今月の表紙の言葉は、アリ・スミスさん。
波 2022年8月号
(毎月27日発売)
発売日 | 2022/07/27 |
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JANコード | 4910068230829 |
定価 | 100円(税込) |
阿川佐和子/やっぱり残るは食欲 第59回
【原田ひ香『財布は踊る』刊行記念特集】
群ようこ/分にふさわしいものしか手に入らない
[対談]原田ひ香×桐谷広人/お金と、株と、どん底と。
【二宮敦人『ぼくらは人間修行中―はんぶん人間、はんぶんおさる。―』刊行記念特集】
[対談]二宮敦人×秀島史香/世界が変わる経験
古賀及子/父親があざやかにすくい取る成長のグラデーション
二宮敦人/ぼくらは人間修行中 第21回
J・D・サリンジャー、金原瑞人 訳『彼女の思い出/逆さまの森』(新潮モダン・クラシックス)
川本三郎/ロスト・ジェネレーションとしてのサリンジャー
デボラ・レヴィ、小澤身和子 訳『ホットミルク』(新潮クレスト・ブックス)
中江有里/奇妙な痺れと痛みの書
アリ・スミス、木原善彦 訳『秋』『冬』『春』『夏』(新潮クレスト・ブックス)
木原善彦/バラバラな世界とバラ色の夢
滝口悠生『水平線』
松家仁之/死者から届く親しげな挨拶
【アンデシュ・ハンセン、久山葉子 訳『ストレス脳』(新潮新書)刊行記念特別寄稿】
田村 淳(ロンドンブーツ1号2号)/知ることが救いになる、こともある
畠中 恵『こいごころ』
錦織一清/時代小説におけるシチュエーションコメディの名作
長浦 京『プリンシパル』
香山二三郎/お嬢さんアンダーワールド
八重野統摩『ナイフを胸に抱きしめて』
若林 踏/応報感情と真正面から向き合うミステリ
養老孟司、池田清彦『年寄りは本気だ―はみ出し日本論―』(新潮選書)
池田清彦/環境問題を考えたらこうなった
瀧井一博『大久保利通―「知」を結ぶ指導者―』(新潮選書)
待鳥聡史/現実と切り結ぶ「円の中心」を見つめて
【短篇小説】
北村 薫/島から星へ
【特別企画】
南陀楼綾繁/45冊! 新潮文庫の松本清張を全部読む 短編小説編
【私の好きな新潮文庫】
しゅはまはるみ/井戸の底の親友
妹尾河童『河童が覗いたヨーロッパ』
米原万里『魔女の1ダース―正義と常識に冷や水を浴びせる13章―』
宮沢賢治『新編 銀河鉄道の夜』
【今月の新潮文庫】
燃え殻『すべて忘れてしまうから』
堀井美香/この景色は一生忘れない
【コラム】
三宅香帆/物語のふちでおしゃべり 第5回
三枝昴之・小澤 實/掌のうた
[とんぼの本]編集室だより
瀬戸晴海『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮新書)
瀬戸晴海/「わが子に限って大丈夫」は通用しない
【連載】
南沢奈央 イラスト・黒田硫黄/今日も寄席に行きたくなって 第32回
梨木香歩/猫ヤナギ芽ぶく 第3回
内田 樹/カミュ論 第14回
伊与原 新/翠雨の人 第8回
春画ール/春画の穴 第10回
川本三郎/荷風の昭和 第51回
編輯後記 いま話題の本 新刊案内 編集長から
立ち読み
編集長から
今月の表紙の言葉は、アリ・スミスさん。
◎毎夏『黒い雨』を読み返した武田百合子さんの顰に倣って、「夏らしい本を」と選んだのは吉田修一さん『ミス・サンシャイン』。往年の大女優と大学院生の交流の遠景に原爆を置く長篇小説で、長崎出身の作家があの災厄を書く思いと技倆に圧倒されました。
◎読後まず思い出したのは吉田健一のエッセイ「長崎」。修一さんのヒロインが原爆症の親友を亡くした頃、健一さん(ヤヤコシイですね)は『舌鼓ところどころ』の取材で長崎を訪れ、右の文章(エッセイ)も書くことになります。この短文中の「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである」という一節は、小西康陽さんが度々引用して有名になりました(小西さん曰く「ルネッサンス、という思想をこれほどわかりやすく言葉にしたものが他にあるでしょうか」)。初出は1957年の新聞連載コラム(朝日新聞「きのうきょう」欄)で、前週の題は「原水爆実験」、翌週は「核兵器」。1954年に第五福竜丸が被爆し、翌年には広島で第一回原水爆禁止世界大会が開かれ、広島の原爆資料館や長崎の平和祈念像も完成するという時代に、健一さんは先の引用文の前後へこう記します。「戦争に反対する最も有効な方法が、過去の戦争のひどさを強調し、二度と再び、……と宣伝することであるとはどうしても思へない」、「過去にいつまでもこだはつて見た所で、誰も救はれるものではない」。
◎面白いのは、修一さんの小説の人物達が、過去に十分拘りながらも、「生活を美しくして」世界を変えるのだと思う(正確には、変えられるかもと思える日がある)こと。このあたり、「長崎」の反戦論へ半ば抗いつつ、健一さんともまた違う大人びた態度を表して心搏たれます。八月の一冊にぜひ。
▽次号の刊行は八月二十九日です。
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雑誌から生まれた本
波とは?
1967(昭和42)年1月、わずか24ページ、定価10円の季刊誌として「波」は誕生しました。新潮社の毎月の単行本の刊行数が10冊に満たず、新潮文庫の刊行も5冊前後という時代でした。こののち1969年に隔月刊に、1972年3月号からは月刊誌となりました。現在も続く「表紙の筆蹟」は、第5号にあたる1968年春季号の川端康成氏の書「風雨」からスタートしています。
創刊号の目次を覗いてみると、巻頭がインタビュー「作家の秘密」で、新作『白きたおやかな峰』を刊行したばかりの北杜夫氏。そして福田恆存氏のエッセイがあって、続く「最近の一冊」では小林秀雄、福原麟太郎、円地文子、野間宏、中島河太郎、吉田秀和、原卓也といった顔触れが執筆しています。次は大江健三郎氏のエッセイで、続いての「ブックガイド」欄では、江藤淳氏がカポーティの『冷血』を、小松伸六氏が有吉佐和子氏の『華岡青洲の妻』を論評しています。
創刊から55年を越え、2023(令和5)年4月号で通巻640号を迎えました。〈本好き〉のためのブックガイド誌としての情報発信はもちろんのことですが、「波」連載からは数々のベストセラーが誕生しています。安部公房『笑う月』、遠藤周作『イエスの生涯』、三浦哲郎『木馬の騎手』、山口瞳『居酒屋兆治』、藤沢周平『本所しぐれ町物語』、井上ひさし『私家版 日本語文法』、大江健三郎『小説のたくらみ、知の楽しみ』、池波正太郎『原っぱ』、小林信彦『おかしな男 渥美清』、阿川弘之『食味風々録』、櫻井よしこ『何があっても大丈夫』、椎名誠『ぼくがいま、死について思うこと』、橘玲『言ってはいけない』、ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』、土井善晴『一汁一菜でよいと至るまで』などなど。
現在ではページ数も増えて128ページ(時には144ページ)、定価は100円(税込)となりました。お得な定期購読も用意しております。
これからも、ひとところにとどまらず、新しい試みを続けながら、読書界・文学界の最新の「波」を読者の方々にご紹介していきたいと思っています。