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カムイの世界―語り継がれるアイヌの心―

堀内みさ/著 、堀内昭彦/著

2,200円(税込)

発売日:2020/03/25

書誌情報

読み仮名 カムイノセカイカタリツガレルアイヌノココロ
シリーズ名 とんぼの本
装幀 新潮社装幀室/ブックデザイン、nakaban/シンボルマーク
発行形態 書籍
判型 B5判変型
頁数 127ページ
ISBN 978-4-10-602292-0
C-CODE 0339
定価 2,200円

アイヌ文化の深層に迫る、初のビジュアル入門書!

かつて、文字文化を持たなかったアイヌが、代々語り継いできた精神と伝統を、現在の語り部たちの「言葉」を丁寧に聞き取った紀行文と、守り継がれてきた儀式や聖地、そして北海道の大地に宿るカムイを求めて撮った美しい写真で紹介。今に生きるアイヌの魂を探す旅。

目次
カムイ 神
カムイノミ 祈り
コタン 集落
シンヌラッパ 先祖供養
アシチェノミ サケ迎え
サンケ 舟下ろし
ユカ 叙事詩
チャランケ 談判
ケウタンケ 無念の声
アイヌ 人間
アイヌ関連地図
アイヌ語小辞典
コラム
神様につながる携帯電話 イクパスイ
神宿る住まい チセ
神様へのプレゼント イナウ
ヌタカタ
伝統の織物 アットゥ
アイヌ文様を刻んだお盆 イタ
嬉しいときも悲しいときも歌い踊る ウポポとリ
伝説
「オッパイ山」の伝説
この世とあの世をつなぐ洞窟 「アフンルパ
オプヌプリの伝説
カムイコタンの伝説
層雲峡の伝説
イヤイライケレ

書評

「生き方」の哲学

香山リカ

 私は北海道小樽市の出身だ。小学校の授業でもらった「郷里の歴史」のプリントには、こんな説明が書かれていた。
「『小樽』という地名は、アイヌ語の『オタ・オル・ナイ』(砂浜の中の川)から来ています。『札幌』は、市内を流れる豊平川を『サト・ポロ・ペッ』(乾いた大きい川)と呼んだことに由来しています」
 空想力がたくましかった子ども時代、目をつぶると、現代の小樽や札幌の街が消え、川が作り出した平地にアイヌがチセ(住居)を作り、儀式で踊りを踊っているような映像が目に浮かんだ。
 しかし当時はそれ以上、授業でアイヌの歴史や文化について学ぶ機会はなかった(現在は学習指導要領で小学6年の社会科教科書に「アイヌに関する記述を盛り込む」ということになっているのだそうだ)。そのため、私の空想はいつもそのシーンだけで終わってしまうのだった。
 それから数十年。「アイヌについてもっと学びたい」と思って関連書籍を見つけて手に取りながらもなかなか知識を深めることができないまま、今に至っている。そのかたわらで、昨今は明治末期の北海道を舞台にした漫画『ゴールデンカムイ』の大ヒットにより、若者や子どもがアイヌ文化に興味を持つようになった。この春には北海道に大規模なアイヌ・ナショナルセンター「ウポポイ」もオープンの予定である。そのタイミングで、とんぼの本からアイヌをテーマにした一冊が出た。これは読まないわけにはいかないだろう。
 一読して、まず北海道の自然の荘厳さに息を呑む。山、森、川、浜、それらはたしかに私がかつて生活していた北海道の一部であるはずなのに、まさにそこに「カムイ(神)が棲んでいる」と思わされる奥行きがあるのだ。なぜなのか。それはもちろん、自然を撮影した写真の間のページにアイヌの歴史、文化、生活様式がふんだんにつづられているからだ。
 たとえば、アイヌのサケ漁の儀式「アシチェノミ」。アイヌにとってサケは主食にあたる大切な食糧だが、この儀式は豊漁を願うためのものではないという。本文のアイヌの言葉から引用しよう。
「いいかい。アイヌは豊漁や大漁を願わない民族だ。サケが上がってくれてありがとう。それだけだ。そこを勘違いしないでほしい」
 また、サケ漁で獲れたサケにとどめを刺すことは、「サケを送る」と言われる。利益や人間どうしの競争のためではなくて、食糧として必要だからその分だけを獲り、心を尽くしてその魂をカムイの世界へ「送る」。
 カムイが宿る自然には畏敬の念を抱く一方で、小さな存在である人間どうしは「何でも分け合う」。たとえ団子が一つしかなくても「みんなで等分に分ける。それがアイヌの精神なんだ」という。本書を読み進めていくうちに、アイヌとは民族であると同時に、「生き方」の哲学だとわかった。経済合理主義に毒された近代人が見ると「なぜサケをいっぺんに大量に獲る工夫をしないのか」「アイヌに大金持ちがいないのはおかしい」となるが、それはアイヌの「生き方」とは違うのだ。
 これほど豊かで、今だからこそ見直されるべきアイヌの世界だが、これまで歴史上、ふたつ大きな悲劇を経験している。ひとつは、明治政府による北海道植民地化や「旧土人保護法」の施行でアイヌの暮らしや言語、風習がすべて奪われ、禁じられ、差別を受け続けたことだ。そしてもうひとつは、そんな中でも生き残ったアイヌが自分たちの存在を主張し、やっと法的にもアイヌ文化の保護、さらにはアイヌが日本の先住民族であることが認められようとしている今、一部の心ない人たちから「アイヌなんてもういない」といった声が上がっていることだ。「生き方」であるはずのアイヌが、政治問題化してしまわざるをえなくなっている。
 そんな声の影響を受け「アイヌって昔の人たちでしょ?」と思っている人にこそ、ぜひ本書を開いてほしい。自然へのおそれと共存。先祖への感謝。謙虚さと分かち合い。「私に欠けているものはこれだった」と気づくはずだ。そして、私と同じように、アイヌの豊かな世界に触れたことが心からのよろこびをもたらすだろう。

(かやま・りか 精神科医)
波 2020年4月号より

著者プロフィール

堀内みさ

ホリウチ・ミサ

東京女子大学日本文学科卒。1990年に北海道に移住し、クラシック音楽のジャンルなどで執筆活動を展開。2009年からは奈良にも拠点を置き、日本の伝統行事や音楽、文化などの取材、執筆も行う。2020年3月現在は北海道と奈良の二拠点生活。主な著書に『ショパン紀行―あの日ショパンが見た風景』(東京書籍)、『ブラームス「音楽の森」へ』(世界文化社)、『おとなの奈良 心を澄ます旅』『おとなの奈良 絶景を旅する』(ともに淡交社)など。

堀内昭彦

ホリウチ・アキヒコ

写真家。兵庫県西宮市出身。書籍や雑誌のグラビア等で活動。1990年に東京から北海道へ移住。北海道の風景、ヨーロッパの風景、文化を中心に撮影。2009年から奈良との二拠点生活。日本の風景や文化、祈りをテーマに加える。著書に『ショパンの世界へ』(世界文化社)、『おとなの奈良 絶景を旅する』(淡交社)他がある。

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