
少女は殺人の夢を見る
2,090円(税込)
発売日:2026/07/15
- 書籍
- 電子書籍あり
若手ナンバーワン“マニア”作家が、“本格愛”を惜しむことなく解き放つ!
サークル〈月夜のお茶の会〉の読書会に参加した俺・獏田格は課題本のミステリー小説に酷似した「事件」に巻き込まれる。そこは二年生の先輩・夢見灯が作り出した「夢の世界」で、謎を解かなければ俺は現実に戻れない!? カー、クリスティー、クイーン、そして……。本格ミステリー界の若き旗手が先人たちを徹底オマージュ。
第一話 第三の短剣
第二話 そして誰にも共感出来なかった
第三話 モザイク岬の謎
第四話 女死刑囚パズル
第五話 三階の窓
第六話 九角館の殺人
あとがき
書誌情報
| 読み仮名 | ショウジョハサツジンノユメヲミル |
|---|---|
| 装幀 | 遠藤拓人/装画、新潮社装幀室/装幀 |
| 雑誌から生まれた本 | 小説新潮から生まれた本 |
| 発行形態 | 書籍、電子書籍 |
| 判型 | 四六判変型 |
| 頁数 | 384ページ |
| ISBN | 978-4-10-357111-7 |
| C-CODE | 0093 |
| ジャンル | 文芸作品 |
| 定価 | 2,090円 |
| 電子書籍 価格 | 2,090円 |
| 電子書籍 配信開始日 | 2026/07/15 |
書評
読書会を開く、世界を拓く
読書は孤独な営みだと言われる。ではなぜ、人は読書会を開くのだろう。
読書会に参加するたびにいつも驚かされるのは、同じ課題本を読んだはずなのに、参加者の読み方は千差万別なことである。共感できるものもあれば異議を唱えたくなるものもあるし、思いもよらなかった角度から切り込んでくるものすら出てくる。そうした自分とは異なる読み方に触れていくうちに、自身の読み方だけでは気づけなかった本が持つ豊かさが見え、世界が広がるような感覚すら覚える。
阿津川辰海の『少女は殺人の夢を見る』は、そんな読書会の醍醐味を小説上で再現しようという、メタ的かつ挑戦的な試みを行っている、前代未聞のミステリーである。
本作は大学生の獏田格を主人公とする連作短篇ミステリーである。ミステリーを愛読する獏田は、大学に入学すると読書サークル〈月夜のお茶の会〉に入会する。この会では活動の一環として読書会が定期的に行われていた。獏田も二年生の女性の先輩、夢見灯が主催する名作ミステリーを課題本とした読書会に参加する。
初回の課題本はカーター・ディクスン『第三の銃弾』。夢見が淹れてくれた紅茶をお供に、同好の士たちとの語らいを楽しむ獏田であったが、会の最中に異変が起こる。急に眠気を感じ意識が途切れた獏田が再び目を覚ますと、そこは課題本で描かれた事件現場とそっくりの部屋だった。しかも獏田は自身が課題本の中の容疑者と同じ立場に立たされていることに気づく。
夢見の父の助けで、ここが夢見灯が作り出した夢の世界であること、夢見が淹れた紅茶を飲むとこの世界に取り込まれてしまうこと、そして夢見が作り出した事件の謎を獏田が解き明かさないと、この夢からは解放されないことを知る。かくして獏田は、夢見が作り出す課題本の内容に酷似した事件に挑戦していくことになる。
夢見の読書会で課題本として取り上げられる作品はカーター・ディクスンのほか、アガサ・クリスティー、綾辻行人らが生み出した、洋の東西を問わない名作ミステリーばかりである。ただ、本作中で課題本の「ネタバレ」は一切されないので、課題本を読んだことがない読者でも安心して楽しむことができる。獏田が解き明かさなければならない夢見が作り出す事件も、課題本の事件と似ているものの真相まで一緒というわけではないので、課題本の「別解」のようにも読むことができる。
このような過去作へ別解を付す趣向は本作の大きな特色であるものの、ミステリーでは過去作にオマージュを捧げるパスティーシュ作品は数多く存在し、この趣向自体は本作のみのオリジナルなアイディアというわけではない。
本作のオリジナリティは、この別解が、作中で開催される読書会での議論と結びついている点にこそある。
各話の前半で行われる読書会では、登場人物たちによって課題本に対するさまざまな感想・読み方が提示される。そこではミステリーマニアによる絶賛だけでなく、普段はミステリーを読まない人物からの否定的な意見や、ミステリー的な興味だけを持って読んでいると見落としてしまいそうな観点からの鋭い指摘が飛び交う。ポリフォニックな場として開かれた読書会で、複数の意見が混じり合い新たな視界が拓けてくる。これこそ冒頭で述べた読書会の醍醐味であり、それを作者は紙上で再現してみせる。
そして、この読書会での話題が、夢見が作り出す事件を解くヒントとなっているのである。ゆえに、夢見が作り出す事件と課題本の事件は、単にシチュエーションといった表層が似ているだけではない。ストーリーテリングの技巧、心中描写の妙、時代と社会的なバイアスなど、読書会で話題となった観点が事件を解くカギとなることで、批評的な読解と謎解きの興趣を見事に接続させている。
よく探偵=読者と擬せられるように、ミステリー小説において謎を解くことは小説を読むことと同義である。読書会の主催者であり、読書会での話題を受けて謎を制作する夢見と、探偵役としてそれを解き明かす獏田の関係は、そのまま本作の作者である阿津川辰海と我々読者の関係に重ねられる。作者である阿津川は探偵と読者の二重性を利用し、自身が愛読した作品に擬した謎を提示することで、読者にミステリーを読む快感と、読書会に参加したときの興奮を同時に体験させる。いわば読者は本作を読むことで阿津川が開く読書会に参加しているのである。
その意味で、本作を読む前でも読んだ後でもどちらでも良いので、本作で取り上げられる課題本は合わせて読むことを強く推奨する。読書会が孤独な読書とは全く別の意味で、新たな世界を拓いてくれることを実感できるはずだ。
読書会を開くことは世界を拓くこと、阿津川はそれを夢見の夢の世界を通して表現しているのだ。
(あれきし・らいほ ミステリー評論家)
波 2026年8月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
阿津川辰海
アツカワ・タツミ
1994年東京都生まれ。東京大学卒。2017年、新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」により『名探偵は嘘をつかない』でデビュー。2020年『透明人間は密室に潜む』で本格ミステリ・ベスト10の第1位に。2023年には『阿津川辰海 読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』で第23回本格ミステリ大賞〔評論・研究部門〕を受賞。他の著書に『紅蓮館の殺人』などの〈館四重奏〉シリーズ、『ルーカスのいうとおり』『犯人はキミが好きなひと』『デッドマンズ・チェア』など。

































