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年寄りは本気だ―はみ出し日本論―

養老孟司/著 、池田清彦/著

1,705円(税込)

発売日:2022/07/27

書誌情報

読み仮名 トシヨリハホンキダハミダシニホンロン 
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 223ページ
ISBN 978-4-10-603886-0
C-CODE 0336
ジャンル 人文・思想・宗教
定価 1,705円
電子書籍 価格 1,705円
電子書籍 配信開始日 2022/07/27

「この国にはモノサシがない」――。碩学のふたり、ブツクサと大放談!

「日本には人命尊重という概念がない」「有事になると希望的観測で動く」「損切りができない」……。この国を動かす「空気」の正体を断じる。「SDGsはただのスローガン」「AIの予測はだいたいはずれる」「カーナビは人間の感性をダメにする」……流行りものにも物申す。84歳と75歳が、日本のほんとうの難題を語り尽くす。

目次
まえがき 養老孟司
第1章 この国にはそもそも「モノサシ」がない
期限切れワクチンはやめてくれ/プーチンは現代のヒトラーか/今ごろ「一九世紀の戦争」をやるとは/国家はそもそも幻想だ/戦争は「その後」が大事/アインシュタインとフロイトの戦争論/普通であるありがたさ/ウクライナ人から買ったゾウムシ/コロナウイルスは生物兵器か/ワクチンよりも治療薬?/いいことばかりじゃない/「ワクチン先進国ニッポン」はどこへいった/人命尊重は昔からしていない/誰が俺を食わせているのか/金に関係ない物はないのと同じ/食べ物をつくるのは大変だ/ハゲタカファンドに食い尽くされる
第2章 お金と頭は使いよう
すべてのお金はバーチャル通貨だ/給料だけやって遊ばせろ/ヒキガエルで「名誉助教授」/東大の医学部はそういうところ/「昆虫資本主義」は依存症かも/日本にビル・ゲイツはいない/「猫の薬」に三億円が集まった!/じいさんには出さない/飼い主のほうが先に死ぬ/クサガメに喜怒哀楽はあるか/老化が病気なら治せばいいだろ
第3章 AI化する人間
人はAIの奴隷になるか/人間が思いもつかないブレークスルー/AIの予測はだいたいはずれる/医学部は「危険、気持ち悪い、臭い」/一年に三回しか来ません/死体から意味を取り出す/何が本当の「現実」なんだ?/AIより「穴」をふさげ
第4章 非戦闘的有事に備えよ
「最たる有事」は自然災害だ/一〇〇〇種のコウモリは病原体の宝庫/年寄りを殺すミステリアスウイルス/「どうせぶっ飛ぶ」と思っている/災難を避けるだけで精一杯/面倒くさいから「なりゆき人生」/誰も本気で考えていない/損切りができない貧乏くささ/どうせ死ぬからいいけど
第5章 安全保障としての環境問題
気候を操作しようとした詐欺師たち/「外来種問題」も金儲けのタネ/ニホンジカのほうが問題だ/野生のスミレよりパンジー/シロナガスクジラはなぜ増えない?/「生き物の目録」をつくれ/どうせなら明るい自然保護/お前の人生、どんな意味があるんだ/回るおもちゃはなぜ大事か/ハゲしくハゲまされました/病気は治らない!?
第6章 環境問題と経済成長は表裏一体
「脱成長の原因」は環境問題?/日本人は「空気」で動く/世界全体も「空気」で動く/電気自動車も環境に悪いぞ/SDGsは「一億玉砕」か/里山こそがサスティナブルだ/電力より薪割り/「小さい単位」で考えろ
第7章 流域思考とカーナビ思考
水を治める者、天下を治める/ヘディングアップか、ノースアップか/玄関へ行ってくれ/小さなブレークスルーが流れを変える/部分が全体になるように
第8章 日本人の幸せって
ハッピーじゃないから死ぬんでしょう/危ないから生き生きする/俺の人生、これでもういいか/意味は自分の中にない/二週間も禁酒したくない/「特記事項なし」でOK/「世間の風」に吹かれる国/絞首台のボタンを押すのは誰だ?/「本気じゃない文化」の起源/中国を台湾化してしまえ/蒋介石の墓で虫採り/中国の強さは「いい加減さ」/「天皇制」は伝家の宝刀だ/これからはだましだまし/人生は短い、働いている暇はない/はみ出るのも大変/不適切な発言をお詫びします/年寄りとは「無用の記憶」
あとがき 池田清彦

インタビュー/対談/エッセイ

環境問題を考えたらこうなった

池田清彦

 養老さんと対談をして本にまとめようという話が持ち上がったのは、4年ほど前のことで、実際何回か対談をしたのだが、話題が多岐にわたってなかなか収拾がつかなかった。そうこうするうちに、2020年になって新型コロナウイルスによるパンデミックが始まって、あまつさえ、養老さんは心筋梗塞で入院。幸い一命はとりとめたものの、対談の企画は滞ったままだった。
 2021年の秋に、パンデミックが小康状態になった頃、やっと環境問題を軸に対談をまとめようかという話になったところで、2022年になるや否や、オミクロン株が大流行し、踵を接してロシアがウクライナに侵攻するという驚天動地の事件が勃発した。これらを踏まえて、急遽追加の対談を行って、やっと出来上がったのが『年寄りは本気だ―はみ出し日本論―』である。
 というわけで、対談は新型コロナのワクチンとウクライナ紛争の話から始まる。感染症や戦争は環境問題ではないだろう、と思っている方もいるでしょうが、「人間の活動によってもたらされる災厄」を広義の環境問題と呼ぶならば、「感染症」や「戦争」も立派な(?)環境問題なのだ。
 約1万年前まで、人類が狩猟採集生活を送っていた頃、人類に固有の感染症はなかったし、恐らく戦争もなかった。ヒトからヒトに感染する人類に固有の感染症が存在するためには、ある一定数以上の人口を擁する集団の存在が不可欠だ。ところが狩猟採集生活を送っていた頃の人類は50~100人程度のバンドと呼ばれる集団で暮らしており、他のバンドと接触することも滅多になかった。
 例えば、ヒトからヒトへと感染する能力を持ったウイルスが現れて、バンドに侵入したとしよう。密なコミュニティであるバンドの成員はほとんど全てこのウイルスに感染して、あるものは命を落とし、あるものは治って免疫を獲得し、しばらくすれば、集団からウイルスは消えてしまう。ウイルスが存続するためには感染者が誰かにうつす必要があるが、その誰かはもはや集団の中にはいないのだ。
 人類が農耕を始めると定住人口は徐々に増え始めて、他の集団との交流も始まったろう。こうなって初めて人類固有の感染症が存続可能となる。人類固有の感染症は人類の生活用式の変化によってもたらされたのだ。もちろん最初の頃は現在のようなパンデミックはなかった。人類が歩行以外の移動手段を持たなかった頃、病原体の伝播速度もまた歩行速度以上ではなかったからだ。そう考えれば、79億の世界人口と交通網の発達がパンデミックの原因なのは明らかだ。CO₂の人為的な増加が地球温暖化の原因だという怪しげな話と違って、これには疑問の余地がない。
 戦争もまた、元々は環境問題であった。農耕を始めると、穀物を貯蔵できるようになり、狩猟採集時代とは比べ物にならない位の人口を養えるようになった。しかし一度飢饉に襲われると、食料が圧倒的に足りなくなり、集団間で貯蔵穀物を奪い合う戦いが始まり、恐らくこれが戦争の起源であろう。農耕と人口増が初期の戦争の原因であったことは間違いない。近現代の戦争は食料よりもむしろ化石エネルギーなどの資源争奪戦の様相を呈しているが、これもまた人類が化石エネルギーに頼る生活を始めたことによる広義の環境問題なのだ。
 戦争は人間の活動による災厄であることは間違いないとしても、他の環境問題とは全く異なる側面もある。戦争には人口や食料といった生態学的な見地だけからは読み解けない「同一性」の問題があるからだ。ヒトは自分の頭の中にある同一性を守ろうとする不思議な習性を持つ動物なのだ。それはヒトだけが言語を持ち、概念を捏造することと関係している。
 この世界の現象はすべて連続的だ。ヒトは連続的な現象を恣意的に分節して何らかの同一性を捏造する。太平洋戦争中の日本人の一部は国体を守るために命を懸けた。国体って国民体育大会じゃないよ。国体とはそれを守ろうとしている人の頭の中にある概念である。もっとはっきり言えば妄想である。おそらく、今のプーチンも「ロシアの国体」を守るべく戦争をしているのだろうと思う。もちろんそれも妄想である。
 私は妄想を馬鹿にしてこのことを言っているのではない。すべての概念は恣意的に分節された同一性、すなわち究極的には妄想なのだから、人は妄想なしには生きていけない。問題は人によって同一性が異なることだ。さらに問題なのは多くの人は自分の同一性こそが最も正しい同一性だと信じていることだ。戦争も差別もすべてここに起因する。
 世界中のすべての人の同一性をそろえてしまえば、世界は平和になるだろうが、言語も文化も違うのでそれは不可能だし、そもそも、多様性がなくなって面白くない。せめて、自分が信じる同一性も所詮は妄想だということを理解して、今の時点で最も合理的な妄想は何か、と考える人が増えたら、世界は多少は真っ当になるだろう。この対談からそのことを読み取ってくださるなら、嬉しい限りである。

(いけだ・きよひこ 生物学者)
波 2022年8月号より

著者プロフィール

養老孟司

ヨウロウ・タケシ

1937(昭和12)年、鎌倉生れ。解剖学者。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。1989(平成元)年『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。著書に『唯脳論』『バカの壁』『手入れという思想』『遺言。』『ヒトの壁』など多数。池田清彦との共著に『ほんとうの環境問題』『正義で地球は救えない』など。

池田清彦

イケダ・キヨヒコ

1947(昭和22)年、東京生れ。生物学者。東京教育大学理学部卒。東京都立大学大学院生物学専攻博士課程修了。山梨大学、早稲田大学名誉教授。構造主義生物学の地平から、多分野にわたって評論活動を行っている。著書に『構造主義生物学とは何か』『構造主義と進化論』『分類という思想』『新しい生物学の教科書』、近著に『SDGsの大嘘』などがある。

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