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新編 銀河鉄道の夜

宮沢賢治/著

473円(税込)

発売日:1989/06/19

書誌情報

読み仮名 シンペンギンガテツドウノヨル
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-109205-8
C-CODE 0193
整理番号 み-2-5
ジャンル 文芸作品
定価 473円
電子書籍 価格 440円
電子書籍 配信開始日 2011/07/01

星の空を、ひっそりと見あげたことありますか。そして涙が出ませんでしたか。

貧しく孤独な少年ジョバンニが、親友カムパネルラと銀河鉄道に乗って美しく哀しい夜空の旅をする、永遠の未完成の傑作である表題作や、「よだかの星」「オツベルと象」「セロ弾きのゴーシュ」など、イーハトーヴォの絢爛にして切なく多彩な世界に、「北守将軍と三人兄弟の医者」「饑餓陣営」「ビジテリアン大祭」を加えた14編を収録。賢治童話の豊饒な醍醐味をあますところなく披露する。

目次
双子の星
よだかの星
カイロ団長
黄いろのトマト
ひのきとひなげし
シグナルとシグナレス
マリヴロンと少女
オツベルと象
猫の事務所
北守将軍と三人兄弟の医者
銀河鉄道の夜
セロ弾きのゴーシュ
饑餓陣営
ビジテリアン大祭
注解 天沢退二郎
宮沢賢治の宇宙像 斎藤文一
収録作品について 天沢退二郎
年譜

書評

賢治を胸に、今日も畑へ

藤田智

 家庭菜園を楽しむ人が増えています。私は、大学での授業のかたわら、NHK Eテレの「趣味の園芸 やさいの時間」という番組の講師を務め、全国のみなさんに野菜の育て方を紹介しています。
 小さな頃は、テレビに出演するようになるなんて思いもしませんでした。私の人生がこうなったのは、ある作家との出会いがあったから。それが宮沢賢治です。

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 初めて読んだ賢治の作品は「雨ニモマケズ」でした。冒頭の「雨ニモマケズ 風ニモマケズ……」はあまりに有名です。ただし、私が気になったのは後半の「サムサノナツハオロオロアルキ」という一節でした。「寒さの夏」とは、冷たい風「やませ」による東北地方太平洋側の冷害を指しています。やませが吹くと夏でも気温が上がらず、農作物、とくに熱帯原産の稲は極端に生育が悪くなり、昔から農家を苦しめてきました。
 童話作家・詩人として知られる賢治ですが、出身校は盛岡高等農林学校(現・岩手大学農学部)です。卒業後には花巻農学校で教鞭を執り、その後は自ら設立した羅須地人協会での活動を通し、農家の生活改善に尽力しました。農家に寄り添い、自らも土を耕した賢治は、冷夏がやってくるたびに、心配と絶望で、ほんとうにおろおろ歩いていたと思います。秋田県の農家に生まれた私には、冷害に苦しむ賢治と岩手県の農家の気持ちが痛いほどわかりました。そして、この詩を読んだ瞬間、私も賢治のように「農家や農業のために役立つことがしたい」という思いがふつふつと湧いてきました。
 当然、大学は農学部を志望しました。受験校として選んだのは岩手大学。そう、賢治の出身校です。晴れて合格した私は、名実ともに賢治の後輩となりました。岩手大学の同窓会名簿には、私の名前が、賢治といっしょに載っているんですよ。
 大学在学中にも、賢治にまつわる忘れられない思い出があります。有機化学の試験のとき、答案が埋められなかったので、用紙の裏に「永訣の朝をどう読むか」という設問を書いて論じたことがありました。「永訣の朝」は、賢治が妹トシとの別れをうたった詩で、「あめゆじゆとてちてけんじや」という一節がよく知られています。「あめゆじゅ」とは岩手の方言で雨雪、みぞれのことで、賢治は妹から最後の食事に「みぞれを取ってきてくれ」と頼まれるんですね。詩が進むにつれ、死が迫った妹に対する賢治の思いが高まっていくのがわかります。昔から好きな詩だったので力を入れて論述したら、なんと成績表に「優」がつきました。その教授は賢治研究でも知られる方だったのですが、賢治の出身大学ならではのエピソードだったと思います。

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 宮沢賢治の童話の中で、もっとも有名なのは『銀河鉄道の夜』でしょう。少年ジョバンニがカンパネルラとともに星空を旅する話で、私も繰り返し読みました。作中では「本当の幸せってなんだろう」という問いが繰り返されます。そして、カンパネルラが自らを犠牲にして友を救ったように、賢治にとっての幸せは「人のために生きる」ことだったのでしょう。教育に携わる人間として、私もこの思いを忘れないようにしています。

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注文の多い料理店』もよく知られる童話です。東京から猟にきた二人の紳士が山奥のレストランに入ったところ、逆に山猫に食べられそうになるというあらすじで、ストーリーが秀逸ですね。秋田にはマタギと呼ばれる猟師がいます。昔からの猟師は、生きるために動物の命をいただきました。しかし紳士たちは、楽しみのために狩猟をします。賢治は読者に「命」の大切さを考え、生命に対する畏敬の念を抱いてほしかったのでしょう。
 冒頭には、連れていた猟犬が死んでしまったことについて、紳士が「二千八百円の損害だ」と言い放つシーンがあります。命が、簡単にお金に換算できるのかという賢治の声が聞こえてくるようです。
 大学では農園実習の指導もしていますが、自分で育てるようになると、学生達の野菜へのまなざしが変わってきます。お金で買うことのできる「食材」としての野菜を、自分で育てた「命」として捉えるようになる。土を耕しているうちに、いつの間にか賢治の考えに近づいていくようなんですよね。
 賢治の作品は、読み返すたびに新たな発見があります。この次の銀河鉄道の旅で、イーハトーブの村でどんな出会いがあるか、私は今から楽しみです。

(ふじた・さとし 恵泉女学園大学副学長)
波 2022年5月号より

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著者プロフィール

宮沢賢治

ミヤザワ・ケンジ

(1896-1933)明治29年、岩手県花巻生れ。盛岡高等農林学校卒。富商の長男。日蓮宗徒。1921(大正10)年から5年間、花巻農学校教諭。中学時代からの山野跋渉が、彼の文学の礎となった。教え子との交流を通じ岩手県農民の現実を知り、羅須地人協会を設立、農業技術指導、レコードコンサートの開催など、農民の生活向上をめざし粉骨砕身するが、理想かなわぬまま過労で肺結核が悪化、最後の5年は病床で、作品の創作や改稿を行った。生前刊行されたのは、詩集『春と修羅』童話集『注文の多い料理店』(1924)のみ。

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