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ぼくらは人間修行中―はんぶん人間、はんぶんおさる。―

二宮敦人/著

1,595円(税込)

発売日:2022/07/14

書誌情報

読み仮名 ボクラハニンゲンシュギョウチュウハンブンニンゲンハンブンオサル
装幀 土岐蔦子/装画、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 239ページ
ISBN 978-4-10-350293-7
C-CODE 0095
ジャンル エッセー・随筆
定価 1,595円
電子書籍 価格 1,595円
電子書籍 配信開始日 2022/07/14

悶絶するほどかわいくて、なぜか無性に懐かしい。抱きしめたくなる家族エッセイ誕生!

「おとうさん、むしって日本語しゃべれないの?」「おかあさん、まぶしいから太陽へらして」「てきにたべられないように、おおきくなりたい」――記録魔の小説家が天然成分100%の妻、かわいすぎる4歳児ちんたん、豆粒のような0歳児タッとともに歩むのは「人間への道」。ありふれた家族のスペシャルな日常を実況中継いたします。

目次
はじめに
1 夜になったら寝ておくれ
2 ベーク色のおさら、ください
3 ミニカーに性別があるの?
4 お前の腕は、俺の腕
5 家族は踊る
6 鮮度一〇〇%の言葉たち
7 湯船のソムリエ
8 奥様はシルバーバック
9 父性って、何?
10 相棒とか、なかまとか
11 封印を解く!
12 ルールは新参者のために
13 ぼくらは人間修行中

書評

父親があざやかにすくい取る成長のグラデーション

古賀及子

 子育ては、めくるめく「思ってたのと違う」の連続である。
 私は赤ん坊とはベビーカーに乗って移動するものだと思っていた。ところが、息子も娘も、乗せて歩けば10秒ももたずにむつかった。頭上の産毛が風を切り、ふんわりした両頬が振動すれば驚きおもしろがるだろうと、ずんずん速度をあげてもだめで、むしろむつかりに火がついて泣き出してしまう。こうなると、あきらめて抱っこ紐を装着しぴったりお腹を合わせて抱かなければしずまらない。だからうちのベビーカーはベビーカーというよりもスーパーで買ったものを乗せる荷車だった。
『ぼくらは人間修行中―はんぶん人間、はんぶんおさる。―』は作家の二宮敦人さんが、乳児と幼児、ふたりの男の子の成長の様子を「親の欲目に惑わされず観察したい」とあまさず記録したエッセイだ。子どもというはじめて出会う生命体は向き合うほどに底が知れず、ページをめくってもめくっても「思ってたのと違う」が続いて終わる気配がない。予想不能な毎日に茫然とする二宮さんの様子には、育てることを経験しながら、育つことも追体験している生の姿を感じる。どんな人にも身に覚えがあって共感できるのではないか。
 子どもはある日突然成長するのではない。徐々に大きくなっていく。うっかりしていると久しぶりに出会ったご近所さんが言う「いつの間にかこんなに大きくなって」を、毎日顔を合わせているはずの親にもかかわらず感じて驚くことになる。二宮さんちはそこが違う。父の記録は成長のグラデーションの、隣り合うドットの色味のささいな変化を見逃さない。子どもの成長によるじんわりした日常の変化を、そのどったんばったんとともにあざやかにすくい取っていく。
 0歳児が、おもちゃを取られてもシャワーのお湯が顔にかかっても、なにをされてもぽかんとすることについて、「されている」という感覚がなく、すべてを世の理として受け入れているのではないかと夫婦で話し合う一節がある。「されている」感覚を知ることではじめて、子どもは泣いてうなって抗議するようになるのだとふたりは考える。父親の想像力、母親のひらめきに、私の目は見開いた。
 子どもたちのふるまいを事象としてとらえるだけではなく、そのすべてが成長につながっていると理解しようとする夫婦の様子は、子を育てることの興奮を生の手ざわりで伝えてくれる。
 子育てがエキサイティングであるいっぽう、子を思う愛は、ほかの種類の愛にくらべて退屈なのかもしれないとも思わされた。
 二宮さんが子どもの頃、父親が色とりどりの車が載ったカタログを机いっぱいに並べながら結局毎回、白い車を選んでいたと思い出すシーン。面白みのない選択だと感じていたけれど、子どもと一緒に乗るから白だったのかもしれないと思いいたる。統計上事故率の低いのは白い車だ。
 白い車の意味には、誰もが気づけるわけではない。親の愛は子どもの無事の成長を願うものだから、子の生がマイナスにならないように、損なわれないように手を当てるようにそこにある。愛の地平が「ゼロ」なのだ。結果退屈で、ちょっと見えづらい。
 子育ては思ってたのと違うことが起こるばかりで、親の愛は劇的ではなく退屈だ。これが家族というものなんだろうか。つい感じてしまう疑問に手探りでたどりつくアンサーもこの本には満載で、例えば長男であるちんたんの5歳の誕生日のエピソードがそのひとつだ。
 この日、一日かけて実施されるはずのお祝いのプランが思わぬことで出だしからうやむやになる(思ってたのと違う!)。うやむやな中でも喜びエンジョイするちんたんをながめ、父母は子どもの誕生日をだしにして親の方が楽しむつもりだったのではないかと自問する。バースデーケーキを食べても、お誕生日の歌を歌っても、なんとなく、ピンとこない。
 でもこの後だ。次男のたっちゃんが音楽に合わせて踊り出し、つられて家族みんなが踊り出す。輪になって、手をつないで、回る。
 家族ってなんだろう、これで合ってる? いいのかな? そんな思いが、4人で踊ってぐるぐる回って、一気にどうでもよくなって、ああ、これが家族なんじゃんと、急に腑に落ちる。その様子はなごやかでちょっと滑稽な、家族という瞬間そのものだ。
 ともに過ごすうちに起こる、ふいにきらめく時間の積み重ね。それこそが、それぞれに生きる人々をゆるく家族としてとりまとめる。
 だから家族の生活はおもしろいし、続いていくのだ。

(こが・ちかこ ライター)
波 2022年8月号より
単行本刊行時掲載

インタビュー/対談/エッセイ

世界が変わる経験

秀島史香二宮敦人

最後の秘境 東京藝大―天才たちのカオスな日常―』の刊行後、著者の二宮敦人さんは学生結婚した奥様(元東京藝大生)との間に、兄弟を授かりました。家庭という“秘境”の日常をつづる「」連載の書籍化を記念し、愛読者でもあるラジオDJの秀島史香さんとの特別対談が実現しました。

秀島 はじめまして。

二宮 はじめまして。生でお声を聴く機会をいただけて光栄です。

秀島 そんな(笑)。『ぼくらは人間修行中―はんぶん人間、はんぶんおさる。―』を娘と一緒に読ませていただき、お目にかかるのを楽しみにしていました。彼女も「かわいいね」って、連発しながら読んでいました。

二宮 娘さんはおいくつですか?

秀島 11歳、小学5年生です。ちんたんは?

二宮 今年4月に小学校へ入学しまして、ピカピカの1年生です。弟のたっちゃんは2歳になりました。

秀島 4歳違いなんですね。わたしには2歳下の弟がいます。彼が生まれて家にやってきたとき、最初は「わー、赤ちゃんだ」とはしゃいでいたけれど、みんなが「かわいい、かわいい」ってやるものだから、2日後には「うん、もういいから赤ちゃん返してきて」と言ったそうです。女の子で初孫だったからちやほやされて育ちました(笑)。

二宮 面白い。メモしていいですか?

秀島 あ、本当に記録魔なんですね。

二宮 あわよくば原稿に使わせていただければと。

秀島 どうぞどうぞ。

二宮 きょうだいができたら人はどう変わるのか、興味があるんです。自分以外の存在とどう付き合うか。その技術みたいなものを学んでいくのが人間の成長なのではないかという気がしていまして。僕は5歳下の妹がいるんですが、自分の子供時代のことは忘れていたりするので、それを観察させてもらっている感じです。
 とはいえ、まだよくわからないんです。たとえば、明らかに兄がおしつけがましいときがあるんですが、なぜか弟はかまわれているうちに楽しくなっちゃっているらしいとか。僕にはわからない文脈が彼らの中にできつつあるのを最近感じています。

秀島 子供ならではのプロレス的なノリというか様式美ですね。

二宮 そうなんです。彼らの回路を言語化したいけれど、なかなかうまくできない。

秀島 いえいえ、驚くほど言語化されていると思いますけど。『人間修行中』を読んでいて、大人は子供たちの行動を不思議だなあと思いがちだけれど、子供から見たら大人の立ち居振る舞いが不思議だよね、という視点の逆転にもハッとさせられました。

二宮 人間は、通ってきた道を忘れてしまう、いつも今しか見えていないということなんでしょうねえ。改めて見ると、子供の方が大人よりすごいと思わされることがたくさんあります。

世の中の優しさに気づく

二宮 秀島さんはお母さんになることでお仕事に変化はありました?

秀島 はい。まず妊娠中はわりとぎりぎりまでお仕事をしていて、マイクや車のハンドルとの距離が遠くなりました(笑)。そういうからだの変化も含めて、リスナーさんからいただく近況報告を自分の体験に照らし合わせて考えられるので、返すコメントにより実感をこめられるようになった気がします。たとえば「どんどんお腹が大きくなってきました」という妊婦さんからの声に「足の爪が切りにくいですよね」とか、「駅の階段では足元に気を付けてくださいね」とスッと言えるようになったんです。

二宮 秀島さんの『なぜか聴きたくなる人の話し方』には学びがたくさんありましたが、実体験にも裏打ちされていたんですね。僕はベビーカーが来たらさっと道を譲るようになりました。自分で操ってすごく方向転換しにくいというのがわかりましたので。

秀島 実感があると行動に衒いがなくなるんですよね。娘が生まれたとき住んでいたのは、狭い路地に銭湯があって、おばあちゃんが軒先で朝顔を育てているみたいな町だったんです。娘をベビーカーに乗せて散歩していると、どこからともなくおばあちゃんが集まってきて「かわいいわねえ」と。子どもが運んでくれる社会との接点、ご縁ってありますね。

二宮 バスに乗っているとき、強面のひとがじっとこっちを見ていたかと思ったら、息子にニヤッと笑いかけたりするんです。僕も見ず知らずの子供にそうしてしまう。子供には人間の内面を引き出す力がありますね。

秀島 ベビーカーに赤ちゃんがいるとつい覗き込んじゃうこととか、ありません? で、みんな笑顔になる。お母さんも笑顔。赤ちゃんの力、すごいです。

二宮 世の中はこんなに優しかったんだって気づきますよね。自分もそれに触れていたはずなのに、忘れてしまっている優しさに。

秀島 その優しさを素直に受けられるようになると、場がうまく回っていくんですよね。娘のベビーカー時代、家の最寄りの駅にはエレベーターもエスカレーターも設置されていなかったんです。駅員さんは親切で「いつでも声をかけてくださいね、お運びします」と言ってくださるんですが、忙しい時もあると思って、たいがい抱っこ紐でなんとかやっていたんです。でも、あるとき立ち往生してしまっていたら、私の様子を見ていた男子高校生が「よろしければお持ちしますよ」と運んでくれて感激しました。「今どきの若者、優しいじゃん!」って。

二宮 世の中に優しくしてもらうと、自分も優しくなれますよね。許容範囲が広がるというか。

秀島史香

秀島 わかります。

二宮 世界の見え方が変わってくる。

出会いは高校生のとき

秀島 わたしは仕事一途なところがあって、大好きなラジオの仕事さえできていればハッピーだったんです。

二宮 大学生のときから仕事をされていて。

秀島 はい。でも、いつまでこの仕事をさせてもらえるかわからない。だから、お仕事は毎回、試合に出る、オーディションを受けるというような感覚が今でもあるんです。だから、常に準備をしていないと鈍っちゃうとも思っているのですが、わたしが世話をしないと生命の維持すらできない赤ちゃんが目の前に出現したときに、仕事よりも優先すべきものがあったんだと気づかされました。

二宮 だとすると、出産はかなり勇気が要ったんじゃないですか?

秀島 世界が違って見えるに違いないという確信だけは産む前からあったんですが、その前に実はわたし、もともと結婚願望がなかったんです。仕事だけしていたい、結婚したら家事の負担も増えそう、今でさえ大変なのに絶対無理! みたいな(笑)。

二宮 え、じゃあなんで結婚したんですか?

秀島 夫は友人の同僚だったんですが、わたしとものごとの見方がまったく違うので、いちいち発言が面白い。でも一緒にいて落ち着く。そこがスタートでした。二宮さんと奥様はどこで出会われたんですか。

二宮 僕は漫画家を目指していた時期がありまして、ジャンプに漫画を持ち込んだりしていたんですよ。それがだんだん、小説でお仕事をもらえるようになり、忙しくなってきたので、僕が原作を書いて絵は誰かに描いてもらうという形に変わったんです。その相棒が忙しくなって「自分の代わりに絵のうまい人を紹介するよ」とつないでくれたのが、彼女でした。

秀島 へぇ~。

二宮 でも、実際に会ってみたら、当時高校生だったんですよ。僕は大学を出て社会人をしているのに。しかも彼女は東京藝大を目指しているという。え? それって難関大学なんじゃない? 僕の漫画なんか描いている場合じゃないでしょと思って、「大学に合格してまだやる気があったら連絡して」と言って別れたんです。

秀島 奥様は現役で合格を?

二宮 いえ、一浪していますね。それで忘れたころに「受かったよ」と連絡がありました。

秀島 いい話。

二宮 で、じゃあ一緒に漫画を作るかとなったんですが、彼女、絵は確かにうまいんですけど、漫画の絵じゃないんですよね。「わたし、漫画は描けない」とか言い出して、「でも、せっかくだから確定申告のレシート分けとか手伝うよ」と言ってくれて。僕も「じゃあ、お礼に焼肉とかおごるよ」とか、徐々に仲良くなっていった感じです。あとで聞いたら、僕の小説を好きで読んでくれていたらしくて、最初から好感度は高かったらしい(笑)。

妻の家族から気づかされたこと

秀島 『人間修行中』の中に、奥様の実家を初めて訪ねて行ったら、お父さんはひたすらたこやきを焼いたり、家族がそれぞれ好きなことをやりながら一緒の部屋にいたというエピソードがあるじゃないですか。娘もあの話がすごく好きで「ドラマとかと違うけど、結婚の挨拶ってこういう感じなのかなあ」と聞かれました。

二宮敦人

二宮 違うと思いますが(笑)。彼女の実家はすごくて、僕は崇拝に近い感情を抱いているんです。お父さんはエアコンとか使いやすい充電器の形とかを考えるプロダクトデザイナーで、目の前のものがどうやってできているかに異様に詳しいんです。お母さんは美容師で、妻も手を動かすのが大好き。いわば具象に強い一家なんです。僕は彼女と彼女の家族に会って、自分から具象がすっぽり抜け落ちていたことに気づきました。

秀島 『最後の秘境 東京藝大』の中でいかにも藝大生然としていた奥様が、『人間修行中』ですっかりお母さんになっていたのも印象的でした。今も毎月連載されているわけですが、誰に向けて書いているんですか。

二宮 とりあげるのは自分が気づいたこと、考えさせられたことですので、それを知らなかった少し前の自分に報告するような気持ちで書いています。

秀島 わたしは子育て話を聞くのが好きなんですが、連載を読んでいると「わかる!」と「へぇ!」が交互に押し寄せてきて、足し算どころか二乗、三乗の相乗効果で面白いんです。これからも娘と一緒に楽しみにしています。

二宮 ありがとうございます。

(にのみや・あつと 作家)
(ひでしま・ふみか ラジオDJ)
波 2022年8月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

二宮敦人

ニノミヤ・アツト

1985年東京都生まれ。2009年に『!』(アルファポリス)でデビュー。フィクション、ノンフィクションの別なく、ユニークな着眼と発想、周到な取材に支えられた数々の作品を紡ぎ出し人気を博す。『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』『紳士と淑女のコロシアム 「競技ダンス」へようこそ』(ともに新潮社)、『最後の医者は桜を見上げて君を想う』 (TOブックス)など著書多数。

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