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どこまでも不幸になるためだけに、私たちは一緒にいなくちゃいけない……。

  • 映画化さよなら渓谷(2013年6月公開)

さよなら渓谷

吉田修一/著

1,512円(税込)

本の仕様

発売日:2008/06/20

読み仮名 サヨナラケイコク
雑誌から生まれた本 週刊新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 202ページ
ISBN 978-4-10-462804-9
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品、ミステリー・サスペンス・ハードボイルド、文学賞受賞作家
定価 1,512円

きっかけは隣家で起こった幼児殺人事件だった。その偶然が、どこにでもいそうな若夫婦が抱えるとてつもない秘密を暴き出す。取材に訪れた記者が探り当てた、15年前の“ある事件”。長い歳月を経て、“被害者”と“加害者”を結びつけた残酷すぎる真実とは――。『悪人』を超える純度で、人の心に潜む「業」に迫った長編小説。

著者プロフィール

吉田修一 ヨシダ・シュウイチ

1968(昭和43)年、長崎県生れ。法政大学経営学部卒業。1997(平成9)年「最後の息子」で文學界新人賞。2002年『パレード』で山本周五郎賞、同年発表の「パーク・ライフ」で芥川賞、2007年『悪人』で大佛次郎賞、毎日出版文化賞を、2010年『横道世之介』で柴田錬三郎賞を受賞。ジャンルにとらわれない幅広い作風と、若者の心情をみずみずしく描き出す筆致の確かさに定評がある。ほかに『東京湾景』『長崎乱楽坂』『女たちは二度遊ぶ』『初恋温泉』『静かな爆弾』『さよなら渓谷』『元職員』『キャンセルされた街の案内』『平成猿蟹合戦図』『太陽は動かない』『怒り』など著書多数。

インタビュー/対談/エッセイ

波 2008年7月号より [吉田修一『さよなら渓谷』刊行記念インタビュー]

吉田修一

ありえない愛だからこそ、美しい

1997年に「最後の息子」で文學界新人賞を受賞して以来、精力的に作品を発表してきた吉田修一さん。2002年には『パレード』で山本周五郎賞、『パーク・ライフ』で芥川賞を立て続けに受賞し、エンターテイメントと純文学を自在に行き来する作家として注目を浴び続けてきました。昨年出版された『悪人』で大佛次郎賞と毎日出版文化賞をダブル受賞し、いま最も次作が待たれる作家である吉田さんに『さよなら渓谷』について伺います。


 この『さよなら渓谷』は、「どんな話なのか説明してください」と言われても、非常に説明しにくい小説です。著者の自分でさえ、口ごもってしまう。すごく乱暴に言ってしまえば、「レイプ事件の加害者と被害者が、十五年の歳月を経て、夫婦のように暮らしている日常を描いた小説」ということになります。まずあり得ないと思える状況ですが、書いているうちに極限の愛の形を見たような気もしました。
『さよなら渓谷』は僕にとって初めての週刊誌連載でした。文芸誌とは読者層も違うでしょうし、どんな作品を書こうかと思案していた時に、ぼんやりとテレビを眺めていたら、ある女性が大勢のレポーターやカメラマンに囲まれている映像が映ったんです。幼い自分の娘を殺したという容疑をかけられている女性でした。驚くほど多くの男たちが、もしかしたらただ子供を亡くしただけかもしれない一人の女性を取り囲んで詰問するその光景は、非常に奇妙でした。もし何の咎もない人があの中心に置かれたとしたらどんなに恐ろしいだろう、と思ったところから、集団に取り囲まれ真ん中で怯える女と、女を取り囲む側でありながらその女にのめり込んでいく男のイメージを膨らませていきました。
そのイメージから、以前から心のどこかに引っかかっていた運動部の学生たちによる集団レイプ事件を主人公となる男女を通して描いてみようとしたのだと思います。リスキーな題材であることは分かっていましたが、秘密を抱えながら緑豊かな渓谷のそばにある小さな町でひっそりと暮らす二人のことは生々しくイメージが広がっていきました。
作品を書くときに最初に決めるのは、「その物語が始まる場所はどこなのか」ということです。主人公の俊介とかなこが暮らすのは、少し歩けば渓谷に出るような場所にしたいと考え、秋川渓谷をモデルにしました。何度か訪れている場所ですが、光と影のコントラストがとにかく強かったからです。
この作品のテーマの一つに、集団というものがあります。集団になったときにだけ醸し出される不思議な解放感は、自分一人のときなら絶対にしないような行為に自らを走らせたりすることもあります。素の部分とは違う自分と言いますか、仲間に臆病なところを見せたくなかったり、その場の不穏な雰囲気を早く終わらせたいために道化を演じたり、大胆な行動をとってみたりすることもある。そういった、いわゆる「ノリ」と呼ばれるようなものの先にある犯罪の加害者が主人公の俊介なのだと思っています。しかし、学生時代の犯罪だったこともあり、社会的にはさほど大きな傷を負わずに済んでしまう。では、被害者の女性のその後の人生はどうだったのか?
進むことも戻ることも出来ないけれど、自分のすべてをさらけ出すことができる。誰といるよりも自分を隠さなくて済む。そんな相手なのに一緒にいても絶対に幸せにはなれない。出会い方のボタンを掛け違ったまま、負の部分で繋がっているしかない。作中にもありますが、幸せになるために一緒にいるのではない、という男と女の関係をなんと呼べばいいのか、読者の方々がどのように名づけるのか、書き終えた今、それを知りたいと思っています。

(よしだ・しゅういち 作家)

判型違い(文庫)

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