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苔のむすまで

杉本博司/著

2,860円(税込)

発売日:2005/08/25

書誌情報

読み仮名 コケノムスマデ
発行形態 書籍
判型 A5判変型
頁数 222ページ
ISBN 978-4-10-478101-0
C-CODE 0070
ジャンル 評論・文学研究、ノンフィクション、ビジネス・経済、芸術一般、コンテンポラリーアート
定価 2,860円

「私にとって、本当に美しいと思えるものは、時間に耐えてあるものである」

“時間”の容赦ない力と、それに耐えて生き残る美とは、いかなるものか? これまで写真という道具で自らの美学を追求し続けてきた多才なる美術作家が、初めて言葉による表現に挑む。「私の中では最も古いものが、最も新しいものに変わるのだ」――。考古学から現代美術までを縦横無尽に読み解く、時空を超えた評論集。図版多数収録!

書評

写真の履歴

青柳恵介

『苔のむすまで』において杉本博司は驚くほどに雄弁である。また、あけすけなまでに己をさらけ出している。そのことに私はまず感動した。
 現代美術の旗頭にして古美術の愛好家、米国籍の在留邦人にして日本文化に対する貪欲な探求者。この彼の二つの立場は矛盾しない。むしろ因果関係にあると言った方が正確であろう。
 若くしてアメリカに渡り、「芸術界の二流メディアとして見下されていた写真をもって現代美術界に打って出ようという野心を抱いた」彼が、そのかたわら生活のために骨董商となり、古い日本の美術や歴史を学び、それが文字通り糧となった消息が本書からよく伝わってくる。しかし、元来が江戸っ子の杉本博司のこと、野暮な臭いの成功物語は語られない。
 見開き頁の左側に杉本の作品が掲げられ、その写真に沿うように文章は綴られる。シニカルな彼の笑みが彷彿されるような自問自答あり、歴史講釈の好きな横丁の御隠居的説法ありで飽きることがないが、読み進むうちに彼が如何なるイリュージョンを持って写真を撮るか、実に明確に私は知ることが出来た。
 太古の昔の類人猿ルーシーやネアンデルタール人やクロマニヨン人のジオラマを撮るのも、劇場の映画の白い銀幕を撮るのも、早朝の光を浴びた三十三間堂の仏像群を撮るのも、一本のローソクが燃えつきる様を撮るのも、あるいは太古の昔から今に続く海を撮るのも、それは「人間の記憶の古層」を求める営みなのだと杉本博司は語る。さざれ石が巌となって、苔のむすまでの時間を幻視すること、それが彼の永遠のテーマである。
 本書には、ヒュースケン、モース、フェノロサ、アンドレ・マルロー、ハリー・パッカード、シルバン・バーネット、ウィリアム・ブルトといった日本文化や日本美術を、青眼をもって迎え入れた異国人がしばしば登場する。彼らの視線を語る杉本の熱さは共感を呼ぶし、同時に後白河院、後鳥羽院、とんで明治大帝、昭和天皇を語る彼の態度に、私は教えられる所が多かった。日本の自然の「一木一草に天皇制が生きている」と杉本博司もつぶやいているようだ。

(あおやぎ・けいすけ 古美術評論家)
波 2005年9月号より

著者プロフィール

杉本博司

スギモト・ヒロシ

1948年東京生まれ。立教大学経済学部を卒業後に渡米、アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン(ロサンゼルス)で写真を学ぶ。1974年よりニューヨーク在住。「海景」「劇場」「建築」シリーズなどの代表作がメトロポリタン美術館をはじめとする世界有数の美術館に収蔵されている。彫刻、建築、造園、料理、書と多方面に活躍、とりわけ伝統芸能に対する造詣が深く、演出を手掛けた「杉本文楽 曾根崎心中 付り観音廻り」公演は国内外で高い評価を受けた。2008年、新素材研究所を設立。2017年10月、約20年の歳月をかけて建設された文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」をオープン。これまでにハッセルブラッド国際写真賞、高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)受賞、紫綬褒章受章、フランス芸術文化勲章オフィシエ叙勲、そして2017年、文化功労者に選出される。著書に『苔のむすまで』『現な像』『アートの起源』(新潮社)、『江之浦奇譚』(岩波書店)、『空間感』(マガジンハウス)、『歴史の歴史』(新素材研究所)、『趣味と芸術 謎の割烹 味占郷』(ハースト婦人画報社)、『Old Is New:新素材研究所の仕事』(榊田倫之との共著 平凡社)など。

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