
萩尾望都スケッチ画集I─「ポーの一族」と幻想世界─
4,070円(税込)
発売日:2025/11/27
- 書籍
- 電子書籍あり
秘蔵のスケッチブックが解き明かす、不朽の名作「ポーの一族」誕生の瞬間!
プロットからキャラクター造形、セリフ、コマ割りまで。デビュー前から近年に至る創作のひみつが克明に記された数多のスケッチブックから、より抜きの画を収録。唯一無二の美しき描線が織りなす、めくるめく萩尾ワールドの扉が開く。「ポーの一族」をはじめ、忘れがたい代表作の数々が誕生する、その瞬間が、いま明らかに……。
序に代えて 萩尾望都
I
伝説はいまも続く
ポーの一族
プロローグとしての掌編
「ポーの一族」
「メリーベルと銀のばら」
「小鳥の巣」
最終話「エディス」まで
エドガーとアラン、復活
II
1枚の絵が、そっと語りかけてくる
初期イラスト劇場
III
幻想譚、ラブコメ、ライフヒストリー……
1970年代の作品より
「ビアンカ」
「雪の子」
「塔のある家」
「花嫁をひろった男」
「10月の少女たち」
「オーマイ ケ セィラ セラ」
「温室」
「花と光の中」
「マリーン」
「ゴールデンライラック」
IV
異色の心理ドラマ、憧れのバレエ漫画……
1980~90年代の作品より
「月蝕」
「ばらの花びん」
「戯曲 半神」
「イグアナの娘」
〈バレエ パレット ロマン〉シリーズ
V
16世紀末フランス宮廷を描く初の歴史劇
2000年代の作品より
「王妃マルゴ」
萩尾望都インタビュー
“出発点”としてのスケッチブック
索引・著者コメント
書誌情報
| 読み仮名 | ハギオモトスケッチガシュウ1ポーノイチゾクトゲンソウセカイ |
|---|---|
| 装幀 | 大野リサ/ブックデザイン |
| 雑誌から生まれた本 | 芸術新潮から生まれた本 |
| 発行形態 | 書籍、電子書籍 |
| 判型 | B5判 |
| 頁数 | 192ページ |
| ISBN | 978-4-10-399604-0 |
| C-CODE | 0079 |
| ジャンル | コミック |
| 定価 | 4,070円 |
| 電子書籍 価格 | 4,070円 |
| 電子書籍 配信開始日 | 2025/11/27 |
書評
描線に宿る思考の痕跡
萩尾望都先生に女子美術大学の客員教授に就任して頂いて15年。漫画が専門ではない私ですが、これまで30回にわたり、萩尾先生の特別講演会で司会進行役として、さまざまなお話を伺うことができました。代表作「ポーの一族」、「トーマの心臓」はもちろん、SFやファンタジー、ミステリーなど多様な作品を通じて、萩尾先生の創造の世界を今も探索させて頂いています。
『萩尾望都スケッチ画集I─「ポーの一族」と幻想世界─』には、私が知りたかった“創作の秘密”の手がかりとなるようなスケッチが多数、収められています。萩尾先生の思考が、着想された時そのままのかたちで残されていることへの驚きと、創造の原点につながる秘密の世界に入っていくような緊張感を覚えながらページをめくりました。
優しい揺らぎがある描線は、登場人物の心や性格までも表しているようです。メリーベルの巻き毛はふわふわと柔らかく儚げで、鋭い光を放つエドガーの目には背筋が凍るような冷たさが感じられて……。
完成作として発表される時には綺麗に整えられ、消えてしまう幾つもの線は、萩尾先生の感情や思いの痕跡です。絵と共に、たくさんのセリフや文章も添えられ、物語の構成、キャラクターの生い立ちや心理状態、それぞれの果たす役割、隠された過去、複雑な人間関係などが描き込まれています。
たとえば、「ポーの一族」パートの冒頭に掲げられた一ページには、次のようなテキストがありました。
「同日、アランはおじから、娘との婚約をせまられ、論争になり、エキサイトしたおじは二階から階段をふみはずす。家中、騒然となり、たおれたおじにかけよった母がくちばしることばを聞いて、(母はおじを愛していた)三階の一部屋にとじこもったところに、窓からエドガーが現われる。さしだすエドガーの手を、アランはうける」。
これは、「ポーの一族」のクライマックスとも言える大変重要なシーンの記述です。完成作では、9ページにわたって描かれています。表情豊かなキャラクターたち、大きな屋敷の重厚な階段、天蓋付きの豪奢なベッド、窓から吹き込む風で揺れるカーテン……。エドガーが差し出した手に、アランが自分の手を重ね、2人が共に姿を消す場面は、きっと、読者の皆さんの記憶にも強く残っていることでしょう。
さらに「時代をへて、オーストリアに近い西ドイツの高等中学に、二人転入生が現われる。エドガーとアランである」との記述も。完成作では最後の1ページにあたり、「小鳥の巣」につながる意味深なラストシーンになっています。つまり、これらのテキストを読むと、最初から、作品化する時のイメージは全て出来上がっており、「ポー」の物語の多様な展開も既に考えておられたことがわかるのです。
こうしてスケッチブックをじっくり眺め、読み込んでいくと、あのシーンには、こんな思いが込められていたのか、このキャラクターにはそんな側面があったのかと、次々に新しい発見があって、まるで宝探しのようなワクワク感を覚えました。
さらに、彩色されたイラストもいくつか収録されており、本書の魅力のひとつとなっています。同系色を丁寧に配置して描かれた作品の美しいこと! いっぽう反対色を巧みに使った作品では、コントラストは強いのに空気感に満ち、とても柔らかく感じられます。こうした色使いからも、先生の優しいお人柄が伝わってくるようです。
冒頭に記した大学の講演会では、その時々の対話の流れに沿ってお話をしてくださるのですが、会話の途中で時々、記憶を確かめておられることがわかります。萩尾先生の頭の中では、作品を描かれた当時のことがカテゴリー毎に記憶の引き出しの中に丁寧に整理されているようです。そのため、遠い過去のことも鮮明に蘇らせて、分析しながらお話し頂くことができるのではないでしょうか。
以前、「ポーの一族」が40年の時を経て復活した時には、「エドガーとアランが、『僕たちずっと待っていたんだよ』って話しかけてくれました」とおっしゃっていました。このスケッチ画集を眺めていて、萩尾先生の“引き出し”の中に残されていた「ポー」にまつわる記憶の手掛かりと、エドガーとアランが語りかけてきたという感覚が、私にも少しだけ摑めたような気がしました。
長い間本棚で眠っていたスケッチブックを公開されるということは、いわば、創作の裏側をさらけ出すようなものだと思います。本書には、先生の“覚悟”が感じられます。おそらく、未来を作る若いクリエーターへのエールの意味もあるのではないでしょうか。小さい頃から漫画家を目指され、これまでに、およそ210タイトル以上、2万ページに迫る作品を描いてこられた萩尾先生の創造の世界を、さらに深く探検したくなる本です。
(うちやま・ひろこ 女子美術大学研究所特命教授)
波 2025年12月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
萩尾望都
ハギオ・モト
1949年、福岡県生れ。1969年、「ルルとミミ」でデビュー以来、SFやファンタジーなどを取り入れた壮大な作風で名作を生み出し続けている。1976年、「ポーの一族」「11人いる!」で小学館漫画賞、1997年、「残酷な神が支配する」で手塚治虫文化賞マンガ優秀賞、2006年、「バルバラ異界」で日本SF大賞、ほか受賞多数。2012年には少女マンガ家として初の紫綬褒章を受章。2017年、朝日賞を受賞。2019年、文化功労者に選出。2024年、日本芸術院会員に就任。



































