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日本語の謎を解く―最新言語学Q&A―

橋本陽介/著

1,650円(税込)

発売日:2016/04/22

  • 書籍
  • 電子書籍あり

7カ国語を自由に操る言語のプロが徹底解説!

「は」と「が」はどう違うのか。「氷」は「こおり」なのに、なぜ「道路」は「どおろ」ではないのか。「うれしいだ」とは言えないのに、「うれしいです」と言えるのはなぜか。「穴を掘る」という表現はおかしいのではないか。……素朴な疑問に、最新の言語学で答えます。日本語の起源から語彙・文法・表現まで、73の意外な事実。

目次
序――日本語の謎に深く迫る
第一章 日本語の起源の謎
Q:そもそも言語の起源は何なのか。
Q:日本語の起源はわかるのか。
Q:橋本萬太郎の『言語類型地理論』とは何か。
第二章 日本語音声の謎
Q:なぜ日本語の母音はアイウエオの五つなのか。
Q:なぜハ行だけ半濁音があるのか。
Q:濁音をつける平仮名とつけない平仮名があるのはなぜか。
Q:漢字には名前などで濁る場合と濁らない場合があるのはなぜか。
Q:五・七・五はリズムがいいと誰が決めたのか。
Q:略語があるのはなぜか。他の言語にもあるのか。
Q:「ん」から始まる単語がないのはなぜか。
Q:「氷」は「こうり」ではなく「こおり」なのに、「道路」は「どおろ」ではなく「どうろ」なのはなぜか。
第三章 日本語語彙の謎
Q:「におう」は漢字によって反対の意味になる。「臭う」は臭く、「匂う」だと良い意味になる。なぜ同じ言葉なのに反対の意味を示すのか。
Q:なぜ同音異義語が多いのか。
Q:「後で後悔する」「元旦の朝」など意味が重複している表現を使ってしまいがちなのはなぜか。
Q:丁寧さを表す「お」と「ご」はどのように使い分けられているのか。
Q:「弱肉強食」は四字熟語で、「焼肉定食」は四字熟語でないのはなぜか。
Q:「日本」はなぜ読み方を統一しないのか。
Q:日本語は外国語を吸収するだけでなく、和製英語もあるのはなぜか。
Q:「恋<愛」なのに「恋人>愛人」と意味合いが変わるのはなぜか。
Q:一から十まで発音するとき、四と七だけ違う読み方をするのはなぜか。
Q:数を数えるとき「ゼロ、一、二、三…」と英語のゼロを使う理由は何か。
Q:日本語には擬音語・擬態語が多い。どのようにして広く使われるようになったのか。
第四章 言語変化の謎
Q:「やばい」は「とてもすごい」という意味に変化している。同様に「気が置けない」や「役不足」なども意味が変わってしまっている。このように変化する理由は何か。
Q:古文では「かなし」が「かわいい」、「やさし」が「恥ずかしい」とまったく意味が違っているのはなぜか。
Q:「雰囲気」は「ふいんき」、「シミュレーション」は「シュミレーション」と言ってしまう人が増えたのはなぜか。
Q:ら抜き言葉はなぜ起こるのか。なぜ誤用として嫌われるのか。
Q:「全然大丈夫」のような矛盾した表現があるのはなぜか。
第五章 書き言葉と話し言葉の謎
Q:平仮名、片仮名というが、なぜ「仮名」というのか。
Q:なぜ平仮名と片仮名と二種類作る必要があったのか。
Q:「りんご」は「リンゴ」と表記されることがあるが、「黒板」は「コクバン」と書くことはない。なぜか。
Q:銀という漢字は金+良、銅という漢字は金+同なのはなぜか。銀は金より良かった? 銅は金と同じように見えた?
Q:古文は、古文の文章のまま話せたのか。
Q:「は」「へ」と書くのに、「わ」「え」と読むのはなぜか。
Q:「地」は「ち」なのに、「地震」は「じしん」と書くのはなぜか。一方で「縮む」は「ちぢむ」と書くのはなぜか。
Q:なぜ書き言葉は変化しにくく、話し言葉は変化しやすいのか。
Q:なぜ男言葉と女言葉があるのか。
第六章 「は」と「が」、そして主語の謎
Q:学校の文法は、誰が作ったのか?
Q:「格助詞」「格変化」などと言うが、「格」の意味がわからない。
Q:「私は食べる」と「私が食べる」は何がどう違うのか。
Q:文の「主題」とは一体何か。
Q:「私が」は「私は」よりも「私」が強調されているように感じるのはなぜか。
Q:「は」と「が」は主語を表しているのか。
Q:「日本語に主語はない」と聞いたことがありますが、本当ですか。
Q:日本語はなぜ主語を「省略」できるのか。
Q:日本語では「~に興味を持っている」と能動文を使うのに、英語ではbe interestedと受身文を使うのはなぜか。
Q:「~が好き」の~は目的語なのに主語になっているのはなぜか。
Q:古文では主語に「が」はあまり出てこないが、いつから「が」がつくようになったのか。
Q:係り結びのうち、なぜ「こそ」だけ已然形なのか。
第七章 活用形と語順の謎
Q:なぜ動詞は活用するのか。
Q:古文の「じ」や「らし」は形が変化しないのに、なぜ助動詞なのか。
Q:活用形に意味はあるのか。
Q:「未然形」というのに、未然でない場合があるのはなぜか。
Q:「ます」「た」がつくと、なぜ動詞は連用形になるのか。
Q:「読もう」の「読も」は未然形、「読んで」の「読ん」は連用形とされるのはなぜか。
Q:「ある」と「ない」では、対義語なのに品詞が違う。これはなぜか。
Q:「静かだ」と「湖だ」の「だ」は同じではないのか。
Q:「うれしいだ」、「悲しいだ」は言えないのに、「うれしいです」「悲しいです」は言えるのはなぜか。
Q:なぜ英語はSVOなのに、日本語はSOVなのか。
Q:なぜ日本語は修飾語が前につくのに、英語では後ろにつくのか。
第八章 「た」と時間表現の謎
Q:英語の過去形は形が完全に変わってしまうものがあるのに、なぜ日本語は「た」をつけるだけで過去形になるのか。
Q:電車を待っているときにまだ来ていないのに「電車が来た」と言えるのはなぜか。
Q:「はや舟に乗れ、日も暮れぬ」は、まだ日が暮れていないのに、完了の「ぬ」が使われているのはなぜか。
Q:日本語は時制が曖昧なのはなぜか。
Q:実況とレース回顧での表現の違いは何か。
Q:小説の語り手は物語の場をどう語るのか。
Q:時制が曖昧とされる日本語小説では、いつ「た」を使い、いつ使わないのか。
第九章 同じ意味でも違う構文があるのはなぜか
Q:同じ意味でも違う構文があるのはなぜか。
Q:「私は208号室だ」という言い方は、文法的に間違っているのではないか。
Q:「雨に降られた」と日本語では言うが、英語では言わないのはなぜか。
第十章 人間の認識能力と文化の謎
Q:「穴を掘る」という表現。穴はすでに空洞である。とすると穴を掘るという表現は空洞を掘っているだけなのでは?
Q:「小さな巨人」のように反対の意味がくっつくのはなぜか。
Q:言葉と文化の関係について。両者はどのようなつながりをもっているのか。文化が言語を形作るのか、文化が言語を規定しているのか。
Q:「赤い」「青い」とは言うが、「緑い」と言わないのはなぜか。
結びにかえて ―― 日本語の立場からの言語理論の必要性

主要参考文献

書誌情報

読み仮名 ニホンゴノナゾヲトクサイシンゲンゴガクキューアンドエー
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 264ページ
ISBN 978-4-10-603784-9
C-CODE 0381
ジャンル 言語学
定価 1,650円
電子書籍 価格 1,144円
電子書籍 配信開始日 2016/10/14

書評

言語オタクも納得の痛快本

高野秀行

 私はアジア、アフリカ、ヨーロッパの言語をこれまで二十近く習って、実際に使ってきた。半分以上は忘却の彼方だし、現在話せる言語もたいていブロークンか片言に毛が生えたレベルだから全然自慢にならないのだが、いつも何かしら言語を習っているし、言語オタクなのは間違いない。
 当然、日本語にも興味があり、日本語関係の文章も少なからず読んでいる。ただしオタクの常として、他人には厳しい。「日本語は世界で最も難しい言語」だとか「日本語は曖昧で論理的でない」とか「最近、若者の言葉が乱れている」などと目にすると、イラッとくる。経験的にそれらが正しくないか、ひじょうに浅い見方だとわかるからだ。
 巷にあふれるそれらの言説は今、目の前にある日本語しか見ていない故に視野が狭く、認識も浅いのである。ただ残念なことに、私は経験的に言語を多少知っているだけで、論理的に説明できない。文句を言うに言えず不満がたまる一方なのだ。
 本書はそんな私に替わって、日本語という言語の実情を論理的に説明してくれる奇特な本である。企画が生まれた成り立ちからして面白い。著者の橋本先生は勤務する高校で「言葉の謎に迫る」という授業を行ったが、前段階として「現代日本語、古文、漢文、英語、その他の言語について、疑問に思うことをできるだけ多く挙げよ」という課題を出した。すると、全七十二名の生徒から総計二百五十に迫る言語についての質問が提出された。そのうち、日本語に関する疑問を整理して、ひとつひとつ言語学に基づいて明らかにしていったのが本書であるという。
 つまり、現実に、高校生が「先生、どうしてハ行だけパピプペポとかって○がつくんスか?」と投げかけた素朴な質問に対し、先生が「それはだね……」と、最新の言語学を駆使して真正面から答えた様子が――多少形は整えられてはいるが――ほぼそのまま再現されているわけだ。
 これが痛快なのである。高校球児が投げる球を全盛期の松井秀喜が片っ端からスタンドに打ち込んでいる光景すら連想する。どんな球、いや疑問にも一切手抜きや手加減をしないという情熱と、どんなビーンボールでもワンバウンドの球でもバットの芯でとらえる技術の高さにほれぼれとしてしまう。
 一般読者にとりわけお勧めしたいのが第四章「言語変化の謎」。「誤用」や「乱れ」に関する疑問である。「シミュレーション」は「シュミレーション」と間違えられやすい。「役不足」「気が置けない」といった表現がよく間違った意味で理解されている。「食べられる」を「食べれる」と言ってしまう人が多い(いわゆる「ら抜き表現」)。若者は「ヤバイ」を「すごい」の意味で使う。
 日本語雑学やテレビのクイズ番組などでは「それは間違いで、本当は××です」で終わってしまい、本当に苛々させられるが、本書では「なぜ間違えられるのか」「なぜ乱れるのか」をとことん追究する。
 詳しくは本書を読んでいただきたいが、一言でいえば、それらは決してただの「誤用」でもなければ「乱れ」でもない。例えば、「新しい」もかつては「誤用」だったという。本来は「あらたし」だったが「あたらし(「もったいない」の意)」と形がそっくりなために混同され、やがて「あたらし」が「新しい」を意味するようになってしまった。一方で「新たな気持ち」の「あらた」のように古い表現も残っている。
 一部の人たちが間違えているうちは「誤用」「乱れ」であるが、誤用が一定以上に増えるとそちらが「正しく」なっていくのである。百年後は「食べれる」や「超ヤバイ」が「美しい日本語」とされる可能性だってあるということだ。
 こうして巷にあふれる表面的な日本語俗説は言語学の論理でバッサバッサと斬られていく。実に痛快である。莫大な数の学者が研究を積み上げてきた言語学の論理は強靱なのだ。
 ところが後半に行くにしたがい、意外な展開が待ち受けている。現在の言語学にも橋本先生は随所に疑問をもっているのだ。「文」とは何か。「主語」とは何か。「構文はちがっても意味が同じなんてことはあるのか?」などなど。言語学にはもしかすると西欧文化のバイアスがかかっているのではないか? というのが橋本先生の疑問の根底にあるようだ。
 何よりもこの知的好奇心が痛快なのである。

(たかの・ひでゆき 作家)
波 2016年5月号より

著者プロフィール

橋本陽介

ハシモト・ヨウスケ

1982年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学基幹研究院准教授。慶應義塾大学大学院文学研究科中国文学専攻博士課程単位取得。博士(文学)。専門は中国語を中心とした文体論、テクスト言語学。著書に、『日本語の謎を解く 最新言語学Q&A』(新潮選書)、『中国語実況講義』『中国語における「流水文」の研究 「一つの文」とは何か』(東方書店)、『「文」とは何か 愉しい日本語文法のはなし』(光文社新書)など。

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