
美人までの階段1000段あってもう潰れそうだけどこのシートマスクを信じてる
2,420円(税込)
発売日:2025/02/17
- 書籍
- 電子書籍あり
ここには「完璧な顔」になるための全てがある。「美容都市ソウル」の秘密。
赴任先は「毛穴が存在しない未来」だった。光速進化のコスメ、肌を磨き上げる黄金ルーティン、世界一の美容整形ビジネス──たちまち美容沼にはまり、自分を“改善”していく著者。さらに医師や元アイドル、コスメブランド創業者へと取材を広げた先に辿り着いたのは──。体験と考察が融合した、ユニークな「美の帝国」滞在レポート。
まえがき
毛穴が存在しない未来/欠点が大げさに扱われる/社会的地位を高める唯一の方法/アジア系アメリカ人のわたし/韓国の自撮り文化、セルフケア文化
第1章 ソウルは先進国の先を行く
あらゆるものが見える高層マンション/アメリカへニュースを伝える/「3秒バッグ」/ミョンドンでの戦利品/顔というキャンバスを大切に/チェジュ島のお茶の秘密/Kビューティーコスメの成功式/「パリパリ」とOEM/チューブ状からスティックに変えると/どこの街角にも〈オリーブヤング〉
第2章 美の帝国の反逆者たち
「良い肌」と「悪い肌」/「パク一族によって作られた白粉」/〈アモーレパシフィック〉の誕生/独裁者が禁じた外国コスメ/光の速さで変化
第3章 BBクリームとK-POPアイドル
韓国車100万台に匹敵する映画/公式、非公式の美しい大使たち/カルチャー・テクノロジー/低価格コスメ/BBクリーム、そして「クッション」/スプーン階級論と味噌女/アイドルとともに韓国美容が世界じゅうへ/シャーロット・チョの10ステップ
第4章 わたしのそばかすを見ると韓国人は
「フューチャーサロン」/男性も56パーセントが日焼け止めを/「美白」を好む固有の背景/おおおお、チュグンケ(そばかす)!/16歳、モデル業で知ったこと/不気味なほど馴染みのある「顔」
第5章 肌を改善すること=自分を改善すること
ハンガンを渡って助産院へ/むき出しの腕は禁止だった/ルッキズムは女性のほうが過酷/「きれい」は入場料/「正しい人間になるために」/タクシー運転手が「あんたは処女?」/結婚市場は期待の地雷原/抵抗する人はいないのか?/自信のない若い女性たち
第6章 顎を削って「V」に変える場所
世界一の美容整形ビジネス/満足していない体の部分は?/カンナムの〈オラクル・クリニック〉/患者の40パーセントが中国人、26パーセントが日本人/「膣美容整形センター」/整形リアリティ番組の「猿」/西洋化? いや違う/発明者は日本人医師/「形成外科医の楽園」/「バランスの取れた顔」という美学/切除、分解、再配置/自己強化と自己評価
第7章 そしてわたしも顔面注射(274回)をした
心理クリニックの隣の形成外科/アンジェリーナ・ジョリーかソン・ヘギョか/「魅力的な顔」のためのアルゴリズム/北朝鮮亡命者なら手術無料?/コンシェルジュサービス/美容整形ですべてを得られる/結婚生活の終わり/リジュラン注射との出会い/顔に現れた「浮き彫り模様」/顔の下半分に異変が/“江南美人”はどう見られているか/ドクター・ソの特別アドバイス
第8章 マネジメント会社の「46キロ」ルール
肥満率は先進国中ほぼ最低/何より重要なのは脚/1日10回もの体重測定/「シンスピレーション」/32キロ減量して歌った「きれいになった」/EUで禁止されている食欲抑制剤/大学進学率と「ウリ意識」/「クムチョククムチョク」/力を得たいと心から願うこと/3度目の出産とわたしの体/「あたしの体が大好き」
第9章 “モルカ”に狙われる女性たち
2018年の韓国人女性/江南トイレ殺人事件/コルセットを捨てた証拠/「わたしはきれいではない。きれいでなくてもいい」/「夫をつかまえられないぞ」/韓国、人口減少で消滅する?/彼女たちが見たい未来/ボディ・ポジティビティの出現/20代男性が「自分は政策の犠牲者」
第10章 制服にある「リップティント用ポケット」
生後8週でフェイシャルエステ/「キッズカフェ」の子ども用化粧台/レッドオーシャン/ブランドの抜け目ない戦略/娘が、幼稚園に行く前に/インターネットが破壊されない限り
第11章 男たちを惹きつける戦略
〈ジェニーハウス〉美容院/SPF50の「カモフラージュ・クリーム」/ウイスキー瓶のようなボディウォッシュ/問題は髪の毛/花美男「コッミナム」/「人前で泣く」男たち/チョコレートバーのような腹筋/相変わらず女性のほうがつらい
第12章 アジュンマたちの知恵
アジア女性は「なかなか老けない」/ロサンゼルスで聞いた「基本的な礼儀」/「仲間のプレッシャー」を感じすぎている/体を保護して称賛する方法/「人間はみな違う」
結論
帰国/9歳が気づいた「暗黙の利益」/体は作業場である/でっちあげの基準/ビジネスの世界が止めるべきこと/ボディ・ニュートラリティ/
操られやすく、受け入れやすくなる/外見が重要でなくなったあの期間/東京やソウルの可能性
謝辞
書誌情報
読み仮名 | ビジンマデノカイダンセンダンアッテモウツブレソウダケドコノシートマスクヲシンジテル |
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装幀 | millitsuka/装画、新潮社装幀室/装幀 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 336ページ |
ISBN | 978-4-10-507441-8 |
C-CODE | 0098 |
ジャンル | 文学・評論、趣味・実用、生活情報、美容・ダイエット |
定価 | 2,420円 |
電子書籍 価格 | 2,420円 |
電子書籍 配信開始日 | 2025/02/17 |
インタビュー/対談/エッセイ
「美しい韓国人」に記者がストレートに切り込んだ
「気になるなら、取ればいいじゃない。わたしは目を大きくしたいの」
いともたやすくこう言ったのは、韓国人の友人でした。約20年前、一緒にご飯を食べながら「左ほおの濃いシミがずっと気になっていて……」と打ち明けた時のこと。その数年後に再会した時、彼女の目は本当に大きくなっていました。ついじーっと瞳を見つめながらも形の変化にはなぜか触れてはいけないような気がして、あえて話題に出さないまま。それでいながら、さらに濃くなった自分のシミが恥ずかしくてうつむきがちだった記憶があります。
以来、テレビを見るたびに韓国人の顔を観察するようになりました。ドラマに出ている俳優もK-POPアーティストも、たいていシミどころかホクロもありません。一国を代表する政治家の方々もしかり。著名人だけでなく、ほぼすべての友だちの顔からも、近年急速にホクロやシミが消えていく現象に気がつきました。ソウルのカフェでは、鼻に大きな絆創膏を貼っていたり、顎を固定する包帯を巻いたりした人がスイーツをほおばっている姿を見かけることもしばしばです。日本では「する」だけでなく、「語ること」さえタブー感が漂うお顔の密事。ふと周りを見れば、コンビニにもドラッグストアにも韓国コスメがあふれています。隣の国は、なぜかくも美容大国になったのか――。
ファッションやコスメ、ドラマや音楽など韓国カルチャーが身近にある日本では、「韓国人がきれい」なのは、あたりまえのようになっていて本質が見えにくい。そこにまっさらな感性でストレートに切り込んだのが、エリース・ヒューさんです。NPR(米国公共ラジオ放送)の特派員として、2015年の初めから2018年の終わりまでソウルに滞在。それまで生まれてから30年間気にしなかった(むしろキュートだと思っていた)そばかすに「おおおお、チュグンケ(そばかす)!」とリアクションされたり皮膚科を勧められたりすることに違和感を抱いたエリースさんは、「記者としてではなく、女性としての好奇心から」「これまで目にしたり雑誌で読んだりした、あらゆるベトベトの商品を試す」ことに。その視点には、アジア系アメリカ人記者というアイデンティティならではの、外からの観察眼と、内側からの共感がバランスよく共存しています。
エリースさんは、フットワーク抜群。そばかすを消すためのBBクリームはもちろんのこと、江南のクリニックでの毛穴吸引や顔面注射(274回)にも果敢にチャレンジします。麻酔クリームを塗ったにもかかわらずしっかりと感じる施術の痛みや、ダウンタイムの顔の腫れを体感し、医師の前で「こんな思いをするのは何のためでしょうね」と泣き言を言いながら。さらには生後8週間(!)の娘を、韓国では珍しくないというフェイシャルエステに連れていったりも。取材と実益を兼ねて、まさに本書のタイトルである「美人までの階段」を登っていくのです。
ジャーナリストとしてのエリースさんのさらなる本領が発揮されるのは、そこからです。自ら美容体験を重ねて、見た、感じた疑問をもとに、7歳から73歳まで何百人もの韓国人女性をインタビュー。文献とともに韓国が美容大国になった理由をつまびらかにしていきます。
とりわけ興味深かったのは、歴史をひもとき、化粧品を「女性たちの武器」であると定義していたこと。日の当たらない屋内で夫に仕えるのが女性の美徳とされた朝鮮王朝時代は、白いきれいな肌が美の象徴だったといいます。ところが日本の植民地時代以降、洋装に化粧をした「モダンガール」が台頭。メイクによって階級やジェンダーや民族性を「偽装する」ことができたと、著者は説きます。また、1970年代の朴正煕政権下では政府支給の制服を着ていた工場労働者の女性たちが、華やかなメイクをしたことについては、化粧が「反逆と抵抗の象徴として」「現代性や自由も誇示した」とも。
本書には、K-POPマネジメント会社の体重制限や、ルッキズムの深い闇も記されていて、決して美容礼賛の本ではありません。でも、読み終えた後に、思ったのです。「気になるなら、取ればいいじゃない。小さなコンプレックスから自由になるなら」と。かくして、この原稿をかいているわたしの顔には、先日シミを取った跡がかさぶたとして残っています。これからどこまで「階段」を上ることになるのか、途中で降りるのか。悩んだ時には、再びこの本と向き合ってみたいと思います。
(くわはた・ゆか 翻訳家、ライター)
波 2025年3月号より
単行本刊行時掲載
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著者プロフィール
エリース・ヒュー
Hu,Elise
アメリカのジャーナリスト、ポッドキャスター、作家。NPR(米国公共ラジオ放送)の韓国・日本担当局創設時の担当局長を務めた。海外特派員として12カ国以上から報道。2025年2月現在「TED Talks Daily」のレギュラーホスト。ジャーナリストとしてエドワード・R・マロー賞やデュポン・コロンビア賞などを受賞。ミズーリ大学コロンビア校ジャーナリズムスクール卒業。ポッドキャスト制作会社「Reasonable Volume」の共同設立者で、3人の娘の母親でもある。ロサンゼルスに在住。
金井真弓
カナイ・マユミ
翻訳家。千葉大学大学院修士課程修了。大妻女子大学大学院博士課程単位取得退学。訳書に『幸せがずっと続く12の行動習慣』『わたしの体に呪いをかけるな』『欲望の錬金術』『#MeToo時代の新しい働き方 女性がオフィスで輝くための12カ条』『フェローシップ岬』などがある。
桑畑優香
クワハタ・ユカ
翻訳家、ライター。早稲田大学第一文学部卒業。延世大学語学堂、ソウル大学政治学科で学ぶ。訳書に『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか』『BTSとARMY わたしたちは連帯する』など、監訳書に『BEYOND THE STORY : 10-YEAR RECORD OF BTS』日本語版がある。