ホーム > 書籍詳細:私の日本古代史(上)―天皇とは何ものか――縄文から倭の五王まで―

「中国・朝鮮との関係を見つめ、記紀神話の敗者に寄りそう――弱い者の立場に立つ“上田史学”の集大成」梅原猛

私の日本古代史(上)―天皇とは何ものか――縄文から倭の五王まで―

上田正昭/著

1,650円(税込)

本の仕様

発売日:2012/12/21

読み仮名 ワタシノニホンコダイシ1テンノウトハナニモノカジョウモンカラワノゴオウマデ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 344ページ
ISBN 978-4-10-603720-7
C-CODE 0321
ジャンル 日本史
定価 1,650円
電子書籍 価格 1,320円
電子書籍 配信開始日 2013/06/28

古代史とは「日本」の深層を探ること――日本という国号はいつ成立したのか? 大王家はなぜ天皇へと変わったのか? 万世一系に断絶はなかったのか? そして最大の謎、『古事記』は果して偽書なのか? 縄文以前から国家としてのシステムが整う天武・持統朝まで、通史として俯瞰し見えてくる新たな歴史像!

著者プロフィール

上田正昭 ウエダ・マサアキ

(1927-2016)1927年兵庫県生まれ、歴史学者。京都大学文学部史学科卒業。京都大学教授、大阪女子大学(現大阪府立大)学長、島根県立古代出雲歴史博物館名誉館長などを歴任。東アジア全体を視野に入れた古代史研究で知られる。著書に『日本神話』(岩波書店)、『上田正昭著作集 全八巻』(角川書店)、『私の日本古代史 上下』(新潮社)など多数。2016年没。

書評

我も彼も生きるための「必生」の古代史

井上満郎

 日本史の、それも古代史というサブジェクトに沿う叙述が、社会的に果たしうる役割、つまりは読む人々にもたらすものとは何であろうか。千年とか千五百年とかも前に起きた出来事で、起こったことへの好奇心、つまりは自分で確かめることのできない事象を知ることができたという満足のほかには、そこから暮らしに役立つ具体的な何かを学べるというわけでもない。
 ではそれはただ過ぎ去ってしまった時間であり、我々とは無関係なのかというと、そうではない。著者が古代史研究に情熱を燃やし続けて現在にいたっている理由でもあるのだが、それは過ぎ去った古代を「生ける古代」として構築することである。ある意味楽でもある象牙の塔的世界に閉じこもることなく、得た成果の社会への還元をたえず目指して、本書は「列島文化のあけぼの」から「国家のシステムがととのう」八世紀ころまでを対象として叙述されている。たしかにこの時代ははるかなる古代ではあるが、それは「現在の日本国家のありようにつながっている」のであり、今の国家や社会の原点となっており、この時代を見極めることが現代・未来を築くためのエンジンになるという確信のもとでの執筆であるといえよう。
 叙述の態度は、極めて実直かつ公平で、根拠のない推測、いわゆるロマンなどとはもとより一切無縁である。それは著者の終始一貫する研究態度であるが、本書に則して例示すれば、まずは国際的環境への広く深い視野があろう。今や常識だが、先鞭をつけたのはまぎれもなく著者であった。本書でも朝鮮・韓国史や中国史の成果が正確に吸収されており、周到な眼差しが注がれている。尽きることのない飽くなき探究心と知識欲がそうさせるのであろうが、よくもここまで国内外の調査・研究情報に目を配り得たと思えるほどである。日本の古代は海外、特に東アジア世界との豊かな交流・交渉のもとで形成されてきたが、それがただ理屈のみでいわれるのでなく、実証によって語られている。珠玉の古代史といってよい。
 神話・伝承についても豊富な叙述がなされている。歴史研究者がともすれば避けがちなこの課題に著者が早くから取り組んだこともよく知られているが、それを史実の反映、あるいは逆に空想所産と単純に見るのでなく、透徹した史眼でもって神話・伝承と史実の行き交いの様相が分析される。
 ところで著者はまたこの度の戦争に大きな負債感を持ち、戦後沖縄について「いったい幾人が、その痛みをわが痛みとしてうけとめることができたか」と述べ、終戦時の「十九歳の虚脱と懐疑をスタートとして」、つまりはその克服から始まった歴史研究であることを正直に告白している。古代にけっして沈潜・耽溺することなく、たえず現在におけるその社会化に渾身の力を今もささげ続けている著者の、我も彼もが必ず生きようとする覚悟をこめた文字通りに「必生」の作品であろう。

(いのうえ・みつお 京都産業大学名誉教授)
波 2013年1月号より

目次

まえがき
はじめの章 いま、なぜ古代史か
津田史学との出会い/古代学へのめざめ/折口学と柳田学/折口信夫の他界観/沖縄・朝鮮への思いのたけ/西田文化史学への憧れ/京都大学での学び/天皇制とは/宮廷はマツリの場/上代史と古代史/古代学をめざして
第I部
第一章 列島文化のあけぼの
日本列島の誕生/後期旧石器時代の人びと/縄文文化の出現/縄文時代は停滞していない
第二章 信仰の始原
信仰のありよう/呪術と宗教/土偶と土製の仮面/精霊とのまじわり/神柱の由来/マツリと柱
第三章 マツリの展開
水稲のコメ文化のひろがり/日本のマツリの前提を築く/非稲作の文化/『記』・『紀』の五穀発生神話/銅鐸絵画の謎/マツリの変貌
第II部
第一章 倭人の軌跡
倭の奴国王/倭・倭人の実相/帥升等と生口
第二章 邪馬台国と女王卑弥呼
邪馬台国論争のはじまり/『魏志』のなりたち/「魏志倭人伝」の読み方/「鬼道を事とし、能く衆を惑はす」/風俗として描かれた身分制、卜占、入れ墨/魏王朝との外交交渉/纏向遺跡のみのり
第三章 倭・大和・日本
ヤマト、地名の由来/「倭・大倭」の表記/「大和」の登場
第III部
第一章 ヤマト王権の展開
発生期の前方後円墳/箸墓古墳とその伝承/初期ヤマト王権の内実/三輪王権の実相/騎馬民族と征服王朝/祭祀権の掌握/県主の伝承
第二章 七支刀と広開土王陵碑
鎮魂の社/『先代旧事本紀』に書かれた瑞宝十種/石上の神府/神宝管理伝承としての物部氏/七支刀の謎/広開土王陵碑の解釈/陵碑の由来/陸軍参謀本部の解読/碑文の問題点/神話研究の定点/卵から生まれた鄒牟王の神話
第三章 倭の五王とその時代
百舌鳥・古市古墳群/倭の五王/稲荷山古墳鉄剣銘文の意義/ワケからオミへ
第四章 宗像神と沖ノ島
沖ノ島の遺跡/宗像の三女神/島神の二つの顔/海北道中
第IV部
第一章 王族将軍の派遣
四道将軍の実像/ヤマトタケル伝承の虚実/蝦夷征討の背景/英雄時代論争
第二章 出雲と北ツ海文化
独自の伝統/古墳文化の展開/出雲の背景/北ツ海の史脈
第三章 葛城と吉備
葛城氏の勢威/吉備の息吹/まがね文化の背景/アメノヒボコの伝承/吉備と出雲
第四章 筑紫と東国
稲作と畑作/天孫降臨の場所/東国と関東/東国への陸路と海路/「王賜」銘鉄剣と「辛亥」銘鉄剣

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担当編集者のひとこと

現代にダイナミックにつながる千年、千五百年前のこと

 日本史は、ドラマでも書籍でも人気のジャンルです。今年(2012年)のNHK大河ドラマこそ低視聴率に喘いでいたようですが、時代設定が戦国や幕末、あるいは近代史であれば手堅いようです。書籍の世界でも、歴史小説・時代小説が定番的なジャンルであるのはもちろんのこと、最近は「昭和史」「幕末史」「世界史」など、時代や地域を大括りに俯瞰してみる「教養書としての通史」も評判になっているようです。読者は四〇代、五〇代のサラリーマンが多勢とのこと。仕事や生活に生かせるヒントを歴史の中に見出そうとしているのかもしれません。日本人は本当に歴史好き、そして勉強好きなのですね。
 ところが、古代史となるとどうでしょう? 「古代史ファン」がいらっしゃるのは確かですが、千年や千五百年も前に起きた出来事では史料も限られ、ドラマなどにはしづらいでしょう。書店で古代史のコーナーを覗いても、「邪馬台国はどこにあったか」「出雲王朝の謎」「日本人のルーツを探る」といった、ピンポイントのテーマに絞ったものが多いように見受けられます。漠然と「古代通史」では、仕事や暮らしに役に立つ何かを見つけにくく、「とりあえず無関係」と思われてしまうのかもしれません。
 しかし、本当に古代史は現代の私たちと「無関係」なものなのでしょうか? 古代という遠く大きなスケールの時代をあらためて俯瞰し、その中に入り込んで精査してみることによって、現代の私たちが「当たり前」と思っている存在や事柄の根幹が見えてくることはないでしょうか。
 たとえば、「天皇」について。そもそも天皇はいつから、どのような形で存在するようになったのか、なぜ万世一系なのか――。あるいは「日本という国家」の成り立ちについて。日本の国号はいつ、どのように成立したのか。日本が中国や朝鮮半島など近隣諸国との関係の中で国家として認められたのはいつのことか――。さらには私たちの身近にある「神社仏閣」について。日本人に根付いた宗教観はどのように形成されていったのか――。
 著者の上田正昭さんは、『古事記』や『日本書紀』の神話研究をはじめ宗教学、民俗学、考古学を総合し、また広く東アジア全体をも見据えた幅広い視点から古代の本質を問い続けてきた歴史学者です。千年、千五百年前の時代が、いかにダイナミックに現代の生活につながっているか、本書をご一読くだされば、きっとわかっていただけるはずです。

2012/12/21

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