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絵の音

大竹伸朗/著

3,575円(税込)

発売日:2025/08/27

  • 書籍
  • 電子書籍あり

圧倒的な作品を生み出し続ける国際的画家の思索と旅。決定版エッセイ集。

正直と勇気、絵はいつもそこに行き着く──。地上のありとあらゆるモノを画材に、圧倒的な質・量の最新作を生み出し続ける唯一無二の画家、その無尽蔵のモチベーションの秘密とは? 海外プロジェクトを打ち砕くコロナ禍との戦い。大回顧展に向けた果てしない道のり。1年365日作り続けた画家の精神のドキュメント。

目次

I 根拠なき確かな形
色紙とマッチ棒
花と風の見えない絵
ビル景
天井の花園
「次」の本
はいしゃの壁
それは私です
還暦と神
ビルと圓通寺
金魚とマッチ棒
ビルとウィスキー
壁と歯
六畳間妄想展
情緒と城
猫のてんぷら
ビルと肉の筆
わからない絵
オリンピックと墓参り
デモと鮫肌
超バッド/超グッド
封筒礼讃
苔ノイズ
桜と解体
人間仕事
ラマと牛乳豆腐
ムンクとラッパー
アジサイと土佐文旦
グレーゾーン経由ロンドン裏通り
サボテンを描いた
記妄憶想
なぜ以前
形の居場所
仮想の森の3ババア
ボナールと絵付け行
指と形
千切り絵で道後温泉本館をおおう
根拠なき確かな形
乾かない作家像
メトロノームの白夜
星と湯と絵

II 回顧と最新
回顧と最新
線面色形
レンブラントとモンキーズ
創作流転
UK22
MoMAの狐
境界の蛍光音
34年かけて「4文字」を貼る
パズルパンクスと女王陛下
回顧展の日に
途上の匂い
ジェフ・ベックの凸凹
岩盤の水滴音
わからないまま
網膜的小便器
ダブ平と自画像
魚骨の爆音
兄貴とラッセル
透過性ホックニー
侵蝕と風鈴
蛾とアンビエント
「デビュー展」の先へ
丸ごとの今
シュヴァル時計
檸檬と夢
木炭画時空――香港発丸亀着
初心の声
ナイロビの版ズレ
手ぬぐいとリュウグウノツカイ
熟成網膜
人類最古のコラージュ
縄文駐車場
網膜と具象

絵の音 あとがきにかえて

書誌情報

読み仮名 エノネ
装幀 大竹伸朗/装画、小関学/装幀
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 416ページ
ISBN 978-4-10-431005-0
C-CODE 0095
ジャンル 文学・評論
定価 3,575円
電子書籍 価格 3,575円
電子書籍 配信開始日 2025/08/27

書評

宇宙をどう触わるか

湯浅学

 絵を描きたくなるのは何故か。日ごろそんな疑問をお持ちの方は、本書をぜひお読みください。画家、大竹伸朗はその謎について、繰り返し、さまざまな場、時に考えている。その“何故”には実は明確な答えはない。何故ないか、ということが本書でわかる。どこでどのようにそれがわかるか。それは、本書全体を読み終わり、しばらくぼうっと大竹さんのこれまでの作品、言動、選曲などに思いをはせて、そういえば家にビールがなかったことを思い出して近所の酒屋に向かって家を出て3分後、ふと目を向けた足元に一頭のクロアゲハのオスがヨタヨタと歩いているのを発見し、飛ばずに地面を這うなんて、いったいどうしたのだろう、と思った刹那クロアゲハの上翅の青が光った、その美しさにハッとした、その“ハッ”は、いったいどこから自分の中にやってきたのか、という問いに対する解答とどこかでつながっている。つながっているのだが、その回路(のようなもの)を言葉で示そうとすると、どうもしっくりこないというかなかなか気持がうまくまとまらない。そのまとまらなさ、まとまらないけどなにか伝える術はないか、と考えたり、言葉以外の方法について思いをはせたりする、それが創作や創造の動機になっていたりしませんか。ということを私は大竹さんの作品から何度も繰り返し、いろいろな形で感得してきた。
 大竹伸朗は、とにかく作り続ける。その姿に“何故”を投げかけるのは危険である。というより“何故”と思うほうがどうかしている。「理由は俺の作品にきけ」としかいいようがない作品群だからである。エネルギーのすさまじさには、何十年か大竹作品と対面しつづけてきた私でも、今でも黙るしかないときがちょくちょくある。というか、私ごときの言葉ではとても追いつけない速度の中に大竹さんはいつもいる。
 だが、そんな大竹伸朗が、心の中を静かに(しばしば熱く)語ることがある。それが「新潮」に連載されていた随筆「見えない音、聴こえない絵」だった。2004年1月号から2025年3月号まで、21年間の長期連載だった。そのうち2018年4月号分までがこれまで3冊の書物にまとめられている。本書はその終盤部分の7年分を収録したものだ。綴られた数年間がコロナ禍にぶちあたっている。創作の原理や、これまでの活動についての振り返り、など過去と現状との行き来がこれまで以上に多く語られている。内省ではない。記憶が記憶を呼び、未来に向けた新たな画の光源となっていったのだ。それはたとえ休息のように見えるときでさえも、止まることのない思いだ。
 目だけが事物を見るのではない。耳だけが物音を聴きわけるのではない。大竹作品のほとんどがそれを伝えている。視覚や聴覚だけではない。あらゆる感覚が立っている。だからこそ、還暦過ぎても警察官に職務質問されてしまうのかも、とも思ったりする本書ではあるが、大竹伸朗のまなざしは実は柔和だ。実は広角だ。実はものすごくミクロだ。実はとてつもなくマクロだ。なおかつ実はしばしばざっくばらんだ。だけど実はもちろん厳格だ。とはいえ実はフレンドリーだ。
 だからといって気楽なわけではない。
 そこのところの塩梅のなんたるかが本書でよくわかる。わかればわかるほど“何故”はそこらじゅうに湧いてゆく。だから“わかる”ということもたちまちのうちに“何故”に打ち抜かれ“わからない”へ還ってゆく。それこそが大竹伸朗のエネルギーというものだ。“わからない”がなくなったときに創作は止まる。だからといって、それがいつなのか、などと考えたりしない。そのため、本書は画家による画家への指南書になったり、するかもしれないしならないかもしれないが、そんなことより世界をどう感じるか、あるいは宇宙をどう触わるか、ということのヒントはたくさん記されている。だが、大竹伸朗はまったくスピリチュアルではない。コンセプチュアルでもない。どこかの文脈に繫げてわかろうとするのは勝手だが、そんなことには気をまったく配らない。大竹伸朗という存在にこれまでまったく気づかなかった人こそ、実はしあわせかもしれない。これから気づいて、その、人のなんたるかを探れるとは。ちょっと較べるものが思いあたらない。ちなみに、まず、現在開催中の「大竹伸朗展 網膜」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)で現物と御対面いただくのがよろしいかと。

(ゆあさ・まなぶ 音楽評論家/湯浅湾)

波 2025年9月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

大竹伸朗

オオタケ・シンロウ

画家。1955年東京都生まれ。1974~1980年にかけて北海道、英国、香港に滞在。2006年、回顧展「大竹伸朗 全景 1955─2006」展(東京都現代美術館)。2022~2023年、美術館での二度目の回顧展「大竹伸朗展」(東京国立近代美術館、愛媛県美術館、富山県美術館)。個展を日本各地、ソウル、ロンドン、シンガポールにて開催。光州ビエンナーレ(韓国)、ドクメンタ(ドイツ)、ヴェネチア・ビエンナーレ(イタリア)、ヨコハマトリエンナーレ、瀬戸内国際芸術祭など国内外の企画展に参加。1986年、初作品集『《倫敦/香港》一九八〇』刊行後、多数の作品集、著作物を発表。包括的な作品集に『SO:大竹伸朗の仕事1955-91』『大竹伸朗 全景 1955─2006』。主なエッセイ集に『既にそこにあるもの』『見えない音、聴こえない絵』『ビ』『ナニカトナニカ』がある。

大竹伸朗 | OHTAKE SHINRO - OFFICIAL WEBSITE (外部リンク)

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