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ヒトは生成AIとセックスできるか―人工知能とロボットの性愛未来学―

ケイト・デヴリン/著 、池田尽/訳

2,310円(税込)

発売日:2023/09/19

  • 書籍
  • 電子書籍あり

人工知能とロボット技術が合体する未来。それは敵か? 伴侶か?

ChatGPTに恋したらどうなるのか。性欲を定義してロボットに実装することは可能か。スマートセックストイの利用情報は誰のものか。セックスロボットが広まるとヒトは暴力的になり、レイプが増えるか――セックスとAIについて考えることは、ヒトについて考えることだった! 最先端の知見を盛り込んだ刺激的思考実験の書が上陸。

目次
はじめに ロボットと人工知能が出会うとき
第1章 かつてきた道
セックストイの起源
バイブレーターとヒステリー
「遠隔ディルド」
野郎どもと女たち
第2章 ロボットは奴隷かコンパニオンか
ロボットの誕生
ロボットと強制労働
ケアとコンパニオンシップ
第3章 人工知能と語りあう
「考える機械」の歴史まとめ
機械に学習させる方法
私たちの脳内で実行されていること
ディープラーニング
機械に“意思”を出力させるには
遍在する音声アシスタント
〈Siri〉と語り合う方法
知能は定義可能か
第4章 恋という字は下心
セックスは定義できるか
セックスについて語るのはなぜタブーなのか
宗教はセックスをどう扱ってきたか
セックスの民主化
ペットへの愛
アニミズム
擬人観と対物性愛
第5章 シリコンの谷間バレー
工芸品のようなセックスドール
セックスロボットをめぐる詐欺
「私は製造された存在です」
男性型ドールに需要はあるか
ドール所有者は孤独な人びとか?
第6章 ロボットとセックスはどう描かれてきたか
女性のモノ化
音声アシスタントはなぜ女性の声なのか
「セックス・マキナ」
ほとんどのセックスは繁殖とは無関係である
第7章 セックスロボットの可能性
セックス、宗教、結婚
結婚は生き残れるか
「セックスフェス」英国名門大学にやってくる
高齢者のセックス事情
セックスをめぐる調査の困難さ
セックスに相手は不可欠か
定義が現実に追いつけない
第8章 セックスロボットはディストピアか
「売春」か、「セックスワーク」か
禁止は地下化させるだけ
ポルノグラフィも変化してきている
セックスロボットと暴力
セックスロボットはレイプを減らすか
暴力とBDSM
セックスワークはどう変わるか
セラピーとしてのセックス
ロボットとは付き合うな?
第9章 セックスロボットと法
ロボットと不同意性交
セックスプライバシーは誰のものか
セックスプライバシーは人権侵害を引き起こす
セックスロボットの乗っとり
有名人に似せたセックスロボット
第10章 不気味の谷を越えて
エピローグ 愛しあうならテクノロジーで
解説 坂爪真吾

書誌情報

読み仮名 ヒトハセイセイエーアイトセックスデキルカジンコウチノウトロボットノセイアイミライガク
装幀 CoffeAndMilk/E+/Getty Images/Photo、Deagreez/iStock/Getty Images Plus/Getty Images/Photo、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 320ページ
ISBN 978-4-10-507361-9
C-CODE 0004
ジャンル コンピュータサイエンス
定価 2,310円
電子書籍 価格 2,310円
電子書籍 配信開始日 2023/09/01

書評

ロボットと人間のあいだ

鈴木涼美

 北斎の「蛸と海女」でもいいし、「シェイプ・オブ・ウォーター」の半魚人でもいいけれど、人が人以外の何かとセックスするという考えは、ある種の人々にとっては瞬時に拒絶したくなる異常な行為で、そうでなくともどこか禁断の誘惑のような、少なくとも人をドキッとさせる響きを持つ。私たちは、対等な人間同士が愛のためにするセックスが正しいと教えられてきたし、その感覚は時代に応じた修正を繰り返しながら異常なものへの嫌悪感を作り上げてきた。実際はセックスに何を求めるかなんて色々で、自分の魅力を確認したい人もいれば、相手への愛情を示したい人もいるし、その場限りの快楽を追求したい人、お金や情報など何かしらの対価を狙う人、誰かを傷つけたい人、相手の弱みを見つけたい人だっているのに。
 セックスロボットとの性交にも蛸と似たような背徳的な香りが漂うが、ではノーマルなセックスとの境目はどこなのか。そもそもセックスとは何か。セックスに何を求めるのが正しいのか。ロボットには何を求め、何を求めないのか。人形のように文句を言わない売春婦と寝るのと、人間のように情感を示すロボットと寝るのと、どちらが倫理的か。実行したら犯罪になる妄想をロボットで代替すれば犯罪は減るか。湧き出すそんな疑問に、本書は考えうる限りの方法を使って思考の材料をくれる。
 挑戦的なタイトルのこの本は、まずセックスロボットについての関心事を分解し、ロボット、セックストイ、セックスドール、人工知能など多分野の歴史を紹介すると同時に、法や倫理、テクノロジーや生物学などの視点で巻き起こった議論を網羅的に振り返る。やがて読者は人が何を求めて進化してきたのか、といった問いに誘われる。
 人の孤独をテクノロジーの進化のせいにする安易な考えが横行する昨今、愛や孤独とテクノロジーの関係について決して悲観的ではない未来を描こうとする著者の姿勢は前向きで、純粋な好奇心に満ちている。Siriや介護ロボットから、戦死した夫に似た銅像と「交渉」したギリシア神話のラーオダメイアまで遡るこの生真面目な本の最大の魅力は、随所に挟み込まれるトリビアルな記述だ。
 とりわけ「車輪の登場より2万5000年も先立って発明された」セックストイの歴史は興味深く、古代ギリシアではディルドがパンで作られていた、バイブレーターが女性のヒステリーを治療する目的で発明されたなどの所説から、コーンフレークの生みの親であるケロッグがマスターベーション反対運動の活動家として著名だったことまで、聞きなれない雑学には驚かされた。日立マジックワンドやTENGA、セックスドール専門風俗店などの解説も日本語版の読者には味わい深いかもしれない。ちなみに日本でも馴染みのあるロボット「ペッパー」の利用規約には「性行為やわいせつな行為を目的とする行為、または面識のない異性との出会いや交際を目的とする行為」で使用してはならないという条文がある。
 フェミニストを自称する著者の敏感な視点も特徴的だ。「今日つくられているセックスロボットは圧倒的に女性の形をしているものばかり」、Siriなど仮想アシスタントの初代バージョンは全て女性の声、などの指摘にとどまらず、「男性はセックストイを必要としなかったのかもしれない。あるいは男性の場合、性的衝動を感じるには、相手の存在が大きいということが関係しているのかもしれない」という記述には苦笑した。事実、ディルドやバイブの長い歴史に比べて男性器を挿入するためのトイは、物的証拠が何も発見されていないのだという。
 セックスに人が注いできた情熱の大きさを改めて知ることで、宗教や文化が性行為に常に何かしらの制限をかけようと腐心してきた理由も見えてくる。キリスト教が、あるいは各国の文化が作り上げてきた「ノーマル」から外れるものは時に倫理的、法的に社会から排除されてきた。1000年以上前の罪のリストには「女性同士が『男性自身のような器具』を用いて性行為を交わした場合、彼女たちは代償を払わねばならない」という具体的な文言があるし、スコットランドで51歳の男性が自転車とセックスを試み、性犯罪者として登録されたという事例もある。しかし一度このような豊かな歴史を振り返れば、現在ノーマルと信じられているものが一つの可能性に過ぎないこともわかる。体外受精も同性愛のセックスも当然の権利と考えられるようになったのはごく最近なのだ。
 人間そっくりなロボットとのセックスを差し迫った問題ととらえる人はまだ少ないだろう。しかしルンバが床を走り回り、ChatGPTが相談相手にもなる現在、ロボットに何を求め何を求めないかという議論は常に現実の少し後ろを必死について歩いている。ロボットとのセックスを真剣に考えておくことは、私たち人間がどんな愛を求め、どんな願望を抱くか、ひいては人間がいかなる存在であるかを今一度問う、とてもエキサイティングな議論だ。

(すずき・すずみ 作家)
波 2023年10月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

ロンドン大学キングス・カレッジ、デジタル人文学部準教授。クイーンズ大学ベルファストで考古学を学んだのち、ブリストル大学でコンピュータ・サイエンスの博士号を取得。専門はコンピュータと人のインタラクションや人工知能。幅広いジャンルのサイエンス・コミュニケーターとして活動している。

池田尽

イケダ・ツクシ

新潟県生まれ。新潟県立高田高等学校卒業後渡米。カリフォルニア大学ロサンゼルス校に編入・卒業。日系金融機関に勤務した後に帰国し、通訳・翻訳業務に従事。2023年9月現在は主に会議通訳者として活動。2012年から3年間、当時民政移管の途上にあったミャンマー政府の要請を受けヤンゴン大学にて通訳官育成プログラムの講義を担当した。

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