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いま日本経済の最大の課題は、いかにして「金融緩和の魔術」から醒めるかだ!

マネーの魔術史―支配者はなぜ「金融緩和」に魅せられるのか―

野口悠紀雄/著

1,620円(税込)

本の仕様

発売日:2019/05/22

読み仮名 マネーノマジュツシシハイシャハナゼキンユウカンワニミセラレルノカ
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 週刊新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 334ページ
ISBN 978-4-10-603841-9
C-CODE 0333
定価 1,620円

借金返済、戦費調達、景気浮揚――理由はさまざまだが、「金融緩和」に手を染めた多くの為政者は、うたかたの成功を握りしめたまま出口を見失い、潰えていった。古代ギリシャから現代まで、形を変えて人類史に現れ続ける「金融緩和」の実相に迫る。発動の熱狂から6年、アベノミクスの終焉が歴史の中から浮かび上って来た。

著者プロフィール

野口悠紀雄 ノグチ・ユキオ

1940年東京生まれ。東京大学工学部卒業後、大蔵省入省。1972年エール大学Ph.D.取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授等を経て、2019年5月現在、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書に『情報の経済理論』(日経・経済図書文化賞)、『財政危機の構造』(サントリー学芸賞)、『バブルの経済学』(吉野作造賞)、『「超」整理法』、『戦後日本経済史』、『数字は武器になる』、『世界史を創ったビジネスモデル』の他多数。近著に『ブロックチェーン革命』(大川出版賞)、『平成はなぜ失敗したのか』など。

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目次

はじめに――マネーはなぜそんなに強いのか?
      マネーはマジックか? 高度なテクニックか?
第1章 歴史とともにあったマネーの魔術
1 「貨幣の品位切り下げ」という魔術
人類史上最初の貨幣改悪をした王
シニョリッジとインフレ利益
グレシャムの法則を知らなかったシラクサ王
2 ローマ帝国が貨幣改悪によって戦費を賄う
カラカラの貨幣改悪
緩慢な改鋳なら問題はなかった
セウェルスの大々的な貨幣改悪
大銀鉱を発見できたら、問題は起こらなかったか?
銀が増加しなくとも経済は発展できた
交易の利益が消滅、防衛負担は増す
3 中世イタリアで「信用」はマネーになった
マルコ・ポーロの驚き。中国では紙がマネーだ!
中世イタリアで銀行業が発達する
為替手形を使うマネーのマジック
メディチ家の秘密を解き明かす
乾燥手形という巧妙な抜け穴
4 部分準備制と信用創造
無から有を生み出す部分準備のマジック
銀行業ほど素敵な商売はない
人々が信用するから預金がマネーになる
第2章 マネーを巡る戦い
1 イングランドvs.スペイン
離婚した妃の数ほど頻繁に貨幣改悪
世界最大級の銀山をスペインが発見する
銀を担保に借りまくり太陽の沈まぬ帝国を建設
貨幣数量説の無知でスペインは衰退した
増加した銀を何に使ったか?
なぜ失敗の歴史に学べないのか?
現在まで続く金融緩和への依存
2 江戸時代での「金融緩和vs.緊縮」論争
荻原重秀の意見。貨幣は瓦礫でもよい
日本貨幣史上で最大のミステリー
江戸時代の改鋳はどう評価されるか?
積極と緊縮の交代を繰り返した江戸後期
田沼意次、水野忠成が財政収入を目的として貨幣発行
江戸幕府はなぜ不換紙幣を発行しなかったのか?
第3章 魔術師たちの誤算
1 マネーに取り憑かれたニュートン
辣腕の造幣局長官ニュートン
新発見文書が明かすニュートンと錬金術
17・6億円稼いで5・6億円すった
科学史最高の巨人の複雑な人物像
2 南海バブル事件
歴史に残るバブルはなぜ起きたのか?
元祖バブル事件のお粗末な顛末
3 ジョン・ローの巧みな魔術
聡明なる山師ジョン・ローの登場
奇想天外で異次元 ローの財政再建案
インチキ会社への熱狂的投機が起こる
賢人ローはフランスの守護神に
4 結局破綻したローのシステム
マネーの復讐がついに始まった
ローは国外逃亡、フランスは病院に
ジョン・ローは「量的緩和政策の父」
巨額の国債が返済不要になった
ローの失敗の原因は紙幣の行きすぎた増発
第4章 英仏の覇権争いをマネーから見る
1 戦費調達と中央銀行
名誉革命とイングランド銀行の創設
戦費調達制度を作った英が覇権を握る
財政改革の挫折が革命の引き金
革命政府は、アッシニア紙幣に頼る
アッシニア紙幣で王の変装を見破る
2 ナポレオン戦争とマネー
ナポレオンとロスチャイルド
金貨の危険な輸送でネイサンが大活躍
ネイサンの大誤算、金貨暴落で破産か?
ネイサン・ロスチャイルド一世一代の大博打
英仏の戦費調達方式 どちらが合理的?
紙幣増発に疑問を呈したゲーテ
現代にも尾を引く地金論争
第5章 マネーを扱いかねたアメリカ
1 アメリカでの紙幣発行
紙幣発行論者ベンジャミン・フランクリン
「大陸紙幣」の不思議なデザイン
北軍を勝利に導いたグリーンバックス
南部の政府紙幣グレイバックスの失敗
2 アメリカでは中央銀行を作れなかった
ヨーロッパでは中央銀行が広がるが、アメリカでは挫折
誰でも銀行券を発行できた「ヤマネコ銀行」の時代
中央銀行を巡る思想上の対立
3 密室で作られたFRB(連邦準備制度)
アメリカでも中央銀行が必要だ
ジキル島の秘密会議で描かれた連邦準備制度の青写真
FRBは大銀行によってコントロールされる
第6章 マネーとは金(ゴールド)なのか?
1 イギリスが金本位制を確立する
イギリスを中心とする世界的な金本位制の確立
なぜ金が本位貨幣になったのか?
金本位制下で世界経済が繁栄を謳歌したのはなぜか?
金本位制は自動調節作用を持つとの考え
実際には中央銀行の金利操作で機能した「金本位制」
経済成長が実現したために金本位制が機能した
「金が中央銀行の金庫に眠る」という不思議な話
2 揺らぐ金本位制度
金本位制の崩壊と管理通貨制度への移行
アメリカが大恐慌に陥る
ルーズベルトがニューディール政策を実施する
第7章 マネーを通して共産主義ソ連を見る
1 革命とマネー
ソ連革命政府は紙幣増発に頼ってインフレに
戦時共産主義と食糧独裁体制
政権の下方に深い亀裂が突然口を開けた
新経済政策NEPで市場経済を容認
2 スターリンの計画経済
スターリンが権力を握り、農村を破壊する
集団農場で農民は再び奴隷になった
巨大な無秩序だったスターリンの「5カ年計画」
スターリンは、4000万人のソ連国民を殺した
第8章 戦争とマネー
1 戦費調達に苦しんだ明治政府
「国立銀行」による紙幣発行に頼った明治政府
日清戦争と金本位確立の離れ業に成功した明治政府
日露戦争の戦費調達に高橋是清が奔走
ユダヤ人シフの助けで1000万ポンドの外債発行
「戦争」と「戦費調達」との重要で微妙な関係
2 第1次大戦とドイツのインフレ
第1次世界大戦もマネーの戦いだった
ドイツが必要とするものは、紙幣を印刷して賄う
「手押し車の年」となったドイツ1923年
インフレで物々交換が行なわれるようになった
ドイツ社会に深い傷を残したインフレ税の不当な負担
レンテンマルクの奇跡――インフレ鎮静化
3 第2次大戦はどう賄われたか
第2次世界大戦における戦費の総額はどの程度だったか?
日銀引き受け国債で、巨額の戦費を賄った?
占領地での戦費は軍票で調達された
特殊金融機関「外資金庫」の秘密
実質戦費がどの程度だったかは、複雑な問題
第2次世界大戦の教訓は、いまの日本で忘れられた
終章 マネーの未来史
マネーは人々の目を欺くことはできるが、問題を解決する力は持たない
仮想通貨は国家をゆるがすか?

インタビュー/対談/エッセイ

「魔術」のトリックを暴く

野口悠紀雄

――今回の著作、『マネーの魔術史』というタイトルですが、「お金」ではなく、「マネー」としたことに重要な意味が込められていると……。

 お金というとどうしても財布の中に入っている紙幣や硬貨のイメージが強くなります。しかし、例えば企業が決済するときに紙幣や硬貨を使うか、といったら使わない。使うのは銀行預金のシステム。そこで行われるのは帳簿上の操作、つまり情報の操作です。
 マネーというのはお金という形あるものだけでなく、その本質は情報。そのように捉えています。

――「情報」によってお金がマネーに変化するということですか。

 そうですね。お金は当初、金貨とか銀貨とか、それ自体に価値があるモノでした。しかし、それがだんだんと紙幣になってきた。この時点で紙に情報を持たせているからお金になるのですが、それでも紙という実体がある。ところが先の決済システムになると金貨も紙幣も出て来ません。これは大変重要なポイントです。ある意味でマネーの進化です。単に形が変わっただけでなく、形が変わることでマネーは使いやすくなってくる。
 ただ一方で、形あるモノから離れ、目に見えないモノになってくると、普通の人には分かりにくくなる。分かりにくくなると何が起こるのか――。“魔術”を使う者が出てくるのです。

――ここで「魔術」が出てくるのですね。

 マネーを使った魔術は歴史のかなり早い段階、古代ギリシャの頃から行われていました。権力者が財政的な収入を得るのに、税金ではなくマネーの魔術を使った。

――何やら怪しげな雰囲気ですね。

 たしかに怪しげではありますが、タネ明しをすれば非常に単純なものです。詳しくは本書で述べますが、簡単に言えば貨幣の品位を落とすということです。ただ、マネーがモノから離れて情報に近付いてくると、これも複雑になり、分かりにくくなってくる。果たして、これを進化とか進歩と言っていいのか……。だから「魔術」なんです。
 今、世界中に存在するマネーの魔術は非常に分かりにくいものです。それを理解するために、今までどういう経緯を経てマネーが変わってきたかを見る。それが本書の狙いの一つです。

――ますます複雑になる「魔術」ですが、貨幣の品位を落とした他、どんなことが行われてきたのですか?

 金属貨幣から紙幣の時代になってくると、品位を落とすことから紙幣の増発へと変化していきました。アメリカの独立戦争や南北戦争、あるいはフランス革命に先立つ時代、さらには第一次世界大戦後のドイツなど、軍事費を賄うため、あるいは借金を重ねてしまって返せなくなったため……、いろんな理由によって紙幣を増発してきました。もちろんそのためには様々な方策が練られるのですが、当初は上手くいっても、最終的には経済を混乱させ、破綻させる事態に陥ってしまいます。
 紙幣の増発は、現代の言葉で言い換えれば、金融緩和ということになります。

――まさにアベノミクスの「三本の矢」の内の一本、量的緩和ですね。昔も今もやっていることは変わらないと……。

 金融緩和という意味では変わりはありません。ただし、今のアベノミクスの量的緩和政策によって本当に市中のお金が増えたかというと、そんなことはありません。新聞などではしばしば「お金をじゃぶじゃぶ供給した」とか「輪転機を回して日銀券をたくさん刷った」などと説明されますが、それは全くの間違いです。

――量的緩和でもお金は増えていない?

 お金は増えていません。日本銀行の黒田総裁が量的緩和を始める時に言ったことは3つ。まず第1に銀行の持っている国債を買い入れる。第2にマネタリーベースを増やす。そして第3に消費者物価の対前年度上昇率を2%にする。この3つを言いましたが、決してお金を増やすとは言っていません。マネタリーベースを増やすと言ったのです。しかし、マネタリーベースとなってくると、理解するのは、なかなか難しい。

――そのあたりが「魔術」というわけですね。しかし日銀は量的緩和で何を得ようとしたのですか? かつてであれば戦費の調達や借金の返済など、分かりやすい目的がありました。

 そこがさらに難しいところです。量的緩和を行うときに、はっきりとした目的は示されていません。消費者物価を2%に引き上げるというのは、果たして目的なのか、それとも経済活動を活性化するための手段なのか、よく分かりません。

――となると、経済の停滞に対しての量的緩和と喧伝されていましたが、景気刺激の効果はなかったということですか?

 ありませんでした。その証拠にアベノミクス発動以降のこの6年間、日本の実質経済成長率がどれくらいだったか。景気は回復し続けたと言っていますが、1・2%です。この間の世界の平均的な経済成長率は3・5%。中国のドル表示GDPは同期間に1・6倍になっているんですから、緩和政策に経済成長を促す効果があったとはとても言えません。

――たしかに実生活でも経済成長を実感することは難しいです。

 しかし、本当に問題なのは成長できなかったことよりも金融緩和という手段、つまりは「魔術」に頼って経済をよく出来ると、人々が信じたことです。緩和に頼ったために、そこから抜けられなくなり、経済状況がますます悪化した事例が歴史の中にはたくさんあります。

――それはどのような事例ですか?

 たとえば16世紀のイングランドです。エリザベス1世の父ヘンリー8世は、膨らんだ軍事費を賄うため、貨幣の改鋳でその品位を落とし、通貨量を増やしたのです。これは大改悪と呼ばれました。その結果、イングランドの貨幣が外国で受け取りを拒絶されるようにすらなったのです。本来なら品位を高めるべきだったのですが、当時のイングランドの主要産業、羊毛業者がそれを良しとしなかった。金融緩和によってポンドの価値が下がったために輸出がしやすくなっていたからです。

――まるで日本の円安政策と自動車産業のようですね。

 そうです。輸出業者にとって、自国の通貨安は望ましいことですが、国民から見ると外国から高いものを買わなくてはならないから貧しくなるし、それによって国も衰えてゆく。しかし、それでも主要産業から支持を受けるヘンリーは貨幣の品位を高めることはできなかった。
 ただ、ヘンリーの後を継いだエリザベス(正確には間にエドワード6世とメアリ1世が入る)は違いました。彼女は国民が陥る状況を冷静に見据えた上で、財政顧問のトーマス・グレシャムの意見を聞き入れ、貨幣の品位を高める政策に転換したのです。グレシャムは「悪貨が良貨を駆逐する」という言葉を残した人物としても知られています。これによってイングランドは後の大英帝国の礎を築いていったのです。

――お伺いしていると、今の日本にはエリザベス1世もグレシャムもいない、そんな感じがします。

 そこが重要なところです。エリザベスという非常に聡明な君主とグレシャムという有能なアドバイザーが現れ、イングランドは没落の危機から免れることができました。これは単に優秀だとか頭がいいというだけの問題ではありません。エリザベスの時代の後、18世紀、イギリスで南海バブル事件という、今日の「バブル」の語源にもなった投機熱が起こりました。これも本書の中で金融緩和がもたらした事件として詳しく触れていますが、この南海バブルでは、あの物理学者のニュートンまでもが大損害を被っているのです。
 このように歴史を振り返ってみると、金融緩和政策が多くの人を巻き込み、ニュートンまでもダマすことに成功するほど複雑な仕組みであったということが言えるわけです。もちろん結局は上手くはいかない。

――とはいえ、一時は利益をもたらすのですから、なかなか見抜くことは難しい。

 その通り。権力者たちは財政収入を得るために貨幣の改鋳を行ったわけですし、通貨安になれば産業界からの支持も得ることが出来る。非常に魅力的な手段であることは間違いない。権力者からすれば使いたくなるような魔力を持っている。問題はそれによって国民が騙されるかどうか、不利益を被ったことを理解出来るかどうかです。

――そうなると、われわれとしても政府の政策を、目先の言葉や数字に惑わされず、冷静に見る必要がありますね。

 だからこそ歴史を知る必要があるのです。本書では、イングランドのみならず、スペイン、フランス、アメリカ、ドイツ、さらには日本の江戸時代や太平洋戦争中にもあった、さまざまな金融緩和政策について触れています。いずれもが失敗の歴史です。人類は同じようなことを幾度となく繰り返してきているのですから、それを知ることで、今、私たちがどのような状況にあるか、どのような政策が行われているのか理解することが出来るのです。

(のぐち・ゆきお 早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問)
波 2019年6月号より

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