皇室がなくなる日―「生前退位」が突きつける皇位継承の危機―
1,430円(税込)
発売日:2017/02/24
- 書籍
- 電子書籍あり
このままでは今世紀中に皇統は断絶する……
今、何が本当の問題か炙り出す!
昨夏、国民に投げかけられた「生前退位」の意向を受け、陛下への同情論から議論が進められているようにも見えるが、実はそこには皇室制度を根本から覆す危うい問題点が潜んでいた――。有識者会議のヒアリング対象者が、神話の時代から近世、現代まで歴史をひもとき、原点に立ち返って、その存在意義を徹底的に問うていく。
参考文献一覧
書誌情報
読み仮名 | コウシツガナクナルヒセイゼンタイイガツキツケルコウイケイショウノキキ |
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シリーズ名 | 新潮選書 |
装幀 | 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 288ページ |
ISBN | 978-4-10-603796-2 |
C-CODE | 0331 |
ジャンル | 政治 |
定価 | 1,430円 |
電子書籍 価格 | 1,144円 |
電子書籍 配信開始日 | 2017/08/11 |
書評
皇室制度、喫緊の課題を敢えて説く
生前退位の問題はともかく、皇室がこのままでは、滅亡すると、笠原教授は問題を提起する。さて、どうするか。笠原教授は、日本政治史の観点から、皇室問題に取り組んでおられる学者である。このたびの生前退位問題に関連して、教授の対応と、その根拠となる知識と思想を知るには絶好の著書と申してよい。皇室の歴史に関する古典は多数あるが、これをまとめるのが容易でないことは、経験上、よく理解している。
本書の特色は、皇室の歴史と現状を語ることだけでなく、目の前に迫った皇族(皇室ではなく)の将来の問題を論じておられることである。笠原教授が指摘するように、小泉内閣時代の、女性天皇に関する審議会、野田内閣時代の女性宮家に関する審議会(そのいずれも評者が関与している)が、結果的には、いずれも頓挫し、或いは放置されたまま、今日に至っている。今の政治的な在り方としては、よほど事柄が差し迫らない限り抽象的に皇室の将来をおもんぱかる皇室制度の改正に手を触れることはしない。皇室制度については、民のすべてが一家言を持っており、わざわざ、火中の栗を拾うような論戦を行うことは、避けて通るのが習わしである。しかし今度ばかりは、事情が異なる。天皇自ら、生前に退位を希望するという問題を提起されたのである。国民世論は天皇のご希望を理解したようである。ご希望通り退位させればよいではないかという世論に対して、皇室法の言論人や理論家から、多種多様な意見が出た。政府の審議会からヒアリングを請われた人(笠原教授も私も指名された)は、それぞれ意見を述べた。今のところどのような形で陛下の生前退位を認めることになるかは、正式にはまだ検討中である。
天皇退位の問題は、目先の問題である。どういう形にせよ何らかの法的措置が講じられるであろう。笠原教授は、その先を見通す。つまり国民のだれもが感じながら、公には論じられないこと、皇族の衰微の問題である。
男子皇族は減少しつつある。皇族制度は、危殆に瀕して居る、皇室は皇族に支えられなければならない。女性宮家や女性天皇を避けるというのであれば、日本の皇室を外から支える、男子皇族が、皇室を支える親族として必要である。笠原教授は、「高齢の男性皇族が薨去し、女性皇族が(中略)減少すれば、皇統の危機は急速に現実味をおびることになろう」と説かれる。国民の多くは悠仁親王の存在に期待を寄せているが、それは素朴な国民感情であって、冷静な皇室制度論とは関係がない。デッドロックに乗り上げる前に周到な準備作業をあらゆる角度から行うこと、これは国民の義務でもある。笠原教授は、そのことを訴えておられるのである。これは、現実的な作戦である。
教授は、皇室制度の現状は、その存亡に関わることであるとされる。勇気のある発言である。施策の実現には紆余曲折もあろう。一層のご研鑽とご指導を祈り上げる次第である。
(そのべ・いつお 元最高裁判所判事、皇室法研究者)
波 2017年3月号より
著者プロフィール
笠原英彦
カサハラ・ヒデヒコ
1956年生まれ。慶應義塾大学法学部教授。法学博士。専攻は日本政治史、日本行政史、皇室制度史。慶應義塾大学法学部卒業、同大学院法学研究科博士課程単位取得退学。スタンフォード大学訪問研究員。主な著書に『女帝誕生 危機に立つ皇位継承』(新潮社)、『歴代天皇総覧』『明治天皇 苦悩する「理想的君主」』(以上、中公新書)、『象徴天皇制と皇位継承』(ちくま新書)、『明治留守政府』(慶應義塾大学出版会)、『新・皇室論 天皇の起源と皇位継承』(芦書房)他。