貨幣進化論―「成長なき時代」の通貨システム―
1,540円(税込)
発売日:2010/09/24
- 書籍
- 電子書籍あり
マイナス金利か、ハイパーインフレか。このままでは「お金」が崩壊する。
格差と貧困、通貨危機、バブル、デフレ……なぜ「お金」は正しく機能しなくなったのか。四千年の経済史から、「右肩上がりの成長を前提としたシステム」の限界に鋭く迫るスリリングな論考。果たして、マイナス成長時代を生き抜く処方箋はあるのか? 日銀を飛び出した異色の経済学者が辿り着いた「貨幣多様化論」。
書誌情報
読み仮名 | カヘイシンカロンセイチョウナキジダイノツウカシステム |
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シリーズ名 | 新潮選書 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 304ページ |
ISBN | 978-4-10-603666-8 |
C-CODE | 0333 |
ジャンル | 経済学・経済事情、一般・投資読み物 |
定価 | 1,540円 |
電子書籍 価格 | 1,540円 |
電子書籍 配信開始日 | 2020/02/14 |
書評
波 2010年10月号より 革新的な貨幣の未来予想図
若い読者には貨幣の発生や、流通の仕組み、中央銀行が貨幣を発行するようになった経緯や貨幣の価値をつなぎとめる金本位制、金融政策の原理や貨幣発行競争の意味など、金融の基本を学んでほしい。少し歳を取って自分なりの経験もある読者には、著者の観察や評価、あるいは比喩が文章の端々に出てくる面白さも味わっていただきたい。本書が凡百の類書と違うのは、この著者独特の歴史や制度の解釈にあり、著者がこのテーマについて心血を注いで考え抜いてきたことが読み取れるはずである。
本書の中で著者の最大の関心事は、経済成長も人口成長も停滞してしまうような今後の社会では、これまでのような貨幣制度は通用しなくなるのではないかということである。実体経済の収益率を反映した「自然利子率」がマイナスになり、物価がデフレで低下しても、名目金利である市場金利はマイナスには下げられない。いわゆる「流動性の罠」にはまった状態になると、それ以上金融政策が何もできなくなってしまうという難問である。
しかし、著者は市場金利をマイナスにできるような仕組みを作ればいいのではないかと言う。ゲゼルという学者が考えた銀行券にマイナスの金利に相当するスタンプを貼るというアイディアを紹介し、それは確かに面倒だが、ICカードに記録されている電子マネーになら、マイナスの金利をつけることもそれほど難しくはないと主張している。
著者の話はさらに進んで、そのような機能をもった貨幣を自由競争で選択できるような世界を考えようではないか、そこに貨幣の新しい未来が開けるはずであると結んでいる。
著者のこの革新的で楽観的な見方は次のような確信から来ている。
「貨幣の歴史を辿りながら私が繰り返し感じていたのは、人類とは何と賢い愚者の集まりなのだろうかということです。愚かな賢者たちではありません。賢い愚者たちです。近づく脅威に気が付かず市場という名の船の上で無駄な議論と馬鹿騒ぎを繰り返す愚者の集団なのです。しかし、だから良いのです。……一人一人では間違うことの多い愚者たちも、愚者は愚者なりに試行錯誤を繰り返しているうち、やがて大きく間違わない答に到達することができる、そのことを貨幣の歴史は示しています。」
著者は、愚者の論争から自由に飛び立って、その先を見据えているという意味では、数少ない賢者である。新しい時代の貨幣について知りたければ、是非本書を手にとっていただきたい。
担当編集者のひとこと
貨幣進化論―「成長なき時代」の通貨システム―
オーソドックスでラディカルな貨幣論 むかし『エンデの遺言』という本を読んだことがあります。
『モモ』『はてしない物語』などで知られる児童文学作家ミヒャエル・エンデが、暴走するマネー資本主義を厳しく批判していたことを紹介した本です。正確な内容は覚えていませんが、「食べ物も洋服も自動車も、すべての商品は時の経過とともに価値が減っていくのに、お金だけが利息によって増えていくのはおかしいのではないか」という問題提起があって、思想家ゲゼルが考案した「時とともに減価するお金」などが紹介されていました。「世の中にはラディカルなことを考える人がいるものだな」と感心した記憶があります。
さて、本書の著者も「金利付き貨幣を導入して、金利をマイナスに設定できるようにすべき」「誰でも自由に貨幣を発行できるようにすべき」など、元日銀マンとは思えないラディカルな主張を展開しています。もっとも、長年金融政策の第一線に携わってきたリアリストだけあって、理想主義的な甘さは一切ありません。「人類は賢い愚者の集まりである」というシニカルな人間観のもと、ひたすらオーソドックスに経済史を紐解きながら、いつの間にか革新的な結論に到達していく論考は、感動的ですらあります。ぜひご一読下さい。
2016/04/27
著者プロフィール
岩村充
イワムラ・ミツル
1950年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。日本銀行企画局兼信用機構局参事を経て、1998年より早稲田大学教授(現職は早稲田大学大学院経営管理研究科教授)。著書に『貨幣進化論 「成長なき時代」の通貨システム』『中央銀行が終わる日 ビットコインと通貨の未来』(いずれも新潮選書)、『金融政策に未来はあるか』(岩波新書)など。