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絶賛された受賞作に、著者の最新最高の作品を合わせた花束のような短編集!

  • 受賞第38回 川端康成文学賞

犬とハモニカ

江國香織/著

1,512円(税込)

本の仕様

発売日:2012/09/28

読み仮名 イヌトハモニカ
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 222ページ
ISBN 978-4-10-380809-1
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品、文学賞受賞作家
定価 1,512円

空港の国際線到着ロビーを舞台に、渦のように生まれるドラマを、軽やかにすくい取り、「人生の意味(センス)を感得させる」、「偶然のぬくもりがながく心に残る」などと絶賛された、川端賞受賞作。恋の始まりと終わり、その思いがけなさを鮮やかに描く「寝室」など、美しい文章で、なつかしく色濃い時間を切り取る魅惑の6篇。

著者プロフィール

江國香織 エクニ・カオリ

1964年東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で「小さな童話」大賞、1989年「409ラドクリフ」でフェミナ賞、1992年『こうばしい日々』で坪田譲治文学賞、『きらきらひかる』で紫式部文学賞、1999年『ぼくの小鳥ちゃん』で路傍の石文学賞、2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2007年『がらくた』で島清恋愛文学賞、2010年『真昼なのに昏い部屋』で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』で谷崎潤一郎賞を受賞。他の著書に『ちょうちんそで』『はだかんぼうたち』『なかなか暮れない夏の夕暮れ』など多数。小説以外に、詩作や海外絵本の翻訳も手掛ける。

目次

犬とハモニカ
寝室
おそ夏のゆうぐれ
ピクニック
夕顔
アレンテージョ

インタビュー/対談/エッセイ

波 2012年10月号より [江國香織『犬とハモニカ』刊行記念特集] 【インタビュー】旅と恋をめぐる六つの物語

江國香織

――川端康成文学賞受賞、おめでとうございます。受賞作「犬とハモニカ」を収録した短編集『犬とハモニカ』が刊行になります。「犬とハモニカ」は空港の国際線到着ロビーを舞台に、行き交う人々のドラマを鮮やかにすくい取り、選考会で絶賛されました。この作品に取り掛かられたきっかけをお話しいただけますか?
江國 「犬とハモニカ」は、去年「新潮」の『文學アジア3×2×4』という、日本、韓国、中国の三文芸誌によるプロジェクトに、「旅」というテーマをあたえられて書いた小説でした。韓国と中国という外国の、自分では読めない言葉で構成された文芸誌にも掲載される、ということにわくわくし、同時に緊張もしながら書きました。
私は空港という場所が好きで、二十代のころにはよく一人で遊びに行っていました。どこにも旅行に行かないのに、リムジンバスに乗ってわざわざ成田空港まで。旅に行く人や、帰ってきた人を眺めているのが好きだったんです。役に立つとは思ってもみませんでしたが、あのときの“感じ”がとても役に立ちました。
――「寝室」、「おそ夏のゆうぐれ」、「ピクニック」は恋愛小説と呼んでよいでしょうか。恋人たちの甘美な時間が描かれ、切実な感情が強く伝わってきます。どの恋人たちもとても率直なことに感動します。
江國 率直……。そうですね、率直ですね。気がつきませんでした。三編とも、時間と、それに伴う変化を書きました。終焉、変化、変質。避けられないことならば、受け容れるしかない。たぶん私はそれを書きたかったのだと思う。受け容れる、ということ、それぞれの受け容れかた。人も恋も儚いですが、同時に感動的に強い。流れに逆らうから強いのではなくて、流れていくから強いのだと思います。
――「夕顔」は「源氏物語」を訳されたものですが、江國さんの言葉で読むと、江國さんの恋愛小説にとても馴染んでいて、びっくりしました。
江國 ありがとうございます。六人の作家が源氏物語の現代語訳を競作する、という「新潮」の企画で書いた一編です。紫式部という平安時代の小説家の自由すぎるほど自由なスピリットに、訳しながら直接触れられてたのしかった。ビビッドな物語だなあと思います。短編集にこれが入ることによって、読者がより遠くまで行ってくれたら嬉しいです。
――「アレンテージョ」にはポルトガルの意外な風景が描かれていて、魅了されました。人との出会いと同様に光景との出会いも旅ならではのものですね。
江國 はい。ほんとうですね。普段私は取材というものをあまりしないのですが、これは、実際に行ってみなければ書けなかった小説でした。場所があって、人々がいて、時間が流れれば物語が発生しますから、土地というのは強い味方です。勿論フィクションですが、あのおばあさんたちは実在します。何軒かのレストランも、風景も、倒れるほど甘いお菓子も。トースターからパンを出せなくなった女性も、朝食のとき、ホテルで実際に目撃したんです。そういう小さなあれこれを、織り込んで書くのはたのしかった。
――江國さんにとって、短編とはどのようなものでしょう?
江國 私は、短編小説というのはつくるというより発生するものだと感じています。ある日忽然と発生、もしくは出現するもの。勿論、実際には一字ずつ書いているわけですが、それでも、どうしても、自分がつくったとは感じられません。できあがったとき、だからいつもびっくりします。長編小説のときにはびっくりしません。それが短編と長編の、私にとってはいちばん大きい違いかな。
それから、今回の短編集の六編は、全部旅に似ていると思います。旅がでてくる四編だけじゃなく、でてこない二編も。
短編は書くのが難しいですが、そのぶん書き甲斐があって好きです。びっくりが待っていてくれるし。

(えくに・かおり 作家)

判型違い(文庫)

書評

波 2012年10月号より

小説の窓
綿矢りさ



 人にはいろんな生活があることを、小説を読んで思い出すのは、もしかすれば奇妙なことかもしれない。実際に友だちや仕事関係の人と会って、遊んだり食事をしたりしながら交わす会話の節々で、ああこの人は当たり前だけど私と全然違う職業に就いてるんだ、とか、そんなことについて深く考えているんだ、とか、時間をそんな風に使っているんだ、とかを感じる方が、自然かもしれない。でもなぜか、江國さんの短編を読むと、生身の人間と触れ合う以上に、いろんな人々のそれぞれ違っている生活に触れられた、と感じる。まるで夜、マンションの窓にそれぞれ明かりが灯っていて、カーテンが引かれていなくて、中の人々が自分のうちでやっていることが覗けるみたいに、くっきり見える。
 今回の短編集で、私にとって、もっともくっきりとその人なりの生活が見えたのは、「寝室」の文彦だった。長年の恋人、というか不倫の相手の女性にフラれた彼は、茫然として鏡のなかの自分を見つめる。沈んだ顔をしているが、顔の造作はまだまだ悪くない、恋人もしばしば“あなたは美しすぎる”と言っていたじゃないか、なぜ別れようなどと言い出すのか――。自信満々の壮年の男性は確かに魅力的だ、みじめな感じがないのは、とても良いこと。でも本当は生身ばかりが魅力的なのではなく、彼に自分自身をすてきだと思わせてくれる周りの人たちの愛や言葉が滋養になって、彼を輝かせている。それに気づかず鏡を眺めて首をひねる、ずうずうしいけどどこか可愛げで憎めない、妻の眠る深夜の自宅での男性の姿が、双眼鏡で覗いているみたいにまざまざと見える。
「ピクニック」では結婚して五年になる夫婦が、年に二十回くらい近くの公園まで、お弁当を持ってピクニックに来ている。言うまでもなく、ピクニック大好き夫婦だからしょっちゅう行ってしまうのではなく、妻がどこか強迫観念にかられているようなかたくなさで、夫を誘う。結ばれている大人の男女の間に、付き合っていくなかで生まれるルール。第三者が聞けば、子どもじみているとも思えるそのルールを、律義に、辛抱強く守る姿は、けなげで切ない。たとえばあのドリームズ・カム・トゥルーの「未来予想図II」の歌詞で有名な、帰りぎわにブレーキのランプを五回点滅させる、アイシテルのサイン。彼らの付き合いが三年、五年と長くなり、それでも会って夜に別れるたびにそのサインがくり返されていると知れば、なんだか切ない気分にならないだろうか。やはり最初の新鮮さはうすれるだろうし、アイシテナイ日も一日くらいあっただろう、とつい邪推したくなる。
 年に二十回のピクニックも、本当に楽しかったのはいくつくらいあったのだろうと考えてしまう。しかし二人にとってのピクニックが楽しみや絆の再確認ではなく、まったく別の目的だったと小説を読み進むにつれて分かったとき、夫婦っていいなあ、とうらやましくなった。一生一緒に生きるという誓い、たしかに重すぎて長すぎて、ときにはうんざりするときもあるだろうが、べたべたに甘い鎖であることも間違いないんだろうな、と思った。
 いろいろな人たちの生活を窓からながめているような短編集だとさきほど書いたが、反対に自分が通りすがりに、道路にたたずむ女の子の姿を見てはっとする、女性の主人公もいる。「おそ夏のゆうぐれ」の志那だ。彼女はもうとろとろに、愛しすぎている自分の恋人に、あなたが食べたい、と口走ってしまう。あなたを食べればあなたが私の一部分になり、なにも恐くなくなると思うの、と。男はおどろかずに、ナイフで、おや指の横から、手首の方向にむけて、左手の皮膚を薄くそぎ、彼女に与える。
 痛そう! とまず思うものの、とても官能的な場面で、本当に食べちゃってうっとりしている彼女の気持ちも分かる気もする。
 愛し愛されている幸福にひたりながらも、あまりにも従来の自分から遠いところまで流されてきたと不安も抱えている彼女は、おそ夏の夕暮れに、何をするでもなく表の道路にたたずむ八歳くらいの女の子を見て、心の色を変える。子どものころには想像もつかなかったやり方で男を愛している彼女が、手持ちぶさたそうな女の子に感じるシンパシーの強さの描き方が圧倒的で、なんとも言えず感動した。
 いろいろな人たち、はたからは穏やかな毎日を送っているように見えても、誰もが、日々の切なさや愛や葛藤を抱えながら生きている。その一つ一つをすべて知れば、あんまりに切なくてもだえ死にしそうだ。でも江國さんの小説の窓を通してそっと覗けば、繊細なちょうど良い距離で、それぞれの人たちの切なさを、甘く味わえる気がする。
(わたや・りさ 作家)

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