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世界史を変えた新素材

佐藤健太郎/著

1,760円(税込)

発売日:2018/10/26

  • 書籍
  • 電子書籍あり

「材料科学」の視点で描く驚異のグローバル・ヒストリー!

金、鉄、紙、絹、陶磁器、コラーゲン、ゴム、プラスチック、アルミニウム、シリコン……「材料科学」の視点から、文明に革新を起こしてきた12の新素材の物語を描く。「鉄器時代」から「メタマテリアル時代」へと進化を遂げた人類を待ち受ける未来とは――ベストセラー『炭素文明論』に続く大興奮のポピュラー・サイエンス。

目次
はじめに――「新材料」が歴史を動かす
「材料」の力/文明の律速段階
第1章 人類史を駆動した黄金の輝き――金
黄金の輝き/ミダス王の手/金貨の誕生/美しき三姉妹/黄金の島ジパング/錬金術の時代/黄金の魔力
第2章 一万年を生きた材料――陶磁器
容器と人類/焼き物の誕生/焼き物が硬いわけ/製陶と環境破壊/釉薬の登場/白磁の誕生/海を渡った白磁/ヨーロッパの磁器/陶磁器からファインセラミックスへ
第3章 動物が生み出した最高傑作――コラーゲン
ヒトはなぜ旅をするのか/人類を救った毛皮/コラーゲンの秘密/武器としてのコラーゲン/弓矢の時代/コラーゲンの今
第4章 文明を作った材料の王――鉄
材料の王/全てがFeになる/鋼と森林破壊/製鉄の精華・日本刀/「錆びない鉄」の誕生/鉄は文明なり
第5章 文化を伝播するメディアの王者――紙(セルロース)
紙から液晶ディスプレイまで/紙の発明者/セルロースの強さの秘密/洛陽の紙価/日本伝来/西へ渡った紙/印刷術の登場/メディアの王者
第6章 多彩な顔を持つ千両役者――炭酸カルシウム
変幻自在の千両役者/運命を分けた双子の惑星/宮沢賢治と石灰/帝国を造った材料/海の生物たち/クレオパトラの真珠/コロンブスの真珠/バブルと価格破壊/「海の熱帯雨林」の危機
第7章 帝国を紡ぎ出した材料――絹(フィブロイン)
「おかいこさま」/絹の起源/絹の秘密/絹の道/シルクの帝国/ハイテクシルクの時代
第8章 世界を縮めた物質――ゴム(ポリイソプレン)
「命」よりも「感動」か?/球技が生まれた時代/ゴムを作る植物/ゴムが伸びるわけ/ゴム、海を渡る/加硫法の発見/分子をつなぐ橋/ゴムが生んだ交通革命
第9章 イノベーションを加速させる材料――磁石
磁石とは何か/「慈石」の発見/指南車と羅針盤/東洋の大航海時代/コロンブスを悩ませた「偏角」/不朽の名著『磁石論』/地磁気が生命を守った?/近代電磁気学の誕生/記録媒体への応用/強力磁石を求めて
第10章 「軽い金属」の奇跡――アルミニウム
防御力と機動性の両立/アルミニウムの発見/アルミニウムを愛した皇帝/アルミニウムの科学/青年たちが起こした奇跡/天翔ける合金/新材料がもたらす革命
第11章 変幻自在の万能材料――プラスチック
世界を席巻する材料/最強の理由/プラスチックを殺した皇帝/プラスチックは巨大分子/セレンディピティから生まれたプラスチック/悲劇の天才たち/王者ポリエチレンの誕生/プラスチックの未来
第12章 無機世界の旗頭――シリコン
コンピュータ文明の到来/古代ギリシャのコンピュータ/計算マシンの夢/運命を分けた兄弟元素/ケイ素の履歴書/半導体とは何か/ゲルマニウムの時代/シリコンバレーの奇跡
終章 AIが左右する「材料科学」競争のゆくえ
材料のこれから/「透明マント」は実現するか/蓄電池をめぐる闘い/AIが材料を創る/材料はどこまでも
あとがき
主要参考文献

書誌情報

読み仮名 セカイシヲカエタシンソザイ
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 考える人から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 232ページ
ISBN 978-4-10-603833-4
C-CODE 0340
ジャンル 世界史、世界史
定価 1,760円
電子書籍 価格 1,144円
電子書籍 配信開始日 2019/04/12

書評

「材料」の進化から見る世界史

横山広美

 時代の変化は、不連続におこる。その不連続の歴史を、「材料」というこれまでにない新機軸で魅せてくれるのが本書だ。金、陶磁器、コラーゲン、鉄、紙、炭酸カルシウム、絹、ゴム、磁石、アルミニウム、プラスチック、シリコン。材料の進化という視点から歴史を見ると、こんな見方ができるのかと感動する。歴史好きにはたまらないであろうし、科学ファンにも響く。筆者は熟練のサイエンスライターであり、歴史的人物や風景の写真の合間には、注目した材料の化学構造式が並びその特性が解説されているのも他にない本書の特長だ。
 科学と社会の関係性を議論する際には時間軸に沿って、政治の区切れで整理をすることが多い。たとえば欧米の科学を推進する意義が一気に変わったのは冷戦が終わったときであり、「冷戦勝利」ではなく、「広い意味での国益」に沿った経済発展を目指す科学に舵が切られた。日本では同時期に起きた経済バブルの崩壊によって予算確保を目標とした科学技術基本法が成立し、「基礎から応用まで」の議論が当たり前になった。外圧によって科学の在り方が変わる、その政治性についての著作は多い。しかし本書は、人類が新たな材料を発見してから改良を重ねて利用にいたる長い年月の経緯と歴史の物語を語っており、著者のオリジナルなスタイルである。
 たとえばゴム。20世紀になる前後の舗装の悪い道路を走るのに空気入りのタイヤは不可欠であり、交通革命を起こした原料と言える。そしてゴムを欧州にもたらしたのはかのコロンブスであった。ゴムは、炭素同士が二重結合をした部分が回転せず、分子全体が縮れた糸のようになり伸縮性がでる。暑くなるとべとべとするのが問題であったが、加硫法という方式によって良質なゴムを生み出すことが可能になった。サッカー、テニス、ラグビーにゴルフ、野球と球技のスポーツが19世紀後半にうまれているのは、良質のゴムが普及したからだと述べる。それまでの動物の膀胱を膨らませていたボールや、木製、樹脂で作ったボールから、弾力があり球形に保てるボールができたためというのだ。なるほど、である。
 さらに面白かったのがアルミニウム。1880年代、アメリカの大学で、アルミニウムを大量に製造できたら大金持ちになれると説いた教授がいて、それを聞いた学生が大量生産に成功する。アルミニウム合金は航空産業に革命をもたらした。1930年代まで飛行機は、主に木や布で作られていたが、ドイツのフーゴー・ユンカースが1915年には鋼鉄の機体で、1919年には強度を上げたアルミニウム合金、ジュラルミンを使った機体での飛行に成功した。現代のボーイング747型旅客機は機体の81%がアルミニウム合金である。フランス皇帝ナポレオン3世は、最高の賓客をアルミニウム製の食器で、それに次ぐものを金、銀の食器でもてなしたという。
 終章では近年の動きも網羅されている。情報科学を支えるインターネットに用いられる光ファイバーは、新たな珪素化合物の開発によって実現した。「透明マント」を可能にするメタマテリアルや、電気自動車への移行のための蓄電池研究の加速、AIやスパコンを用いてのマテリアルズインフォマティクスの進展も楽しみだ。日本は材料科学研究に強いが、この15年で科学技術予算の投資は中国が11倍、アメリカが1.5倍と増えるなかほぼ横ばいで、先行きが不安である。
 政府は集中と選択を好むが、アルミニウムのように、ある程度予想をつけられる分野は多くない。たいていのイノベーションは、偶然や失敗から生まれ、いくつもの幸運が重なってようやく出てくる。研究者のボトムアップの議論を基に、ある程度自由が利く研究環境を維持しながら進めるしかない。しかし現状は、予算が増えないうえに配分の傾斜がきつすぎて、資金を獲得できない研究者は、研究そのものができないところまで追い込まれている。このまま日本の科学技術は地盤沈下するのか。ピンチはチャンスかもしれない。研究者側も思い切ったスクラップアンドビルドが必要だ。
 世界の材料物語を読みながら日本の科学技術政策に思いを馳せた次第である。読書の秋に、豆知識本としてもお勧めしたい。

(よこやま・ひろみ 東京大学国際高等研究所Kavli IPMU教授)
波 2018年11月号より

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著者プロフィール

佐藤健太郎

サトウ・ケンタロウ

1970(昭和45)年、兵庫県生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。医薬品メーカーの研究職等を経て、2020年8月現在はサイエンスライター。2010年、『医薬品クライシス』で科学ジャーナリスト賞受賞。著書に『炭素文明論』『世界史を変えた新素材』など。

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