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すごい神話―現代人のための神話学53講―

沖田瑞穂/著

1,540円(税込)

発売日:2022/03/24

書誌情報

読み仮名 スゴイシンワゲンダイジンノタメノシンワガクゴジュウサンコウ
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 考える人から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 223ページ
ISBN 978-4-10-603878-5
C-CODE 0314
ジャンル ノンフィクション
定価 1,540円
電子書籍 価格 1,540円
電子書籍 配信開始日 2022/03/24

私たちは、今も神話の世界を生きている――瞠目の一冊!

人間はなぜ死ぬのか――インドネシアのバナナ型神話と『鬼滅の刃』の物語から考える。女神たちは何を担わされているのか――インドの乳海攪拌神話とゲーム『FGO』の世界観から解き明かす。世界に伝わる多様な神話から、現代の映画や漫画、ゲームにまで息づく「神話のエッセンス」を明らかにする、魅惑の神話学講義!

目次
はじめに
第一章 神話で世界を旅する
1 人間はなぜ死ぬようになったのか――インドネシアの「バナナ型」神話
2 エロスにはタナトスがついてくる――ナイジェリア神話「カメと死」
3 脱皮して若返る人間たち――オセアニアの「脱皮型」神話
4 神様だって年を取る――エジプト神話の「太陽神ラー」
5 月の表面には何がいる?――北アメリカの神話「月の蛙」
6 巨人の死体から生まれた世界――北欧神話『エッダ』の世界(1)
7 世界は一本の巨木でできている――北欧神話の「ユグドラシル」
8 分離する天と地――ニュージーランド神話のランギとパパ
9 人口過剰は洪水で解決する――インドネシアの「洪水」神話
10 「ノアの箱舟」は二次創作?――『ギルガメシュ叙事詩』の「洪水」神話
11 人口過剰は戦争で調整することも――インド神話「大地の重荷」
12 イモ栽培はなぜ残酷か――「ハイヌウェレ型神話」を考える
13 トイレの怪談と神話をつなぐもの――インドネシアの月になった少女
14 運命を紡ぐ女たち――ギリシアの「糸紡ぎ」神話
15 世界を動かす機織り――インドの少年僧が見たものとは
16 少女はなぜ蜘蛛にされたのか――神々と人間が交わるギリシア神話
17 トリックスターは翻弄する――北欧神話『エッダ』の世界(2)
18 大切なものを盗む鳥たち――メソポタミア神話の「ズー鳥」
特別コラム1 なぜ敵と似てしまうのか――ゲーム『パズドラ』で神話の構造を考える
第二章 言葉と音と
19 吟遊詩人を怒らせてはいけない――ケルト神話の詩人の呪い歌
20 詩人になるためなら最高神も泥棒になる――北欧神話の「詩人の蜜酒」
21 名前にも魔力がある――エジプト神話の言霊
22 失われた「アダムの言葉」――旧約聖書「バベルの塔」
23 音楽にも魔力がある――ギリシアの楽神オルペウス
24 神や魔を呼ぶ楽の音――フランスの民話から日本の神話まで
25 異界と現世を結ぶ音――『ナルニア国物語』『ファウスト』
26 数字にも魔力がある――神話や昔話に「3」が頻出するわけ
27 もっとも美しい女神はだれか――ギリシア神話「トロイ圏伝承」三機能体系説
28 力や富を得るよりも、ヨーデルをうまく歌いたい――ドイツの昔話
29 三点一組の宝物――北欧神話とインド神話
30 世界中にある「三種の神器」――ケルト、スキタイ、そして日本
特別コラム2 今を生きるサンスクリット語
第三章 女神と女性の神話
31 エバとマリア――罪とあがない
32 マグダラのマリア――悔い改めた女
33 処女なのか母なのか――アルテミス
34 一卵性母娘の女神――デメテルとペルセポネ
35 「呑みこむ」母たち――大地の女神ガイアの暗闇
36 現代の呑みこむ少女母神――FGO「キングプロテア」
37 少女母神として考えてみる――FGOの「エウリュアレ」と「メディア・リリィ」
38 仲良し夫婦の間にも秘密がある――インド神話の「見せるなの禁」
39 物語における「禁止」の意味とは――中国の神話「生死を司る星」
40 「決して私の姿を見ないでください」――『古事記』の「見るなの禁」(1)
41 「振り返って見てはならない」――世界中にある「見るなの禁」(2)
第四章 インドの神話世界へ
42 日本人にもなじみがあるインドの神――ヴェーダの神々
43 三人の最高神が司る世界――ヒンドゥー教の神話
44 悠久の時を生きるヴィシュヌ――ヴィシュヌとシヴァはどちらが偉い?(1)
45 偉大なるシンボル・リンガとは――ヴィシュヌとシヴァはどちらが偉い?(2)
46 「原初の愛」――カーマ・エロス・ムスヒ
47 ガンジス河の女神の秘密――なぜ子供たちを殺したか
48 『マハーバーラタ』の世界――神々と人間が織りなす豪華絢爛な大叙事詩
49 「対」の英雄――アルジュナとクリシュナ
50 もう一つの「対」の英雄――カルナとドゥルヨーダナ
51 骰子賭博は身を滅ぼす――『マハーバーラタ』の盤上遊戯神話
52 私たちは仮想現実の世界を生きている――『マハーバーラタ』のマトリックス
53 天と地の悲しい別れ――『ラーマーヤナ』の世界
おわりに

書評

現代に転生する世界の神話

山本貴光

 専門学校や大学でゲームのつくり方を教えていたことがある。その際、学生のみなさんから毎年のように訊かれるお決まりの質問があった。なかでも多かったのが、「神話について知るのによい本はありますか」だった。
 そんなときは、青土社から出ていた『ロシアの神話』『エジプト神話』『インド神話』『日本の神話』『アメリカ・インディアン神話』といった世界の神話を案内する本や、さらに知りたいという人には神話学に関する本を紹介していた。当時この本があったら、真っ先に紹介したにちがいない。
 というのも、本書はゲームや漫画をはじめとして、アニメや小説や映画など、私たちにお馴染みの創作物と世界の神話とを重ね合わせながら、そのおもしろさや不思議さに読者を案内してくれる本なのだ。著者はインド神話を専門とする神話学研究者の沖田瑞穂さん。神話に興味のある読者なら、古代インドの叙事詩『マハーバーラタ』に関する本や『世界の神話』(岩波ジュニア新書)などを読んだことがあるかもしれない。
 本書『すごい神話―現代人のための神話学53講―』は、「神話で世界を旅する」と題された章から出発して、五十三のトピックを通じて世界各地の神話に触れることができる。その一部をご紹介すれば、宇宙や世界の創世、人間の生死や運命、名前や音や数の魔力、世界の神話に見られる「三種の神器」、見ることを禁じる女神たち、仮想現実としての世界といった具合である。どこから読んでも面白い。
 それぞれのトピックは五ページほどの分量で、もっぱら三つの要素からできている。(一)私たちに身近な現代の話題、(二)古代の神話の具体例、(三)神話学のものの見方だ。著者も言うように、SNSで好きなものについておしゃべりするように書かれていて、気軽に読めること請け合いである。また、神話の一部を引用紹介しており、本書全体を神話名場面集として楽しむこともできる。
 例えば、巻頭の「人間はなぜ死ぬようになったのか――インドネシアの「バナナ型」神話」と題されたトピックは、吾峠呼世晴の大ヒット漫画で劇場版アニメも大きな話題を呼んだ『鬼滅の刃』(集英社)の話から始まる。著者は、この漫画に描かれた鬼と人間の争いの横に、インドネシア神話を並べてみせる。バナナと石が「人間はどのようであるべきか」について激しく争う話だ。
 人間は石のように硬く、不死であるべきだと主張する石と、人間は個体としては死んでも、子を生んで種として存続するバナナのようであるべきだと主張するバナナの争いは、途中を省くとバナナの勝利に終わる。それで人間は不死ではなく、死ぬ定めになったというわけである。これは「死の起源神話」といって、人間がなぜ死ぬのかを説明するものだ。また、世界には同じような話があって、「バナナ型」と分類される。
 それにしてもどうしてこの漫画と神話を並べたのか。これは著者の受け売りだが、この二つの物語は構造がとてもよく似ているのだ。『鬼滅の刃』に登場する不死で家族を持たない鬼たちは石に、死ぬ定めで家族をもつ人間たちはバナナに重ねてみることができる。著者は、現代の創作者たちに敬意を払いながら、「ほとんどの物語の原型は神話に出尽くしていると言っても過言ではない」と指摘している。
 こんなふうに物語同士の構造を比較したり、「死の起源神話」や「バナナ型」といった分類を施したりするのは、外ならぬ神話学の方法だった。神話学では、個々の神話を検討するのに加えて、世界各地に伝わる神話を対象として、そこに共通するパターンや違いを検討する。本書はパッと開いて目に入ったページをつまみ読みしても楽しめるように書かれているが、そのつもりで見ていくと、あちこちにそうしたつながりや共通する要素が目に入るはず。
 この本を読みながら、私はいつしかゲームと神話の関係について考えていた。本書で取り上げられている「パズル&ドラゴンズ」や「FGO(Fate/Grand Order)」といった人気のゲームにも神話のモチーフがふんだんに使われている。思えば、人間同士で遊ぶゲームの時代から神話は重要な発想源になっていたし、コンピュータゲームにも数え上げればきりがないほど神話の要素が用いられている。
 神話はこの世界の成り立ちや人間の運命を説明する物語だ。見方を変えれば神話とは「世界設定」、あるいはその設定から生じる出来事の事例集のようなものである。他方のゲームは、どんなに小さなものでも一つの世界のようなものだ。そんなゲームをつくり出すのはいわば創世の仕事であり、神話の世界をつくることにもどこか似ている。
 その際、クリエイターは、物語の原型である神話をおおいに頼りにする。そうして人の一生より遥かに長い時間、この世界に存在してきた神話は、ゲームという新たなかたちで甦り、未来へと継承されてゆくわけである。神話風にいえば神話の輪廻転生とでもいおうか。
 著者の案内で世界の神話を楽しんでいるうちに、気づけば神話のようなものの見方をしていたのだった。

(やまもと・たかみつ 文筆家/ゲーム作家)
波 2022年4月号より

著者プロフィール

沖田瑞穂

オキタ・ミズホ

1977年、兵庫県生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程修了。博士(日本語日本文学)。神話学研究所を主宰。専門はインド神話、比較神話。おもな著書に『怖い女』(原書房)、『マハーバーラタ入門』(勉誠出版)、『世界の神話』(岩波ジュニア新書)、『インド神話』(岩波少年文庫)、『マハーバーラタ、聖性と戦闘と豊穣』(みずき書林)などがある。好きな神はインドの女神ドゥルガー。

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