スマホで薬物を買う子どもたち
924円(税込)
発売日:2022/07/19
- 新書
- 電子書籍あり
「ウチの子は大丈夫」は、通用しない。元マトリが明かす「密売革命」、驚愕の実態!
カラフルな絵文字に隠語の数々、派手な宣伝文句が氾濫するSNSや、秘匿アプリを通じて、今日も違法薬物が売られている。親に隠れて手を出すのは中高生や大学生、売人もまたごく普通の若者たちだ。スマホを介した「密売革命」によって、子どもたちの薬物汚染は近年、急速に蔓延している。ひと昔前とは様変わりした最新ドラッグ事情から、安易な誤解で広がる大麻の脅威まで、元「マトリ」トップが実例とともに徹底解説。
書誌情報
読み仮名 | スマホデヤクブツヲカウコドモタチ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 256ページ |
ISBN | 978-4-10-610957-7 |
C-CODE | 0236 |
整理番号 | 957 |
ジャンル | ノンフィクション |
定価 | 924円 |
電子書籍 価格 | 924円 |
電子書籍 配信開始日 | 2022/07/19 |
インタビュー/対談/エッセイ
「わが子に限って大丈夫」は通用しない
皆さんは「野菜」「サラダ」「クサ(草)」「88」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。実は、これらは全て大麻の隠語です。同様に「アイス」「氷」「エス」といえば覚醒剤を指します。
こうした隠語を、「手押し」(手渡しの意味で、配達・直取引が可能なこと)という言葉と共にネット上で検索すると、ツイッターやインスタなどのSNSや、5ちゃんねる、FC2をはじめとする掲示板に次々と薬物販売広告が現れます。
ご家族に若いお子さんがいる方は、ぜひ一度、ご自分のスマホで検索してみてください。大麻や覚醒剤、コカイン、MDMAをはじめ、多種多様な薬物が公然と販売される野放図な現状を突きつけられるはずです。堂々と“ブツ”の画像をアップしてバラエティ豊富な品揃えを誇示するだけでなく、〈拡散してくれた方に1gプレゼント〉といった誘客広告まで目に飛び込んできます。
ただ、それでもなお、多くの方々は次のように考えるのではないでしょうか。「薬物のネット密売が大変なことになっているのは分かった。でも、自分の子どもとは関係のない話だ」と。
麻薬取締官(マトリ)時代を含め、40年以上にわたって薬物対策に携わってきた私が、本書を執筆した動機は、まさにそのような認識を改めてほしいと切に願っているからに他なりません。薬物問題は決して他人事ではなく、「わが子に限って」が通用しない時代が到来しているのです。
SNSの普及がもたらした「密売革命」と呼ぶべき現象によって、誠に残念ながら、日本でも「誰もが簡単に薬物を手に入れることのできる環境」が整ってきました。端的に申し上げると、いまはスマホさえあれば、インターネット上で薬物情報を難なく得ることができます。そして、親世代よりネット知識に通じ、SNSを日常的に活用する、好奇心旺盛な子どもたちは、先ほどのような画面を当然のようにスマホで目にしています。
2020年の薬物事犯の検挙者数は、過去10年で最多の1万4567人。中でも大麻を巡る犯罪は激増しており、中高生を含む少年だけで899人という驚くべき数に上ります。
ここで重要なのは、SNSを通じたネット密売が普及したことで、薬物に手を出すのがいわゆる非行少年だけではなくなった点にあります。親子関係が良好で、学校の成績も優秀、そんな子どもが、いとも簡単に大麻に嵌ってしまう。そうしたケースを私は何度となく目にしてきました。
先進国としては例外的に薬物乱用が少なく「奇跡の国」と呼ばれた日本は、いま、大きな曲がり角に差しかかっています。子どもたちを被害者にも加害者にもしないために、まずは、大人たちが薬物問題の現状をきちんと認識してほしい。本書がその一助となれば幸いです。
(せと・はるうみ 元・麻薬取締部部長)
波 2022年8月号より
蘊蓄倉庫
併せて知りたい「マトリ」の捜査活動
芸能人などが摘発されると大きなニュースにはなるものの、日本の薬物犯罪は国際的に見ればきわめて厳しく抑えこまれてきました。
現在、国内で薬物犯罪を取り締まる組織には、海上保安庁、税関、警察、そして厚労省麻薬取締部、いわゆるマトリの4つの部門があり、大まかに言えば前者の二つは薬物の国外からの流入を阻止する水際対策を主に担い、国内での密売や流通などを取り締まるのが、警視庁はじめ各都道府県警の専門部署と麻薬取締官の仕事ということになります。
警察との違いは、マトリは犯罪対応に加えて捜査対象である「ブツ」による健康被害を防ぐのも重要な任務であることで、大学で薬学を専攻し、薬剤師の国家資格をもつ捜査官が多くいます。警察と違って、マトリによる捜査の実際はほとんど知られていません。彼ら“麻薬Gメン”に関心のある方は、前著『マトリ―厚労省麻薬取締官―』を併せてお読みください。元マトリのトップによる本邦初の貴重な記録です。
掲載:2022年7月25日
著者プロフィール
瀬戸晴海
セト・ハルウミ
1956(昭和31)年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒業後、厚生省麻薬取締官事務所(通称:マトリ)に採用され、薬物犯罪捜査の一線で活躍。九州部長、関東信越厚生局麻薬取締部部長などを歴任、人事院総裁賞を二度受賞。2018年に退官。著書に『マトリ』。