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皇室がなくなる日―「生前退位」が突きつける皇位継承の危機―

笠原英彦/著

1,430円(税込)

発売日:2017/02/24

  • 書籍
  • 電子書籍あり

このままでは今世紀中に皇統は断絶する……
今、何が本当の問題か炙り出す!

昨夏、国民に投げかけられた「生前退位」の意向を受け、陛下への同情論から議論が進められているようにも見えるが、実はそこには皇室制度を根本から覆す危うい問題点が潜んでいた――。有識者会議のヒアリング対象者が、神話の時代から近世、現代まで歴史をひもとき、原点に立ち返って、その存在意義を徹底的に問うていく。

目次
はじめに
第I部/古代日本の天皇制国家――律令国家の形成
第一章 記紀神話を造った古代人の知恵――現人神としての天皇
アマテラスとタカミムスヒ/神話に秘められた政治的意図/皇祖神の転換をめぐる諸学説/アマテラスとスサノヲ/壬申の乱とアマテラス/皇祖神の創出と天皇の正統性
第二章 女帝の世紀と王位継承の異変――譲位・重祚・称制
乙巳の変という虚構/皇極女帝と中大兄/井上光貞説の再検討/譲位にはじまった異様な王位継承/重祚と称制のもつ意味/持統の即位と文武への譲位
第三章 王権としての「天皇制」――天皇制国家の形成と譲位の慣行
王権論にみえる祭司王/譲位制の再考/なぜ皇極女帝は譲位したか/「史上初の譲位」は本当に皇極か/不比等政権が描いた譲位/国家形成を牽引する王権/「万世一系」の天皇制国家/譲位の正統性
第四章 脆弱であった天智・天武の二大政権――持統女帝のみた実相
父親をしのいだ女帝/皇女に見放された天智政権/けっして盤石でなかった天武政権/天武政権の抱えていた構造的矛盾
第五章 天皇制国家の成立と皇位継承――不比等政権の実力
持統の宿願と直系継承の模索/持統と不比等の提携/不比等の生い立ちとその政治的力量/持統女帝と藤原不比等/皇位継承ルールの変更/不比等の政治指導と律令国家の構築/不比等が築きあげた律令制の原理/不比等政権と皇親勢力
第II部 近代日本の天皇制国家――明治国家の建設
第一章 欧米列強の外圧と幕末の天皇
外圧と天皇への期待/天皇にすがる幕府/時代と闘う孝明天皇/井伊大老の登場と孝明天皇/和宮降嫁と朝幕関係/朝幕関係の逆転/孝明天皇の主体的行動/国是決定の御前会議
第二章 再び求められた天皇制国家――近代への胎動
天皇の引力とその政治化/薩長と孝明天皇の崩御/幼帝の誕生と新政府の模索/大政奉還への道のり/岩倉と大久保がつくらせた偽勅/新政府創設をめぐる動向/王政復古の政変とその意義
第三章 形骸化された「天皇親政」
侍補職の設置/佐佐木の宮中入りと天皇の統合力/天皇権威の確立/天皇制国家樹立の政治的背景/律令と天皇/太政官制と天皇親政の矛盾/天皇親政という理念/天皇親政運動の挫折
第四章 明治憲法体制と旧皇室典範
慣習法から成文法へ/明治皇室典範の制定/岩倉の宮府分離論/伊藤の立憲君主制論/現行皇室典範制定への道のり/錯綜した日本側の対応/小泉内閣による皇室典範改正の試み/皇室典範に関する有識者会議での議論/皇位継承をめぐる歴史的課題
第III部 皇統の危機に直面する現代の日本
第一章 象徴天皇制度と現行皇室典範
現行皇室典範成立の背景/臨時法制調査会での審議/現行皇室典範の特質/皇室の規模/有識者会議の報告書の問題点/制度設計と法改正に向けた手順
第二章 皇位継承問題とは何か
天皇の統合力、権威と皇統の意義/現行皇室典範と皇位継承制度/皇位継承をとりまく環境の変化/政府の皇位継承問題への取り組み/民間での論争/象徴天皇制度と安定的皇位継承/問題の性格
第三章 皇統の危機とどう向き合うか
皇族の減少がもたらす危機/皇位継承と宮家/政府の対応/「女性宮家」論争の沸騰/今後の方策と展望/急浮上した陛下の「生前退位」/「生前退位」の背景と問題点/お気持ち表明と天皇・皇室の「統合力」
おわりに
参考文献一覧

書誌情報

読み仮名 コウシツガナクナルヒセイゼンタイイガツキツケルコウイケイショウノキキ
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 288ページ
ISBN 978-4-10-603796-2
C-CODE 0331
ジャンル 政治
定価 1,430円
電子書籍 価格 1,144円
電子書籍 配信開始日 2017/08/11

書評

皇室制度、喫緊の課題を敢えて説く

園部逸夫

 生前退位の問題はともかく、皇室がこのままでは、滅亡すると、笠原教授は問題を提起する。さて、どうするか。笠原教授は、日本政治史の観点から、皇室問題に取り組んでおられる学者である。このたびの生前退位問題に関連して、教授の対応と、その根拠となる知識と思想を知るには絶好の著書と申してよい。皇室の歴史に関する古典は多数あるが、これをまとめるのが容易でないことは、経験上、よく理解している。
 本書の特色は、皇室の歴史と現状を語ることだけでなく、目の前に迫った皇族(皇室ではなく)の将来の問題を論じておられることである。笠原教授が指摘するように、小泉内閣時代の、女性天皇に関する審議会、野田内閣時代の女性宮家に関する審議会(そのいずれも評者が関与している)が、結果的には、いずれも頓挫し、或いは放置されたまま、今日に至っている。今の政治的な在り方としては、よほど事柄が差し迫らない限り抽象的に皇室の将来をおもんぱかる皇室制度の改正に手を触れることはしない。皇室制度については、民のすべてが一家言を持っており、わざわざ、火中の栗を拾うような論戦を行うことは、避けて通るのが習わしである。しかし今度ばかりは、事情が異なる。天皇自ら、生前に退位を希望するという問題を提起されたのである。国民世論は天皇のご希望を理解したようである。ご希望通り退位させればよいではないかという世論に対して、皇室法の言論人や理論家から、多種多様な意見が出た。政府の審議会からヒアリングを請われた人(笠原教授も私も指名された)は、それぞれ意見を述べた。今のところどのような形で陛下の生前退位を認めることになるかは、正式にはまだ検討中である。
 天皇退位の問題は、目先の問題である。どういう形にせよ何らかの法的措置が講じられるであろう。笠原教授は、その先を見通す。つまり国民のだれもが感じながら、公には論じられないこと、皇族の衰微の問題である。
 男子皇族は減少しつつある。皇族制度は、危殆に瀕して居る、皇室は皇族に支えられなければならない。女性宮家や女性天皇を避けるというのであれば、日本の皇室を外から支える、男子皇族が、皇室を支える親族として必要である。笠原教授は、「高齢の男性皇族が薨去し、女性皇族が(中略)減少すれば、皇統の危機は急速に現実味をおびることになろう」と説かれる。国民の多くは悠仁親王の存在に期待を寄せているが、それは素朴な国民感情であって、冷静な皇室制度論とは関係がない。デッドロックに乗り上げる前に周到な準備作業をあらゆる角度から行うこと、これは国民の義務でもある。笠原教授は、そのことを訴えておられるのである。これは、現実的な作戦である。
 教授は、皇室制度の現状は、その存亡に関わることであるとされる。勇気のある発言である。施策の実現には紆余曲折もあろう。一層のご研鑽とご指導を祈り上げる次第である。

(そのべ・いつお 元最高裁判所判事、皇室法研究者)
波 2017年3月号より

著者プロフィール

笠原英彦

カサハラ・ヒデヒコ

1956年生まれ。慶應義塾大学法学部教授。法学博士。専攻は日本政治史、日本行政史、皇室制度史。慶應義塾大学法学部卒業、同大学院法学研究科博士課程単位取得退学。スタンフォード大学訪問研究員。主な著書に『女帝誕生 危機に立つ皇位継承』(新潮社)、『歴代天皇総覧』『明治天皇 苦悩する「理想的君主」』(以上、中公新書)、『象徴天皇制と皇位継承』(ちくま新書)、『明治留守政府』(慶應義塾大学出版会)、『新・皇室論 天皇の起源と皇位継承』(芦書房)他。

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