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冷戦後の日本外交

高村正彦/著 、兼原信克/著 、川島真/著 、竹中治堅/著 、細谷雄一/著

1,705円(税込)

発売日:2024/06/27

  • 書籍
  • 電子書籍あり

危機の時代を率いた外政家によるオーラルヒストリー。

「外交の失敗は一国を滅ぼす」。1980年の初当選以来、その信条と共に政治活動を続けてきた希代の外政家・高村正彦。その軌跡は、国民世論と国際貢献の狭間で苦闘してきた冷戦後日本の姿と重なる。自衛隊の海外派遣、強大化する中国との関係、アジアの民主化、集団的自衛権の一部容認まで、日本外交の舞台裏を語る。

目次
はじめに 兼原信克
第1章 外交の失敗は一国を滅ぼす
近衛内閣の秘書官だった父の言葉/大平内閣のハプニング解散で議員に/国防部会に所属し、防衛政務次官に/政務次官として初めてアメリカ訪問/政務次官人事はどう決まるのか/徐々に焦点化してきた自衛隊の海外派遣
第2章 国際貢献と世論の狭間で
支持率20%に届かなかった国連平和協力法案/国民が丸ごと騙された政治改革/8党連立と自社さのどちらが野合だったのか/村山内閣の経企庁長官として/靖国問題が拡大した理由
第3章 外務政務次官として世界を奔走
ペルー大使公邸人質事件/イラン訪問/ミャンマー軍事政権も内実はさまざま/カンボジア総選挙の地ならしに奔走/告げ口外交は日本の専売特許にあらず/拉致問題の「定番フレーズ」を案出/派閥には合理性がある
第4章 小渕内閣の外務大臣
野中広務がつぶやいた「おい、ブレちゃったな」/中国の外相が「今度の外務大臣はおたくでしょ」/自自公連立の動きを知らずプチトラブル/空想的平和主義の「エコシステム」/江沢民訪日の裏側/対日外交で韓国を気にする中国/台湾は徹底的に現状維持で/「国益」「戦略」という言葉は外務省でタブーだった/金大中は「許す人」/インドの核実験、G4、TICAD/周辺事態法
第5章 森内閣から小泉内閣へ
派閥の会長に就任/対ロ外交が動かない理由/2001年の総裁選/イラク戦争の支持演説/小泉絶頂期の2003年の総裁選に出馬した理由/小泉総理は安保理常任理事国入りに反対だった/小泉改革は「何もない」
第6章 日中関係が良好だった季節
わずか1カ月の防衛大臣/日中議連の会長に/2008年頃は友好的だった日中関係/憲政を歪めた漁船衝突事件の処理
第7章 民主党政権から安倍政権へ
2012年の自民党総裁選/派閥として安倍氏を支持/TPPの基本方針を巡り日米を仲介
第8章 平和安全法制
安保法制の前史/左右双方から攻撃を受けた「一部容認論」/70年談話で獲得した国際世論の支持/立憲主義を勘違いしていた人たち/大江健三郎を嫌いになれない理由/積み残した憲法改正
おわりに 高村正彦
本書関連年表

書誌情報

読み仮名 レイセンゴノニホンガイコウ
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 208ページ
ISBN 978-4-10-603912-6
C-CODE 0331
ジャンル 政治
定価 1,705円
電子書籍 価格 1,705円
電子書籍 配信開始日 2024/06/27

書評

現実的平和主義者の「振り子」論

大石格

 本書は自民党副総裁などの要職を歴任した高村正彦氏のオーラルヒストリーである。
 同氏はすでに『振り子を真ん中に』という自伝を出しているが、そちらは選挙運動や派閥運営など政治生活を幅広く振り返っている。本書は、外相などを務めた際に直面した外交・安全保障のさまざまな課題に重点を置き、その分野に詳しい専門家が質問して聞き取った。平成期の日本の安保政策の葛藤を知る格好の資料となろう。
 高村氏が活躍した時期の日本が置かれた立場を要約すれば、「一国平和主義が通じなくなった時代」といってよい。世界の経済大国のひとつとして国際秩序の安定がもたらす利益を享受しながら、そのための貢献が足りていないのではないか。1990年に始まった湾岸危機・湾岸戦争は、当時の政治指導者にこの問いを鋭く突きつけた。
 目に見える貢献として立案された自衛隊掃海艇のペルシャ湾への派遣に、海部俊樹首相はうんと言わない。高村氏はふたりが属する派閥の領袖である河本敏夫氏に説得をお願いした。このエピソードは、外交と内政が一体であることの証明である一方で、日本政治が論理的な思考よりも情緒的な人間関係で成り立っている現実をよく示す。
 そうした政治風土の下で、地に足をつけた現実的な外交・安保論議をどうしたら進められるか。その土台づくりをした。これが高村氏の最大の功績である。
 海外に災害救援などに行く国際緊急援助隊が1987年に創設されるが、その際に「自己完結型の自衛隊が行かなかったら何もできないじゃないか」と主張した話が出てくる。自衛隊の海外派遣の是非というイデオロギー論争ではなく、実際に国際貢献になるかどうかで判断する。こうした視点は、掃海艇派遣をめぐる論議の先駆けとなった。
 真骨頂はやはり第2次安倍政権における集団的自衛権の憲法解釈の見直しと平和安全法制の制定である。ここでも集団的自衛権の行使は合憲か違憲かの二者択一でなく、「国の存立を全うするために必要な自衛のための措置」であれば行使できるとする限定容認(本人の言葉遣いでは「一部容認」)論を打ち出した。
 当時、安倍晋三首相は「根っこから容認」「まるごと容認」論者とみられており、世論の反発は激しかった。安倍氏が限定容認を受け入れていなければ、平和安全法制は実現せず、日米同盟は揺らいでいたかもしれない。高村氏のように現実的な政治判断と、それを裏打ちする理屈づけの両方を同時にこなせる政治家はなかなかいない。
 安倍氏が立ち上げた有識者会議が根拠に据えようとした芦田修正論でなく、1959年の砂川訴訟の最高裁判決に依拠したのはなぜか。判決を主導した当時の田中耕太郎最高裁長官の心境まで読み解く語り口は、生半可な憲法解説書よりも読み応えがある。
 一方で注目すべきは、高村氏は日本を右傾化させようとして憲法解釈の見直しを主導したわけではないことだ。限定容認は左翼勢力に「憲法改悪」と叩かれた一方で、保守派の受けは「生ぬるい」とよくなかった。昨今は日中友好議員連盟の会長を務めていたというだけで、高村氏に媚中派のレッテルを貼る向きまである。誤解も甚だしい。
 本書の冒頭で、政治の道に入った動機について「軍国主義が空想的平和主義になっちゃったから、真ん中の現実的平和主義に戻さなきゃいけない」と強調している。自伝の題名にもした「振り子」論である。
 つまり真ん中を越えて今度は右に振れ過ぎることがあれば、止めにかかるということだ。高村氏の立ち位置は変わっていないのに、ときどきの政治状況に応じて「タカ派の論客」と呼ばれたり、「ハト派の三木武夫の弟子」にされたりするのである。
 靖国神社への首相参拝に関する解説は、高村氏の「振り子」論の代表例である。いちばん問題なのは、中曽根康弘首相の靖国参拝を「戦争を美化し軍国主義を称揚する」と言い立てて中国の反日感情を刺激した野党の“告げ口外交”だと断じる。だが、その一方で「(東条英機元首相ら)戦争指導者の合祀がなかったらこの問題は起きていない」という現実も率直に認める。東条の方針に従わず、左遷された元内務官僚の父の血が流れているのだ。
「安倍さんが生きていたら分祀ができたかもしれない」。安倍氏の存命中に側近を通じて「分祀ができないか」との相談があり、日本遺族会の会長を務めた古賀誠氏との話し合いを仲介しようとしていたことも明かされる。高村氏が政界で担っていた役割が改めてよくわかる秘話だ。
 イデオローグとしての安倍氏に心酔し、リアリストとしての安倍氏を理解できていない保守派の人々にこそ、本書を熟読してもらいたい。

(おおいし・いたる 日本経済新聞編集委員)

波 2024年7月号より

著者プロフィール

高村正彦

コウムラ・マサヒコ

1942年生まれ。元衆議院議員、弁護士。1980年に初当選し、以来連続12回当選。経企庁長官、外務大臣(2回)、法務大臣、防衛大臣などを歴任。第二次安倍政権の時代には、自民党副総裁として平和安全法制の制定に尽力。2017年に衆議院議員を引退。2024年6月現在は自民党憲法改正実現本部最高顧問。

兼原信克

カネハラ・ノブカツ

1959年山口県生まれ。同志社大学特別客員教授、笹川平和財団常務理事。東京大学法学部卒業後、1981年に外務省入省。フランス国立行政学院(ENA)で研修の後、ブリュッセル、ニューヨーク、ワシントン、ソウルなどで在外勤務。2012年、外務省国際法局長から内閣官房副長官補(外政担当)に転じる。2014年から新設の国家安全保障局次長も兼務。2019年に退官。著書に『歴史の教訓』『日本人のための安全保障入門』など。

川島真

カワシマ・シン

東京大学教授。

竹中治堅

タケナカ・ハルカタ

政策研究大学院大学教授。

細谷雄一

ホソヤ・ユウイチ

1971年、千葉県生まれ。慶應義塾大学法学部教授。立教大学法学部卒業。英国バーミンガム大学大学院国際関係学修士号取得。慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。博士(法学)。北海道大学専任講師などを経て、現職。主な著書に、『戦後国際秩序とイギリス外交』(サントリー学芸賞)、『倫理的な戦争』(読売・吉野作造賞)、『外交』、『国際秩序』、『安保論争』、『迷走するイギリス』、『戦後史の解放I 歴史認識とは何か』など。

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