ホーム > 書籍詳細:立憲君主制の現在―日本人は「象徴天皇」を維持できるか―

立憲君主制の現在―日本人は「象徴天皇」を維持できるか―

君塚直隆/著

1,540円(税込)

発売日:2018/02/23

  • 書籍
  • 電子書籍あり

「時代遅れ」な制度が今ますます機能している理由とは――?

日本の「象徴天皇制」をはじめ世界43ヵ国で採用されている君主制。もはや「時代遅れ」とみなされたこともあった「非合理な制度」が、今なぜ見直されているのか? 各国の立憲君主制の歴史から、君主制が民主主義の欠点を補完するメカニズムを解き明かし、日本の天皇制が「国民統合の象徴」であり続けるための条件を問う。

  • 受賞
    第40回 サントリー学芸賞 政治・経済部門
目次
はじめに
第Ⅰ部 立憲君主制はいかに創られたか
第一章 立憲君主制とは何か
君主制の種類/民主主義との調和/反君主制の系譜/「共和制危機」の時代/バジョットの『イギリス憲政論』/福澤諭吉の『帝室論』/小泉信三と『ジョオジ五世伝』/立憲君主制の「母国」イギリス
第二章 イギリス立憲君主制の成立
最後まで生き残る王様?/賢人会議のはじまり/「海峡をまたいだ王」の登場/マグナ・カルタと「議会」の形成/イングランド固有の制度?/弱小国イングランドの議会政治/首を斬られた国王――清教徒革命の余波/追い出された国王――名誉革命と議会主権の確立/議院内閣制の登場/貴族政治の黄金時代
第三章 イギリス立憲君主制の定着
「新世紀の開始、甚だ幸先悪し」/議会法をめぐる攻防/バジョットに学んだジョージ五世/いとこたちの戦争と貴族たちの黄昏/「おばあちゃまが生きていたら」/一九三一年の挙国一致政権/帝国の紐帯/魅惑の王子と「王冠をかけた恋」/エリザベス二世と国王大権の衰弱/コモンウェルスの女王陛下/アパルトヘイト廃止と女王の影響力/「ダイアナ事件」の教訓/イギリス立憲君主制の系譜
第II部 立憲君主制はいかに生き残ったか
第四章 現代のイギリス王室
二一世紀に君主制は存立できるのか/国王大権の現在――国家元首としての君主/単なる儀礼ではない首相との会見/栄誉と信仰の源泉/国民の首長としての役割/女王夫妻の公務/王室歳費の透明化/二〇一三年の王位継承法/オーストラリアの特殊性/現代民主政治の象徴として
第五章 北欧の王室――最先端をいく君主制
質実剛健な陛下たち/カルマル連合からそれぞれの道へ/デンマーク王政の変遷――絶対君主制から立憲君主制へ/女性参政権の実現と多党制のはじまり/大戦下の国王の存在/「女王」の誕生――女性への王位継承権/女王陛下の大権/「新興王国」ノルウェーの誕生/「抵抗の象徴」としての老国王/ノルウェー国王の大権/専制君主制から立憲君主制へ――スウェーデンの苦闘/象徴君主制への道/象徴君主の役割とは/男女同権の先駆者/「四〇〇万の護衛がついている!」
第六章 ベネルクスの王室――生前退位の範例として
国王による「一喝」/「ベネルクス三国」の歴史的背景/「立憲君主制」の形成と「女王」の誕生/女王と国民の団結――第二次世界大戦の記憶/三代の女王――生前退位の慣例化?/オランダ国王の大権/生前退位の始まり――マリー・アデライドの悲劇/女性大公と世界大戦――シャルロットの奮闘/小さな大国の立憲君主制/国民主権に基づく君主制/「ベルギーは国だ。道ではない!」/第二次大戦と「国王問題」/政党政治の調整役――合意型政治の君主制/二一世紀の「生前退位」
第七章 アジアの君主制のゆくえ
国王のジレンマ?/アジアに残る君主制/ネパール王国の悲劇/タイ立憲君主制の系譜/プーミポン大王の遺訓――タイ君主制の未来/東南アジア最後の絶対君主?――ブルネイ君主制のゆくえ/湾岸産油国の「王朝君主制」/「王朝君主制」のあやうさ/二一世紀のアジアの君主制
終章 日本人は象徴天皇制を維持できるか
「おことば」の衝撃/象徴天皇の責務/象徴天皇制の定着/「平成流」の公務――被災者訪問と慰霊の旅/「皇室外交」の意味/「開かれた皇室」?――さらなる広報の必要性/女性皇族のゆくえ――臣籍降下は妥当か?/「女帝」ではいけないのか?/象徴天皇制とはなにか
おわりに

書誌情報

読み仮名 リッケンクンシュセイノゲンザイニホンジンハショウチョウテンノウヲイジデキルカ
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 304ページ
ISBN 978-4-10-603823-5
C-CODE 0331
ジャンル 政治・社会
定価 1,540円
電子書籍 価格 1,232円
電子書籍 配信開始日 2018/08/10

書評

君臨の現代的意義を求めて

待鳥聡史

 現代の国家にとって、君主を戴く意味は何か。これが本書を貫く基本的な問いである。ほんの100年前まで、内乱や革命の結果として君主やその一族が命を奪われたり、亡命を余儀なくされることは、主要国にあっても何ら珍しいことではなかった。中国の辛亥革命は1911年、ロシア革命は1917年、ドイツ革命は1918年のことである。
 君主の地位や、ときとして生命さえも脅かされた理由は、君主が政治権力を握っていたからである。支配する国内において、ときに反対派を押し切って課税を行い、また国力を尽くして戦争を遂行することができる君主は、それらが期待された結果をもたらさなかった場合には、強い反発を引き起こすことになる。血なまぐさい内乱や革命は、君主の持つ政治権力と表裏一体だったのである。
 今日、君主を戴く国家であったとしても、政治権力は既に君主の手から離れている。著者も言及しているように、湾岸産油国やブルネイなど、君主が政治権力を握り、実質的に何らの制約も受けない国家が世界には依然として存在する。しかし、ネパールが2008年に王制を廃したように、これらの絶対君主制は緩やかに消滅に向かっていると考えるべきなのだろう。
 政治権力の所在とその行使に最大の関心を向ける政治学において、立憲君主制は今日、体系的に検討されているテーマだとはいえない。政治体制の標準的な分類では、本書が取り上げる立憲君主制はほぼすべてが民主主義体制(民主制)に含められる。アジアの立憲君主制の場合、政治的自由が抑圧され権威主義体制に分類される例もあるが、それも君主の存在が理由ではない。今日の立憲君主制は、政治学にとって「歴史的な事情などから採用している国家があるが、それ自体はとくに意味のないもの」なのである。
 しかし、本当にそうなのだろうか。近代イギリスの政治史を長らく考えてきた著者にとって、「君臨すれども統治せず」だからといって、その国の政治や社会に君主のもたらすものがないと見なすのは、明らかに過小評価である。バジョットやレーヴェンシュタインの古典的な憲政論においては、立憲君主制の下で君主が君臨することの意義が説かれた。彼らの著作は19世紀後半や20世紀前半の立憲君主制を対象にしており、その議論を21世紀の今日に直接持ち込むことはできない。著者は、彼らの著作とイギリス王室に関する深い学識を出発点に、君臨の現代的意味を探求する旅を始める。
 イギリス、北欧、ベネルクス、アジアの立憲君主制諸国を巡ることで著者が見出すのは、大権は形式化していても、君主の存在そのものがその国の政治と社会の安定にもたらす効果である。北欧やベネルクス諸国の王室などではさらに進んで、望ましい社会像や家族像の提示にまで至っている。現代の立憲君主制がもたらすこのような効果は、本書のような関心とアプローチによってしか明らかにすることはできなかったであろう。
 たとえば、ノルウェーの国王は2012年の憲法改正によって国教会の首長ではなくなった。国内における宗教的多様性を含む「多文化共生」への配慮からである。また、オランダのベアトリクス女王は2013年に長男のウィレム・アレクサンダー皇太子に譲位した。高齢となった場合にどのような行動をとるべきか、君主自らが示したのである。女性の王位継承はごく一般的で、男女の別なく先に生まれた子に継承させる「絶対的長子相続制」も、北欧やベネルクス諸国では広く導入されている。
 そして最後に著者が視線を向けるのは、日本の皇室である。日本国憲法の下、政治権力なき象徴天皇制になることは、20世紀後半の立憲君主制の方向性として標準的であった。平成の時代に入って、現在の明仁天皇と美智子皇后が進めてきた公務のあり方は、どのように考えるべきなのだろうか。来年5月の皇位継承後も続けていけるだろうか。立憲君主制の現代的意味を究めた著者が、これらの点について述べる見解は傾聴に値する。是非とも、本書を手にとった方それぞれに考えていただきたいと思う。

(まちどり・さとし 京都大学教授)
波 2018年3月号より

著者プロフィール

君塚直隆

キミヅカ・ナオタカ

1967(昭和42)年東京都生まれ。関東学院大学国際文化学部教授。専攻はイギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史。著書に『立憲君主制の現在』(サントリー学芸賞受賞)、『悪党たちの大英帝国』『ヴィクトリア女王』『物語 イギリスの歴史』『貴族とは何か』他多数。

この本へのご意見・ご感想をお待ちしております。

感想を送る

新刊お知らせメール

君塚直隆
登録

書籍の分類