
真っ当な日本人の育て方
1,430円(税込)
発売日:2006/06/23
- 書籍
戦後、アメリカから輸入された「育児の常識」が、日本人をダメにした。救国の育児論。
少年による犯罪、モラルの崩壊、弱者に向かった凶悪事件……。「壊れた日本人」の出現は、永年受け継がれてきた日本ならではの育児法が、戦後なくなってしまった結果だった。抱き癖をつけよう。善悪を理屈で教えてはいけない。浮気は厳禁。保育所へはなるべく行かせない――等々、ベテラン小児科医がたどりついた日本人に合った育児法。
引用文献
書誌情報
読み仮名 | マットウナニホンジンノソダテカタ |
---|---|
シリーズ名 | 新潮選書 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 256ページ |
ISBN | 978-4-10-603566-1 |
C-CODE | 0337 |
ジャンル | 妊娠・出産・子育て |
定価 | 1,430円 |
書評
波 2006年7月号より 育児の哲学書 田下昌明『真っ当な日本人の育て方』
著者は、これまでに接した子供の患者が五十万人、キャリア四十年の現役の小児科医である。昨今、どうも母子の関係が希薄になってきた、いびつな心の青少年が増えてきた、という日頃の実感の中から本書は生まれた。なぜ、そうなったのか、そうならないためには何をなすべきか。
人間は文化の中に生まれ落ちる。文化というのは生活の型、生きてゆく上での必須の型のことだ。動物の行動パターンのように生得のものでない以上、型は代々子供に教え込んでゆくしかない。そうした文化を共有する一定のまとまりがドイツ人、日本人、アメリカ人、ロシア人、中国人……ということになる。人間は母国語の中に生まれ落ちるのと同様、文化の中に生まれ落ちるのであって、無国籍者としては生きてゆかれない。
文化がそうしたものである以上、従来どの文化も自分たちの型を次代に伝える独自な方法、育児法を有していた。しかるに戦後の日本は、昭和二十一年の「アメリカ教育使節団報告書」や四十一年の『スポック博士の育児書』にコロリと参るかたちで、自分たちの育児法を簡単に捨ててしまった。いわく、抱き癖は子供の自立心を妨げる、母乳より人工乳の方が栄養バランスがいい、と。背景にあるのは「子供には無限の可能性があるのだから、それを自由に伸ばしてやるのが教育」だとするデューイの思想で、個体であると同時に共同体に属して生きてゆくしかない人間の二面性のうち、個体性のみを重視する。かりに人間の生が個体にだけ宿るのなら、わざわざ共同体の作法を教える必要もなく、自由放任がよいことになる。
その自由放任の弊、ようやく見過ごしがたいのがニートやひきこもり、すぐにキレる青少年といった昨今の世相だという。育児の要諦は結局、共同体に属する人間、まともな日本人を育て上げることに尽きる。より正確にいうなら、そうした教育を後に受け入れることのできる素地を、妊娠期、乳幼児期に作り上げることだ。著者の提言は、つねに臨床医としての知見に裏打ちされていて具体的、まさに目からウロコの思いがする。
たとえばインプリンティング、アタッチメント理論と呼ばれるものがある。生後六ヶ月までに赤ん坊はだれが自分を保護してくれる親であるかを認識し、三、四歳くらいまでその親から十分な愛情を受けることによって成長のための核が形成される必要がある。おんぶに抱っこ、大いに結構。四六時中、母子がいっしょにいることでそれらは達成されるというから、「仕事か育児か」の選択は本来ありえないものらしい。
担当編集者のひとこと
真っ当な日本人の育て方
「壊れた日本人」の出現は、永年受け継がれてきた育児法が、戦後日本からなくなった結果である。現役のベテラン小児科医がたどりついた救国の育児論。
カツオ節をもらったら、そのまま鍋に入れてしまう。お茶といえばペットボトルに入ったものと思っているから、急須の使い方が分からない。刺身は、魚をさばいたものだと知らない。食事のおかずはスーパーやコンビニで買うのが日常——。 実はこれ、子供のことではなく、子を持つ現代の親のエピソードです。親の非常識は食に限らず、育児にも及びます。善悪を教えられない、子を叱れない、何事も他人のせいにする……。その子供たちが、やがては親となり子を育てます。そうして、次の世代の日本人が作られていきます。
家族やコミュニティによって語り継がれてきた「子供はこう育てるべき」という確固たるものが、敗戦と戦後のアメリカ文化の流入、核家族化によって、日本から消えてしまいました。
母親は寝坊せず、子供をよく抱き、夫は浮気をしない。善悪は理屈で教えず、偉人伝をよく読ませてやる——。「むずかしいことなんて、ひとつもないんですがね」と、半世紀近く育児の現場を見続けている小児科医の著者・田下昌明さんは言います。真っ当でなくなった日本人の子供や大人が、毎日のように事件を起こし、新聞をにぎわせています。
2016/04/27
著者プロフィール
田下昌明
タシモ・マサアキ
1937(昭和12)年、北海道旭川市生まれ。医学博士。医療法人歓生会豊岡中央病院理事長。北海道大学医学部卒、北海道大学大学院医学研究科修了。日本小児科学会認定小児科専門医、日本小児科医会「子どもの心相談医」、日本児童青年精神医学会会員、日本家庭教育学会理事、北海道小児科医会理事。著書に『よい子はこうして育つ』(三晃書房)、『母の積木』(日本教育新聞社)、『田下昌明の子育て健康教室』(日本教育新聞社)、『「子育て」が危ない』(日本政策研究センター)など。