新訳 夢判断
2,750円(税込)
発売日:2019/04/25
- 書籍
- 電子書籍あり
さあ、あなたの夢を言ってごらん――。大胆な編訳と注釈の画期的新訳。
夢とは望みを叶え、「本当の自分」が潜む場所。無気力、不眠、拭えない孤独感、新型うつ、スマホ依存、承認欲求の呪縛――21世紀のあなたの悩みはすべて、この歴史的ベストセラーによって解き明かされる。フロイトを知り尽くし、40年以上患者の夢や無意識と向き合い続けた精神科医によって蘇る、読んで愉しく寝て愉しい〈心の探検旅行記〉。
自由連想法
『イルマの注射の夢』
小さな子供たちの夢
言論人と検閲官――二つの心的なシステム
『スモークサーモンの夢』
『甥が棺に横たわっている夢』
苦痛な夢も望みを叶えている
控えめな女性の三つの夢(市場の夢、ピアノの夢、ロウソクの夢)
『ブロンド髭の叔父の夢の続き』
『フロイトのローマの夢四編』
患者たちの夢(整形外科施設の夢、走って転ぶ夢、通りで倒れ込む夢)
『トゥン伯爵の夢』
夢は、外的な刺激で目が覚めるのを防いでくれる
『三段ずつ階段を上がる夢』
愛する者が死ぬ夢(エディプス王の話、ハムレットの話)
夢のエゴイズム(四歳にもならない子のロースト・ビーフの夢、バセドー氏病の目をしたオトーの夢)
試験の夢
満ち足りた感覚で空を飛ぶ夢、墜落の怖い夢
性的な材料の象徴的表現(帽子は男性器の象徴――広場恐怖症の若い夫人の夢、建物・階段・坑道は性器の象徴――父親コンプレックスの若い男の夢、窓台は胸の膨らみ、洋梨は乳房――三十五歳の男が四歳のときに見たと言う夢)
『素敵な夢』または『サフォの夢』
『コガネムシの夢』
『イルマの注射の夢』における圧縮
コトバや名前の圧縮(ある女性患者のポレンタの夢、ある若い男の電信機の夢)
『
絵画的な表現への置き換え(視覚表現化)
『オペラの夢』
割り込みは条件の従属節
因果関係が序論の夢と本論の夢として表現される
『花を通しての夢』
「これかあれか」は、「これもあれも」と表現される
同一視と合成
対立関係の表現
『私に盗みの嫌疑が掛かっている夢』
夢の明瞭性
訳が分からない夢(堆肥桶の夢、「ここは拭い取られています」の夢、切れ目のある夢、曖昧になり途切れる夢、旧約聖書「ファラオの雌牛と穀物の穂の夢」)
会話のことば(退散するweggehenの夢)
『
『父が死後にマジャール人を政治的に統一した夢』
『市役所から支払い請求の手紙が来る夢』
『M氏がゲーテから論難される夢』
『M教授が「私の息子、あの近視が」と言う夢』
夢の中の判断、覚醒時の夢に対する意見・気分はすべて夢の一部
『老ブリュケ教授の命令で自分を解剖する夢』
『パネトゥと一緒に病院へ行く夢』
感情の抑制(海辺の城、または朝食船の夢)
感情の反転(丘の上の便所の夢)
感情を巡るその他の話題
予告されていた『non vixit 彼は生きていなかったの夢』の解明
二次的加工と意識的な白昼夢、無意識のファンタジー
ファンタジー(飲み屋で逮捕される夢)
二次的加工と圧縮・置き換え・視覚表現化
夢が作られる過程のまとめ
夢解釈の技法
睡眠状態は検閲の働きを弱めることで夢形成を可能にする
夢判断における連想という方法について
昼間に夢解釈をするとはどういうことか
心的なシステムの構想
システムとしての意識、前意識、無意識
夢のシステムと退行
ヒステリーの幻覚と退行
幼児記憶と夢の視覚イメージ
結論
嫌な夢も願いを叶えている――“感情の禁圧”の仕組み
処罰される夢――「わたし」の望み
夢は昼間の苦痛な考えの名残を如何に処理するか(息子の士官団から送金があった夢)
資本家の比喩と代理――“転移”の仕組み
無意識のシステム上の働き
無意識の望み、前意識の望み
完全な覚醒をもたらす不安夢――不安の心的過程、“無意識システムの禁圧”の仕組み
病気ではない若者たちの不安夢(私自身の不安夢、前年重い病に伏していた二十七歳男性の夢、デバカー医師の症例――夢を見た当時十三歳だった少年の夢)
潜在的思考は昼間作られ、夜間に「夢の仕事」を受けること。
注意という心的機能のこと。そして“思考の禁圧”の仕組みについて
一次過程と二次過程。“抑圧”の仕組み。そして不快“回避”原則
意識と二つの無意識システム
ヒステリーと意識・無意識の問題
結語――夢は過去に由来し、未来へと導く
書誌情報
読み仮名 | シンヤクユメハンダン |
---|---|
シリーズ名 | 新潮モダン・クラシックス |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 464ページ |
ISBN | 978-4-10-591007-5 |
C-CODE | 0398 |
ジャンル | 心理学 |
定価 | 2,750円 |
電子書籍 価格 | 2,750円 |
電子書籍 配信開始日 | 2019/10/04 |
インタビュー/対談/エッセイ
2019年小宇宙の旅
フロイトの『夢判断』の翻訳を終えた日、作業中に溜まっていた資料やらメモやらを片付けていたら、その下から『宇宙百科事典』が出てきました。スミソニアン博物館の人が子供向けに作った図鑑です。開いてみると! A3よりちょっと大きい見開きいっぱいに、美しいCGによる宇宙空間が広がっています。多分、この絵が気に入って衝動買いし、そして、それっきりになっていたのでしょう。
改めてページを繰っていると、星の点在する暗い空に浮かぶケーキ状のものが描かれた不思議な絵が現れました。三つのスライスに切り分けられています。一番小さいのには輝く銀河や星雲がトッピングされていて4%と書いてある。もう少し大きいスライスは23%で、紫の引っかき傷のようなものが数条ついている。そして最大のピースは稲妻模様の73%。何の絵なのだろうと、横っちょについている説明を読むと、「我々が宇宙で見ることができるガスや星、銀河はそこにあるもののうちの4%にすぎません」。宇宙の全質量の4%ということですかね。「23%は見えないものです。見えなくても、見えるものを重力によって引っ張っていることが観察されるので、あると分かるのです。天文学者はこれを暗黒物質と呼んでいます」。そして「宇宙は加速しながら膨張していますが、そのために使われているエネルギーが73%になります。直接観測できないこの不思議なものは暗黒エネルギーと呼ばれています」。何の注もなくエネルギーと質量が等価なことが前提になっていますが、それでも子供は理解するのでしょう。アインシュタインだってE=mc²を見つける前に等価だと直感して、計算を始めたはずですし。
しかし……この大宇宙の話って、なんだか『夢判断』に描かれている心の話と似てません? フロイトは、意識とは「心的過程を知覚するだけの器官」だと明言しています。つまりは、我らが小宇宙(古代ギリシアの語法が蘇ります)を観測する望遠鏡だということですよね。それを通して見えてくる夢のねじ曲がり具合から、「見えない」潜在的な思考や感情の存在を知ることができる……。
具体的には、「自由連想法」を使います。この技法、本来は、治療面接で用いられるもので、思考・コミュニケーションのシステムとしては、独り言すなわち内話(言葉を思考に変換する過程)を人に話すときの外話(思考を言葉に変換)として出力する/させるという普通にはない特殊な状況を作り出します。しかし、こと自分の夢判断をするだけなら簡単。相手がいない、つまりシステムを複雑にする外話のループが不要だからです。『夢判断』の実例をお手本に、朝起きてすぐにノートに夢を記録し、その後、時折その記録を見ては新たに思いついたことや思い出したことを虚心に(ここがポイントです)書き足して行くだけ。簡単なのです。少年少女たちが本物の望遠鏡を調整できるようになるほどには練習が必要ですが、幸いなことに、あとは、望遠鏡を夜空に向けて覗くほど易しい。そして、いざ覗いてみたら! 今まで心のダークマターやエネルギーのせいでねじ曲がって、まるでちゃんと見えていなかった自分の姿が見えてくるのです。
それで? どうなるかというと、嬉しいことに、かなり夢見が良くなる。夢が願いを叶えてくれるのを繰り返し経験していると、その経験自体が夢に取り込まれて、歪曲が簡単かつ素直になるからです。そこで心安らかに眠ることができ……いや、床に就くのが楽しみにさえなります。さあ、今日はどんな夢でどんな願いが叶えられるのやら、と。もちろん、これで満足していないで、ノートへの記録・自由連想を続ければ、自分は本当は何をしたいのだろうというモヤモヤが取れて、気分がすっきりとしてきます。
それにしても……時代が変わったものだとつくづく思います。フロイトがきっかけとなって、以来百年、人々は自分の内奥への関心を深め、十年二十年前には自分探しと称して闇雲に旅行に行ったりセミナーを受講したりするまでになりましたが、ついに! 多くの人がもっと簡単な手立てでもっと確かな小宇宙探検をすることができるようになったのです。随分な遠回りだったという気がしなくもありませんが、フロイトを理解するのに必要な、「見えるもの」を「見えないもの」との関係の中で捉えるという考え方に人々が慣れるのには年月が必要だったのだと思います。天文学だって、ダークマター承認の歴史は、ちょっと似たようなものだったようですし。
(おおひら・けん 精神科医)
波 2019年5月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
フロイト
Freud,Sigmund
(1856-1939)1856年モラヴィアのフライベルク(現チェコ)生まれ。父は貧しいユダヤ羊毛商だった。ウィーン大学卒業後、病院勤務や大学講師を経て、ウィーンで開業医となる。人間の心の大部分は無意識の領域であることを発見、従来の催眠治療に代わる「自由連想法」による治療技術としての精神分析を確立。その理論は社会的に反発も多かったが、徐々に浸透し、20世紀前半の思想界、文学界等に与えた影響は測り知れない。主な著書に『夢判断』『精神分析入門』など。ナチスを逃れ亡命先のロンドンで1939年に病死。
大平健
オオヒラ・ケン
1949年鹿児島生まれ。精神科医。幼少期をピッツバーグで過ごした帰国子女のはしり。東大医学部卒業後、しばらくしてペルーに1年間滞在し貧民街で診療、帰国後は聖路加国際病院に勤務し2014年まで精神科の部長を20年近く務めた。『診療室にきた赤ずきん』(新潮文庫)に描かれているように、薬ばかりに頼るのではなく、患者の話の中からヒントを得て症状を根本的に快復させることを実践してきた。ベストセラーになった『豊かさの精神病理』『やさしさの精神病理』や、『動物がお医者さん なぜペットはヒトを幸せにするのか』『治療するとカワイクなります 生きがいの精神病理』など著書多数。2019年4月現在は悠々自適。