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ヒトはなぜ死ぬ運命にあるのか―生物の死 4つの仮説―

更科功/著

1,650円(税込)

発売日:2022/05/25

書誌情報

読み仮名 ヒトハナゼシヌウンメイニアルノカセイブツノシヨッツノカセツ
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 216ページ
ISBN 978-4-10-603881-5
C-CODE 0340
ジャンル ノンフィクション
定価 1,650円
電子書籍 価格 1,650円
電子書籍 配信開始日 2022/05/25

寿命って何だろう? なぜ、私たちは進化の末にそれを獲得していったのか?

約40億年前に誕生した初期の生物に、寿命はなかった。にもかかわらず、死ぬことは必要だった――生物は進化し、多様性を生み出し、複雑な構造となったからだ。生物は生き残るため、寿命を得たのである。「死」に関する4つの仮説の歴史的な盛衰を通して、生物の「寿命」がどのように生まれたのかをひもといていく。

目次
まえがき
第1章 自然淘汰的死亡説
不思議な老人/不思議は存在する/奇跡を生み出す自然淘汰/生命が偶然生まれるのは無理/ホイルの計算/下手な鉄砲は数を撃っても当たらない/無限には死ねない/地球の生命の起源/ルカとは何か/交代するルカ/未来のルカ/遺伝子の重複/ルカが最初の生物でない証拠/遺伝子の水平伝達/水平伝達の制限/転写や翻訳に関する遺伝子/転写と翻訳が重要/ゲノムについて/ルカのイメージ/大切なのは遺伝システム/爆発したテレビ/椅子取りゲーム/平和な生存闘争/標準装備されている死/次の世代に受け継がせないための死/地球の生物の分け方/単系統群とは
第2章 生物の基本形は不死
グラスの水と川の水/ガスコンロの炎/散逸構造としての生物/生物の冷凍保存/ラムダファージというウイルス/ネズミの思考実験/延長された表現型/時間と空間のなかの生と死/リボソームの有無/あいまいな生と死の境界/生命の起源について/熱水噴出孔/ロストシティ/「一部が死ぬ」から「すべてが死ぬ」へ
第3章 種の保存説
メスがオスを食べる/子が母親を食べる/炎の子/炎は進化しない/もやウィンの言葉/変化しない者が生き残る/変化した者は生き残れない/ヴァイスマンの考え/哺乳類の子殺し/保険の乗り換え/メスによる子殺し/昆虫における子殺し/次の世代のために死ぬのは矛盾
第4章 利他行動による死
ミツバチの社会/子を残さない働きバチ/ダーウィンの慧眼/血縁淘汰/遺伝子による説明/血縁淘汰はヒトでも働くか/重要なのは適応度の増加/ヒトとチンパンジーの血縁度?/虫歯のオオカミ/虫歯遺伝子は増えていくか/利他行動の起源の一つ/種のための進化は難しい/集団の数は少ない/単細胞生物と多細胞生物/多細胞生物と社会/多細胞生物とミツバチの社会/分化するための目印/エピジェネティクス/ミツバチのエピジェネティクス/相関関係と因果関係/キイロタマホコリカビの裏切り/ミツバチの裏切り/細胞と個体
第5章 進化論的寿命説と生命活動速度論
多細胞生物は単細胞生物に敵わない?/単純な多細胞生物を考える/多細胞生物が進化する可能性/最古の多細胞生物/多細胞生物に寿命がある理由/関節リウマチ/おばあさん仮説のもう一つの意味/おばあさん仮説は正しいか/寿命遺伝子/アリストテレスの考え/ルブナーの発見/生命活動速度論/酸化ストレス説/生命活動速度論のその後/たくさんの例外/ピートのパラドックス/大きな動物はがん抑制遺伝子が多い/進化論的寿命説/進化論的寿命説の実証
第6章 複雑なものの死
人類はなぜ長生きか/哺乳類の歯/複雑なものは何回も作れない
あとがき
主な参考文献

書評

人はずーっと「なぜ死ぬのか」を考えてきた

高橋真理子

「恐れまい生まれるまでは死んでいた」
 朝日川柳(2022年3月24日付)に掲載された作品である。いや、その通り。それにしても世の中にはどうして死を恐れる人が多いのか、私は今一つ理解できないでいる。身近な人の死は怖いと思う。だが、自分自身の死は運命として受け入れるしかないではないか。死ぬときは死ぬ。自分の死はあんまり怖くない。生物がいずれ死ぬのは当たり前の話である。
 しかし、「当たり前」とせず、「なぜか」を追究するところから、科学は始まる。実際、多くの科学者たちが「生物はなぜ死ぬのか」を考えてきた。本書によれば、これまで300を超す仮説が提唱されたらしい。その中から、4つをピックアップして、独自の語り口で生物学の最新の考え方に導いてくれるのが本書である。
 最初に取り上げるのが「自然淘汰による死」。ここでは、何度もハッとさせられた。歴史的には、生物の死を目の当たりにして「自然淘汰」という発想が生まれ、それが進化のメカニズムとして確立したわけだが、本書では逆向きに説明が進む。地球という限られた場所で奇跡のような「生命の誕生」や「人類の誕生」が起きるには自然淘汰というメカニズムが必要だというのだ。
 自然淘汰とは、環境に適応した個体が生き残って子孫を残し、適応しない個体は子孫を残さずに死ぬことである。自然淘汰のために、死が必要なのだ。そして、自然淘汰があるから、やたらに死を増やさなくて済む。進化論からは、死はこう位置付けられるわけである。
 進化論はみんなが知っている科学理論だが、みんなが半知半解、あるいは誤解や曲解をしている理論でもある。本書では、誤解しやすいところを丁寧に説明してくれている。例えば、「地球のすべての生物の最終共通祖先」について。地球上のすべての生物はただ1種の共通祖先に由来する、と聞いたり読んだりしてきて、頭の中にできていたイメージは最初の生命が次第に複雑なものへと進化し、枝分かれし、現在の多様な生物が生まれてきたという「生命の歴史」である。
 だが、それは間違った描像であると本書は教えてくれる。異なる2つの種の共通祖先が突き止められたとして、それをさらに遡ればすべて両者の共通祖先になるが、2つに分かれたのはある時代のある1つの種からである。それが「最終共通祖先」で、英語の頭文字をとって「ルカ」と呼ばれる。いま地球上にいるすべての生物のルカは、最初の生物ではなく、おそらく最初の生物が生まれてから何億年か後の生物だろうという説明には、まさにハッとさせられた。途中、枝分かれしたたくさんの生物が絶滅してしまったのだ。
 また近年、アーキア(古細菌)という従来の細菌とはまったく別系統の生物が見つかり、生物界は一般的に「アーキア」「細菌」「真核生物」に3分類されるようになったことは聞き知っていた。真核生物とは細胞に核がある生物で、私たち人間はここに含まれる。細菌は核を持たない単細胞生物として昔から知られていたわけだが、「私たちはアーキアに含まれる」とさらりと書いてあって驚愕した。最新の研究成果に基づくその説明はいささか込み入っているが、馴染みの細菌より新参者のアーキアの方が我々に近いとは、生物のフシギを感じずにはいられない。
 話を死に戻すと、2番目に取り上げている仮説は、「死ぬのは次世代のため」という「種の保存仮説」だ。これは古くから主張され、今も一定の人気を保っている説だが、現在はほぼ否定されていることが複数の観点から示される。
 3番目は、20世紀初めに出てきた「生命活動速度論」で、生命活動の速度が速いほど寿命が短い、という説である。速度は、具体的には心拍数や時間当たりの消費エネルギー量などで測られる。体の大きな動物も小さな動物も共通のルールで寿命が決まっているという魅力的な説で、20世紀半ばはかなり確かな説と考えられていたが、次第に例外がたくさん見つかり、21世紀に入ると生物の寿命のデータベースをもとにした研究で否定されてしまったという。
 4番目が「進化論的寿命説」で、外因によって死亡しやすい環境では生物の成長が早くなり、寿命は短くなる、という説だ。これは実証データもあり、寿命を決める要因の一つであるのはほぼ間違いないと結論づけられている。
 最初に、生物が死ぬのは当たり前と書いた。実は、単細胞生物は死なない。周りに栄養さえあれば、分裂を繰り返してずっと生きている。これもハッとさせられた点である。生物としては、死なない方がいいではないか。何で、死なない生物から死んでしまう生物が進化したのか。こんなこと、本書を読んで初めて考えさせられました。

(たかはし・まりこ 科学ジャーナリスト)
波 2022年6月号より

著者プロフィール

更科功

サラシナ・イサオ

1961年、東京都生まれ。東京大学教養学部基礎科学科卒業。民間企業を経て大学に戻り、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。専門は分子古生物学。2022年5月現在、武蔵野美術大学教授、東京大学非常勤講師。『化石の分子生物学――生命進化の謎を解く』(講談社現代新書)で、第29回講談社科学出版賞を受賞。著書に『宇宙からいかにヒトは生まれたか――偶然と必然の138億年史』『進化論はいかに進化したか』(共に新潮選書)、『絶滅の人類史――なぜ「私たち」が生き延びたのか』(NHK出版新書)、『若い読者に贈る美しい生物学講義――感動する生命のはなし』(ダイヤモンド社)など。

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