ホーム > 書籍詳細:宇野千代 女の一生

宇野千代 女の一生

宇野千代/著 、小林庸浩/著 、他

1,540円(税込)

発売日:2006/11/24

  • 書籍

結婚3回、引越し20回。“人生に恋した女”に、幸せとは何かを学ぼう。

「泥棒と人殺しのほかは何でもした」。桜の着物の似合う恋多きひとは、作家として、着物のデザイナーとして、98年の生涯を夢中で駆け抜けた。恋愛、放浪から、暮らし、食卓、ファッション、宝物、本の装いまで、宇野千代流生き方の全貌を紹介。美しく、凛々しく、明日を見つめて生きるための“手ほどき”が、ここに詰まっている!

目次
大振袖の「千代桜」。岐阜県根尾谷に咲く淡墨桜をイメージした意匠で、千代の最後のデザインとなった。
宇野千代は「最も善く出来た田舎者」?
彼女がヘア・スタイルをよく変える訳
別れも引越しも、また愉し
Ⅰ 幸せを呼ぶ、千代流暮らしのスタイル
この単純な暮らしが、私は好き
お洒落は文明人の義務である
桜の花は故郷の花
一日も休まず、机の前に座る
麻雀のない人生なんて
熱中する、夢中になる、そして何かが始まる
II 心をかけた自慢の料理
故郷の味 岩国料理
創意工夫のお惣菜
III 創る喜び、着る楽しみ きもの図鑑
幸せの「桜吹雪」をまとった米寿祝い
一二九枚の古ぎれを繋いだモダン「切りばめ」
お気に入りコーディネート集
IV 日本初のファッション雑誌「スタイル」創刊
天才編集者、宇野千代誕生
戦時色に染められて 「女性生活」
女たちは待っていた 「スタイル」復刊
暮らしに着物を 「きもの読本」
Ⅴ いつだって幸せ、夢中の人生  文=保昌正夫
故郷岩国から十八歳で踏み出した放浪人生
尾崎士郎との結婚生活に、馬込文士村は華やぐ
東郷青児との暮らしは、出会ったその日から始まった
文学と「スタイル」と北原武夫に、情熱を傾けた日々
パリへ、シアトルへ、吃驚仰天の欧米旅行
別れを乗り越え、「淡墨の桜」のように生きて行く
VI これが私の「家宝」です
天狗屋久吉の阿波の人形
小林秀雄の生原稿と肖像画
青山二郎の煙管と灰落とし
谷崎潤一郎の朱塗りの箪笥
パリが結んだ友情
好きなものに囲まれる安らぎ
友人たちからの手紙
VII 本の装い
モダンな香りに包まれた本
青山二郎の美しい装幀
桜、花、小紋で飾る
特装本の世界
主な著作リスト
年譜 駆け抜けた九十八年の軌跡
[先生との36年] 藤江淳子
〈1〉お洒落しないのは泥棒よりひどい
〈2〉自分の惜しいものを人にあげなさい
〈3〉凝り性だけど、飽きっぽい
〈4〉涙なんて、涙腺の問題
〈5〉忘れられない「カニカマ事件」
〈6〉生き方も、着物も、すべて宇野千代流
〈7〉東郷先生の最期のポケット

書誌情報

読み仮名 ウノチヨオンナノイッショウ
シリーズ名 とんぼの本
発行形態 書籍
判型 A5判
頁数 128ページ
ISBN 978-4-10-602150-3
C-CODE 0390
ジャンル 文学・評論、ノンフィクション
定価 1,540円

書評

“あなた色”に染められる、というすごさ

香山リカ

 恋をして、おしゃれをして、いつも人の輪の中心にいて。人々がイメージする“女流作家”そのものの人生を送った宇野千代。「そう生きてみたいか?」ときかれたら、これまでの私は「いえ、とんでもない」と答えただろう。“女流”という肩書きなしでもこの社会の中で生きていけるようになりたい、というのが、私のような、雇用機会均等法世代というのか、今の40代、30代のこだわりだからだ。着物を着ていれば「きれい」と言われるのはあたりまえ、でも自分はたとえジーンズ姿でも内容で評価される人間になりたい、などと思っていた私は、これまでなら宇野千代的世界が花開くこの《とんぼの本》など手に取らなかったかもしれない。
 ところが、50代もすぐ目の前に迫ってきたという個人的理由によるのか、あるいは21世紀になって形の上では男女平等もかなり実現されたからなのか、最近になって、自分が少し変わってきたのを感じる。ピンクや赤の小物や洋服、きちんとした化粧、手のこんだ料理や調度品などに対して、素直に「へえ、いいじゃない」と言えるようになってきたのだ。もちろん、いわゆる“恋多き女”に対しても。
 そんな今だからこそ、この《とんぼの本》も楽しく読めた。「この私と言う女は、お洒落の中でもお洒落の親玉であるように言われて来たが」といった屈託のない“宇野千代節”におおいに笑い、「相手に百パーセント合わせるのが千代の恋のつね」といったくだりには「たまにはそれも楽しいかも」とクスリと笑った。
 それにしても、恋をするたびに“あなた色”に染まっていくといっても、その染まり方がただことではない。尾崎士郎との結婚で文士生活にすっかり馴染み、東郷青児との生活では欧風モダンに開眼。そして、次に結婚した北原武夫氏からはフランス小説の薫陶を受け、彼の発案で創刊された『スタイル』誌では編集者兼モデルとして大活躍。夫や恋人のライフスタイルやセンスを真似ているうちに、いつのまにか本人以上にそれになりきり、ついに発信者にまでなってしまう。
 しかし、こういう生活にはひとつ落とし穴がある。華やかさの中心にいながら多くの人に注目され続けていると、いつか「本当の自分ってなに?」という問いに直面し、心のバランスを崩すことにもなりかねないのだ。そして突然、華やかなシーンから退き、「地に足のついた生活を」と田舎で畑仕事などを始める人もいる。
 ところが、宇野千代のすごいところは、そのときどきで恋やおしゃれを楽しむ、という生き方を終生、続けたことだ。住まいもずっと南青山。「本当の私ってなに?」などという無粋な問いに心のバランスを崩すこともなく、いつも移りゆく時代、流行、華やぎの中心でい続けた。「人生の晩年には自分を見つめて原点に帰る、などという必要はないんですよ」ということを、彼女は身をもって示してくれたような気もする。本当の私も、作りもの、真似っこの私も関係ない。
 こうやって考えてみれば、そもそも私の世代が“女流”ということばに抵抗を覚え、必要以上に女性的な装いや化粧などを拒絶しがちなのも、「女らしくすることで“本当の私”でなくなるから」という強迫観念とどこかで関係しているのではないか。ピンクのフリルのブラウスでにっこりすればとりあえずまわりからは愛されるだろうが、いつか「これって本当の自分じゃないのでは?」という落とし穴に落ちてしまうかもしれない。そういうおそれが、多くの女性たちの生き方を不自然かつ不自由なものにしている。
 宇野千代の人生は、「本当の私ってなに?」という疑問や「私ってにせものでは?」というおそれとは無縁に見える。それらから解放されていたからこそ、彼女はときに“あなた色”に染まってみたり、ピンクの桜がちりばめられた着物姿で妖艶にほほ笑んでみせたりできたのだ。心の底からそうしたかったのか、それとも自己演出のひとつだったのか、それは誰にもわからないし、またどうでもいいことだ。私たちはただ、このヴィジュアル資料もいっぱいの《とんぼの本》でその楽しげな世界を垣間見て、「わあ、うらやましい。こんな風に生きられたらいいわね」と言えば、それでいいのではないだろうか。

(かやま・りか 精神科医・帝塚山学院大学教授)
波 2006年12月号より

千代自慢の一品|日本初のファッション雑誌

故郷岩国の郷土料理「岩国鮨」。千代自慢の一品で、伊万里の大皿に盛って客をもてなした。
昭和11年、日本初のファッション雑誌「スタイル」創刊当時の編集室にて。

担当編集者のひとこと

 桜の着物の似合うひと。いっぱい恋をしたひと。とっても長生きをしたひと……。
 宇野千代さんは、明治30(1897)年、山口県の岩国に生まれ、名作「おはん」を生んだ作家として、着物のデザイナーとして、98年の生涯を、夢中で駆け抜けました。
 その一生は、結婚3回、引越し20回。「泥棒と人殺しのほかは何でもした」と自ら有名な台詞を残すほど、波乱万丈。しかし、いつだって明日より先を見つめながら、日々を歩んできました。机に向かわない日は一日たりとてなく、生涯現役。シンプルに、自然体で、飾ることなく、恋も暮らしもつねに前向きに楽しんだのが、宇野千代さんです。

 たとえば、“華やかな男性遍歴”を云々されますが、千代の恋は、身勝手な男たちに尽くした挙句に振られるパターン。いいえ、真実は、男から別れを切り出せるように仕向けてやって、自分はどんなに辛くても男を追わないのが宇野千代流。これぞ女の中の女、「恋愛の武士道」なのではないでしょうか。
 本書では、宇野千代の放浪、恋愛から、暮らし、食卓、ファッション、旅、宝物、交友、そして本の装幀まで、“人生に恋した女”のすべてを美しいヴィジュアルとともに紹介します。美しく、凛々しく生きるとは、どういうことなのか。「本当の幸せ」とは何なのか。そのヒントがたくさん詰まっています。
 明日が見えない、閉塞感漂うこんな時代だからこそ、前を向いて歩きたい。宇野千代流“幸せの手ほどき”を、とくに多くの女性たちに手にとっていただければ幸いです。

2006/11/24

著者プロフィール

宇野千代

ウノ・チヨ

(1897-1996)1897(明治30)年、山口県岩国生れ。岩国高等女学校卒業。1921年処女作『脂粉の顔』が「時事新報」の懸賞小説で一等に当選。1922年上京、尾崎士郎や東郷青児との恋愛・同棲のあと1939年北原武夫と結婚、1964年離婚。1957年『おはん』で野間文芸賞、女流文学者賞を、1982年「透徹した文体で情念の世界を凝視しつづける強靱な作家精神」によって菊池寛賞を受賞。著書に『色ざんげ』『風の音』『雨の音』など多数。現役の最長老作家として1996年6月10日急性肺炎で死去。

小林庸浩

コバヤシ・ツネヒロ

1943年、東京生まれ。写真家。大判のカメラで、染織、やきもの等の工芸や茶の湯、料理、骨董の世界を中心に撮り続ける。共著に『花と器』(神無書房、1983)『アジアの布』(文化出版局、1999)『庭の旅』(TOTO出版、2004)『白洲正子の贈り物』(世界文化社、2005)など。

この本へのご意見・ご感想をお待ちしております。

感想を送る

新刊お知らせメール

宇野千代
登録
小林庸浩
登録

書籍の分類