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数学が見つける近道

マーカス・デュ・ソートイ/著 、冨永星/訳

2,640円(税込)

発売日:2023/03/29

  • 書籍
  • 電子書籍あり

「コスパ」や「タイパ」が気になるあなたに数学者が贈る、思考の「倍速術」。

1から100までの整数を全部足せ――後の大数学者ガウスが九歳の時に一瞬で解いたというこの問題も、ちょっとしたコツ=近道で、同じ答えにすぐたどり着ける。長い歴史の中で数学が発見した思考の節約術を用いて、時間をもっと豊かに使おう。パンデミック時代の新しい人生の楽しみ方も教える、ユニークな科学エッセイ。

目次
出発
第一章 パターンを使った近道
ちょっと一息 音楽
第二章 計算を使った近道
ちょっと一息 起業
第三章 言語を使った近道
ちょっと一息 記憶
第四章 幾何学的な近道
ちょっと一息 旅
第五章 図解を使った近道
ちょっと一息 経済学
第六章 微分を使った近道
ちょっと一息 美術
第七章 データを使った近道
ちょっと一息 セラピー
第八章 確率を使った近道
ちょっと一息 金融
第九章 ネットワークを使った近道
ちょっと一息 神経科学
第十章 不可能な近道
到着
謝辞
訳者あとがき
索引

書誌情報

読み仮名 スウガクガミツケルチカミチ
シリーズ名 新潮クレスト・ブックス
装幀 Hiroshi Haruyama/イラストレーション、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 384ページ
ISBN 978-4-10-590187-5
C-CODE 0398
ジャンル 科学、サイエンス・テクノロジー
定価 2,640円
電子書籍 価格 2,640円
電子書籍 配信開始日 2023/03/29

書評

数学とは「ずる」である

読書猿

 若い頃、学校の授業や受験勉強で苦しめられてきた我々は、その記憶トラウマのせいか、まとわりつく悪感情に邪魔されて、数学をフラットな目で見ることが難しい。
 学校を離れ「数学と無縁の暮らし」を重ねる中で、無事に逃げ果せたのだと安堵して「数学なんて、これまで私の人生に何の関係もなかった」とうそぶく人もいる。
 そうした人も本当は、自分が正しいことを言っていないと薄々感じている。
 今も、あなたや私がほとんど意識することなく「数学と無縁の暮らし」を続けていけるのは、誰か(もしくは何か)が代わりに数学をしてくれているからだ。虚数や三角関数を知らなくても、買ってきた電化製品をコンセントに差し込めば使うことができるのは、設計者や電気の理論を考えた人たちが数学を代行しているからだ。代行してくれるのは人だけではない。例えば、車や携帯電話に組み込まれたGPSは、不断に連立方程式を解き続けて、我々の位置を算出している。
 しかも、ヒトと数学との付き合いは、文字のそれよりも古い。例えば、およそ数万年前のものと推定される、アフリカ・コンゴで発見された後期旧石器時代の骨角器「イシャンゴの骨」は、刻み目の数が素数や掛け算を示しているとも言われる。またメソポタミア文明の遺跡から発見された、球、円盤、円柱、三角錐、円錐など様々な形をした粘土玉は、計算に使われていたトークン(計算玉)であることが分かっている。これは同文明が生んだ最古の文字(ウルク古拙文字)に先行するものだ。
 苦しみ以外何も与えないのなら、どうして数万年もの間、人類は数学を手放さなかったのか。
 その答えは明らかだ。数学は役に立つ。それはもう、憎たらしいくらい圧倒的に、それも社会の隅々に至るまで広範に。
 その強力さの正体を、本書の著者は端的に「近道(ショートカット)」と呼ぶ。
 数学という「近道(ショートカット)」を使えば、たとえば5分かかる計算が1秒でできる(子ども時代のガウスのように)。時間が短縮できるだけでなく労力も大幅に削減できる。端的に言えば楽ができる。
 横並びの勤勉さを尊び、社会正義よりもポリティカル・コレクトネスよりも「ずるい」という感情を優先する我々の社会では、もう少し解説が必要だろう。
 かつて小学生だった時分、何かで読んで知っていた1から100まで足し合わせた答えを一瞬で出すガウスの方法を披露した時、受けた罵倒を覚えている。クラスメイトは一斉に「ずるーい!!」と声をあげた。
 ご安心を。教師はちゃんとこう言ってくれた。
「そうです。でも数学は、やってもいい『ずる』なんです」
 数学は、5分かかることを1秒でできるようにするだけではない。何百年かかるかもしれない道のりが10年で済むようにできるなら、一生行き着けないはずの場所にも届くだろう。そうなれば人生が変わる。社会が変わる。
 例えば、もしも微積分がなかったら、微分方程式を知らなかったなら、我々は未だに月に届いていないかもしれない。
 我々は、数学という近道が変えた世界、今もなお変えつつある世界に生きているのだ。
 世界を支える無数の「ずる」について、誰かに代わりにやってもらうという「ずる」を我々は駆使して生きている。
 しかし、できるなら「ずる」を我が物にして、自分の身の回りのことや、時々やらなくてはならない重大ごとについて、もっと早く楽にできる、より高次の「ずる」を身につけることができたら、素晴らしいことではないか。
 数学のあらゆる分野に精通することはできなくとも、身の回りにある「ずる」の正体を知ることなら、できるかもしれない。我々の目からは普段「ブラックボックス」になっている「ずる」の蓋を開き、その内で数学がどんな仕事を担っているのか、まずは知るところからだ。
 そのために、ここにうってつけの書物がある。ガイドは、アカデミックな科学の世界と一般市民をつなぐことを任務とする2代目「科学啓蒙のためのシモニー教授職」のマーカス・デュ・ソートイ。『素数の音楽』以来、優れた数学ないし科学の啓蒙書を書いてきた著者は、今度も読者の期待を裏切らない。
 加えて、これまでの啓蒙書と異なるのは、今回の本『数学が見つける近道』が、すぐに役に立つ「ずる」に満ちた、バリバリの実用書でもあることだ。
 これが実用書を書いてきた評者が、書評を引き受けた理由である。

(どくしょざる 独学者/作家)
波 2023年4月号より
単行本刊行時掲載

短評

▼Miyauchi Yusuke 宮内悠介

いまのところ、人間にしかできないこと――怠けろ、そして近道を見つけろ。コンピュータが膨大な総当たり的な計算ができるのに対し、人間ができるのは、よりよい方法の発見、つまり近道を見つけ出すこと。ガウスをはじめ、数学者たちは近道を発見する名人でもあった。「近道」をキーワードに、広い数学の世界の旅がはじまる。三角関数はなんの役に立つ? 微分は? 幾何学は? 確率や統計は?――数学における近道はこんなにも美しい。数学の詩を見つけ出す名手、マーカス・デュ・ソートイによる新しい数学的思考の入門書。


▼Michael Rosen マイケル・ローゼン[作家]

数学は延々と時間をかけて物事を理解する、とにかく長ったらしいものだ、と思っているあなたに、マーカス・デュ・ソートイはまさにその逆だということを示す。ユーモアや物語が満載でごく軽いタッチの、これは世界一手際のよい肩すかしや予想外のひねりや役に立つ切り口の遊覧旅行だ。


▼Guardian ガーディアン紙

それぞれの章で、代数学、幾何学、確率論などの現実世界への応用が鮮やかに描写されている。結局、もっとも賢い所見を提示するのはデュ・ソートイだ。


▼Financial Times フィナンシャル・タイムズ紙

科学者をはじめとする人々が数学的なアイデアを使って問題を解いていく、生き生きとした歴史的な例が詰まっている。

著者プロフィール

1965年ロンドン生まれ。オクスフォード大学数学研究所教授、リチャード・ドーキンスの後任として「科学啓蒙のためのシモニー教授職」も務める。英ロイヤル・ソサエティ・フェロー。多数の専門書執筆のほか、新聞・雑誌に寄稿、BBCで数学番組を監修。2001年、ロンドン数学学会が40歳以下のもっともすぐれた数学研究者に授与するバーウィック賞を受賞。初の一般書である『素数の音楽』が世界的ベストセラーに。その他の著書に『知の果てへの旅』『レンブラントの身震い』など。2010年、科学への貢献に対し大英帝国勲章が授与される。

冨永星

トミナガ・ホシ

1955年京都生まれ。京都大学理学部数理科学系卒業。翻訳家。マーカス・デュ・ソートイ『素数の音楽』、キット・イェーツ『生と死を分ける数学』、ヘルマン・ワイル『シンメトリー』など訳書多数。

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