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「知能」とは何か――
あなたは深く考えたことがありますか?

人工知能はなぜ椅子に座れないのか―情報化社会における「知」と「生命」―

松田雄馬/著

1,512円(税込)

本の仕様

発売日:2018/08/24

読み仮名 ジンコウチノウハナゼイスニスワレナイノカジョウホウカシャカイニオケルチトセイメイ
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 292ページ
ISBN 978-4-10-603831-0
C-CODE 0395
ジャンル コンピュータサイエンス
定価 1,512円

シンギュラリティの到来に一喜一憂しても、「人工知能の時代」は確実にやってくる。だからこそ持つべき視点がある。コンピュータがいかに「見て」「動いて」「考える」かを、錯視やロボットの例を用いて徹底解明。そして「生命」を深く考えてこそ分かる「椅子に座る」ことの本当の意味。注目の新鋭研究者が迫る「知能」の正体!

著者プロフィール

松田雄馬 マツダ・ユウマ

1982年9月3日生。徳島生まれ、大阪育ち。博士(工学)。2005年、京都大学工学部地球工学科卒。2007年、京都大学大学院情報学研究科数理工学専攻修士課程修了。同年日本電気株式会社(NEC)中央研究所に入所。MITメディアラボやハチソン香港との共同研究に従事した後、東北大学とブレインウェア(脳型コンピュータ)に関する共同研究プロジェクトを立ち上げ、基礎研究を行うと共に社会実装にも着手。2015年、情報処理学会にて優秀論文賞、最優秀プレゼンテーション賞を受賞。2016年、NECを退職し独立。2017年、合同会社アイキュベータを設立。著書に『人工知能の哲学』(東海大学出版部)。

書評

AIと人間の明日はどっちだ!?

青木薫

 今、人工知能(AI)をめぐっては議論が沸騰中だ。チェスの世界チャンピオンがコンピュータに負けたのはだいぶ前のことだが、いまでは「人間に勝つのはだいぶ先」と思われていた将棋や囲碁でさえ、コンピュータが人間を下すようになった。ゲームよりいっそう人間的だと思われる芸術の分野にも、AIは進出を企てている。近い将来、鑑賞に堪える絵を描いたり、音楽を作ったり、小説を書いたりすることもできそうだと言うではないか。AI技術の可能性については、「こんなこともできる、あんなこともできる」という、素人の予想を軽々と超えるニュースが日々流れ込んでくる。AIの応用分野には、わたしたちの夢をかきたてる果てしない広がりがありそうだ。
 しかしその一方で、社会には大きな不安が渦巻いてもいる。比較的単純とされる工場労働などがどんどんロボットに置き換えられていくのは当然としても、医師や弁護士のようなステータスの高い専門職でさえ、AIで置き換え可能だという話もある。AIはあらゆる領域で人間に取って代わり、人間は社会のお荷物に成り下がるのだろうか? 意識を持ったAIが自己増殖し、いずれは人間の排除に乗り出すのだろうか?
 どこまでが現実でどこからがSFかわからない話が巷にあふれ、素人は困惑するばかりだ。手がかりを求めて本屋に行けば、さすがにAI本はたくさんある。たくさんあるのだけれど、よく見れば、「AIは儲かる!」という本と、「AIは仕事を奪う!」という本のどちらかに分類できそうなものばかり。そんな本をいくら読んだところで、根本的な不安は解消されそうにない。かといって、ウェブに目を向ければ、どこまで信じていいのかわからない情報が濁流のように流れ込んできて混乱に拍車をかける。いったいどうすればいいの? というのが、多くの人の実感ではないだろうか。
 そこでお薦めしたいのが、『人工知能はなぜ椅子に座れないのか―情報化社会における「知」と「生命」―』である。ちょっと不思議なタイトルだが、心配は無用だ。著者の松田雄馬氏は、柔らかな語り口で、押さえておきたい基本的なところから説き起こしてくれる。著者はもともと、数理生物学という、数学を使って生命を理解しようという分野の研究者。そこから、生物の知的な振る舞いを人工的に再現しようとする人工知能の研究に踏み込み、長年にわたって、AI技術の開発と、現場への実装に携わってきたという。
 本書の一番の特徴は、著者である松田さんが、AI研究開発の現場でぶつかった疑問を大切に温めて、もともと興味のあった生物をつねに念頭に置きながら、問いを深め、思索を重ねてきた人だという点にあると思う。今、「思索を重ねてきた」と言ったけれど、実は松田さんはまだ三十代の若さだ。枯淡の老人の悟ったような語り口とは全然ちがうし、年配のおっさんにありがちな(失礼!)偉そうなところは微塵もない。むしろ、若い人ならではの意気込みが噴出しているところや、これまでの模索の痕が見て取れるところもあるが、そこもまたこの著者ならではの魅力ではないだろうか。
 もうひとつ、本書の特徴といってよさそうなのは、著者が、AIも人間も大切に思っていて、どちらも良いかたちで発展してほしいと心から願っているということだと思う。本書の序章で著者は、人工知能の歴史は、「錯覚」の歴史ともいえると喝破する。これまで三度にわたって起こった(今、三度目が起こっている)人工知能「ブーム」は、錯覚のなせる業なのだ、と。人間は「知能」というものに強い思い入れがあるがゆえに、人工知能に夢も見れば、ついつい錯覚もしてしまう。しかし現場レベルでは、今回のブームのもとになった錯覚はすでにさめていると言う。AI技術の進展が目覚しいのは間違いのない事実で、錯覚からさめたとき、その実相がわれわれの目の前に明らかになるだろう。そのときわれわれは、AIにどう向き合ったらいいのだろう?
 AIをめぐる現在の喧騒から少し距離をとり、人間社会とAIとのありかたをどう捉えたらいいのか、いや、われわれはどうしたいのかを考えるために、本書は良い手引きになってくれるだろう。

(あおき・かおる 翻訳家)
波 2018年9月号より

目次

序章 人工知能を通して感じる生命への疑問
生命とは何か
第一章 人工生命、そして、人工社会とは何か
「人工生命」とは何か/「生命」が創った「万能コンピュータ」/生物の「群れ」に見る高度な「知能」/「群知能」が達成した「最適化」とは何だったのか/生物進化に学ぶ遺伝アルゴリズム/自ら進化するコンピュータ上の生き物/遺伝アルゴリズムはどのような問題を解決したのか/「人工生命」の研究によって生命への理解は進んだのか/人間社会をシミュレートする「人工社会」とその課題/あらゆる社会現象をモデル化する/モデル化という手法に潜む問題点/人工生命と人工社会の研究から何を学ぶことができるか
第二章 人工知能の研究はどのようにして始まったのか
人工知能の研究のはじまり/人工知能の研究がブームで終わってしまう理由/ニューラルネットワークのもたらした衝撃/ニューラルネットワークが行う計算の仕組み/脳の神経細胞(ニューロン)/神経細胞の「モデル化」/物体を認識する「ニューラルネットワーク」/人工知能ブームに火をつけたCNN/知を生成したと言われる「グーグルの猫」とその正体/ニューラルネットワークはものを見ることが可能なのか/ニューラルネットワークの研究から何を学ぶことができるのか
第三章 脳はどのようにして世界を知覚するのか
脳は「動き」と「形」をバラバラに認識する/世界を認識する上での身体の役割/身体によって生まれる目の錯覚/錯覚によって創り出される世界/なぜ「世界を作り出す」ことが必要なのか/人間の知覚から何を学ぶことができるのか
第四章 意識にみる人工知能の限界と可能性
人工知能への「楽観主義者」とその論争/人工知能と精神/「弱い人工知能」にとって「認識」とは何なのか/工学的な「認識」に立ちはだかる「不良設定問題」の壁/「認識」を「認識」するということ/「身体」における「心」の役割/「自己」と「意識」/フレーム問題と人間の意思決定/「意識」と「基準」/ゴミ収集ロボットに学ぶ「中央制御」の限界/「自律分散」に基づく生命システム/生命システムが動かすロボットアーム/意識を持つ生命という概念から何を学ぶことができるのか
第五章 シンギュラリティの喧噪を超えて
シンギュラリティとは何か/人間の持つ知能とは何か/生命とは何なのか/生命誕生と進化の謎/生命誕生のダイナミックな描像/循環という概念から捉えなおす進化の原動力/物理学者が探究し続けてきた生命観/シュレーディンガーの「秩序性を土台とした秩序性」/マクロな現象としての生命現象/動的秩序を生み出す生命/動的な生命システムとしての「身体」と「運動」/生命、情報、そしてコミュニケーション/意図と意味/人工知能はなぜ椅子に座れないのか/人類とコンピュータが共に生きる未来に向かって
終章 情報化社会における「知」と「生命」
情報化社会と生命知/故きブームを温ね、新しきを知る/個人の思想が創り出す小さな一歩/人が主体となる情報化社会の未来に向かって
あとがき

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