴重な青春時代を失いました……。けれどわたくしの生きる場所はやはり映画だと思いただ演技だけを追いつめていったのです。……何よりも映画が好きなのです〉。
覚悟が違う。写真に写る、控えめな中の落ち着いた気高さは、カメラマンの尊敬の念からだろう。
これらはすべて私服の「素顔」だ。美女は何もしなくても美しい、いやだからこそ真実に美しいとため息が止まらない。俳優であればカメラが向いているのはつねに意識にあるが、それを表に出さないようにできるのも俳優だ。あの週刊新潮のカメラマンならば暴露的に撮ると思うなかれ、皆様絶世の美女を前にファインダーをのぞく目は垂れっ放しだが、写そうとしているものは明確だ。
今ではこんな、私服で自宅、近所を散歩、お買い物、一緒に旅行などという撮影は“全く”考えられない。映画という虚構を脱いだ女優の素顔が映画以上に魅力的であることのうれしさ。プライバシーを見られるのも仕事のうちと、自らを律する高潔な生き方が人間の気品となっている証明がこの本の最大の価値だ。
70年も前のネガの発掘修復はたいへんだったそうだ。収録は三十五人。察するに他にも、あやや/若尾文子、ネコ/有馬稲子、カガキョン/香川京子、お志麻/岩下志麻、ハーミー/浜美枝、岡田茉莉子、司葉子、浅丘ルリ子、吉永小百合……まだまだ新潮社写真部にお宝写真は残っているのでは。その公開を願うや切。
(おおた・かずひこ グラフィックデザイナー、作家)
波 2025年6月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
「週刊新潮」編集部
シュウカンシンチョウヘンシュウブ