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徒然草inUSA―自滅するアメリカ 堕落する日本―

島田雅彦/著

748円(税込)

発売日:2009/07/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

オバマ大統領と同い年の文学者による21世紀版「アメリカと私」。

「私は経済学者でも政治学者でもなく、歴史を多少かじった文学者に過ぎないが、アメリカ帝国の落日を内部から見つめる機会を得たので、ここに徒然なるままに私が考えたことを綴った」――。二〇〇八年七月から〇九年三月まで、世界金融危機に揺れるニューヨークに滞在した、オバマ大統領と同い年の「冷戦の子」世代の作家が見た日米関係最前線。

目次
まえがき
第1章 「革命下」のアメリカで
大統領選は革命である
アメリカはイギリスの轍を踏む
知性が復権される
オバマは八方美人の現実主義者である
市場を踊らすか、市場に踊らされるか
失業者はまだまだ増える
市場は破綻するようにできている
アメリカは自滅を志向する
第2章 アメリカは反省するか
カウンターカルチャーの時代が巡ってくる?
オバマは夢を与えられるか?
ブッシュは反米勢力を鍛えた
アメリカン・ドリームは実現しない
南北戦争はまだ続いている
マンハッタンに兵士はいない
アメリカはファシズムに向かうのか?
敵こそわが友?
アメリカはソ連の失敗を繰り返す
アメリカ史は反復強迫の歴史である
次はどの帝国が勃興するか
第3章 移民たちに明日はない
最低賃金では暮らせない
病気をしたら破産する
チップが暮らしを支える
移民はまだ奴隷制度の中にいる
米中が再び歩み寄る
市場経済と福祉は両立しない
旅をしなくなったら、終わりだ
第4章 オバマと私のアメリカ史
私たちは冷戦時代の子供だった
W村上はアメリカをこう描いた
ニクソンを再評価する
ソビエト帝国はこのように崩壊した
国益優先が国を滅ぼす
第5章 日本の再独立
対米従属は時代遅れである
日本病を考える
対米従属が無力感を生む
団塊世代の引退後は?
メイド・イン・ジャパンは復活するか
ラブホテルや風呂を輸出せよ
オタクはワールドスタンダードになった
どうやって政治的覚醒を促すか
現代の秀吉や家康はどこにいる
「里山ランド」の時代が来る
焼畑農業は究極のエコロジーだった
庭や茶室を作る
エピローグ 希望の原理は歴史にある
国家滅亡の三つの兆しは揃った
もはや世界戦争しかない?
アメリカは内戦の危機を孕んでいる
戦争なしにリセットは可能か
希望の原理は歴史にある

書誌情報

読み仮名 ツレヅレグサインユーエスエイジメツスルアメリカダラクスルニホン
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-610320-9
C-CODE 0236
整理番号 320
ジャンル 社会学、地理・地域研究
定価 748円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2012/08/31

インタビュー/対談/エッセイ

未来のデザイン

島田雅彦

 小説家は嘘を売る商売だが、ついた嘘の信憑性を高めるために、時々、本当のことをいう。私は、ニューヨーク滞在中に筆をとったこの本で、日米両国の現在と近未来について、思うところを徒然なるままに述べたが、「感想」というものには嘘と真実の差はない。「私はそう思った」と書けば、それはどんなことでも真実になる。
 ジャーナリスト、官僚、政治家、企業トップなどは、立場上、口にできないことが多い。それが政治、経済を動かし、未来の方向を決めてしまう重要な案件であれば、なおさら口が重くなる。それが真実であっても、来るべき未来の予測であっても、秘密にしなければならないとなれば、実質、彼らは言論を自主規制していることになる。むろん、彼らとて、好んで沈黙を守っているわけではない。誰かに秘密を打ち明けたい誘惑と日々、戦っているだろう。もし、彼らがフィクションの筆をとり、その中に真実を紛れ込ませたら、より多くの真実が明らかにされるのではないか。小説家は嘘を本当らしく書く訓練をしているうちに、人の噂や情報が本当かデマか、直感的に判断できるようになる。ジャーナリストやノンフィクション作家は、事実を書かなければならないという制約と、情報提供者の保護という原則に縛られて悲鳴を上げている現状だが、情報の発信者と受信者のあいだに、高度な暗黙の了解が成立すれば、フィクションの衣をまとっていても、真実を伝達することはできる。それに未来の予測はすべてフィクションである。新しい政治システム、経済システム、文化構想、すべてアイデアマンが作ったフィクションである。こういう仕事は小説家にもできる。
 九カ月のアメリカ滞在中、「百年に一度」という危機の実感に触れることはなかった。たぶん、アメリカ人は呑気なのだ。新型インフルエンザ騒動でも、タミフルで治るからいいや、従来型のインフルエンザでも毎年、数万人死んでいる、といわんばかりだ。おそらく、死者はタミフルなど買えない貧困層に集中するだろう。経済危機の真の犠牲者は貧困層である。上海万博でアメリカはパビリオンを出せないのではないかという噂もある。万博への政府の出資は、法律で禁じられており、企業が全額出資するのだが、目下、資金にゆとりがある大企業は少なく、難航しているとか。大国はどんどん追い詰められている。
 帰国したら、農業と仏像がブームになっていた。第一次産業と仏陀の微笑みは、まさに日本の原点への回帰である。しばらく見ないうちに、テレビ番組の質が劣化し、ギャラが安そうな芸人たちにほぼ占領されているのには驚いた。タブーだらけのマスメディアは、どんどん視聴者に見放されつつあるようだ。小説は、最も原始的なスタイルの情報産業である。フィクションという武器をうまく使いこなせば、さまざまなタブーをすり抜けることが可能となる。徒然なるままに綴った日米の近未来の予言はどこまで当たるか? 楽しみよりも不安の方が大きい。

(しまだ・まさひこ 小説家)
波 2009年8月号より

蘊蓄倉庫

オバマ世代の未来のデザイン

 島田雅彦さんは、1961年生まれ。オバマ大統領と同じ年の生まれです。「冷戦時代の子供」として、カウンターカルチャー全盛期に思春期を過ごした世代が世界をどう見ているのかが、実は、世界の動向を大きく左右すると思っています。1965年、故・江藤淳がプリンストン大学での留学経験を「アメリカと私」として発表してから、もう四十四年。作家の実感による日米関係の分析は、未来をデザインする最高の羅針盤です。

掲載:2009年7月24日

担当編集者のひとこと

嵐を呼ぶ作家

 島田雅彦さんは、東京外国語大学ロシア語学科出身の作家です。世界中を旅して歩き、「ソ連」の土地を踏んだ経験のある、もはや珍しい世代です。しかし、二度の長期滞在の地は、なぜか、さほど縁の深いとも思えないと本人も自覚するニューヨークを選びました。
 一度目は1988年6月から89年6月、ちょうど昭和天皇が長いご病気の後崩御されて、深夜のTVが皇居の森をずっと映していたあの「自粛」の年であり、アメリカは冷戦の終わりと直面していました。二度目は、この2008年7月から09年3月、リーマンショックによる金融大恐慌と大統領選挙に揺れる時期。いずれも、ちょうど歴史の転換期(と円高!)に当たり、事がありそうな場所に移動する作家の勘には、驚かされます。
 また、就任後最初の難関である百日間を経ても、いまだに高い支持を誇るオバマ大統領と同じ1961年生まれというのも、妙な因縁を感じます。ネオコンがリードする前の「冷戦時代の子供」、反戦を旗頭にするカウンターカルチャー全盛期に思春期を過ごした世代の内面はどのようなものなのか、今後の世界の命運を占う上で、大きな問題だと思います。
 1965年、故・江藤淳がプリンストン大学での留学経験を「アメリカと私」として発表してから、もう44年経ちます。あの頃から考えると、世界は目が眩むほど変化しました。島田さんによると、「小説家は嘘を売る商売だが、ついた嘘の信憑性を高めるために、時々、本当のことをいう」とのこと。作家の実感による日米関係の分析は、未来のデザインを考える上で、最高の羅針盤となるでしょう。

2009/07/24

著者プロフィール

島田雅彦

シマダ・マサヒコ

1961年3月13日東京都生まれ。東京外国語大学外国語学部ロシア語学科卒業。小説家。法政大学国際文化学部教授。1983年、大学在学中に「優しいサヨクのための嬉遊曲」を発表し注目される。主な著書に『夢遊王国のための音楽』(野間文芸新人賞)、『彼岸先生』(泉鏡花文学賞)、『退廃姉妹』(伊藤整文学賞)、『カオスの娘 シャーマン探偵ナルコ』(芸術選奨文部科学大臣賞)、『虚人の星』(毎日出版文化賞)、『君が異端だった頃』(読売文学賞)、『小説作法ABC』、近刊に『スノードロップ』『パンとサーカス』等。戯曲、オペラ台本、詩集、随筆、対談集など著書多数。

島田雅彦オフィシャルサイト (外部リンク)

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