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孤独なときは孤独だよ。見せないだけさ――心やさしい男と女と神様の切ない愛の物語。

  • 受賞第55回 芸術選奨文部科学大臣新人賞 文学

海の仙人

絲山秋子/著

1,404円(税込)

本の仕様

発売日:2004/08/31

読み仮名 ウミノセンニン
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 160ページ
ISBN 978-4-10-466901-1
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品、文学賞受賞作家
定価 1,404円

三億円の宝くじに当たった河野勝男。会社勤めをやめ、碧い海が美しい敦賀の街でひっそりと暮らす彼は、ファンタジーという名の「できの悪い神様」に出会い、恋人を得、同僚だった女友達と旅に出る。しかし……。福田和也氏が「いずれ世はこの作品に栄誉を与えなかったことを恥じるでしょう」と評した、川端賞受賞作家の初長編。

著者プロフィール

絲山秋子 イトヤマ・アキコ

1966年東京都生れ。早稲田大学政治経済学部卒業後、住宅設備機器メーカーに入社し、2001年まで営業職として勤務する。2003年「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞、2004年「袋小路の男」で川端康成文学賞、2005年『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、2006年「沖で待つ」で芥川賞を受賞。『逃亡くそたわけ』『ばかもの』『妻の超然』『末裔』『不愉快な本の続編』『忘れられたワルツ』『離陸』など著書多数。

書評

波 2004年9月号より 億万長者の孤独な愛  絲山秋子『海の仙人』

清水良典

 宝くじというものを買ったことがない。それでも買ってみて億万長者になったら、という想像はしないこともない。まずはマンションのローン残額を一気に返済する。そのうえで別荘や高級車をキャッシュで購入したらいくら残るか、などとミミっちい計算の染みついた夢を描き、しかしスノッブな想像の最後は、浮ついた生活の挙句に人生を誤るおのれの末路が浮かんできてしまって、やっぱりバクチに手を出すのはバカバカしいという堅実にして退屈な結論になる。心配しなくてもこんな人間には中らないのだが。
全然目立たない男が宝くじで三億円を中てた。周囲に言い立てることもなくそっと退職し、一番好きな海の見える場所に家を買って独りで暮らしはじめた。部屋の床に砂を敷きつめてビーチに改造し、まるで海の仙人みたいに海に出かけて魚を釣ってばかりいる。本書はこんな男、河野勝男が浜辺で「ファンタジー」なる男と出会うところから始まる。
「ファンタジー」とは何者かが、この小説の一番の要であり、謎でもある。この世の者でなく神の一種らしい。ミレニアムに降臨したキリストの再生みたいでもあるが、どこか死神くさくもある。突然現れたり消えたりするし、眠るときに卵に化けたりするが、特に物々しく奇蹟を起こしてくれるわけでもなく祟るわけでもない。赤いアロハシャツと短パン姿でビールを飲んではごろごろしていたりする。ほとんどただの口の悪いオッサンの居候である。だいたいファンタジーなどという呼び名じたいが、いかにも軽薄でウソくさいではないか。そう、まったく崇高な神らしさが欠如しているのである。そのかわりサシの話ができる遠慮のいらないやつだ。
このファンタジーと河野勝男の組み合わせに二人の女性が絡んでくる。どちらも個性の強い魅力的なお姉さん。乗ってる車にしても一人は三菱ジープで、もう一人は赤いアルファロメオ。デビュー作の「イッツ・オンリー・トーク」以来、著者はちょっと変わっているけれども作為臭さを感じさせない人物を登場させる名人である。ジープの彼女は河野と恋人になるが、アルファの彼女は河野に報われない想いを寄せている。なんだ河野の野郎、億万長者の上に女にモテているではないか、と抗議したいところであるが、本当は河野はとても孤独で不幸なのだ。その理由は読んで突きとめてもらうとして、じつは本書は神の再臨なんて大仰なテーマを持ち出す必要のない、切ない純愛小説なのだ。そう私は言いたい。心に深い傷を持ち、幸福になりたくてもなれない人間同士の愛を思慮深くクールに物語っている。その感動がファンタジーの存在感を支えている。
ところでファンタジーって、じつは小説の神様かもしれないのだ。そう仄めかしている箇所が本書のどこかにあるから見つけてください。

(しみず・よしのり 文芸評論家)

判型違い(文庫)

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