
石原家の兄弟
1,980円(税込)
発売日:2025/10/16
- 書籍
- 電子書籍あり
父は慎太郎、叔父は裕次郎。華麗なる「昭和の家族」の知られざる日々。
「俺はこの宇宙を孤りで過ぎる隕石だ」──作家・政治家として一世を風靡した父と、彼を支え家庭を切り盛りした母・典子。そして家族同然だった裕次郎。強烈な家風で知られる「石原家」の日常は涙と笑いに満ちていた。お正月から大晦日まで、幼少期の出来事から介護、看取り、相続までを兄弟それぞれの視点から振り返る追憶エッセイ。
序
1 母 典子に寄せて
父の隣で微笑んで
いつも探していた母の手
石原家の司令塔
遺された俳句と母のまなざし
2 父 慎太郎が逝った日
一家を率いたランナー、去る
「俺は裕次郎のように達観できない」
最後までマッチョな男で
その繋がりが終わったりなぞする訳がない
3 叔父 裕次郎の思い出
裕次郎叔父と勝新さんと銀座の夜
今も裕次郎を守り続ける“裕次郎の女房”
幻の“裕次郎の養子”
「叔父さんのデスマスクを描いてあげてくれ」
4 家
離れと井戸があった逗子・桜山の家
親父が親父のために建てた親父の家
自分の部屋が持てた田園調布の「兵舎」
心が帰る場所
5 海
叔父と見た夜の虹、父子三人で漂った南洋
「気象予報士になれたのは俺のおかげだ」
石原家は海で繋がっている
潮気が抜けるから、また海へ行こう
6 お正月
家族行事はいつもあたふた
岡本太郎の鐘が鳴る大晦日の大騒ぎ
最後の正月の忘れ得ぬ朝焼け
正月の基本は家族一緒に過ごすこと
7 教育
体験重視の慎太郎流
感性の赴くままに
コツコツ型の自分を認めてくれた父
四角が丸に見えるのならば丸く描け
8 仕事
父の背を見て
就職先は「西部警察」
慎太郎が信じた生き方を息子は貫けているか?
仕事とは人と関わることから
9 結婚
良純に取り持たれて今や戦友
大雨の結婚式と大揉めの披露宴
元気だった父母も招いた感謝の銀婚式
結婚しないでいたら小説のネタにされた件
10 介護
父母の人生の第4コーナー
「おい良純。俺は3ヶ月で死ぬってよ」
父母の介護・看取りで考えた自分の最終章
余命3ヶ月、桜の花は見られないだろう
11 相続
遺言、ほぼ完遂
生きるとはエネルギーを出し続けること
形見のネクタイがやっと様になった
家族という巡り巡る大きな環
執筆を終えて
書誌情報
| 読み仮名 | イシハラケノキョウダイ |
|---|---|
| 装幀 | 石原伸晃、石原良純、石原宏高、石原延啓/写真提供、菅谷幸生/装幀 |
| 発行形態 | 書籍、電子書籍 |
| 判型 | 四六判 |
| 頁数 | 288ページ |
| ISBN | 978-4-10-387503-1 |
| C-CODE | 0095 |
| ジャンル | 文学・評論、ノンフィクション |
| 定価 | 1,980円 |
| 電子書籍 価格 | 1,980円 |
| 電子書籍 配信開始日 | 2025/10/16 |
書評
私の夢想を実現した四兄弟
「石原家の四兄弟がそろって、石原家の来し方行く末についての本を書きました!」
そう聞いたときから、これは読みたい、読まなければと思った。
何しろ、「あの」石原慎太郎の子どもたちである。その過激さに、半世紀以上も前でさえ物議をかもしたベストセラー(いまはどこも出版元になる勇気がなく絶版になっている)『スパルタ教育』で育てられた当事者たちなのだ。本当のところ、いったいどんな教育を受けたのか、大人になった現在、その育てられ方をどのように受け止めているのか、是非とも聞いてみたいではないか。
興味を抱いたのには、また別の理由もある。
わたくし事になるが、むかし、『父の縁側、私の書斎』という本を上梓した。ふだん私の書いたものにまったく関心を示さない妹が、(たぶん、昔の家の間取りについて、あれこれ尋ねたせいだと思うが)珍しく熱心に読んで、「お姉ちゃんの書いたものの中で一番おもしろい」と(他は大して読んでもいないくせに)褒めてくれた。すっかり忘れていたことを思い出したり、そんなことがあったのかとびっくりしたり、やっと腑に落ちたことがたくさんあったのだそうだ。私の方も、新鮮な驚きを感じていた。そうか、あの記憶もこの記憶も、家族全員で共有していたわけではないのか。兄は私より一歳半近く上、妹は一歳半あまり下。同じ年頃の子どもが、同じ食卓を囲んで、我が家に起こる出来事を同じように経験していたとばかり思っていたが、それぞれがちがう景色を見、ちがう言葉を聞き、まったくちがうことを感じていたらしい。そのとき、ちょっと夢想した。兄や妹が、父について、また母について、あれこれ思い出して書いてくれれば、私のおぼろげな記憶は補完され、父母の像がより立体的なものになるだろうに。過去もきっと、より豊かになる。夢想しただけで、口には出さずに終わったけれど。
さて、石原四兄弟である。私が夢想した通りのことが、この本では実現されていた。「趣味は石原慎太郎」と公言し、夫の死後、わずかひと月余りで夫の元へと旅立った「母の肖像」を描くところから始まり、叔父・裕次郎のこと、家の思い出、教育はもちろん、自分たちの仕事から結婚、介護、親亡き後の相続まで。テーマは多岐にわたり、それぞれが、それぞれの見たこと聞いたこと、感じたことを書く。四兄弟は、いちばん上といちばん下で十歳近い歳の差があり、当然、時代も親との距離感もちがっているから、読者はいろいろな角度から石原家を眺めることができる。そんな全編を通して浮かび上がってきたのは……、なんと言っても「石原慎太郎」。圧倒的に「石原慎太郎」。
いやはや、エライ人である。単純に「偉い」というのではない。関西弁でよく言う、「エライこっちゃ」の雰囲気を持った「エライ」。壮大な夢を描き、大きな仕事をし、並外れた行動力を持つが、たいてい周りがそのとばっちりを受ける。まあ、みなさん、よく辛抱なさいました。
たとえば「お正月」がテーマの章がある。正月は家族が集まって一緒に過ごすもの、と、ある年、父親は家族を打ち連れて有名温泉旅館に出かける。ところが「温泉は一度入れば充分」という人であるから、すぐに「つまらん」と言い出し、大騒ぎで別の場所を探し全員で移動。思いつきで勝手に旅行先を決めるが、本人がドタキャン、あるいは皆を残し、一人で先に帰ってしまうこともしばしばだったらしい。しかし、正月に限らず、国内、海外を含めて家族旅行は思いのほか多く、それが四人兄弟それぞれの心に深く刻まれているのも事実のようだった。
だがやはり、石原慎太郎の子育ての真髄が現れているのは、「海」の章かもしれない。
亡くなる三日前、見舞いに来た長男の妻に、ほとんど喋らなくなっていた慎太郎が突然、「顔に水をかけろ」と命じた。意味がわからず戸惑っていると、「早くしろ、バカっ!!」と、往年の迫力で怒鳴ったという。その話を聞いて、長男は、すぐにピン、とくる。ヨットで疾走中に顔にかかる水飛沫を懐かしんでいるのだ、と。
「ピン、と」きたところに感心した。それこそが、慎太郎流の子育ての成果である。「僕ら兄弟は小さい時から親父に海へ引っぱり出された」と、次男も書いているように、否も応もなく子どもたちを海に連れ出したのは、自分と感動を分かち合える人間を育てたかったからなのだろう。
最期のとき、「なぁ、俺の人生は素晴らしかったよな」と長男に尋ねたという。四人の子どもたちが作り上げた本を読んで思った。
「あなた様の人生は、死後も変わらず素晴らしいです」
(だん・ふみ 俳優)
波 2025年11月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
石原伸晃
イシハラ・ノブテル
1957(昭和32)年、神奈川生まれ。慶應義塾大学文学部卒。日本テレビ政治部記者を経て、1990年に衆議院議員初当選。以降、10期連続当選、衆議院議員在職32年。自民党幹事長、党政調会長、党改革実行本部長、国土交通大臣、初代観光立国担当大臣、行政・規制改革担当大臣、環境大臣、経済再生担当大臣、社会保障・税一体改革担当大臣などを歴任。2025年、政界引退。2025年9月現在、政治ジャーナリストとして、BS日テレ「深層NEWS」、読売テレビ「サタデーLIVE ニュースジグザグ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」、ニッポン放送「辛坊治郎ズームそこまで言うか!」などに出演。コラムニスト、執筆人として日刊スポーツ「石原伸晃の言いたいことが山ほどある」や、産経新聞社「月刊正論」などにコラムや記事を連載。
石原良純
イシハラ・ヨシズミ
1962(昭和37)年、神奈川生れ。慶應義塾大学経済学部卒。1982年映画「凶弾」でデビュー。以後、舞台、映画、テレビドラマ、バラエティーにと意欲的に活動。2007年度NHK連続テレビ小説「どんど晴れ」、2008年度NHK木曜時代劇「鞍馬天狗」、2009年度NHK大河ドラマ「天地人」、2015年度NHK大河ドラマ「花燃ゆ」他。一方、湘南の空と海を見て育ったことから気象に興味を持ち、気象予報士試験へ挑戦する。1997年難関といわれる試験に見事合格。“空の楽しさを伝えられれば”とお天気キャスターとして登場、お茶の間の人気を得る。また、2001年に出版された『石原家の人びと』により作家としても注目を集める。日本の四季、気象だけではなく、地球の自然環境問題にも力を入れている。主著に『石原家の人びと』『石原良純のこんなに楽しい気象予報士』『東海道新幹線で行く史跡めぐりの旅』などがある。
石原宏高
イシハラ・ヒロタカ
昭和39年生、慶大卒。興銀・みずほ銀行を経て、平成17年東京三区(品川区、伊豆諸島、小笠原諸島)より衆議院議員に初当選、2025年9月現在当選6回。これまで内閣総理大臣補佐官(国家安全保障に関する重要政策及び核軍縮・不拡散問題担当)、自民党報道局長、衆議院環境委員長、環境副大臣、内閣府副大臣、外務大臣政務官を務める。2025年9月現在、自民党離島・半島振興特別委員会委員長、自民党環境・温暖化対策調査会事務局長、衆議院環境委員会筆頭理事、内閣委員会委員、原子力問題調査特別委員会委員。
石原延啓
イシハラ・ノブヒロ
画家、美術家。1966(昭和41年)神奈川県逗子市生まれ。慶應義塾大学経済学部、スクール・オブ・ビジュアルアーツ、ファインアート科(アメリカ)を卒業。アーティストとして国内外で数々の個展、グループ展、アーティストインレジデンスに参加し、リサーチベースの作品も制作するなど幅広く活動。近年では2022年に横須賀アートセンターにて地元に根ざした物語と家族史を重ね合わせたVR作品を制作。2024年には横須賀市の大津諏訪神社社殿に諏訪の龍神伝説を描いた作品を奉納した。





































