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異常殺人―科学捜査官が追い詰めたシリアルキラーたち―

ポール・ホールズ/著 、ロビン・ギャビー・フィッシャー/著 、濱野大道/訳

2,860円(税込)

発売日:2024/01/17

  • 書籍
  • 電子書籍あり

撲殺、顔面銃撃、隠された遺体、18年におよぶ少女監禁――。執念の「未解決事件」捜査実録。

不気味で凄惨な犯行現場に臨場し続ける科学捜査官は、密かに「最凶の連続強姦殺人鬼」を追っていた。10数人が殺害され、50人以上が凌辱された未解決事件。「犯人はまだ生きている」。40年間、警察を出し抜いてきたサディストをどう炙り出せるか。DNA解析の最新技術や犯罪捜査の複雑な力学も明かす驚愕のドキュメント。

目次
プロローグ
金髪、身長一五〇センチ。その少女の殺害事件は、四五年たっても解決していない。被害はただ広がっていく。死体が遺棄された暗渠にひざまずき、私はある約束をした。
1 旅路の果て
元妻のローリーはよくこう言った。「仕事があなたの愛人であり、あなたはほかの誰よりも愛人を優先した」と。明日、私は拳銃を返却し、法執行機関を退職する。
2 「黄金州の殺人鬼」はまだ生きている
私は未解決事件の解決に執念を燃やした。その筆頭が「黄金州の殺人鬼」だ。いまも犯人は、中流階級地区でひっそり暮らしているはずだ。容疑者が浮かび、私は車を走らせた。
3 はじまり
人に心を開くことができない人間だった。学校に溶け込む術を身に着けたころ、パニック発作に襲われるようになる。そんなときに出会った科学捜査官が、私の人生を決めた。
4 薬物研究所の研究員
私はカリフォルニア州の薬物研究所に職を得た。しかし、すぐ近くの棟で働く科学捜査班の仕事に興味を抱き、そこに隠された「犯罪資料図書室」という金脈を見つける。
5 人生の階段
ローリーとの娘、レネーが誕生。私は犯罪現場捜査官(CSI)の職に応募し、民間人の生活から軍隊式の警察学校へ移った。亀裂がはいった結婚生活は、さらに緊張感をはらむ。
6 EAR――イースト・エリア強姦魔
目出し帽、左手に懐中電灯、右手に拳銃。「すべて言うとおりにしないとぶっ殺す」。仕舞い込まれていたEARのファイルを、私は衝撃とともにめくりつづけた。
7 犯罪現場捜査官――CSI
一九九〇年代なかば、管轄内でコカインが蔓延し、ギャング関連の殺人が急増する。「起きるはずのない」街でも残虐な事件が起き、人々は震撼。私は犯罪現場に出向きつづけた。
8 アバナシー殺害事件
切断された死体、飛び散った脳みそ、うじ虫――。恐ろしく、多種多様な現場を経験してきた私にも、この事件は別物だった。子どもを利用して親子を殺したのは、誰なのか?
9 点と点を結ぶ
EARは、男性が室内にいる場合に襲撃したことがない。新聞がそう報じて一カ月もたたないうち、EARはカップルが眠る家に押し入って言った。「男を起こせ」
10 結婚生活の終焉
証拠の解析は得意でも、自分の感情を解析できない。カウンセリングを受けつづけても意味がなかった。ローリーは泣いた。無関心だと非難した。そして「最後の言葉」を言った。
11 アンティオック殺人事件
それは復讐殺人だった。妻に別れを切り出されて取り乱した父親は、小さな娘たちを人質に家に籠城した。子どもたちがどう生まれ、守られるかは運次第だ。
12 ピッツバーグ連続殺人事件
一五歳の少女が帰宅途中にレイプされ、殺された。現場近くでさらに三人の女性が殺される。私は容疑者のDNA鑑定で冤罪を回避し、殺人課刑事とともに真犯人を追う。
13 ボッドフィッシュ殺害事件
有名な銀行一家出身の五六歳が撲殺された。ブーン――近づくにつれ大きくなる、妙な音。決して公開されず、ドラマでも明かされない証拠の採取作業の始まりだ。
14 連続殺人鬼たち
私の管轄エリアでは六人の連続殺人犯が活動していた。そのうちのひとり、歪んだ性的嗜好を持つ《怪物のなかの怪物》に、私は近づこうとする。最先端のDNA技術を駆使して。
15 オリジナル・ナイト・ストーカー
私たちが追うEARと、オレンジ郡が追う「オリジナル・ナイト・ストーカー」には類似点があった。しかし相違点もある。DNA検査で、驚愕の結果が示される。
16 検視
大胆不敵な有名刑事コンビと私はタッグを組んだ。捜査技術の特別講座を受けているような日々だった。ある日、上司から電話が入る。「警察官が撃たれた」――
17 変化
離婚して六年、同僚シェリーとの交際を始めた。何の心配もせず事件の話ができる彼女はソウルメイトのようだ。ところが思ってもみない方面から、反発と妬みを買う。
18 パメラ・ヴィタール殺人事件
この現場は私に何を伝えているのか。直感がそう告げるなら、余分な作業もけっして省いてはいけない。狂気的なほど野蛮な暴行犯の手がかりは、「見えない場所」に残っていた。
19 ジェイシー・リー・デュガード誘拐監禁事件
一一歳で誘拐され、行方不明になっていた少女。一八年間におよぶ監禁生活を送るうちに、二人の子どもを生まされ、犯人の妻と五人での共同生活を強いられていた。
20 社会病質者――ソシオパス
私は引きこもり、EAR事件ファイルを精読する。酸鼻をきわめる手口の詳細から浮かび上がるのは、平均的な白人男性の姿。男は部屋から部屋へ音もなく徘徊することができる。
21 新たな容疑者
闇に紛れる。塀を飛び越え、鍵をこじ開け、眠る男女を驚かせたときに犯人が感じたアドレナリン。私も怪物に近づいている。容疑者は二四人にまで絞られた。
22 ポッツを追った二年間
容疑者ロバート・ルイス・ポッツの行方は二〇〇四年以降、つかめない。けれど私も諦めない。事件報告書から、ポッツの黒い目出し帽が証拠として回収されていたことを知る。
23 ミシェル・マクナマラ
女性ジャーナリストが捜査の相棒になる。線路脇で見つかった手書きの地図、機密情報――私たちは高揚感と虚脱感を共有した。次々に特定されていく容疑者。しかし――
24 レイプ魔から殺人者への変身
見つけた事件ファイルは「パズルのピース」だった。北から南に移動した「黄金州の殺人鬼」が恐ろしい変貌を遂げていく。が、わからない。なぜ、男は泣いたのか?
25 ジョセフ・ジェイムズ・ディアンジェロ
一連の事件解明の手がかりをもたらしたのは、家系図作成サイトだった。学者、DNA技術会社の協力による新たな科学捜査で浮上したのは、元警察官だった。
26 「黄金州の殺人鬼」を捕まえろ
ディアンジェロの監視と秘密作戦が始まった。車のハンドルからDNAを採取、そして鑑定結果が読み上げられた。犯人だ――
27 襲撃を追体験する
ディアンジェロの自宅を捜索する。夜中、妻や娘たちを残し、獲物を捜しにいく姿を想像する。その私に、電話をかけてきた女性がいた。
28 ライフワーク
取材依頼と電話が殺到、私をとりまく環境は一変した。だが未解決事件への情熱は変わらない。そして新たな被害者たちに出会う。彼らが答えを見つける手助けがしたい。
謝辞
解説 デーブ・スペクター

書誌情報

読み仮名 イジョウサツジンカガクソウサカンガオイツメタシリアルキラータチ
装幀 Getty Images/カバー写真、Paul Holes/カバー・表紙地図、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 368ページ
ISBN 978-4-10-507391-6
C-CODE 0095
ジャンル 事件・犯罪
定価 2,860円
電子書籍 価格 2,860円
電子書籍 配信開始日 2024/01/17

書評

執念の捜査官の顔と、繊細な心を持つ男性の顔

村井理子

 アメリカにはコールド・ケース(未解決事件)を専門に扱う番組やポッドキャスト(インターネットラジオ)が多数存在する。そのジャンルの人気の高さが窺えるが、なにより驚くのは、未解決事件に関するコンテンツを熱心に視聴する人々の多くは、何万人も存在すると推定される素人探偵、あるいはインターネット探偵と呼ばれる民間人ボランティアであり、日々、未解決事件の犯人を追跡しているという事実だ。彼らはインターネット上の掲示板に集結し、活発に情報交換を行い、日夜、独自の調査を繰り広げている。発生する殺人事件の三分の一が未解決となるアメリカで、犯人を追跡するのは法執行機関の捜査官だけではない。警察OBや未解決事件専門ライター、そしてインターネット探偵といった人々の地道な努力によって、過去の多くの未解決事件が解決へと導かれているのである。
 そんな民間人ボランティアの間で人気の元科学捜査官であり、未解決事件専門家が、本書を記したポール・ホールズである。彼を一躍有名にしたのは、「黄金州の殺人鬼(The Golden State Killer)」と呼ばれる凶悪犯ジョセフ・ジェイムズ・ディアンジェロの逮捕にDNA情報を用いることで寄与した実績だった。1970年代から1980年代にかけて、カリフォルニア州を恐怖に陥れた連続殺人鬼ディアンジェロは、明らかになっているだけで十三人を殺害、五十人以上をレイプし、百件以上の強盗に関わったとされる。多くの証拠を残しながらも、その行方は三十年以上も判明せず、一連の事件は迷宮入りしたと判断され、多くの被害者たちを酷いトラウマで長年にわたって苦しめ続けていた。世間から忘れ去られたこの事件を掘り起こし、捜査し続けたのがホールズだったのだ。ディアンジェロ逮捕の大ニュースは全米を揺るがし、ホールズが一躍、スター捜査官として有名となるきっかけとなった。ディアンジェロ逮捕の少し前に、保安官事務所を退職し、未解決事件専門家となったホールズは、数多くの未解決事件専門テレビ番組やポッドキャストに出演し続け、講演会で全米を飛び回っている。民間人となった今もなお事件捜査に関わり、八面六臂の活躍を続けている。
 本書の魅力は、実際に起きた事件における科学捜査の詳細が記されている点にある。科学捜査を題材としたテレビドラマは長年にわたって多くのファンを惹きつけてやまないが、凶悪な未解決事件を追い続けた元捜査官によって綴られた書は、そう多くはない。科学捜査に興味があるなら、多くの情報を得ることができるだろう。また、凄惨な事件現場の描写や、実際に発生した事件の内容は、あまりにもリアルで恐ろしく、背筋が凍るほどだ。特に、生まれながらのサディストと呼ばれた黄金州の殺人鬼の犯行内容は、あまりに凶悪で、一度読めば記憶からなかなか消し去ることができない。それでも、窓や玄関の鍵を必ず確認するという習慣を読み手に定着させる程度の影響力はある。冷静沈着に、淡々と綴るホールズの捜査官としての強靱さを体感できる。
 しかしホールズの魅力は、犯人をとことん追いつめる執念の捜査官の顔と、傷つきやすく、繊細な心を持つ一人の男性の顔が同居するところにある。無数のハエが覆う腐乱死体や、血液が大量に飛び散る凄惨な事件現場にも怯まず、表情ひとつ変えずに分析を行うホールズが、一方で、家に戻ればパニック発作に苦しみ、悪夢に苛まれるのだ。事件に没頭するあまり家庭を壊し、孤独に生きることを選んだはずなのに、ふとしたきっかけで恋に落ちた女性に救いを求めてしまう。そんなホールズの一面も、本書の魅力のひとつだ。
 ホールズの繊細さをよく表しているのが、彼が「相棒」と呼び、数年にわたって情報交換を続けてきたノンフィクションライターの故ミシェル・マクナマラについて記した章だろう。マクナマラはホールズと同じく、黄金州の殺人鬼事件にこだわり、何年もかけてその犯人を追い続けていた。同じ犯人を追った二人は、ジャーナリストと現役の科学捜査官として出会ったのだ。しかしマクナマラは、犯人逮捕を目撃することなく不慮の事故でこの世を去った。ホールズは多くのページを割いて、彼女の思い出と喪失の痛みを綴っている。黄金州の殺人鬼逮捕という目標に向かって、ひたむきなまでに突き進んでいた二人の結束の固さが伝わってくる。マクナマラの死後に出版され、彼女の遺作となった『黄金州の殺人鬼――凶悪犯を追いつめた執念の捜査録』(亜紀書房)に記された、彼女のホールズへの感謝と敬愛の念に応えるかのような筆致から、ホールズの抱える痛みが伝わってくる。
 ホールズがインターネット探偵たちに絶大な人気を誇っている理由は、彼が優秀な捜査官だという事実だけではない。ソーシャル・メディアを駆使するホールズは、セルフブランディングまで巧みだ。妻を、子どもを、そしてペットの大型犬を愛するホールズは、ファンとの交流にも気さくに応じる、新しいタイプのスター捜査官なのだ。

(むらい・りこ 翻訳家/エッセイスト)
波 2024年2月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

カリフォルニア州ベイエリアに位置するコントラコスタ郡保安官事務所と地方検事局に27年間勤務。科学捜査と事件現場捜査の両方の経験を持ち、キャリアを通じて未解決事件と連続凶悪事件を専門とする。地方検事局在職中に、FBIとサクラメント郡地方検事局とタッグを組んで革新的な捜査技術を応用、アメリカ史上最大の被害を出した連続強姦殺人犯「黄金州の殺人鬼」の正体を突き止めた。逮捕以来、数々のテレビ番組に出演。また退職後も、世間の注目を集める難事件において現場の捜査官たちの相談役を務めるほか、未解決事件の被害者家族の支援を続けている。

INSTAGRAM:@paul.holes

X:@PaulHoles

濱野大道

ハマノ・ヒロミチ

翻訳家。ロンドン大学・東洋アフリカ学院(SOAS)卒業、同大学院修了。訳書にレビツキー&ジブラット『民主主義の死に方』、ケイン『AI監獄ウイグル』(共に新潮社)、ロイド・パリー『黒い迷宮』『津波の霊たち』(早川書房)、グラッドウェル『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』(光文社)などがある。

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