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日米同盟の地政学―「5つの死角」を問い直す―

千々和泰明/著

1,815円(税込)

発売日:2024/04/25

  • 書籍
  • 電子書籍あり

「極東1905年体制」から考える、新しい安全保障論。

「米国の戦争に巻き込まれたくない」「軍事協力は最低限に留めたい」――こんな「日本だけの都合と願望」はもはや通用しない。同盟の抑止力を高め、平和を維持するには「日本的視点」を克服した「第三者的視点」を取り入れる必要がある。基地使用、事態対処から拡大抑止まで、意外な盲点から安全保障の課題を突く警鐘の書。

目次
はじめに
なぜポツダム宣言にはスターリンの署名がないのか/日本の願望と都合を優先/日米同盟をめぐる「日本的視点」と「第三者的視点」/基地使用・部隊運用・事態対処・出口戦略・拡大抑止/「地政学的競争」の時代に平和を守る
第1章 基地使用
1 日米安保条約と極東
日米安保条約における「物と人との協力」/極東条項への拒否反応/事前協議制度による制約/朝鮮密約という抜け穴/アジア太平洋の「ハブ・アンド・スポークス型同盟網」
2 「極東一九〇五年体制」の成立と戦後
日本と一衣帯水の朝鮮・台湾/「極東一九〇五年体制」の成立/日本の敗戦と秩序の流動化/「アチソン・ライン」の不覚/朝鮮戦争という転換点/戦後アメリカに引き継がれた「極東一九〇五年体制」
3 「米日・米韓両同盟」の一機能としての日米同盟
限りなくイエスと答えると公表/実態としての「米日・米韓両同盟」/「米日・米韓両同盟」にとっての沖縄の価値/日米沖縄返還交渉への韓国・台湾の介入/韓国と台湾の差/基地問題
第2章 部隊運用
1 日米同盟における指揮権
一九七八年ガイドラインの策定/一九九七年ガイドラインから二〇一五年ガイドラインへ/同盟と指揮権/米韓同盟とNATOにおける指揮権調整/ガイドラインにおける指揮権調整/集団的自衛権行使違憲論・「武力行使との一体化」論との関連
2 極東の米軍指揮体系と日米指揮権調整
指揮権密約による有事指揮権統一/「米日・米韓両連合司令官」を通じた連結/米台同盟との関係/「北東アジア軍司令部」構想の頓挫/米韓連合軍司令部と一九七八年ガイドライン/DPRIにおける米軍司令部再編構想
第3章 事態対処
1 極東有事への対処
極東有事と事前協議/極東条項と「武力行使との一体化」論/日本によるアメリカ軍への便宜供与の意味
2 重要影響事態への対処
ガイドラインのための国内法/極東有事と周辺事態のちがい/周辺事態から重要影響事態へ/「現場ではない場所」
3 存立危機事態・武力攻撃事態への対処
存立危機事態と武力攻撃事態/「捨て石」としての集団的自衛権/限定容認と世論の同意/事態の推移と対応の変更/アメリカは自動参戦しない
第4章 出口戦略
1 戦争終結論の視座―「紛争原因の根本的解決」か「妥協的和平」か
戦争終結論への道案内/「将来の危険」と「現在の犠牲」のバランス
2 日米同盟側優勢のケース
「将来の危険」の除去を重視/「現在の犠牲」の回避を重視/拮抗/日米間の不一致/朝鮮有事の出口/台湾有事の出口/台湾有事と集団的自衛権
3 日米同盟側劣勢のケース
選択肢は限られる/価値と環境
第5章 拡大抑止
1 非核三原則と拡大抑止
国是となった非核三原則/拡大抑止の提供/日本の安全保障政策文書における拡大抑止の位置づけ
2 安保改定と「核密約」
核搭載米艦船の一時寄港/「安保核密約」の実情/解釈のズレが明確に/「討議の記録」の性格/一時寄港問題が問うもの
3 沖縄返還と核密約
沖縄「核抜き」返還/秘密の「合意議事録」/沖縄核密約をめぐる論点
4 日米同盟と核兵器
アメリカの核戦略の変化/大量報復戦略と日本・沖縄/柔軟反応戦略と沖縄/沖縄から核が撤去された戦略的理由/核の危険地帯と化した日本周辺/非核三原則の反動としての核武装論・核持ち込み論
おわりに
安全保障の現実とのギャップ/日本的視点の帰結/日米同盟観のバージョンアップ
あとがき
注記
本書関連事項 略年表

書誌情報

読み仮名 ニチベイドウメイノチセイガクイツツノシカクヲトイナオス
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 Foresightから生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-603908-9
C-CODE 0331
ジャンル 政治、軍事
定価 1,815円
電子書籍 価格 1,815円
電子書籍 配信開始日 2024/04/25

書評

「第三者的視点」から日米同盟の理解をバージョンアップする

山口航

 もし中国が台湾に侵攻し、それに対してアメリカが軍事介入を決断したら、日本はどうするのか。本書が想定している事態の1つである。
 在日米軍が台湾へ直接出撃する場合には、事前に日本側と協議をする必要があるとされている。実際にアメリカ政府が事前協議の開催を要請し、日本政府の承諾を求めてきたとしよう。このとき、敵対国が「日本がアメリカ軍に在日米軍基地の使用を許せば、日本も攻撃対象とみなす」と脅しをかけてくることは十分考えられる。
 この局面で、アメリカ軍に基地使用を許さない限り、日本は紛争から無関係でいられるのであろうか。
 たしかに日米同盟には、日本側の願望や都合によって形作られている側面があると言える。日本はアメリカの戦争に巻き込まれないようにしておきたい、日本によるアメリカへの軍事的な協力は最低限にとどめたい、といったものである。
 このような声を背景として、日本は事前協議を開催することによって、在日米軍基地からの直接戦闘作戦行動に制約をかけようとしている。しかし、もっぱら日本側の願望や都合に基づく視点、すなわち「日本的視点」が、安全保障の現実と整合しているとは限らない。
 では、敵対的な相手国から見ると日米同盟はどう映るのか。日本が事前協議で「ノー」と答えて在日米軍の動きを止める可能性もある、と考えてくれるだろうか。あるいは「ノー」と答えなかったとしても、日本はアメリカ軍の行動を嫌々ながら黙認しているだけだから敵ではない、と理解を示してくれるだろうか。相手はそれほどお人好しではない。
 ここで重要なのは、日本が在日米軍基地の使用を許すか否かではない、と著者は言う。これはあくまでも手段である。その使用を認めることによって、アメリカの同盟網という安全保障システムが有効に機能して、平和な秩序が保たれるか否かこそが問われるべきなのである。そもそも日米同盟は、米韓同盟など、アメリカの他の同盟と密接に関連していることにも留意する必要がある。
 平和を維持するためには、こうした現状を俯瞰する戦略的・地政学的視点、つまり「第三者的視点」を取り入れる必要がある。安全保障政策は、国家間の相互作用を前提とするものである。そうである以上、「日本的視点」にのみとらわれると、安全保障政策と現実との間にギャップが生じ、日本の安全を損ないかねない。
 こうした問題意識を軸に、本書は「日本的視点」を「第三者的視点」から相対化し、日米同盟の理解をバージョンアップしていく。具体的には、アメリカ軍による日本の「基地使用」、指揮権調整に焦点を合わせた「部隊運用」、実際の有事への対応である「事態対処」、有事の終わり方に関する「出口戦略」、アメリカの核兵器による「拡大抑止」という、5つのテーマを取り上げている。
 ただし本書は、日本の視点はガラパゴス化しているから海外の「正しい」見方を教えてあげようという、ありがちな上から目線の説教ではない。あくまでも「海外の視点」ではなく、「第三者的視点」が導入されているのである。今の安全保障環境を前にして、日本の偏見に海外のそれをぶつけて悦に入る余裕はない。
 そうだとしても、とかく安全保障問題はわかりにくい。とくに日本では、国内法や、国内向けに説明してきた憲法解釈、さらには不透明な「密約」が複雑に積み重ねられており、難解だからである。その結果として、単純な「日本的視点」が拡がっている側面もあるだろう。
 だが本書は、学術的な知見に裏打ちされつつ、一般の読者にも明快である。歴史的経緯をわかりやすく跡づけながら、直感に反する議論が説得的に展開されている。
 著者は防衛省防衛研究所主任研究官であり、テレビや新聞などのメディアでもおなじみであろう。内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)付主査として実務に携わった経験も持ち、そこでの問題意識も本書に存分に活かされている。また、すでに5冊の単著を公刊してきており、本書は6冊目になる。その実績は、第43回石橋湛山賞や、第7回日本防衛学会猪木正道賞正賞を受賞するなど、高く評価されている。
 厳しい国際環境に直面する今、現実離れした議論を超えて、安全保障論議の質を高めたい。このような著者の熱い思いがあふれている一冊である。

(やまぐち・わたる 帝京大学専任講師)

波 2024年5月号より

著者プロフィール

千々和泰明

チヂワ・ヤスアキ

1978年生まれ。福岡県出身。広島大学法学部卒業。大阪大学大学院国際公共政策研究科博士課程修了。博士(国際公共政策)。京都大学大学院法学研究科COE研究員、日本学術振興会特別研究員(PD)、防衛省防衛研究所教官、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)付主査などを経て、2013年より防衛省防衛研究所主任研究官。著書に『安全保障と防衛力の戦後史 1971~2010』(千倉書房、第7回日本防衛学会猪木正道賞正賞受賞)、『戦争はいかに終結したか』(中公新書、第43回石橋湛山賞受賞)、『戦後日本の安全保障』(中公新書)など。国際安全保障学会理事。

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