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日本国民であるために―民主主義を考える四つの問い―

互盛央/著

1,430円(税込)

発売日:2016/06/24

  • 書籍
  • 電子書籍あり

今、この国で感じる息苦しさの正体を暴く——誰も書けなかった画期的論考!

「電車で割り込みをされたとき、あなたは何を思いますか?」──誰もが日常で出会う違和感は、国家の成り立ちにまっすぐつながっている。シンプルな問いから出発して「民主主義の原理」を追究し、憲法の成立過程に分け入るとき、戦後日本のあまりに特異な姿が浮かび上がる。──「今、この国で、あなたは日本国民ですか?」

目次
はじめに
第一章 国家はなぜできたのか

1 「基本的人権」とは何か
人間の「自然」の姿/「自然権」とは何か/ホッブズの人間/ロックの人間/自然権は抑圧すべきか、庇護すべきか/「理念」としての社会契約/ヴァージニア権利章典からアメリカ独立宣言へ/日本国憲法の「人権」
2 「立憲主義」とは何か
社会契約を破ること/法律に違反していなければ何をやってもよいのか/「抵抗権」の意味/「公共の福祉」とは何か/なぜ「立憲主義」が必要なのか/「違憲」と「非立憲」/「責任の観念」/国民に求められるもの
3 二つの「私」
「私的な私」と「公的な私」/二つの「私」の関係
第二章 民主主義とは何か

1 統治する者と統治される者
「王権神授説」から「社会契約説」へ/カントの民主主義/民主主義の定義/「国民」の二つの意味/「私たち一人一人」が主権者なのか/立法権と行政権/国会議員は何を「代表」しているのか/代表制と民主主義/誰が民主主義を「独裁」にするのか
2 「一般意志」とは何か
常に正しい「意志」/一〇〇分の一より強力な一〇〇分の一/一般意志とは誰の意志か/個別意志、全員の意志、一般意志/言語と一般意志/一般意志は個別意志に先行している
3 「構成する力」と「構成された力」
誰もしたことのない取り決め/契約と取り決め/「事実問題」と「権利問題」/主権は分割できない/民主主義の逆説/「構成する力」と「構成された力」/「産出する自然」と「産出された自然」/「立法者」と「独裁者」/「立法者」とは誰か/自分で自分に投票するのは「ずるい」のか
第三章 日本とはどんな国家なのか

1 「みんな」と「私たち」の暴力
会社のルール、教室のルール/「みんな」と口にすること/「みんな」と「私たち」の暴力/「小さな違い」
2 「右」でもなく、「左」でもなく
「平和安全法制」をどう考えるか/賛成も反対もしない/何に賛成し、何に反対しているのか/反対する人はどんな立場か/自衛隊と日米同盟をめぐって/討議の場はあるか/一つの仮想実験/「右」と「左」/反対しないのは悪いことか
3 日本の主権はどこにあるか
奪われた言葉を取り戻すために/日本のジレンマ/いかにしてジレンマは回避されてきたか/憲法九条と日米同盟/日本国憲法の成立過程(1):マッカーサーが手にしたもの/日本国憲法の成立過程(2):マッカーサーの統治/日本国憲法の成立過程(3):誰が新憲法を書くか/日本国憲法の成立過程(4):マッカーサー・ノート/日本国憲法の成立過程(5):戦争放棄条項の変遷/日本国憲法の成立過程(6):「交戦権」は誰が与えるか/日本国憲法の成立過程(7):天皇の勅語に込められたもの/「天皇主権」から「国民主権」へ/天皇とマッカーサー/主権なき主権者/天皇とは誰なのか/民主主義の原理と「私たち」の暴力
第四章 日本国民であるために

1 「日本国民」とは誰か
「国民」であるとはどういうことか/歴史研究の危険/日本国憲法に刻まれた傷/「権利問題」として見ること/誰が謝罪を求められているのか
2 日本人は「無責任」な国民なのか
日本の主権は変化したか/ノモス主権論/民主主義の「心構え」/日本国民に課された「責任」/天皇という「無」/「無責任の体系」
3 日本国民であるために
日本国憲法前文/「信約」とは何か/言語行為論から/日本国憲法の「私たち」/日本国民であるために
文献一覧
あとがき

書誌情報

読み仮名 ニホンコクミンデアルタメニミンシュシュギヲカンガエルヨッツノトイ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 288ページ
ISBN 978-4-10-603791-7
C-CODE 0331
ジャンル 政治
定価 1,430円
電子書籍 価格 1,144円
電子書籍 配信開始日 2016/12/09

書評

予想だにしなかった思考と行為の地平

辻原登

「右」でも「左」でもなく、そして新しい立場でもなく、法案に賛成か反対かを判断する手前に踏みとどまって考えるために、私はこの本を書いている。

 と著者はこの本・・・の半ばで書いている。
「平和安全法制」について一度も真剣に考えたことのなかった私(しかし、これまで一度も投票所に足を運ばなかったことはない)は、この本・・・を読んで予想だにしなかった思考と行為の明るい地平に導き出された。
 ホッブズの「万人の万人に対する戦争(『リヴァイアサン』)」から脱するため人々は、「自分自身の生命を維持する自由(自然法1)」と「自分がされたくないことを他人にしてはならない(自然法2)」を実現するために、「社会契約」を結んで「人々の集合体」=国家を形成した。「自然法」は人間が制定したものではなく、神から与えられたもの、摂理であるとされる。
 つまり「社会契約」も「自然法」もフィクションなのである。人間と社会の本質的理解にとってこれは非常に重要なことだ。人類は意識=言語を持つ過程で、人間を超えたもの、神あるいは神々の概念を勝ち得た。そして、それを世界の起源、造物主とした。転倒が起きたのである。我々に先んじて神があり、我々を造り給うた。壮大なフィクションであり、かつ人類の真実・・である。崇高な存在、高邁な思想は常に事後に、転倒して見出される。
 民主主義とは「社会契約」が充全に実施される最良の方法だろう。
「一般意志だけが、国家の力を共通の善というその制定の目的に従って指揮することができる。(中略)一般意志は常に正しく、常に公共の利益に向かう」(ルソー『社会契約論』)。
 だが、我々は「社会契約」を実際に結んだ覚えはないし、また「一般意志」を見た人もいない。現実に存在しないもの、フィクションだからだが、しかし、どうでもよいフィクションではない。「一般意志」は平和に生きるための前提であり、「個別意志(私としての私)」に先行しているのでなければならない・・・・・・・・のだ。
 ここで著者はソシュールを援用して、「一般意志」をラングに、「個別意志」をパロールにたとえて犀利で説得力ある論を展開する。
 さて、日本の戦後民主主義、日本国家の問題である。日本国憲法前文や一一、一二、一三条をGHQ草案とその源流である「アメリカ独立宣言」に照らして精細に読み解きつつ、草案には基本的人権と平等は創造主、神が授けたものというニュアンスがあるが、現行文からは消えていることを指摘する。消えているが、現行文の創造主はマッカーサーのアメリカである。国家主権の一部である交戦権はこれを放棄して、やがて日米同盟に基づき、自衛隊を介してアメリカが行使する。
「一般意志(私たちとしての私)」はアメリカに流出したまま、「個別意志」としての「私」の集合だけが横行する不完全な、機能不全の民主国家(消費者民主主義)として日本はある。それゆえに経済大国になりえた……。
 しかし、著者は、「日本国憲法は誰が書いたのか、ということを問題にする必要はない」と言い切る。
 憲法前文「私たち日本の人民は……」を書いたのはアメリカ人だが、これを過去の事実問題としてでなく、「この文を文字どおり現在形・・・で、つまり主語である『日本国民』とは私のことでもある、と考えて、もう一度、今ここで・・・・読んでみるなら、どうだろうか」。
 ここには「一般意志」がある。事後に、「一般意志」を先行するものとして、現憲法を読み直すこと、そうして行為として「私たち」を取り戻すこと、「私たち」を創造すること。人類が常に事後的に、神、神々、崇高な理念を見出して、そこに「私たち」を書き込んできたように。

(つじはら・のぼる 作家)
波 2016年7月号より

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著者プロフィール

互盛央

タガイ・モリオ

1972年、東京都生まれ。1996年、東京大学教養学部教養学科卒業。2008年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。講談社勤務。言語論・思想史。著書に、『フェルディナン・ド・ソシュール─〈言語学〉の孤独、「一般言語学」の夢』(作品社、2009年。第22回和辻哲郎文化賞、第27回渋沢・クローデル賞)、『エスの系譜─沈黙の西洋思想史』(講談社、2010年)、『言語起源論の系譜』(講談社、2014年。第36回サントリー学芸賞)。

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