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貨幣進化論―「成長なき時代」の通貨システム―

岩村充/著

1,540円(税込)

発売日:2010/09/24

  • 書籍
  • 電子書籍あり

マイナス金利か、ハイパーインフレか。このままでは「お金」が崩壊する。

格差と貧困、通貨危機、バブル、デフレ……なぜ「お金」は正しく機能しなくなったのか。四千年の経済史から、「右肩上がりの成長を前提としたシステム」の限界に鋭く迫るスリリングな論考。果たして、マイナス成長時代を生き抜く処方箋はあるのか? 日銀を飛び出した異色の経済学者が辿り着いた「貨幣多様化論」。

目次
はじめに
第一章 パンの木の島の物語
一 物語の始まり
腐ってしまうパンの実を蓄える方法/助け合いから契約へ/資本市場の成立/貯蓄と投資そして利子
二 貨幣という発明
貨幣の誕生/シニョレッジの始まり/バンクの誕生/政府とバンクそして国債/未来の物語
三 最後の日の貨幣
船がやって来た/最後の日の貨幣価値/後日譚として
パネル1:ドーキンスとスミス/パネル2:文字の起源/パネル3:需要と供給そして「見えざる手」/パネル4:4000年前の利子規制/パネル5:貨幣としての宝貝/パネル6:リディアの刻印貨幣と中国の布銭/パネル7:中国の交子とストックホルム銀行券/パネル8:国債が誕生したころ/パネル9:貨幣としての銀と金/パネル10:最後の日の貨幣
第二章 金本位制への旅
一 利子は罪悪か
時間を盗む罪/成長へのギア・チェンジ/中世日本の利子感覚/ヨゼフの黄金/二つの利子率
二 金貨から銀行券へ
金貨と銀貨の時代/イングランド銀行の生い立ち/スレッドニードル通りの老婦人/そして中央銀行へ
三 金融政策が始まる
ニュートン比価と金本位制/金融政策の始まり/ビクトリアの英国/米国、遅れてきた青年
四 戦争の時代に
危機への処方箋/ドイツの奇跡とフランスの奇跡/呪縛にかかった英国と日本/そして大不況に
五 金本位制の舞台裏
黒衣はロンドンにいた/中央銀行は何をしていたのか
パネル11:ウェルギリウスに導かれて地獄を巡るダンテ/パネル12:成長へのギア・チェンジ/パネル13:中世日本人の貨幣観/パネル14:ゲゼルとケインズ/パネル15:自然利子率の発見者/パネル16:価格革命/パネル17:山田羽書と藩札/パネル18:歴史に残るバブルたち/パネル19:日本銀行の設立と銀行券/パネル20:ニュートン造幣局長官/パネル21:19世紀英国の鉄道ブーム/パネル22:ブリタニアが波頭を制した/パネル23:合衆国銀行と連邦準備制度/パネル24:図解・金兌換停止と物価のシナリオ/パネル25:ヘルフェリッヒ対ポワンカレ/パネル26:金解禁のお祭り騒ぎと反動/パネル27:高橋財政/パネル28:第二次世界大戦後の金価格/パネル29:マネタリストとフリードマン
第三章 私たちの時代
一 ブレトンウッズの世界
ブレトンウッズ体制の仕組み/幻のバンコール/黄金の六〇年代/不思議の国のSDR/日本は奇跡だったか/三六〇円という規律がもたらしたもの/そしてニクソン・ショック
二 私たちの時代
漂わなかった貨幣たち/貨幣価値とは政府の株価/金利とマネーサプライ/律義な政府と中央銀行
パネル30:フォートノックスの金保管施設/パネル31:ケインズとホワイト/パネル32:ブレトンウッズ体制の舞台裏/パネル33:IMFとSDR/パネル34:戦争経済の遺産/パネル35:焼け跡と一銭五厘の旗/パネル36:天皇とマッカーサーそしてドッジ・ライン/パネル37:ニクソン・ショックとオイル・ショック/パネル38:変動相場制移行後のインフレ率の推移/パネル39:倒産する国、しない国/パネル40:ヘリコプターとケチャップと不良債権/パネル41:変動相場制移行後の円とドル
第四章 貨幣はどこに行く
一 統合のベクトルと離散のベクトル
統合のベクトル/離散のベクトル/競争する政府たち/ユーロからの教訓
二 貨幣はどこに行く
金融政策のルール/技術と人口/フィリップス曲線の異変/水平化と消失、二つの脅威/貨幣を変えられるか/キーワードはシニョレッジ/カエサルのものだけをカエサルに
パネル42:ユーロを生み出したもの/パネル43:良貨が悪貨を駆逐する/パネル44:通貨はどこにあるか/パネル45:囚人のジレンマ/パネル46:フィッシャー方程式とイスラム金融/パネル47:テイラールール/パネル48:技術と人口/パネル49:フィリップス曲線の異変/パネル50:愚者の船/パネル51:貨幣に金利を付ける方法
おわりに――変化は突然やってくる

書誌情報

読み仮名 カヘイシンカロンセイチョウナキジダイノツウカシステム
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 304ページ
ISBN 978-4-10-603666-8
C-CODE 0333
ジャンル 経済学・経済事情、一般・投資読み物
定価 1,540円
電子書籍 価格 1,540円
電子書籍 配信開始日 2020/02/14

書評

波 2010年10月号より 革新的な貨幣の未来予想図

北村行伸

本書は貨幣や金融の歴史について語りながら、単にその歴史をたどるだけではなく、貨幣という制度の面白さや不思議さがどこにあり、人間がどのように工夫を凝らしてきたかが伝わるように書かれている。
若い読者には貨幣の発生や、流通の仕組み、中央銀行が貨幣を発行するようになった経緯や貨幣の価値をつなぎとめる金本位制、金融政策の原理や貨幣発行競争の意味など、金融の基本を学んでほしい。少し歳を取って自分なりの経験もある読者には、著者の観察や評価、あるいは比喩が文章の端々に出てくる面白さも味わっていただきたい。本書が凡百の類書と違うのは、この著者独特の歴史や制度の解釈にあり、著者がこのテーマについて心血を注いで考え抜いてきたことが読み取れるはずである。
本書の中で著者の最大の関心事は、経済成長も人口成長も停滞してしまうような今後の社会では、これまでのような貨幣制度は通用しなくなるのではないかということである。実体経済の収益率を反映した「自然利子率」がマイナスになり、物価がデフレで低下しても、名目金利である市場金利はマイナスには下げられない。いわゆる「流動性の罠」にはまった状態になると、それ以上金融政策が何もできなくなってしまうという難問である。
しかし、著者は市場金利をマイナスにできるような仕組みを作ればいいのではないかと言う。ゲゼルという学者が考えた銀行券にマイナスの金利に相当するスタンプを貼るというアイディアを紹介し、それは確かに面倒だが、ICカードに記録されている電子マネーになら、マイナスの金利をつけることもそれほど難しくはないと主張している。
著者の話はさらに進んで、そのような機能をもった貨幣を自由競争で選択できるような世界を考えようではないか、そこに貨幣の新しい未来が開けるはずであると結んでいる。
著者のこの革新的で楽観的な見方は次のような確信から来ている。
「貨幣の歴史を辿りながら私が繰り返し感じていたのは、人類とは何と賢い愚者の集まりなのだろうかということです。愚かな賢者たちではありません。賢い愚者たちです。近づく脅威に気が付かず市場という名の船の上で無駄な議論と馬鹿騒ぎを繰り返す愚者の集団なのです。しかし、だから良いのです。……一人一人では間違うことの多い愚者たちも、愚者は愚者なりに試行錯誤を繰り返しているうち、やがて大きく間違わない答に到達することができる、そのことを貨幣の歴史は示しています。」
著者は、愚者の論争から自由に飛び立って、その先を見据えているという意味では、数少ない賢者である。新しい時代の貨幣について知りたければ、是非本書を手にとっていただきたい。

(きたむら・ゆきのぶ 経済学者)

担当編集者のひとこと

貨幣進化論―「成長なき時代」の通貨システム―

オーソドックスでラディカルな貨幣論 むかし『エンデの遺言』という本を読んだことがあります。
『モモ』『はてしない物語』などで知られる児童文学作家ミヒャエル・エンデが、暴走するマネー資本主義を厳しく批判していたことを紹介した本です。正確な内容は覚えていませんが、「食べ物も洋服も自動車も、すべての商品は時の経過とともに価値が減っていくのに、お金だけが利息によって増えていくのはおかしいのではないか」という問題提起があって、思想家ゲゼルが考案した「時とともに減価するお金」などが紹介されていました。「世の中にはラディカルなことを考える人がいるものだな」と感心した記憶があります。
 さて、本書の著者も「金利付き貨幣を導入して、金利をマイナスに設定できるようにすべき」「誰でも自由に貨幣を発行できるようにすべき」など、元日銀マンとは思えないラディカルな主張を展開しています。もっとも、長年金融政策の第一線に携わってきたリアリストだけあって、理想主義的な甘さは一切ありません。「人類は賢い愚者の集まりである」というシニカルな人間観のもと、ひたすらオーソドックスに経済史を紐解きながら、いつの間にか革新的な結論に到達していく論考は、感動的ですらあります。ぜひご一読下さい。

2016/04/27

著者プロフィール

岩村充

イワムラ・ミツル

1950年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。日本銀行企画局兼信用機構局参事を経て、1998年より早稲田大学教授(現職は早稲田大学大学院経営管理研究科教授)。著書に『貨幣進化論 「成長なき時代」の通貨システム』『中央銀行が終わる日 ビットコインと通貨の未来』(いずれも新潮選書)、『金融政策に未来はあるか』(岩波新書)など。

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