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汝の父を敬え――制服の誇り、悲劇の殉職。警察官三代を描く、警察小説の最高峰誕生!

  • テレビ化テレビ朝日開局50周年記念ドラマスペシャル『警官の血』(2009年2月放映)

警官の血 下

佐々木譲/著

1,728円(税込)

本の仕様

発売日:2007/09/27

読み仮名 ケイカンノチ2
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 382ページ
ISBN 978-4-10-455506-2
C-CODE 0093
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド、文学賞受賞作家
定価 1,728円
電子書籍 価格 680円
電子書籍 配信開始日 2008/05/30

昭和二十三年、上野署の巡査となった安城清二。管内で発生した男娼殺害事件と国鉄職員殺害事件に疑念を抱いた清二は、跨線橋から不審な転落死を遂げた。父と同じ道を志した息子民雄も、凶弾に倒れ殉職。父と祖父をめぐる謎は、本庁遊軍刑事となった三代目和也にゆだねられる……。戦後闇市から現代まで、人々の息づかいと時代のうねりを甦らせて描く警察小説の傑作。

著者プロフィール

佐々木譲 ササキ・ジョウ

1950(昭和25)年、北海道生れ。1979年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞。1990(平成2)年『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞を受賞。2010年、『廃墟に乞う』で直木賞を受賞する。著書に『ベルリン飛行指令』『ユニット』『天下城』『笑う警官』『駿女』『制服捜査』『警官の血』『暴雪圏』『警官の条件』『地層捜査』『回廊封鎖』『代官山コールドケース』『憂いなき街』『沈黙法廷』などがある。

佐々木譲の備忘録 (外部リンク)

書評

波 2007年10月号より 警察の戦後史を超えて  佐々木 譲『警官の血』(上・下)

井家上隆幸

 三十年前に移り住んだ世田谷の一角は、八百屋も魚屋も毎日御用聞き、勘定は大福帳という古い仕来りがそのまま残っていて、その旧さにみあうように交番ではなく駐在所もあった。いまは息子や孫の代になって、仕来りはくずれたけれど、駐在所はまだある。数年前、わけあって昵懇になった駐在所のおまわりさんに、「いずれは本署勤務だね」といったら、「いや、なろうことならずっとこのままいたい」と笑っていた。
 時代は戦前だが、ぼくの父親も岡山県から兵庫県と十数年駐在所勤務で、姉と弟二人妹一人それにぼくもみんな駐在所生まれで、出生地はみんなちがう。早世した妹の子二人もひきとっていた父は、病弱だった母の負担があまりに多すぎることもあってか、このままではどうにもならぬと、巡査部長試験を通って本署の刑事になったそうな。
 そもそも父が警官になったのは、長男でもないのに両親の面倒をみなければならなくなったからで、そのあたりは敗戦直後、職がなくて“でも・しか”警官になった安城清二と似ている。『警官の血』の「第一部 清二」を読みながら、ぼくはそんなことを思い、ぼくとおなじように警官の息子だった寺山修司が、「警官の子は、親の後を追って警官になる子と、逆らってアカになる子にわかれる」といったのを思い出していた。
 寺山修司のいうように逆らい、五〇年代前半は父がかつての同僚から「いまのままじゃ就職はできんぞ」と警告される「アカ」になったぼくは、清二の同期で公安の刑事になった早瀬勇三(清二―民雄―和也、安城三代がかかえるミステリー部分を背負う)にリアリティを感じ、安城清二が、「民主主義の英雄」という願いをこめて名づけた「民雄」が、北海道大学の「正規」の学生として新左翼、それも赤軍派に潜入しプロヴォカトールとなることに、自分はアカになってよかったと思いもした。
 佐々木譲は、駐在所のおまわりさんを“天職”とした安城清二と、同期の香取茂一、窪田勝利に戦後警察の「光」を体現させ、凄惨な戦争体験をひっかかえてついに“復員”できぬ早瀬に、その「影」の部分を歩ませ、民雄―和也とつないでいくことで、その「光と影」が逆転し、戦前の「天皇の警察官」意識がもちこされ、その「光と影」が逆転していく「警察の戦後史」をえがいた。
 昭和二九年か、「死んだはずだよ、お富さん」という唄が流行ったとき、ぼくらは「これは戦犯の復活を唄った」といったものだが、「戦前」が衆庶の気分をとらえているいま、『警官の血』は、「警察の戦後史」を超えて、八・一五のハードルを超えて「継続」したものはなんであったか、「断絶」できなかったのはなぜかを考えさせる重さをもっている、とぼくは読んだ。もしぼくが「蛙の子は蛙」であったなら、ぼくは「清二」であるよりも「早瀬」になったのではないか、逆らってよかったと「自己弁護」しながら、である。



(いけがみ・たかゆき 評論家)

関連書籍

判型違い(文庫)

インタビュー

波 2007年10月号より

刊行記念特集
警官三代を描く警察小説の最高峰
佐々木 譲

帝銀事件が世を騒がせた昭和23年。安城清二の警察官人生が始まった。配属は上野警察署。戦災孤児、愚連隊、浮浪者、ヒロポン中毒。不可解な「男娼殺害事件」と「国鉄職員殺害事件」。ある夜、谷中の天王寺駐在警官だった清二は跨線橋から転落死する。父の志を胸に、息子民雄も警察官の道を選ぶ。だが、命じられたのは北大過激派への潜入捜査だった。ブント、赤軍派、佐藤首相訪米阻止闘争、そして大菩薩峠事件。任務を果たした民雄は、念願の制服警官となる。折にふれ、胸に浮かぶ父の死の謎。迷宮入りとなった二つの事件。遺されたのは、十冊の手帳と錆の浮いたホイッスル。真相を掴みかけた民雄に、銃口が向けられる。殉職、二階級特進。祖父と父の死の謎は、三代目警視庁警察官、和也にゆだねられた。本庁遊軍刑事となった和也が辿りついた真相とは――。
騒然たる世相と警察官人生の陰翳を描く、第一級エンターテインメント。

――今回、戦後まもない闇市の時代から全共闘、そして現代まで、東京の谷中を舞台に、警察官三代の人生が描かれていますが、初代と二代目は駐在警官です。なぜ駐在という設定にしたのですか。
佐々木 以前から、警察官の人生をトータルに、時代と重ね合わせて描いてみたいという気持ちがあったんです。それも、カッコイイ刑事が派手に活躍する物語ではなく、地域の制服警官の姿を書きたかったんですね。たまたま、私の自宅が台東区谷中にあるんですが、近所に山の手線内唯一の駐在所があって、取材してみると名物の駐在さんがいることも分かってきて、小説化できる手応えを掴んだのです。
――刑事と駐在ではどんな点が違うのですか。
佐々木 全く違う存在ですね。刑事は正式には捜査員と言いますが、犯罪を捜査し犯人を検挙することがその使命です。一方、駐在は地域の治安を預かる警察官です。両者は使命も任務も異なるし、キャラクターも違う。さらに言えば、倫理観のありようまで違ってくると思います。
――あえてカッコイイ刑事を書かなかった理由は?
佐々木 うーむ。何というか、カッコイイ刑事を描くのは、どうも照れてしまって……。例えば、アルマーニを着て、高級車に乗って派手な消費生活をしている刑事を描くなら、そういう生活をしている理由を書くことが必要だと思う。そもそも地方公務員の給料でそんな生活が可能なのか、と考えてしまうんです。警察官のカッコよさというのは、そんな消費生活に現れるものではないはずです。それは、自分の原則をいかなる場合でも保持できるかどうかだと思います。警察機構という保守的な組織の中で、どれだけ自分の信条を貫けるか。あるいは組織を逆手に取れるか。そこに、警察官の矜持が滲むのではないか。その点、駐在警官は管轄区域に対してたった一人で責任を持たねばなりません。ここに、組織人でありながらも運用や裁量をする場面が出てくる。小説の主人公たり得るドラマ性も人間的魅力も生まれてくるんですね。
――時代や世相も色濃く影響するでしょうね。
佐々木 そうですね。戦後、市民のための警察を合言葉に出発した警察機構が、時代を経てどんな風に変容したのか。最近の警察官の不祥事を見るにつけ、警官三代の人生を通じて、戦後警察の歩みを検証してみたいという思いもありました。
――それは、父から息子への物語でもありますね。
佐々木 警察官の父親にとって、息子が自分の職業を理解してくれているという喜びは、相当深いと思います。実際、警察官の世界では、息子が警察官になると「あの父親は立派な教育をした」と称えられるんです。その血脈と誇り、そして人々が生きた証しや悲劇の記憶を、大きなうねりとして描き出したかった。三代目が吹き鳴らすホイッスルの音に、その心情を込めたつもりです。

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