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美しい図書館司書に恋をした少年は、ハンサムで冷酷なレスリング選手にも惹かれていた──。

ひとりの体で(上)

ジョン・アーヴィング/著 、小竹由美子/訳

2,200円(税込)

本の仕様

発売日:2013/10/31

読み仮名 ヒトリノカラダデ1
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 334ページ
ISBN 978-4-10-519115-3
C-CODE 0097
ジャンル 文芸作品、評論・文学研究
定価 2,200円

小さな田舎町に生まれ、バイセクシャルとしての自分を葛藤の後に受け入れた少年。やがて彼は、友人たちも、そして自らの父親も、それぞれに性の秘密を抱えていたことを知る──。ある多情な作家と彼が愛したセクシャル・マイノリティーたちの、半世紀にわたる性の物語。切なくあたたかな、欲望と秘密をめぐる傑作長篇。

著者プロフィール

ジョン・アーヴィング Irving,John

1942年、アメリカ、ニューハンプシャー州生まれ。プレップ・スクール時代からレスリングに熱中。ニューハンプシャー大学、ウィーン大学等に学ぶ。1965年よりアイオワ大学創作科でカート・ヴォネガットに師事。1968年『熊を放つ』でデビュー。1978年発表の『ガープの世界』が世界的ベストセラーに。映画化された『サイダーハウス・ルール』では自ら脚本を手がけ、アカデミー賞最優秀脚色賞を受賞。その他の作品に『ホテル・ニューハンプシャー』『オウエンのために祈りを』『また会う日まで』『あの川のほとりで』『ひとりの体で』など。デビュー以来半世紀、19世紀小説に範を取った長大な小説をつぎつぎと発表。現代アメリカ文学を代表する作家。

小竹由美子 コタケ・ユミコ

1954年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。訳書にアリス・マンロー『イラクサ』『林檎の木の下で』『小説のように』『ディア・ライフ』『善き女の愛』『ジュリエット』『ピアノ・レッスン』、ジョン・アーヴィング『神秘大通り』、アレクサンダー・マクラウド『煉瓦を運ぶ』、ジュリー・オオツカ『屋根裏の仏さま』(共訳)『あのころ、天皇は神だった』ほか多数。

書評

波 2013年11月号より この世のすべての出来事の、圧倒的な一回性

江國香織

まったくもって、めくるめく。言葉がやってのけるのだ(小説においても、人生のある局面においても)と、たぶんここには書いてある。「鴨はどうなるの?」にしても、「アダージョ」にしても、「十七で懐かしくてたまらないんなら、たぶんあなたは作家になるわ!」にしても。
でも、まず、概要。一九四二年生れの作家の「私」(「今では六十代の後半、ほとんど七十だ」)が過去を回想する形で、物語は語られる。進んでは戻り、戻っては進み、あっちへ飛びこっちへ飛びして、すこしずつ。
回想の中心となる場所は、アメリカ、ヴァーモント州の小さな町だ。その町には図書館があり、主人公ビリーは少年時代にそこで、「ミス・フロスト」という瞠目すべき司書と出会う。彼女によって書物の森に誘われ、同時に、「彼女とのセックスを夢想」する。その町にはアマチュア演劇クラブもあり、ビリーの家族は祖母以外みんなそこの、熱心かつ中心的なメンバーだ。ビリーも、だからそこでたくさんの時間を過ごす。そしていろいろ垣間見る。近所の人たちが無防備に露呈する内面を、自分の家族のいつもとはべつな顔を、つまり世間を。
町にはもちろん学校もある。母親の再婚相手であり、「常套句の権化」でもあるリチャードが英語英文学を教えているその学校で、ビリーはさまざまな少年たちに出会う。「トム」や「トローブリッジ」や「キトリッジ」に。読んだが最後、忘れられなくなるであろうこの少年たちの、何て生硬でナイーヴで、不恰好でみずみずしく、残酷で、あたり前に特別なことだろう! 私は彼らの学校生活を垣間見られてよかったと思う。興味深くも痛々しい一時期を。
ところで、ビリーには軽い発音障害と、女性のみならず男性にも性的に惹かれてしまうという悩みがある。しかも、女性に惹かれる場合も、同世代の女の子たち(たとえば親友のエレイン)にではなく、母親ほども年の離れた大人の女性に惹かれてしまう。
これは性をめぐる小説で、当時禁忌とみなされていた、同性もしくは両性愛者に対する、善良な人々の不寛容をめぐる小説でもあるのだが、その不寛容で善良な人々のなかには、当事者たちも含まれる。というか、当事者たちこそが、まっさきに自分の不寛容と直面する。
そして、でも、図書館には本が、演劇クラブには芝居が、学校にはレスリングがあって、世界は物語に満ちている。彼らの日々には家族がいて友達がいて、その後はもちろん恋人(たち)もできる。別れがあり、再会があり、時の流れがあり、戦争があり、エイズがあり、変化があり、この世のすべての出来事の、圧倒的な一回性がそこにはある。読んでいてめくるめくのは、その一回性のためなのだろう。
なんといってもすばらしいのは、汁気たっぷりの登場人物たち(そしてディテイル。そして言葉)。演劇クラブの「女優」で、いつも観客を沸かせる「お祖父ちゃん」や、「もっとも美しい体のレスリング選手」であり、全編を通して強烈な存在感を放つ「キトリッジ」(「彼の陰茎は右腿に沿って曲がる傾向があった、というか、異常なほど右を向くように見えた」)。ビリー同様に発音障害があり(彼は時間(タイム)という言葉を口にできない)、のちにビリーとヨーロッパ旅行をする、やさしい「トム」。少年ビリーのポケットや靴のなかに、しょっちゅうスカッシュのボールを隠しては見つけさせ、「ああ、そのスカッシュボールをあちこち探していたんだよ、ビリー!」と言う「ボブ伯父さん」。「舞踏室みたいじゃない」ヴァギナの持ち主で、ビリーの親友の「エレイン」。彼女とビリーの関係は、この小説を貫く光だ。「僕は君のヴァギナ、大好きだよ!」たとえばビリーが彼女にそう言うときの、言葉のまっすぐな届き具合はうらやましいほどだ。ビリーは彼女と何かしようとしているわけでは全然なく、ただ事実として、文字通りの意味で言っているのだが、女性にそう言える男性は滅多にいないし、男性にそう言ってもらえる女性も滅多にいない。
おもしろかったー。
文字通り、心からそう思う。

(えくに・かおり 作家)

目次

1. 不首尾に終わったキャスティングコール An Unsuccessful Casting Call
2. 不適切な相手に惚れる Crushes on the Wrong People
3. 見せかけの生活 Masquerade
4. エレインのブラ Elaine's Bra
5. エズメラルダと別れる Leaving Esmeralda
6. 私の手元にあるエレインの写真 The Pictures I Kept of Elaine
7. 私の恐ろしい天使たち My Terrifying Angels
8. ビッグ・アル Big Al

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