
飲めば都
1,870円(税込)
発売日:2011/05/20
- 書籍
編集者魂に燃える酒女子・都の、酒と仕事の日々。「わたしたちはブックキャットなのね」
仕事に夢中の身なればこそ、タガが外れることもある……文芸編集者は日々読み、日々飲む。本を愛して酒を飲む。酒に愛され人に酔う。編集長のシャツに赤ワインをふるまい、泥酔して意識を失くし、大事なものが行方不明に? 思わぬ出来事、不測の事態。こんなこと、ほんとに? の連続、リアルな恋のものがたり。
目次
1 赤いワインの伝説
2 異界のしり取り
3 シコタマ仮面とシタタカ姫
4 指輪物語
5 軽井沢の夜に消えた
6 コンジョ・ナシ
7 智恵子抄
8 カクテルとじゃがいも
9 王妃の髪飾り
10 割れても末に
11 象の鼻
12 ウィスキーキャット
2 異界のしり取り
3 シコタマ仮面とシタタカ姫
4 指輪物語
5 軽井沢の夜に消えた
6 コンジョ・ナシ
7 智恵子抄
8 カクテルとじゃがいも
9 王妃の髪飾り
10 割れても末に
11 象の鼻
12 ウィスキーキャット
書誌情報
| 読み仮名 | ノメバミヤコ |
|---|---|
| 雑誌から生まれた本 | 小説新潮から生まれた本 |
| 発行形態 | 書籍 |
| 判型 | 四六判 |
| 頁数 | 360ページ |
| ISBN | 978-4-10-406607-0 |
| C-CODE | 0093 |
| ジャンル | 文芸作品、文学賞受賞作家 |
| 定価 | 1,870円 |
書評
波 2011年6月号より すべての働く女性に熱烈推薦いたします。
デビュー作『空飛ぶ馬』をはじめとする「円紫さん」シリーズの女子大生〈わたし〉。十七歳からいきなり夫と子供のいる二十五年後の世界に飛ばされてしまう『スキップ』の一ノ瀬真理子。事故に遭ったのをきっかけに、同じ一日を繰り返すことになる『ターン』の森真希。『街の灯』から始まり、『鷺と雪』で第一四一回直木賞を受賞した「ベッキーさん」シリーズのお嬢様・花村英子とその運転手・別宮みつ子。高校時代から続く女友達の友情を描いた『ひとがた流し』のトリオ、千波&牧子&美々。これまで大勢の印象に残る女性キャラクターを生んできた北村薫が、またも、わたしたち読者を魅力的なヒロインと出会わせてくれるのが『飲めば都』だ。
それは、小酒井都。出版社で文芸誌の編集をしている〈髪短く、鼻筋通り、すっきりとした顔立ちだ。そこで、自分という車のハンドルをきちんと握っている人物に、まあ見える〉アラサー女子だ。
〈さて、都さんのことを話そう〉という読者への語りかけで物語のエンジンをかける作者が、〈この《まあ》が、大抵の場合、忍び寄る恋のごとく曲者だ〉と但し書きするとおり、都というヒロイン、かなりの飲兵衛である。しばしば酒の席で〈自分という車のハンドル〉を操作しかねる人物なのだ。この十二編からなる連作短編集開巻劈頭の一編、つまり主人公の人となりを紹介するエピソードでも、ハンドルを切り損ねて接触事故発生。傾倒する作家が愛した酒の銘柄しか飲まない、物識りで少し気難しい大先輩に絡み、〈相手の枯れ木めいた上腕部を左右からがっちりと、いわゆる鷲掴みに〉して悲鳴を上げさせる。編集長の白いシャツに赤ワインをぶちまける。都が、飲んでもつぶれたり吐いたり寝たりといった醜態はさらさないかわり、普段よりも過激な行動に走りがちな酔っぱらいだということが明らかにされる「1 赤いワインの伝説」から、つかみはOK。思い出したくない酒の失敗のひとつやふたつ、すねに傷もつ大人の女性なら、都に親近感を抱くこと間違いなしなんである。
いや、都だけじゃない。都の良き先輩である書籍部の書ネエこと太田美喜と、文庫部の文ネエこと瀬戸口まりえ、酔っぱらって〈銀座の裏通りを、髪振り乱し両腕を上げ、ネオンと月光を浴びながら――履物なしで走って行く〉武勇伝で知られる同世代の〈裸足で駆け出す、愉快なサナエさん〉こと村越早苗。都と愉しく酒を酌み交わす面々もまた、個性的なことこの上もなし。さすが編集者だけあって蘊蓄に富み、ユーモアを解し、そんじょそこいらの軟弱な男よりずっと侠気に溢れていて、思いやりがあって、可愛げがある。身近にいたらぜひ友達になっていただきたいほど魅力的な女性ばかりなのだ。
そんな面々の酒にまつわる、本人はぎゃーっと叫んで顔を隠したくなるかもしれないけれど、端からみれば可笑しくてたまらない、つまり愛おしい失敗の数々は愉快千万。読むと、アルコールというガソリンを満タンにしたくなる誘惑にかられるエピソード満載の小説ではあるけれど、もちろん、働く女性の生活は仕事の後の一杯だけで成り立っているわけではない。文芸誌の編集者としての都の成長や、文ネエの悲しい片思いをはじめとする恋のあれこれ、運命の人との出会いと結婚。曲がりくねった山あり谷ありの道を、流れる風景を愛でながらゆっくりと、でも、時には自暴自棄になってスピード違反しながら、〈自分という車のハンドル〉を握って走る都たちの姿を、作者は共感を添えた優しい眼差しとユーモラスな語り口で描いているのだ。
しかし、それにしても、北村薫はどうしてこんなに女性のことが“わかる”のだろう。正直いって、わたしは男性作家が描く女性像に鼻白むことが少なくない。男にとって都合のいい女しか描けていない小説がどれほど多いか。だから――。どの作品でも女性を道具として扱わず、意志を持ったかけがえのない個人として生き生きと描く北村薫に敬意を抱かずにはいられないのだ。
すべての働く女性に熱烈推薦いたします。
それは、小酒井都。出版社で文芸誌の編集をしている〈髪短く、鼻筋通り、すっきりとした顔立ちだ。そこで、自分という車のハンドルをきちんと握っている人物に、まあ見える〉アラサー女子だ。
〈さて、都さんのことを話そう〉という読者への語りかけで物語のエンジンをかける作者が、〈この《まあ》が、大抵の場合、忍び寄る恋のごとく曲者だ〉と但し書きするとおり、都というヒロイン、かなりの飲兵衛である。しばしば酒の席で〈自分という車のハンドル〉を操作しかねる人物なのだ。この十二編からなる連作短編集開巻劈頭の一編、つまり主人公の人となりを紹介するエピソードでも、ハンドルを切り損ねて接触事故発生。傾倒する作家が愛した酒の銘柄しか飲まない、物識りで少し気難しい大先輩に絡み、〈相手の枯れ木めいた上腕部を左右からがっちりと、いわゆる鷲掴みに〉して悲鳴を上げさせる。編集長の白いシャツに赤ワインをぶちまける。都が、飲んでもつぶれたり吐いたり寝たりといった醜態はさらさないかわり、普段よりも過激な行動に走りがちな酔っぱらいだということが明らかにされる「1 赤いワインの伝説」から、つかみはOK。思い出したくない酒の失敗のひとつやふたつ、すねに傷もつ大人の女性なら、都に親近感を抱くこと間違いなしなんである。
いや、都だけじゃない。都の良き先輩である書籍部の書ネエこと太田美喜と、文庫部の文ネエこと瀬戸口まりえ、酔っぱらって〈銀座の裏通りを、髪振り乱し両腕を上げ、ネオンと月光を浴びながら――履物なしで走って行く〉武勇伝で知られる同世代の〈裸足で駆け出す、愉快なサナエさん〉こと村越早苗。都と愉しく酒を酌み交わす面々もまた、個性的なことこの上もなし。さすが編集者だけあって蘊蓄に富み、ユーモアを解し、そんじょそこいらの軟弱な男よりずっと侠気に溢れていて、思いやりがあって、可愛げがある。身近にいたらぜひ友達になっていただきたいほど魅力的な女性ばかりなのだ。
そんな面々の酒にまつわる、本人はぎゃーっと叫んで顔を隠したくなるかもしれないけれど、端からみれば可笑しくてたまらない、つまり愛おしい失敗の数々は愉快千万。読むと、アルコールというガソリンを満タンにしたくなる誘惑にかられるエピソード満載の小説ではあるけれど、もちろん、働く女性の生活は仕事の後の一杯だけで成り立っているわけではない。文芸誌の編集者としての都の成長や、文ネエの悲しい片思いをはじめとする恋のあれこれ、運命の人との出会いと結婚。曲がりくねった山あり谷ありの道を、流れる風景を愛でながらゆっくりと、でも、時には自暴自棄になってスピード違反しながら、〈自分という車のハンドル〉を握って走る都たちの姿を、作者は共感を添えた優しい眼差しとユーモラスな語り口で描いているのだ。
しかし、それにしても、北村薫はどうしてこんなに女性のことが“わかる”のだろう。正直いって、わたしは男性作家が描く女性像に鼻白むことが少なくない。男にとって都合のいい女しか描けていない小説がどれほど多いか。だから――。どの作品でも女性を道具として扱わず、意志を持ったかけがえのない個人として生き生きと描く北村薫に敬意を抱かずにはいられないのだ。
すべての働く女性に熱烈推薦いたします。
(とよざき・ゆみ 書評家)
著者プロフィール
北村薫
キタムラ・カオル
1949(昭和24)年埼玉県生れ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。高校で教鞭を執りながら執筆を開始し、1989(平成元)年『空飛ぶ馬』でデビュー。1991年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞、2006年『ニッポン硬貨の謎』で本格ミステリ大賞、2009年『鷺と雪』で直木賞、2016年日本ミステリー文学大賞受賞。〈円紫さんと私〉シリーズ、〈覆面作家〉シリーズ、『スキップ』『ターン』『リセット』の〈時と人〉三部作、〈ベッキーさん〉シリーズ、〈いとま申して〉三部作、〈中野のお父さん〉シリーズ、『飲めば都』『ヴェネツィア便り』『雪月花』『水 本の小説』など著書多数。アンソロジーや『本と幸せ』などのエッセイ、評論に腕をふるう〈本の達人〉としても知られる。
判型違い(文庫)
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