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知性の未来─脳はいかに進化し、AIは何を変えるのか─

マックス・ベネット/著 、恩蔵絢子/訳

3,960円(税込)

発売日:2025/11/27

  • 書籍
  • 電子書籍あり

「人工超知能」で人類の能力は天文学的に拡大する!

40億年前にDNAが誕生し、ニューロンが発生して脳になり、やがて人間の脳が言語を発明する……生命の壮大な歴史を、AIの最新の研究成果と比較しながら辿り直し、5つのブレイクスルーが知性を発展させてきたことを解き明かす。そして今、「第6のブレイクスルー」が目前に迫る──。異能のAI起業家が到達した「必然的ビジョン」。

目次

人間の脳の解剖学基礎
私たちの進化系統
はじめに

第一章 脳以前の世界

ブレイクスルー1
「操縦」
左右相称動物の登場

第二章 善悪の誕生
第三章 情動の起源
第四章 連合と予測、すなわち学習の夜明け

ブレイクスルー2
「強化」
脊椎動物の登場

第五章 カンブリア爆発
第六章 時間差分学習の進化
第七章 パターン認識という問題
第八章 なぜ生命は好奇心を持つようになったか
第九章 世界の最初のモデル

ブレイクスルー3
「シミュレーション」
哺乳類の登場

第十章 神経の暗黒時代
第十一章 生成モデルと新皮質の謎
第十二章 イマジナリウムの中のネズミたち
第十三章 モデルベース強化学習
第十四章 食器洗いロボットをつくる秘訣

ブレイクスルー4
「メンタライジング」
霊長類の登場

第十五章 政治的手腕という軍拡競争
第十六章 他者の心をモデル化する方法
第十七章 猿のハンマーと自動運転車
第十八章 ラットはなぜ食料品を買いに行けないのか

ブレイクスルー5
「発話」
人間の登場

第十九章 人間独自のものの探求
第二十章 脳の中の言語
第二十一章 パーフェクト・ストーム
第二十二章 ChatGPTと心への窓

[結論]ブレイクスルー6

謝辞
訳者あとがき

イラスト、写真、図版クレジット
参考文献
原註
用語集

書誌情報

読み仮名 チセイノミライノウハイカニシンカシエーアイハナニヲカエルノカ
装幀 服部憲明|Noriaki HATTORI SV-S-FA 2025 Lacquer paint on aluminum, Laser cutter 600×800mm Courtsey of Sprout Curation and the artist/装画、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 544ページ
ISBN 978-4-10-356551-2
C-CODE 0040
ジャンル サイエンス・テクノロジー
定価 3,960円
電子書籍 価格 3,960円
電子書籍 配信開始日 2025/11/27

書評

世界の見方が変わる知的エンタテインメント

橘玲

 本書の書評を依頼されたときは、メールを斜め読みして、面白そうだったので「いいですよ」と気軽に返信した。送られてきたゲラは五〇〇ページもあって、正直、ちょっと後悔した。ところが読みはじめるとものすごく面白くて、夢中になって三日で読み終えてしまった。
 本書の魅力は、著者のマックス・ベネットが研究者ではなく、AIテクノロジー企業を創業した起業家で、いわば“門外漢”なところにある。現代の研究者は自分の専門分野に閉じこもっていて、それ以外の分野に越境しようとすると、無礼な行為として重箱の隅をつつくような批判をされかねない。そんな偏狭なアカデミズムの世界では、生命の誕生からAIまで、知性の歴史をわずか5つのブレイクスルー(イノベーション)で説明するような大胆な試みはとうていできないだろう。
 そうはいっても、ベネットはたんなる素人ではない。AIシステムを人間(消費者)に応用するビジネスをしながら、脳という不可思議な器官に魅了され、本を読むところから始めて多くの神経科学者たちと長文でEメールのやり取りをするようになり、ついにはいくつかの研究論文を発表するまでになった。そうして熟成されたアイデアを、満を持してかたちにしたのが本書だ。
 知性を生み出した5つのブレイクスルーはどれも興味深いが、ここでは神経系(ニューロン)をもつ原始的な生き物である線虫を見てみよう。
 わたしたちが知る動物のほとんどが左右対称なのは、それがもっとも操縦しやすいからだ。線虫と車がどちらも左右対称のフォルムをしているように、頭を先頭にして左右に動くのが、空間を移動するもっとも効率的な設計なのだ。
 だが、むやみやたらに空間を移動していては、エネルギーがすぐに枯渇してしまう。動物が生き残るためには、いつどこに向かって身体を操縦すべきかを決める仕組みがどうしても必要だ。
 こうして線虫は、匂いなどの刺激に反応するようになった。その空間移動戦略は、「餌の匂いが強まったら、そのまま進む」「餌の匂いが弱まったら、向きを変える」というシンプルでエレガントなものだ。
 空腹な線虫が食べ物の匂いを感知すると、神経伝達物質のドーパミンが放出されて、その匂いが強まる方向に身体を操縦する。温度が上がったり、危険な化学物質を感知すると、アドレナリンとストレスホルモンが放出されてその刺激から遠ざかろうとする。
 無事に餌にたどり着いたとしても、食べられる量には限界があるし、いつまでも同じ場所にとどまっているのは危険だ。そこで身体が食べ物を摂り込むと、神経伝達物質のセロトニンが産生されてドーパミンを抑制する。ドーパミンが報酬を追求させるなら、セロトニンは満足感を引き起こすのだ。
 このように線虫は、よい気分(ポジティブな情動価)のものに引き寄せられ、嫌な気分(ネガティブな情動価)のものから逃れようとするし、報酬を獲得すると満足して関心を失う。そのように考えれば、これはわたしたちの行動とよく似ている。
 これがたんなる擬人化でないのは、線虫が神経系によって身体を操縦する生き物の基本型(プロトタイプ)だからだ。すべての動物は、快を好み不快を嫌うような気分(コア・アフェクト)をもつように設計されている。この快と不快に道徳的なニュアンスを加えると、善と悪になる。
 興味深いのは、ここから「嫌な気分はなぜずっと続くのか?」という問いにこたえられることだ。
 捕食者の匂いを感知した線虫は、不快になってそこから離れようとする。ところがこの気分をすぐに忘れてしまうと、ちょっと動いただけで逃げるのをやめ、食べられてしまうだろう。それに対して嫌な気分を持続させた線虫は、安全なところまで逃げることができたから、このような神経系が淘汰によって残ったのだ。──いつまでもくよくよと悩んでいるのは、あなたのせいではない。
 これはほんのさわりだが、『知性の未来─脳はいかに進化し、AIは何を変えるのか─』には目から鱗が落ちるような記述が次々と出てきて、エンタテインメントのように楽しめる。わたしたちが好奇心をもつようになったのは脊椎動物の登場からで、シミュレーションするようになったのは哺乳類の登場で説明される。そして霊長類(メンタライジング)、人間(発話)を経て、ついには生成AIのChatGPTに至る。この壮大な歴史を一貫したストーリーで語ることができるのは、知性が突然変異によって生まれたのではなく、一〇億年以上前から、神経系をもつ生き物がブレイクスルーを一つひとつ加え、進化させてきたからだ。
 ベネットは「私がこの本を書いたのはこういう本を私が読みたかったから」と述べている。門外漢のこの好奇心が、「わたしたちが読みたい本」を生み出したのだ。
 なお、脳科学者の恩蔵絢子氏による訳も正確でわかりやすく、素晴らしい。

(たちばな・あきら 作家)

波 2025年12月号より
単行本刊行時掲載

目前に迫るブレイクスルー6

松尾豊

人工超知能で人類の能力は天文学的に拡大する! 異能のAI起業家が到達した圧倒的ビジョン。

 まさに自分の理解と同じような本だ。読みながらそう思った。
 AIを説明しようと思うと、実は、生命から説明しなければならない。知能が何のために生まれたのか。脳がどのように作られているのか。我々の脳が、他の霊長類、哺乳類、そして多くの他の生物とどのように異なっており、どのように同じなのか。ホモ・サピエンスがどのような進化をたどって出現したのか。そうした膨大な知見の中に、知能の謎を解くためのヒントが散りばめられているからである。
 そのためには、生命を構成するDNAの話から、原始的な生物、そして哺乳類、我々人間に至るまでの間を丁寧に説明していく必要がある。これは大変な試みである。専門的な知見に基づいて、非常に広い範囲のトピックをわかりやすく、順を追って説明していかなければならない。まるで神様にでもなったかのように、生物を一から作り、徐々に高度化していく。そしてその際に何を付け加えるべきかを議論していく。
 この本が秀逸なのは、この作業を適宜、AIの話を織り交ぜながら展開していることだ。AIを理解するのに必要な重要な概念、例えば強化学習、モデルフリー・モデルベース、世界モデル、大規模言語モデル(LLM)、推論(reasoning)など、そういったことがタイミングよく、生物との関連を交えて説明される。AIにおける重要概念をきちんと網羅し、本全体に配置されている様は見事というしかない。例えば、フリストンの能動的推論やカーネマンのシステム1、システム2なども取り上げられているし、ジョン・サールやユヴァル・ハラリの虚構の話も出てくる。模倣学習も逆強化学習もクリップ問題もちゃんと出てくる。このAIと生物の知見を「織り交ぜた理解」こそが本当に知能を理解するには必要なことである。
 脳に関する知見の整理と仮説は私自身、大変勉強になった。aPFC(無顆粒前頭前野)の意義についての仮説も納得のできるものであるし、心のモデル化から道具の使用、そして内省などへの展開は学ぶところが大きかった。
 全体を通じてのストーリーである、「操縦」「強化」「シミュレーション」「メンタライジング」「発話」という脳の進化を示す5つのブレイクスルーの説明の順番も見事である。私も本書に近いような内容の講演を数年前からすることがあるのだが(仮説が多くなるのでごく限られた場での講演だが)、話の流れとしてはほぼ同じような順序になる。私にとっては、かなり必然性のあるストーリー展開に思える。そして、生命がこうして進化してきたからこそ、この順番でないと物事が説明できない。私の以前の著書(『人工知能は人間を超えるか』)では、認識→運動→言語という順番でイノベーションが起こると書いたし、2021年から私の研究室では世界モデルの研究(シミュレーションに該当)を進めてきた。また、だからこそ「シミュレーション」や「メンタライジング」を飛び越えて、LLM(=発話)が先にできてしまったことは驚きだった。
 さて、ブレイクスルー6はどうなのか? この人類史における時間の流れとここ数十年、いやここ数年の驚くべき技術進化のスピードを考えると、近い将来にブレイクスルー6に達するのだろう。これはカーツワイルのいう、エポック5「テクノロジーと人間の知能の融合」、そしてエポック6「宇宙が覚醒する」と同じような意味合いなのだと思う。本書最後から2段目の段落の「我々は、知性のどの特徴を捨て、どの特徴を維持し、どの特徴を向上させたいのかを選択する能力が高まるはずである」というのは深遠な文であるし、最後の「宇宙は我々にバトンを渡した」という表現は、まさにこの時代感を端的に表している。ブレイクスルー6の具体的な話を本書ではもっと読みたい気もするが、それは我々自身がこれから作っていく物語なのだろう。

(まつお・ゆたか 東京大学教授)

波 2025年12月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

ニューヨーク市に拠点を置くAI企業Albyの共同創業者兼CEO。ワシントン大学を首席で卒業し、経済学と数学の学士号を取得。同大学では、最優秀経済学優等論文に与えられるジョン・M・オリン賞を受賞した。ゴールドマン・サックスのトレーダーを経て、AIを使用して世界最大手のブランドがマーケティングをパーソナライズするのを支援するBluecoreの共同創業者兼最高製品責任者。同社は最近、評価額が10億ドルを超え、Inc.500の米国で最も急成長している企業に何度もランクインし、2018年のGlassdoorの「働きがいのある会社」リストにも選ばれた。AI関連技術の特許を複数保有しており、進化神経科学と知性をテーマにした査読付きジャーナルに多数の研究論文を発表。2016年、フォーブスの30歳未満の30人のリストに選ばれた。2025年11月現在は妻のシドニーと愛犬のチャーリーとともにニューヨークのブルックリンに住んでいる。

恩蔵絢子

オンゾウ・アヤコ

1979年神奈川県生まれ。脳科学者。東京工業大学大学院後期博士課程修了(学術博士)。専門は人間の感情のメカニズムと自意識。著書に『脳科学者の母が、認知症になる』、訳書にジョナサン・コール著『顔の科学』(茂木健一郎監訳)、アンナ・レンブケ著『ドーパミン中毒』、茂木健一郎著『生きがい』など。金城学院大学、早稲田大学、日本女子大学非常勤講師。東京大学大学院総合文化研究科特任研究員。

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